平谷美樹のレビュー一覧
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『柳は萌ゆる』から繋がる原敬の一生が描かれる本作は、若年期から死までを時系列に沿って丁寧に追っており、どこか吉村昭作品を思わせるようなリアリズムを感じさせる。賊軍とされた盛岡出身の原が、薩長閥に対する反発や複雑な感情を抱えつつも、国のトップへと上り詰めていく、その過程における原の心の動きが、この作品の大きな軸となっている。
首相就任後も、原は護衛を嫌った。その姿勢には、先日読んだ『光陰の刃』の團琢磨の精神と通じ、国家と心中する覚悟がある。團は軍部の過激化によって暗殺されたが、原は民衆により暗殺された。この時代は民衆による爆破・放火・襲撃だらけ。当時の日本社会には、政治への不満が直接的な暴力に転じる素地があったということ、裏を返せば、現代のように民衆が制度を通じて声を上げられるようになったのは、原が掲げた四大綱領のひとつ、「教育」の成果だとも言える。
興味深いのは、平民宰相と呼ばれた原が、終始一貫して普通選挙の導入には反対していた点である。平民の味方=特権の排除を目指した政治家だと思い込んでいた。今の感覚から見れば限定選挙は時代遅れに映るが、民衆の教育水準がまだ十分ではなかった当時、選挙権の売買や不正が横行することを考えると現実的判断であったことが理解できる。
最後のシーンはとても印象的だった。『柳は萌ゆる』に登場する楢山佐渡の言葉を踏まえ、妻・浅が語る「ほら、ここにも、柳は萌えていますよ」という一言に、時代のうねりの中で生きた原の人生が静かに結ばれていく。静謐でありながら力強いラストだった。 -
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最高に面白い。歴史上、幕末にこんな奇跡があったとは。
民衆の力の強さと、人間の汚さ狡さ、色んなことが詰まったストーリー。
一揆にはこんな側面があるのかということを学ぶ。日本に民主主義が無いなんていうのは、大きな間違いなのかも知れない。こうした物語、歴史を知らなかったので、衝撃的である。
社会課題のありのよう、綺麗事では済まない人間の心情のリアル、運動や動きの複雑さ、陥りがちな陥穽が描かれる。美しいだけの物語など無いということと、その混沌の中でどう動くのか、生きるのか。
見栄や役得に動かされる心。辱めない、辱められない。敵であってもというところが大事なのかも。けど、心の奥底では、蔑むのが人。そこを自覚していけるかどうか。
命を捨てる武士ではなく、生きるために尊厳を保つための民衆に、山本幡生を思い出す。新たな水脈にたどり着いた気がする。帰省中に本屋をぶらついていて、偶然目についた本から、広がった世界。偶然の出会いに感謝。
庶民の感覚のない為政者
民百姓の窮乏を辿っていくと国の仕組みに行き当たる
一揆も私利私欲が動機、得がなければ人は動かぬ
一揆衆は、帰ればいいことしか喋らない
尊い目的のためならば、多少の無理難題を強いるのは仕方がない、少数の犠牲が出るのは仕方がない、そういう思いがいつしか、我らが正義なのだから、民百姓は皆、ついてこなければならないという考えに変化している
美談しか語られぬとか、悪行しか伝わらぬとかは世の常だがな
人は己の力以上のことはできぬ。しかし、自身の屍の上に人は新たに挑戦をする
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ネタバレゴミソの鐡次、三作目。
敵役の惣助が江戸幕府の転覆を図るというのは、
まあ予想通りだったが、
鐡次が似たようなことを目的で江戸に来ていたとは、
思っていなかった。
津軽から大先達が江戸に現われ、最後には大海戦となる。
一作目で登場していた雄の雉猫、萩の君の魂が
想い人の花魁七瀧を守るべく、
亡魂たちの前に飛び出したのには、ちょっと泣けた。
鐡次が回向するために、
長羽織に縫い付けていた端切れの霊魂たちが、
鐡次の危機に力を使い果たし、
白くなってしまったのにも。
七瀧、膝枕にしてもらえて良かったね。
これでとりあえず、終わりらしい。 -
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ネタバレTさんのお勧め。
ゴミソという言葉を初めて知った。
津軽言葉で占い師のことをいうが、
有名な「イタコ」と違って女性でないこともあるらしい。
占い師と言っても、憑き物祓いや亡霊退治が仕事のようだ。
この本の主人公ゴミソの鐡次は、
筮竹や天眼鏡を持ってはいるが、
人間や場所から漂う気配が映像となって頭に浮かぶ。
成仏させた者の着物の切れ端を縫い付けた長羽織を着ており、
生涯をかけて弔っている。
大店での女雛の行方不明や、
長屋に出た鈴虫の謎、
吉原で起こった萩の花の怪を解いていく。
鈴虫の謎を解いたが長屋の住人に、
悲惨な事実を知らせない優しさや、
子猫の恋心に泣けた。
同じ作者の「蘭学探偵」より面白かった。 -
購入済み
事実に徹する
体験に変な解釈をせず、あくまでも体験者が事実と信じる出来事を書くということに徹している。霊を信じる・信じないは個人の自由だが、体験者にとっては、それがどれだけ信じ難い現象であっても、体験したことが事実なのである。第三者が余計な解釈をするのは良くないというのが著者の態度で、その通りだと思う。
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幕末の盛岡藩奥羽越列藩同盟を主導した楢山佐渡の一生を描く。前半は盛岡藩の御家騒動を通じ、佐渡が‘武士だけの政治の限界’に気づいていく。後半は幕末の動乱に巻き込まれ決断を迫られていく。
帯に高橋克彦先生も絶賛、とある通り、非常に良質な歴史大作だった。終盤の戦争の場面は暗く陰鬱なシーンが続きなかなかページを捲る手が進まなかったが、最終盤は涙が止まらなかった。特に父帯刀と佐渡の最後の対面の場面は震えた。国を守るために命をかけているとどんなに理解しても血を分けた息子を目の前にすると我慢ができなくなる。常に冷静で闊達な帯刀だけに読者の涙をより誘う。
幕末、劣勢にある佐幕派の中で盛岡藩は何故参戦したのか。仮に負けたとしても薩長の理不尽な政治・やり方に反発した人がいるということを「国」に訴えかけたかったというのは綺麗事だが納得でき、そして非常に良い格好良い。高橋先生の『天を衝く』で豊臣秀吉に対して最後まで対抗した九戸政実に近いものを感じた。己の利益のみならず他を活かすために立ち上がる姿は実に格好良い。
それにしてもつくづく東北という土地は歴史的に苦渋を味って来たなと思う。古代・阿弖流爲の時代から前九年・後三年、頼朝の奥州討伐、秀吉の奥州統一、戊辰戦争、東日本大地震。それでもどの時代にも熱く人のために命を懸けてきた人がいたというのは九州人の私をも惹きつける理由。
今回所々で登場した原健次郎。彼が佐渡の意思を引き継いで日本のトップまで登り詰める。原に対して佐渡は「今日も柳は萌えていますな」という、このシーンが最後の涙を誘うとともに佐渡が安心して死に向かうことができた一要因だったのだと思う。
辞世の句 花は咲く 柳は萌ゆる 春の夜に
うつらぬものは 武士の道
この解釈を武士の自負ではなく、厭世の句と読んだことが作者の本作の原点だそう。作品の最後にこの句を読むと確かにそう見えてくる。農民も参画できる政治体制に奮闘した佐渡の心の声を表している。
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ネタバレ 購入済み
日常の怪異譚
実話怪談集と言えどもこわい話ばかりではない。
最後の「クボタ常務」のエピソードは、適度なユーモアがあり、ほっこりとした気分になる。作中の「クボタ常務」曰く、「あっちの世界でも同じような仕事をして忙しい」あの世でも仕事はするのである(笑)