【短評】
「第13回日本ファンタジーノベル大賞」に輝いた畠中恵による時代小説。
江戸に大店を構える廻船問屋兼薬種問屋「長崎屋」の跡取り息子・一太郎は、「妖」に縁がある。どういう訳か、病弱な彼の周囲には妖が集い、手代の佐助と仁吉をはじめ、あれこれと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。そんななか、江戸の町を「薬種屋殺し」が横行し始めーーという物語。
長大なシリーズであることは承知していたが、左もありなん、屋台骨である第一作は流石に面白かった。良質な落語を効いているような軽妙さで以て、江戸の町を活き活きと描写しており、町人になった気分で読書に浸ることが出来た。文章が非常に達者かつ流麗であり、時代掛かった大仰な言い回しに辟易しがちな時代小説にあって、内容が自然に頭に入ってきたのは凄いと思う。時に聞き慣れない言葉や習俗が現れるが、それらを調べながら読み進めるのはインタレスティングな面白さがあった。江戸を垣間見た気分だ。
妖は少しずれているーーという言い回しが時々現れるが、一太郎の在り方もまた令和の我々からすると少しずれているのが興味深い。死生観が明確に違うと思う。
右も左も善良な人たちばかりなので、厭な気持ちになることが無かった。
さりとて起伏に乏しいかと言えばそうではなく「ミステリィ」としても良く作り込まれており、全体を通じて興味関心が持続する。このあたりも上手いなと思った。
【気に入った点】
●見てきたかのような江戸の描写。馴染みの無い固有名詞や地名が唐突に出てくるのだが、そこに無駄な注釈などを付さずに、当時のリアルな会話を徹底しているのが良い。当時の空気感を感じることが出来たような気分になる。また、そうした「?」をちょっと調べてみると、作品世界の解像度が拡がり、面白みが増す。個人的には「米、喰い過ぎじゃね」と思って調べたりした。
●謎解き物としても一級品。当然に妖絡みではあるので本格的ではないが、奇妙な状況と明瞭な回答がセットであるからして、あれこれ考えるのが愉しかった。世界観的に事件が奇怪過ぎても穏やかな空気感を壊す気がするので、良い塩梅だったと思う。
【気になった点】
●妖。特に一太郎に近い妖たちの「特異性」に関する描写が薄いように思った。家鳴の様な異形は分かりやすいが、犬神や白沢が何が出来るものたちなのか、どういう能力をもったものたちなのか、本作からでは今ひとつ読み切れなかった。
時代小説は余り嗜まないが、かなり好きなテイストだった。
江戸の空気を胸いっぱいに吸いたくなった時、次作に取り組むのも良いだろう。