久しぶりに江戸川乱歩賞受賞作品を手に取り、久しぶりに、面白い江戸川乱歩賞受賞作品を読みました。
69歳の村上和久は、渡満した経験のある、全盲の男性。
視力を失った後、離別した妻との間には娘・由香里がおり、由香里の幼い娘、すなわち和久の孫娘は腎臓を患い、透析を受けている。
己の身勝手から娘と絶縁状
...続きを読む態となり、以来孤独と闇の中を生きていた和久は孫娘への臓器提供を機に縁を取り戻せないかとかすかな光を見出だし、期待を寄せるが、結果は不適。
その時、やはり距離を置いていた郷里・岩手に住む兄の存在を思い出し、臓器提供を依頼する為、娘と共に帰省するも中国残留孤児であった兄は、検査自体を頑なに断る。
これを機に、兄は果たして本当に、満州で離れ離れになった兄なのかーという疑念に駆られるようになった和久は真相を探るべく動き出す。
同時に和久の周囲で不可解なことや、危険な事態が次々と起こり、「兄」への疑念は一層深まっていく。
果たして真相はー。
私はミステリー小説、推理小説が好きですが、単なる謎解きに終わらないものが特に好きです。
謎解き以外の要素は様々ありますが、この作品はかつての戦争の悲惨さ、恐ろしさを教えてくれます。
また、視覚に障害を持つ方の不安や恐怖も教えてくれる作品でした。
全盲の男性が主人公ということもあり、作品全体を通して描写が細かく、読み手である私にも和久の感じる風景、不安、恐怖が手に取るように伝わります。
それほどに、描写力が高い。
クオリティの高い文章に触れるのは読書の醍醐味の一つ。
ではもう一つの醍醐味、ストーリーはどうか。
詰めの甘い部分は多少あり、「あの人は誰だったのよ?」「あの違和感は何だったのよ?」という疑問が残ったりもしますが、残留孤児、密入国、戦争といった難しい問題をよくここまで、後味の悪さのない結末に仕上げたな、という感心の方が勝りました。
総合的には、良い作品。
ストーリーがいいのか、文章力かいいのか、学べる事があるのがいいのか、これが散らばっちゃう感じが、マイナスポイント。
でも、オススメです。
2015年4冊目。