金原ひとみのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
アタラクシアとは、「心の平穏」という意味だという。(解説P360)
わたしは特にこの言葉の意味を調べることもなく読み始め、「なんかフランス語なのかなぁ」くらいの感じで読み進めていった。
この言葉の意味を知っていて読むのと知らないで読むのとで、大きな違いがあったようには思わない。
いずれにせよ、この、心というより胸全体に広がる、痣のような痛みには、変わりないのだろう。
誰にも共感できないようで、誰にも共感できるような、不思議な連作短編集。
金原さん特有の、他人との独特の距離感でもって描かれていて、つまり全員人との適切な距離感を保ててない。
というか、適切な距離感の人なんて金原さんの作品におい -
Posted by ブクログ
私は19歳を迎えるよりも前に蛇にピアスと出会い、映画を見てから原作を読み始めた。私があの頃感じていた生きづらさをもう10代の若い少女ではない今も感じ続けていて、こんな大人になったのに情緒不安定で情けない。みんなはもっとしっかり大人になっているのに私だけ鬱鬱とした日々を和かにこなしていることにしんどさを感じていた。そんな生活を肯定してくれたこのエッセイは宝物です。何度も泣きそうになりながら読んだ、良かったと思った。こうやって理由のないわからない、苛立ちや鬱鬱とした気分があること、ちゃんと逃げ場所として音楽やお酒、小説がある金原ひとみを見ていると安心する。あの時死ねば良かった、生きていて良かったを
-
Posted by ブクログ
ネタバレ「家事と育児だけをして息子の成長と今晩の夕飯だけを楽しみに生きていると、この日常は自分が死ぬまで続いていくのだと感じた。そしてそれは私にうっすらとした絶望と不能感をもたらした。でも同時に思う。仕事をする事で薄れてはいるけれど、着実にその絶望は継続してもいるのだ。」(誤字脱字ありそう)
123ページの全てがかなりわかりみ深いと思いました。
人生の虚無を感じている。自分も当たり前な世の中の歯車の1つになって、なんでもなく死んでいくんだなぁと。
そう思うなんてことを言うとあんまり理解して貰えないことが多いけど、同じ思いを言語化してくれる小説を読めて良かった。
仕事をしてることで何となく日々に焦りと緊 -
Posted by ブクログ
面白かった。
いきなり19歳の甥に押し倒されるところから始まってびっくりした。
結構事件性があるストーリーなので、ハラハラしながら読んだ。
ストーリーもイイけど、やっぱり私は金原さんの世の中の見方が結構好き。
たまに、本当に些細なところで「あっそれわかる」ってなるのが楽しい。
今回だと「私は我が子がゴールを決めると狂喜乱舞する教に入信していないだけで、それと愛情は全く関係ないものだ」って一節に爆笑しながら「わかるよ!」ってなった。
人生の教訓とか教養を求めて読むというよりも、心地よくASMR動画を見ているような感覚というか……
そんな感じ。
好き。 -
Posted by ブクログ
救いがないと思った。
頭を鈍器で殴られたようなショックを受けた。
たとえ、自らの軽薄さが招いた事態だとしても、カナがなぜここまで弘斗に寄り添うのか?
ここまで全てを失わなければならないのか?
ひどく気分が落ち込んだ。
が、しかし…
愛があるなら、この結末はありなのか。
金原さん、すごいな。
圧倒的に心を揺さぶってくる。
キレキレで「ぼーっと生きてんじゃねぇよ。お前生温いよ」って、説教されている気分です。
・叔姪婚(しゅくてつこん)って言葉を初めて知った。日本では叔母と甥は結婚できない…って知らなかった。従兄弟同士は結婚できるのに。
ー 人生とはただの暇つぶしでしかなく、人が生 -
Posted by ブクログ
すごくよかった。
狂気に満ちている世界がどれほどの精力を持っているかがよくわかる。
一度あんな狂った恋愛をしたら何もかもつまらなくなるだろう。
2人の中の「ただしい」を全うすると法の下で罰される。
2人の中の世界だと、刺される方が罰されるべきだから刺されたのだ。
俗に言う「正義とは」みたいなものか。そんな簡単に片付けて欲しくないけど。
人間誰しも狂ったように何かに熱中していないとおかしくなるんだろう、生き続けることが辛くなるだろう。楽しさとか幸せを重ねて退屈に暮らしているのだ。変なの。
それにしても全て成功しているのに満たされずに感じない姿は、少しわかる。私が大人になったからかな -
Posted by ブクログ
既婚子持ちの女性が甥と情事に落ちる物語。
以下は小説を読んだ気付き。
倫理的に駄目な人を好きになる人は本能的にそれを繰り返してしまう。
それで自己嫌悪に落ちるようでは元も子もないのだが、その事実を受け入れることが出来るのであれば、器用に生きることが出来る。
どんな人を好きにならなければならないかという悩みは、結果として被る不利益(死ぬことさえ含む)をそれと感じないことで昇華させられる。
以下は2作品を読んだ著者に対する印象。
アングラな世界を織り交ぜてくるが、アングラに違和感を感じさせない、むしろ織り交ぜることで描く世界のバランスを絶妙に保っている。そしてそれを人の心の脆く儚い部分を婉曲的 -
Posted by ブクログ
作家さんが「生きる」ということを描く時、その視点は様々で、金原さんはデビュー当時から「痛み」「性」「刹那的な欲望と関係」に視点を置いて描いてきたように思う。
「マザーズ」で作風に変化が生じたとわたしは思っていて、それでも、その3点はいつも作品の中にちりばめられている。
本作品は、姉妹が交互に主人公になりながら進んでゆく。
感覚で生きる高校生の杏(妹)と、理性で生きる大学生の理有(姉)。
タイトルの「クラウド」というのは本作品においては”自分自身が生きていくために作り上げた記憶”といったところだろうか。
姉妹は、すでに亡くなった母親と、海外に住んでいる父親に対して異なる記憶を持っていて、読者も -
Posted by ブクログ
ネタバレ今作も完璧にキレキレでした。
すべて結婚に絡んだ男女関係の事情で、
お得意の金原ワールド全開。どの物語も読み進めるうちに人間の二面性が露呈する展開になっていて、とてもスリリング。ひとみ嬢の小説を読み続けていて自覚している事だけど、ひとみ嬢の小説に出て来る登場人物の視点は、私が他人を見る視点とリンクする事が多く、無意識の感覚を言語化され追体験するような快感がある。
「口ごもりもせずはっきりとした口調でそういった瞬間、何がかは分からないけれど、彼はおかしい人なんだと私は思った。私の思い込みかもしれない。彼が魅力的に見えて、だから彼が神秘的に見えただけかもしれない。でも彼の事を初めて激しく、疑った -
Posted by ブクログ
ネタバレリンは、勉強も嫌いで、ろくに学校にも行かずにふらふらしているギャルだ。でも頭の中ではたくさんのことを考え、考え、考え続ける。自分がなぜこんな言動をとるのか、自分が今何を感じているのか。頭の中は言葉でいっぱいだ。いっぱい過ぎて、「本当の自分」と「言葉によって考えられた自分」の間にさえ乖離が生じ始める。言葉にすればするほど、嘘が混じり始める。それが、22歳の時点で小説家となっているリンだ。
解説の中で山田詠美が指摘していた「小説家という病」。まさにこれは「小説家という病」を発症した(あるいは、生まれ持った)人間の記録なのだ。多分、ごく普通の人間は小説を書かない。書く必要がないから、書かない。リンの