下村敦史のレビュー一覧
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青臭くて、そして熱い男たちの絆と友情の山岳ミステリー。下村敦史さんの作品を読むのはこれで三作目ですが、『闇に香る嘘』が中国残留孤児、『叛徒』が通訳捜査官と外国人の労働問題。
そしてこの『失踪者』が山岳ものと、作風のバリエーションの幅広さに驚きます。そしてどの作品も確実に芯を突いてくる。その筆力と構成力も本当にスゴい。
十年前の転落事故で親友の樋口を、クレバスに置き去りにしてしまった真山。彼の遺体を回収するため、再びシウラ・グランデ峰に挑み、遺体を発見した真山だったが、樋口の遺体は数年分年を取っていて……
秘密裏に生還し、そして姿を消した樋口を追う現在パートと、真山と樋口の関係性が描かれる過 -
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正義とは、幸せとは、そして、真実とは?
『闇に香る嘘』の作者・下村氏の放つ慟哭の社会派ミステリー。
一気読み必須の冤罪事件を描いた作品です。
大学生の石黒 洋平は、4ヶ月前乳がんで亡くなった母の遺品整理をしていたところ、押入れの奥から奇妙な箱を見つける。
中から出てきたのは、父とは異なる男性と仲睦まじい若い母の写真と手紙であった。
自分は、母の両親を殺害した凶悪な殺人犯・赤嶺 信勝の息子なのか?
次々に生まれる疑惑の数々。そして、実の父の冤罪の可能性が生まれる。自分は、何を信じれば良いのか?
冤罪事件を取材対象とする雑誌記者の夏木 涼子。
彼女とともに、様々な他の事件を調べながら、『赤 -
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「難民調査官」を務める如月玲奈が主人公の物語である。「難民調査官」という仕事は大切な役目なのだとは思うが、広く知られているのでもないように見受けられる仕事だ。そういう仕事にスポットライトを当てる“仕事モノ”な小説である他方、本質的には良質な「事件の謎を明かす」というミステリーであり、展開の中で「巷での情報の発信、受け止め」というような社会の色々な事に問題提起も行われている面も在って、少し夢中になってしまう。
難民申請をしているシリア人の父娘が在り、両者は180度違う話しをしている。父娘の話しがそういうことになるのは、何故なのか?何なのか?操作が少し手詰まりになっている殺人事件の謎と相俟って、そ -
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下村敦史『サイレント・マイノリティ 難民調査官』光文社文庫。
東京入国管理局の難民調査官・如月玲奈を主人公にしたシリーズ第2弾。
前作より断然面白く、読み応えがあった。
今回、如月玲奈が調査するのはシリアから娘と共に訪日したナディームという男性。シリアで政治的迫害を受け、家族を殺害されたと主張するナディームに対して、何故か娘のラウアは故郷で平和に暮らしていたと主張する。同じ頃、新宿で発生したシリア人殺害事件とその妻の誘拐事件。食い違う父娘の主張と殺人誘拐事件、謎が謎を呼び……
シリア国内の現実を知ると、つくづく平和な国に暮らせて良かったと思うのだが、世界の国々で大小様々な衝突が起きてい -
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下村敦史『失踪者』講談社文庫。
『生還者』に継ぐ、壮大なスケールで描かれる山岳ミステリー。細部まで巧く考えられたミステリーであり、10年という時間と地理的なスケールの大きさにも驚かされた。気が付けば、早く真相を知りたいと願いながらも、読み終えたくないと願うジレンマに苦しむ自分が居た。
2016年、山岳カメラマンの真山道弘は10年前にクレバスに置き去りにしてしまった親友・樋口友一を捜しにシウラ・グランデ峰を登る。真山はクレパスの底に変わり果てた姿の樋口の遺体を発見するが、有り得ないことに遺体は明らかに歳を取っていた……
下村敦史の作品には裏切られることがなく、安心して読める。 -
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下村敦史『叛徒』講談社文庫。
やはり下村敦史は巧みで、面白い。通訳捜査官という異色の警察官を主人公にした警察ミステリー小説である。ミステリーと同時に進行する家族の物語も非常に良い。
通訳捜査官の七崎隆一は同職の義父の不正を告発し、自殺に追い込んだことから、職場でも家庭でも居場所を失う。歌舞伎町で起きた殺人事件の捜査直後に、息子の部屋で血まみれの衣服を発見した七崎は目撃情報と併せ、息子が犯人である可能性に戦慄し、単身捜査を始める…
組織に属するが故の正義と組織の存続というジレンマ。そこに大切な家族が絡んだ時、如何に行動するのが、正しいのか…
“裏切り”の黒いミステリー -
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後天的な障害を持つ人たちを訓練する施設「天使の箱庭」で施設長が殺され、容疑者として全盲の女性が逮捕された。弁護士の竜ケ崎は彼女の弁護を引き受け、彼女が無実であることを証明しようとする。しかし事件の解明は混迷を極め、やがて開かれる裁判で鍵を握る証人は、聴覚障害者の男性と失声症の少女。事件の真相は、そして判決の行方は。スリリングな読み心地の法廷ミステリです。
全盲の女性が犯人としか思えない現場の状況。だけれどそれでもいろいろと無理がある……彼女の証言を信じるなら、この真相って案外簡単じゃないのかなあ? と思ったのですが。それ以上に次々と出てくる不利な証言と食い違う証言の数々に「いったい何が起こって -
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正義とは何か。
哲学的にはどのように定義されているのかは知りませんが、正義というのは非常に曖昧なものなのではないかと思います。
例えば、昔ニュースが何かで見た記憶があるのですが、裁判で自分の請求が認められなかった時に、弁護士が『不当判決』と書かれた幕をマスコミに向けて掲げていたことがありました。
これは確か民事裁判だったと思うのですが、原告対被告という2項対立においてはお互いに自分が正義で相手が悪、ということになるんだろうなと思うのです。
だから、自分の請求が認められないということは裁判所が相手方すなわち悪の肩を持った、ということになりそのような判決は『不当だ』という図式になるのかなと思いま -
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その怒り、本当に正義ですか?――“暴走する善意”を突きつけるどんでん返しミステリ。
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下村敦史さんの作品は、社会問題をただ描くだけでなく、物語としての楽しさも兼ね備えている点が魅力ですが、『暴走正義』もまさにその路線のど真ん中にある一冊でした。
現代社会を覆う「正義の暴走」をテーマにしながら、全編どんでん返しというミステリーの快感もきっちり押さえているので、考えさせられつつも最後まで一気に読めます。
とくに印象的なのは、正義の“対立”そのものが暴走の源になっていく構造。
**正義の反対は悪ではなく、別の正義**――この作品は、その言葉をまざまざと実感させてくれます。そこにSNSやインタ