金原ひとみのレビュー一覧

  • 最後の晩餐

    Posted by ブクログ

    7つのストーリーがそれぞれにいい味を出していて、絶妙な切り口のストーリーになっていておもしろい。
    私の口にあった3作を選ぶなら、
    原田ひ香さん「最後に、何を食べたの?」
    井上荒野さん「本当の話」
    寺地はるなさん「小曾根幸子の送別会」。

    今(私的に)話題の原田さんのストーリーは、はじめは、頭が?の状態から、少しずつ、ヤバいことしようとしてる展開が理解できてきて、なるほど、という結末で落ち着くけど、きっと、もっともっと濃く長くしたら、すごく面白い一冊の本になるような気がする。読みたい。なんとなく、「PRIZE」に近しい心情になる気がする。ド素人的な感想です。

    0
    2026年10月11日
  • ナチュラルボーンチキン

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    なんだか浜野さんの早口口調面白いな〜
    まさかさんといい感じでおかしいのに微笑ましいなって思ってたらどんどん浜野さんの元旦那との日々やすれ違い、不妊治療、流産に対する辛さや心の葛藤、子供への渇望が出てきて過去編は読むと抉られる、苦しい気持ちになったけど。
    走って走って走り切って、手に入らなくてパキンと心が折れてしまって、、それでそこから10年、同じ日々で自分の心を守ってきていたのかなとか思ったりして、、そんな10年越しに浜野さんとまさかさんは意外な形で再び出会って。
    今は、つかず離れずのほどよい距離感、何かに焦らされる事もなく自分以外での不安要素も考えなくていい。
    お互いにちょっと寄り添いませんか?っていう穏やかな形で寄り添え合えた浜野さんが本当に本当に良かったねって思ったし。
    大恋愛とか激情とかではなくて巡り巡って、出会えた2人の距離感に読んでる自分も安心した。

    過去編から終わりまで読むページが止まらなくて、眠たいし寝ないといけないのに読み切ってしまった。
    辛い所も読んで浜野さんの過去を知ったからこそ今の巡り合わせがあったのかなって。
    ああ、、辛かったんだな浜野さん。真面目すぎて、それ故に子供を産まないと欠落していると思ってしまう考えが自分と似ていて苦しくなる。
    でも今はむしろ子供が嫌い、なんであんなに欲しかったのか。
    人間はその時のホルモンや立場や環境で欲しいと思うものが変化する。
    その言葉にちょっと納得して救われた気がした。

    0
    2026年10月09日
  • マザーアウトロウ

    Posted by ブクログ

    初めての金原ひとみさん。
    勝手に難しそうと思っていたけど読みやすかった。

    家族の責任を感じなくていい、という考えは新鮮だった

    0
    2026年10月09日
  • ハジケテマザレ

    Posted by ブクログ

    親父の文藝春秋をひったくって『蛇にピアス』を読んで以来、「この人は俺とは合わない」と決めつけて遠ざけていたことを、今になって全力で悔いている。伝え聞く作者のイメージと異なり予期せぬ読後感の良さに戸惑ったが、期待よりはるかに素晴らしかった。

    陰キャ寄りだけど普通of普通の権化たる主人公真野。読む人によって「ここは自分より優れている、ここは劣っている」という感じ方が変わってくるような丁度いいキャラメイク。それをひっくるめて普通を極めたような存在で面白い。
    それぞれ個性の塊のような同僚たちも、読んでいるとひとりひとりに愛着が湧く。
    真野が普通であることもまた個性として肯定される空間は居心地がいいだろうなぁ。

    マナツさんのように教養やボキャブラリーの豊かさが滲み出てしまうような人には主にしょうもないことを語らせて、それほど頭が良くなさそうな人にふと真理を突いたようなことを言わせる金原ひとみさんの天才的なバランス感覚が恐ろしい。

    169ページから172ページにかけてのブリュノとマナツさんの会話。カレーの定義から比較文化論、広義の哲学、人生とは何か、自分とは何かまで転がる場面。正直ここだけ切り取って売ってもお金が取れる文章だと思う。
    自分は『美味しんぼ』の24巻(まるまる1巻分カレーに費やしている)が好きなのだが、世に出た時代の差こそあれ、この会話だけで当時の美味しんぼのレベルを凌駕しているとしか言いようがない。
    で、何が最も凄いかというと、この会話をそっくりカットしても物語上成立しうるということ。もう笑うしかない。

    純文学よりの作品で主人公を取り巻くいつもの日常が突如異常な変化を見せる、みたいな展開がたまらなく好きな自分にとっては『フェスティヴィタDEATHシ』の集団ジャンプのシーン、『ウルトラノーマル』の最後の方など、まさに大好物。作者がノリノリでアクセルベタ踏みしている様が見えるようでゾクゾクする。

    次はもっとヘビーな方向の作品を読んでみようかな。過去の作品を遡って読みたい作家がまた増えてしまった。ああ困った。

    0
    2026年10月08日
  • YABUNONAKAーヤブノナカー

    Posted by ブクログ

    同じ事でも、人や視点が変われば違って見えてくる。
    章ごとに、それぞれの悪行、言い分、正義感を語っているのがおもしろい。後味は微妙な感じだが、とても良かったです。

    0
    2026年10月08日
  • 踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君

    Posted by ブクログ

    「『母』というペルソナ」が書籍になってしっかり残ってよかった!『母』ではなくとも、何かのフリ(ペルソナ)で生きざるを得ない期間があった人には自分のものとして読めると思う。渦中の人にとっては、救いになる文章だと思う。時がきて、望めばちゃんと終わって、ちゃんと帰れる、あのどうしようもない自分にってことを、金原ひとみさんの言葉で読むとめちゃめちゃカッコよくてスッキリする。久しぶりにティーンエイジャーみたく嫉妬した。不良が時々投げるどストレートはカッコいい。

    0
    2026年10月08日
  • アンソーシャル ディスタンス(新潮文庫)

    Posted by ブクログ

    私は酒も飲まないし、主人公たちとは年代が違うので、30代の初めの頃に読んでたら共感してたかなぁと思って距離を置いて読んでましたが、そのうちに小説の内容よりも、この作家の文章、特に比喩の言葉の使い方とかに凄くうなってしまい、その才能に感心してしまいました。自分の経験ではないだろうに、ここまで小説の女性たちの頭の中のつぶやきを表現できるのは凄い。

    きっと若いんだろうな、美容業界か出版関係でで働いたことがある?と作者を見て見たら、なんと20歳で「蛇とピアス」で賞を取っていたとは!

    でも「蛇とピアス」映画見たけど全然面白くなくて内容も覚えていませんでした。この本で言えば、彼女たちの頭のつぶやきが多いので映像化は難しいだろうなと思いました。ストーリーというより彼女の文章がとにかく味なので。

    山本文緒が死ぬことを忘れるくらい面白がったのも理解できると思います。この文章は同じ小説家にとったら凄く興味深く魅力的に感じるでしょうね。でも、共感を求める軽い若者にはウケないかもしれない。闇がある子は別にして。

    作品そのものよりも、作者のバックグラウンドの方が遥かに気になり、それを知るとなるほどこの本の主人公のぎりぎり感の表現が理解できた気がします。

    0
    2026年10月07日
  • ナチュラルボーンチキン

    Posted by ブクログ

    〇十年ぶりの金原ひとみ。
    おもしろい、読みやすい。
    句読点が極限まで少なくて、息継ぎをするのが難しく感じられる文体は〇十年経っても健在なんですね。だけれど、面白い。そして主人公と同じ40代として、人生の希望と気軽さをこの本から受け取りました。

    0
    2026年10月05日
  • 踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君

    Posted by ブクログ

    「小説を読んでいる間、息ができた。それまでずっと低酸素状態にあったのが、唐突に肺の隅々にまで酸素が行き渡るのを感じられた。自分が今生きている世界だけが、世界ではないのだと思えた。それまで一つしかないと思っていた世界が、物語の数だけあると知った瞬間だった。もちろん消えたいが消えたわけではない。根拠なき消失願望は常に体内に残存し続けていた。消えたいまま、息ができる場所を見つけたのだ。私はそんな世界を作れる小説家に単純に憧れて、小説を書き始めた。」

    0
    2026年10月04日
  • マザーアウトロウ

    Posted by ブクログ

    型破りかつ自由な考え方に触れて、なんだかスッキリする作品。暗い過去は双方あるのだが、それを乗り越えて、暗さを感じさせないのも良い。「完璧な一日」に憧れる。

    0
    2026年10月04日
  • 腹を空かせた勇者ども

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    ◾️record memo

    世の中にはいろんなママがいて、どれが最高ってことはないと分かってるけど、十歳くらいの頃にママと自分が人としてものすごく「違う」ことに気づいてから、どんなに彼女に優しくされ抱きしめられ褒められても、どことなく私とママとの間には越えられない壁があるような気がしてきた。

    「そっか、親が喧嘩してる時は嵐が過ぎ去るのを待つしかないよね」
    実感を込めてそう言う。ママが不倫を始めた頃、ママとパパは毎日喧嘩をしていた。離婚、信頼、家庭、子供、浮気、毎夜毎夜受験勉強をしている私の耳にはそんな言葉が聞こえてきて、朝起きるとテーブルの上にたくさんのお酒の空き缶や空き瓶が残されていた。パパが担当していたゴミ捨てや洗い物が放置されていたため家中がどこかゴミ臭く、ママが担当していた買い物や料理がずさんになり、大概冷蔵庫は空っぽ、おかずが一品とかデリバリーという日がどっと増えた。でも私の知らないところで彼らは協定でも結んだのか、不意に平和が戻ってきた。大人、そして恋愛っていうのは不思議なものだ。離婚するのかなと思ってた時は不安で泣いたこともあったけど、公然とママの不倫が継続する内、何となく離婚はないような気がするし、したとしても自分は大丈夫なような気になっていた。

    「私たちが帰国した後、お父さんが別の女の人といるのを見たって、友達がメールしてきたの。一緒に暮らしてた時から、私も、多分お母さんもおかしいって思ってた。信じられないから、全部がチクチクしてる。家族を信じられないなんて、地獄だよ」

    「確かにその子にとっては大変な時だね。バッドタイミングだよ。でも誰でも良い時があれば悪い時がある。それは当たり前のこと」

    「私は心が泣いてても顔で笑う。そうしないと耐えられないんだよ。それに差別されてるって、レナレナに知られたくない。恥ずかしいし、悔しい。それに差別なんてしないレナレナに、差別の話なんてしたくない。本当は世界中の人が差別のことを知るべきかもしれない。でもね、差別された人がそれを話せるようになるまでは時間がかかる」

    「大変な時はみんなあるよ。そういう時、周りの人が支えるのも大事。でも最後は自分の心が戦わないと。勝たなくても、戦う、だよ。あ、ヤバい。もう行かないと」
    イーイーはそう言って立ち上がる。じゃあねと呟くと、頑張れと弾むように言ってイーイーはコンビニのバックヤードに戻って行った。

    私は、ママと言語を共有していないと感じる。使ってる言葉が違う。特にママが饒舌になる時ほど、私はママの言っていることが分からない。ママが私に伝えたいことがある時ほど、理解できない。同じ日本人なのに、親子なのに、私たちは大切なものが違いすぎる。

    何だか結局パパともあんまり理解し合える感じじゃない。でも何でだろう。パパに理解してもらえないのと、ママに理解してもらえないのはちょっと違う。パパに理解してもらえないのは「へー」て感じだけど、ママに理解してもらえないのは「心が半分焼け焦げた」みたいな感じだ。この感じを、ママも持ってるんだろうか。私のことを理解できなくて、自分のことを理解してもらえなくて心が半分焼け焦げた感じを、持っているんだろうか。

    うーん、と言葉を濁して黙り込む。ママの不倫のことは小学生の頃からの親友のヒナにしか話したことがない。ヒナも何と言って良いのか分からないようだったし、私もどんな反応を期待していたのか自分でも分からなかったし、ちょっと微妙だった。もちろん話して楽になった部分もあったけど、誰かにバラされたら嫌だなと、一番信頼しているヒナに対してもどこかで少し不安になるところがあったし、やっぱりもう二度と誰にも話すまいと心に決めたのだ。

    「そこまでに色々あったんだって、私にも分かるよ。お母さんと娘はいつでもすれ違い。好きに嫌い、嫌いに好きが混ざってる。いつでも話は聞く。でも今日は駄目。もう十時半。日本は安全だけど、絶対に安全じゃないよ。あなたたちを見たら分かる、いいものを食べさせてもらって、いいものを身につけさせてもらって、いい学校、いい友達を作る環境をもらってる。それだけで、あなたたちが家出をする理由なんてなくなるよ」

    「もし私がいなかったら、ママとパパはもう離婚してた?」
    「もし玲奈がいなかったら、ママはもうとっくに死んでたかもしれないし、俺は今頃モロッコとかに住んでたかもしれないよ」
    「何それ。意味わかんない」
    パパはもう答えず、自分の言ったことにウケているのかニヤニヤしていた。

    「私にとって外に出ることは硫酸の海に飛び込むようなことで、一瞬でも外に出たら身体中が炎症を起こして死にかけた。もちろん、外っていうのは抽象的な意味での外だし、死っていうのも抽象的な意味での死だよ」

    中学に上がってすぐの頃、何となくクラスで孤立してるように見えたから、お弁当とか帰り道とかあれこれ誘ったりしていた子にやはりやんわりと拒絶された時、こんな子がいてと話したら、ママはそんな話をした。それ以来、大人しめな子を誘おうとするたび、硫酸に飛び込む想像が浮かんで躊躇するようになった。ママはいつも大げさな言い方をすると呆れたけど、彼女たちにとっては、本当にそれくらい辛いことなのかもしれなかった。実感としては分からないけど、私が楽しいこと嬉しいことを、彼女たちは一ミリも楽しくも嬉しくもないかもしれないのだ。

    「今は大丈夫。なんかちょっと変な人たちだから、変な形で落ち着いてる」
    「変な形って?」
    ママが不倫しててパパは不倫を容認してて、ママは週に二、三回彼氏のところに泊まってくる生活で、まあそれは親の人生だし文句はないけど何となくそれでいいのかなとかやっぱちょっと複雑だなって思うけどまあ家庭としては一応回ってるかなって形?と思うけどそんなこと言えるわけもなくて、うーんまあ変だけどうまくいってる形、と答えになってない答えを口にする。

    結局のところだから、私たちは無い物ねだりで、自分が持っていない両親やきょうだいや友達や物やルックスとか性格までをも欲しがってしまうのだ。フィーリングで絶対牛カルビって思ったけど、やっぱりとんかつを目の前にしたら食べたいのは当たり前だし、チャーハンと中華スープのセットだって目の当たりにすれば一口はもらいたくなるよねってこと。

    「人は変わっていく生き物だよ。今玲奈がこれが正しいと思ってることは、一年後にはどうしてそんなことを正しいと思っていたのか分からなくなってるかもしれない。人は常に今の自分を否定し続けアップデートし続けていく生き物だよ。逆に言えば、常に自分を疑い続け、理想を追求し続けられる存在とも言えるわけだけど、人間には一貫性があると思い込んでる人が一定数いるこの社会では、過去の発言や行動を覆しようのない証拠として押さえられ、リンチされる可能性を極力軽減した方がいいに決まってる」

    何なんだろうあの感じ。ママとパパのあの普通な感じを目にすると、もやもやする。もちろんママが不倫を始めた頃の、毎日喧嘩してた頃に戻って欲しいなんて思わない。あれは地獄だった。でも不倫が日常にある生活だってある意味地獄で、それでいてなんか二人ともそれはそれで納得してる、感が嫌だ。それはなんか、私のためにこの家庭を成り立たせようと二人がそれぞれ我慢している気がするからかもしれない。私がいなかったらもうとっくに別れてたのかなと、ママとパパが和やかな雰囲気で話しているところを見るとたまに思うのだ。

    「人の考え方、価値観、生き方はそれぞれ違う。だから人が良かれと思ってしたことが相手を苦しめたり、傷つけたりするのはよくあることだよ。玲奈が思ってるよりも人と人とは違うし、人と人とは理解し合えない。まずはその前提に立たないとね」

    これまで無自覚に、自分には見えないナイフで誰かのことを刺してきたのかもしれないと思うと、私は恐ろしくてもう外に出れないような気さえした。人を傷つけたいなんて思ったことはないのに、それでも私は色んな人を傷つけてきたんだろう。

    何だか、嫌な気持ちになった。自分の親とか友達が誰かに敵意や憎しみを露わにする瞬間が、私は怖い。いつも見ているものを裏側から見るような、例えば公園に落ちている大きな石の裏っ側、排水口の裏っ側、電気シェードの裏っ側みたいに、見れば大抵、見なければ良かったという気持ちになる。

    「つまり、世界は理解し合えない人、話し合っても無駄な人で満ちているっていうこと。そういう人たちの隣人として生きていくことの難しさに、私はこの年になっても定期的に直面して苦しんでる。物理的にも精神的にも独立していく年頃の玲奈が、友達らとの間にあるそういう差異に思い悩むのは当然だし、その差異を最大限の想像力を持ってやり過ごすなり、越えるなりしていかなければならないってことを伝えたいんだよ」

    人間の世界ってめんどくさいな。ずっとこの世界で生きてきたはずなのに、今日初めて宇宙船で人間の世界に降り立った宇宙人みたいな気持ちだった。でも皆が私みたいだったら、「恋愛も友情もなくなって、自己愛と自己嫌悪しかなくなる」らしい。

    「私は中国人だから、大変な思いをしてるだろうと思って、気を遣ってくれる人にたくさん会ってきたよ。コロナのことで中国人差別があったり、最初の頃は家族の心配してくれる人もいたけど、私はもっと普通に流してくれたらいいのにって思った。多分すごくナイーブになってた。自分が中国人だってこと、自分で考えすぎないようにしようとしてた。だから気を遣ってくる人が、ちょっと嫌だった。全然私なんとも思ってないよって、思おうとしてたから」

    好きなのに好きだって言えない気持ちが、私には分からない。私がどんなに想像しても、今の駿くんの気持ちは、正確に理解できないだろう。こんなに自分には到底理解できないものに満ちている世界を、どうやって生きていったらいいのか分からない。分からないで切り捨てられないけど、分かりたいで分かるはずもない。

    何でママはこんなふうに私を苦しめることをするんだろうどうして私がこんな思いをしなきゃいけないんだろうどうして私がこんな惨めで、哀れで、みすぼらしい思いをしなきゃいけないんだろうママのせいで!って怒りもあったけどママのこと最悪とかないわとかまじ信じらんないとか汚点とか言ったことのショックの方が大きかった。ママのことを罵倒した。汚らしいものを語るみたいに言った。でもああしなきゃ自分が保てなかった。

    死ぬほど腹が立ってて、死ぬほど苦しくて、気持ちがぐっちゃぐちゃで、だんだん電車で彼氏と手を繋いでるママが頭に浮かんできて、うわーって恥ずかしくもなって、ママは彼氏といる時私とかパパとかといる時より楽しそうなのかなとか、家にいる時と違って甘えたりはしゃいだりするのかなとか、そういうことも画が浮かんできてまたうわーってなって、なんかよっちんの目で見た記憶がそのまま私に移植されたみたいに私はボストンバッグを持ってもらって電車を降りてくママを目撃して打ちひしがれてるみたいな気分でなんか訳の分からないものに煽られてるみたいに大声で泣き続けた。

    ママなんか大嫌い!と声に出して言ってみる。は、私は小学生か。と心の中で突っ込む。いやママのこと好きだよ!長生きして欲しいし正直ずっと一緒に暮らしたい!と声に出すと、なんか彼氏といるママが浮かんできて二人に嘲笑われてる気がして怒りが湧いてくる。こんな複雑な気持ちを一度も持たないまま死にたい!私はそんな初めて抱く切実な欲望に気づく。

    私はとにかく「複雑な感情に踊らされて泣いたり怒ったりすることのない人生を送りたい!」のだ。マジで信じらんないマジでママが信じらんないマジで本当にあの人何者?どうしてこんな気持ちにさせるの?ていうかどうしてママの不倫で私の気持ちはこんな感じにぐっちゃーってするの?これって結局ママのことじゃん。ママの人生じゃん。私に関係ないじゃん。こんなのおかしくない?私の気持ちがイカれてるってこと?

    ママがママの不倫にキレてる私の望みを叶えようとしてることに、私は自分の気持ちが完全に元に戻らないんじゃないかって思うくらい心がバラバラになっていくのを感じる。ママは私を大切に思ってる。ママは私のことを愛してる。私にはその確信がある。でも同時にこれって虐待じゃないの?みたいな蔑ろにされてるみたいな惨めさがあるのはどうしてなんだろう。

    いいと強めに答えて、回鍋肉に手を伸ばす。いつものママの味だ。不倫してるママの手で作られた回鍋肉は不倫が始まる前の味と変わらない。でも関西に行くと私に嘘をついて、すぐ二駅隣のところで今彼氏と一緒にいるママの作った回鍋肉だ。そんなの嫌だ。どんなに美味しくても私はそんなの、めちゃくちゃ嫌だ。

    「環境があればできる、やる気になればできるって、そんなわけないじゃん。全部あってもできないやつはできないんだよ。勉強して報われた経験のある人には、やってもやっても報われたことのない人の気持ちなんか分からないよ。やる気がないんじゃないよ。やる気があったのに、何にも報われない。やる気がないだけ、やる気を出せばって周りからは言われ続けて、もう内側からも外側からも折られ続けて私のやる気は死んじゃったんだよ。で、なら別のことをやろうって、もう別の分野で頑張ろうって思い始めたんだよ。それを逃げとか怠慢とか言われる方の身にもなってみろよ」

    「玲奈は自分が持ちたい関係を持ちたい相手と好きに構築していけばいいんだよ。一度にたくさんの恋人と付き合っても、一人の人と添い遂げてもいい。セックスをするしないも自由。子供を作る作らないも自由。もちろん手を繋ぐ繋がないも、何を優先させるかも自由。既存の恋愛の定型に無理して合わせる必要なんてない。恋人とか彼氏彼女とか妻とか夫とか、既存のカテゴライズができない存在であってもいい。自分で新しい名前を付けてもいいし、付けなくてもいい。そもそもそんな特別な人を人生に設定しなくてもいい」

    「でもさ。なんかちょっとおかしくない?」
    「……でも恋愛って、ちょっとおかしくなるってことなんじゃん?だってさ彼氏いるから男友達と遊びませんとか、生活が彼氏中心になっちゃったりするわけじゃん?そんなの普通に考えておかしいし、おかしくならないと受け入れられないことだよ」

    確かにそうだ。私たちは基本自分の好きなことをして好きな人と仲良くして興味があるところには迷わず参上して面白そうな話があればなになにと吸い寄せられる、そういう生き物のはずだ。それを誰かが嫌がるからという理由で我慢したり自粛したりするなんて普通に耐えられない。でも世の中のお父さんお母さんたちは別に法律で禁止されているわけでもないのに年中夜通し遊んだりしないし、年中友達とダベってたりもしないし、年中グループ通話で友達らと話してたりもしない。仕事があるからっていうのも大きな理由だろう。でもだとしたら私は仕事も恋人も別にいらないなって思うしそもそも大人にだってなりたくない。もちろんそんなことを言ってられないのは分かってるんだけど、私にはまだ大人が魅力的に感じられないっていうのは事実で、彼氏彼女ができた友達らがなんか変な論理とかルールを持ち出してちょっと奇妙な、なんか宗教っぽいことを言ってるなと引くことも多いのだ。

    「普通に考えてヤバい」という言葉に、でもその「普通」も「ヤバい」もこの人の感覚でしかないんだよなとも思う。

    私にはまだよく分からないけど、ゴリゴリの束縛が二人にとっての「普通」で、その状況は決してヤバくなどなく二人にとって「快適」だったり「幸せ」だったりということだってあり得るんじゃないかと思うからだ。つまり、私は私の思う「普通」を、「その彼氏はヤバいんじゃないか」という疑問を、直球でミナミにぶつけていいのか悩んでいるのだ。

    0
    2026年10月01日
  • ナチュラルボーンチキン

    Posted by ブクログ

    金原ひとみワールドを楽しめる一冊。奔流するような文体に揺さぶられ、何かが脳に刺さってくる快感。
    極端な登場人物を描いているようでいて、普遍的なことを伝えていて、読者の共感を得る。
    多少の毒や棘がある表現や内容があっても、作品全体としては人間やいろんな生き方を全肯定しているので、嫌な感じは全く無く、好きだった。

    0
    2026年09月30日
  • YABUNONAKAーヤブノナカー

    Posted by ブクログ

    同じ出来事でも、誰の目を通すかでこんなにも見え方が変わる。

    似た考えを持っているように見えても、少しずつ違う思考や価値観。
    それぞれが現代的な思想の中で絡まりながら、「藪の中」でもがいている感じが面白かった。

    文学は着地がすっきりしなくて苦手なジャンルだけど、本が分厚いから内容も濃くて面白くて、読んでるだけでカロリー消費するので読み応えに大満足。

    読み終わったあともふと思い出して、「この出来事がこの本の中で起きたら、みんなどう考えるんだろう」と想像してしまう。
    しばらく頭に残りそうな一冊。

    0
    2026年09月30日
  • ナチュラルボーンチキン

    Posted by ブクログ

    主人公が同年代なので共感できることが多くて一気読み。登場人物が全員魅力的で、テンポもよく楽しく読めた。文章が長くて読みにくいそうかなと思ったけど、会話も多いしするする読めたしラストも爽やかでとてもよかった。

    0
    2026年09月30日
  • 踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君

    Posted by ブクログ

    本書の『「母」という名のペルソナ』が特に印象に残った。
    子どもを授かって幸せだし、もちろん産んだことに後悔などしていない。
    なのに、なんでこんなに苦しいんだろう。
    なんで気がついたら涙が流れていて、ずっと止まらないんだろう。
    そんな当時の思いが、全部言葉になっていた。
    今でも暇さえあれば、何度でも読み返している。あの頃の私を救うために。

    0
    2026年09月30日
  • ナチュラルボーンチキン

    Posted by ブクログ

    ネタバレ

    とにかく「中年版『君たちはどう生きるか』」がついてまわる。つまり一言でいって仕舞えば、これは「ロスジェネ小説」だ。主人公は仕事がつまらないようだが、それでも一種「トレンディ」な職種をしている。「中年版『君たちはどう生きるか』」のベースだ。ある意味では「トレンディ」後の世界が語られている。

    そして20代の同僚がいて、多くの場合はそこに目が行くようだが、そこは構成のうまさ、つかみのうまさに感じた。

    もう一人男性の登場人物がいて、彼こそ「中年版『君たちはどう生きるか』」の核になる人物だと思った。彼はぼくのイメージでは、山⚪︎被告のifだ。現実の彼は、カルト宗教によって家族を奪われ人生を奪われ、いたはずの妻子も奪われた哀れな男でもある。その⚪︎上被告のあったかもしれないやり直し人生が描かれている。これはロスジェネ世代にはグッとくるだろう。またSNSなどで被告に同情的な発言が炎上したことから、彼に向けた憐れみの表現手法とか、彼の魂を救おうとする日本人らしい表現形態なのだと感じた。

    一応言っておくが、犯罪者を英雄視はしない。すべて情報からしかわからないが、そこから知れることがあり、ひとつのレイヤーには哀れで同情を禁じ得ない人生が見えてくる。そこに目を向けている。そして著者が書いたものも、このようなものだったのではないかとぼくにはそう見えた。

    これを書いてしまったらもう書くことがない。ともかく、不思議な読書体験だった。実をいうと、途中まではそこまで惹きつけられる話ではなかった。しかし文章はぼくに合っていて読むのが苦痛ではないし、内容もまあ他人の世界のようでピンとは来なかったが理解はできた。なので脱落せずに読み切ることができた。終わり頃になって、このようなイメージがやってきた。印象がひっくり返った。

    やはり同時代・同世代小説は面白い。あったかもしれない人生を感じることも面白い。やり直すことは面白い。やってみることができることは素晴らしい状態だ。

    0
    2026年09月27日
  • マザーアウトロウ

    Posted by ブクログ

    自分の好きなことを、やりたいことを、自分の意思に赴くままやり通す、義理母張子が、かっこいい!
    結婚、出産、仕事…女性のターニングポイントを、これが正解!と押し付けないところがとてもいい。
    自分の人生楽しく、人に責任押し付けない、頼らない…こんな生き方は理想かも。

    0
    2026年09月27日
  • YABUNONAKAーヤブノナカー

    Posted by ブクログ

    金原ひとみさん、どうしてこんな文章を書けるのだろう。ただ圧倒された。自分の中の複雑な感情が言語化されて浄化されていく感じがした。私は友梨奈のように行動はできない。でも少しでも彼女のような強さを持てたらなと思った。

    0
    2026年09月23日
  • 蛇にピアス

    Posted by ブクログ

    直接的なエロ描写より、ストーリーの描かれ切れていないところを妄想するのが楽しかった。
    前半は人体改造のドキドキ、後半はサスペンス的なドキドキで、あっという間に読めた。

    0
    2026年09月23日
  • 腹を空かせた勇者ども

    Posted by ブクログ

    金原さんの本って、自分と他者って究極に別の人間で、分かり合えない事があったり、どうしても許せないものがあった場合、無理に距離を詰める必要も無ければ、無駄に争う必要も無い。でも、一歩踏み込んだら、自分自身が変わらないにしても、何か少しでも世界が開けるかもしれないって言うのをずっと書いており、私はそれがとんでもなく好きなんだろうな。
    自分にとって薬みたいな金原さんの本、ナチュラルボーンチキン読んでから少しずつ集めて読んでいるけれど、買うのも読むのもご褒美みたいな感覚に近いかも。

    0
    2026年09月23日