無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで200万冊以上配信中!
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
Posted by ブクログ
大逆事件によって盟友の幸徳秋水ら同志12人を殺害された悲しみと怒りのなかで、「売文社」という人を喰った名前の出版プロダクション会社を設立し、同志たちを食わせ、「冬の時代」の社会主義運動をささえた堺利彦の人間性と才能、ユニークな闘い方に新鮮な光をあててみせた力作、労作である。
1910年の大逆事件で秋水を失い、1923年の関東大震災で大杉栄を失った堺自身、つねに官憲のターゲットになっており、いつ暗殺されてもおかしくなかった。天寿をまっとうできたのは、ほんの偶然にすぎない。著者はそのことについて、冒頭でこう述べている。
「私は、あえて『幸運にも』といいたい。”ドラマチックな死”ではなかったために、堺利彦という名前が人々の記憶に残らなかったとしても――。幸徳秋水や大杉栄の死は、あまりに無惨である。」
著者の黒岩さんの視点は、ここにはっきりと現われている。ともすれば運動は、先頭にたつひとりの英雄的な個人の活躍に象徴されがちだ。その人が非妥協的で、運命が悲劇的であるほど、評価も高まる傾向にある。そうした中で、運動の火を消さず守り、人を生かすことに徹した堺の生き方をこれほど魅力的に描き出すことができたのは、やはり黒岩さん自身の視点と問題意識の確かさによるものだろう。
大逆事件によって運動のリーダーたちを失い、国家権力による厳しい弾圧をうけたこの時代、堺自身の分析によれば、ある者は一方の極端に走り、他の多くは圧力の下に雌伏したが、その中にも色々の段階がある。どうにも仕方がない、できるだけのことをして時期を待つという者、しばらく猫をかぶって世を欺くという者、そして、社会運動に絶望した結果、ただ自己一身の鍛練に慰藉と希望を求める者もあった。売文社をついに廃業に追い込んだ高畠素之のように、天皇制を奉じる国家社会主義を標榜するに至った者さえあった。
無惨に殺された者たちの遺族を見舞いながら、かつての同志たちが方向性を見失い、心ない裏切りさえ行うありさまを見ていた堺の心境は、いかばかりだったか。しかしそうした中にあってさえ、ユーモアを忘れず、妻と娘をこよなく大切にし、同志らのふるまいを責めずに面倒を見、必ずしも意見を同じくしない幅広い人々とも交友を保ちながら、運動の火を絶やさずに守り続けた。あくまで人を大切にした堺の人間性は実に魅力的だ。と同時に、タイトルにもある通り、これが堺の闘い方であったことを忘れてはならない。問題は、冬の時代においてどう身を処すか、ではない。どう闘うかという問題なのだ。
私たちが生きているのは、堺たちが生きたのと同じ「冬の時代」ではないけれど、「春の時代」でもない。それは、今ここで繰り返し問われるべき問いであり、だからこそこの本は、繰り返し読まれるべき価値がある。
Posted by ブクログ
これは労作だ。ずっしり重い。書き上げて間もなく亡くなられた著者が自分と同年代の方と知り、なんとも言えない気持ちになった。執筆途中で膵臓ガンが発見され(すでに転移もあったという)それでも「きっと乗り越えられると信じている」と「あとがき」は結ばれている。胸が痛い。
幸徳秋水や大杉栄と比べて「地味」な印象の堺利彦の足跡を、あまり知られてこなかった売文社の活動を中心にたどったもの。丹念に一次資料にあたっている著者の誠実で情熱的な姿勢がひしひしと伝わってくる。
調べていく中で、堺利彦の人間的な魅力に惹かれ、それを多くのひとに知ってほしいと願った著者の気持ちがよくわかった。「冬の時代」を、あたたかい心を失わずに生き抜いた堺利彦の姿から、私たちが学ぶものはたくさんあるとしみじみ思った。心から著者のご冥福をお祈りします。
※アプリの閲覧環境は最新バージョンのものです。
小説・文芸
小説・文芸
試し読み
小説・文芸
ビジネス・実用