磯田道史のレビュー一覧
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以前から磯田さんのファンなので、2026年のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』に関する本がたくさん書店に並ぶ中、私は本書を選びました。「はじめにーー歴史から得られるヒント」の、〈歴史学者の細かすぎる史実集と、小説家のフィクションの混じった人物評の二つだけでは、なんとも惜しい〉〈しっかり、古文書なり良質の史料を読み込んできた歴史学者が、人物評価の要点を提示して正面から論じる「史伝」が必要〉という文章を読み、やはりこの本で正解だったと確信しました。
実際、目から鱗が落ちました。こんな〈秀吉のハンディ〉があったとは知らなかったし、秀吉が松下加兵衛という人に仕えて信頼されていた経緯や、のちに秀吉がその松下を召し抱えたことなども知らなかった。
とにかくすごくいいやつで、秀吉をめっちゃ応援したくなったし、これまであまり良いイメージを持ってなかったことを謝りたいとすら思った。
秀吉の書いた手紙に誤字、当て字が多いというのも秀吉らしくて笑える。早く出したい気持ちが急いて、漢字とひらがなで適当に書いたりしてるのが目に浮かぶ。
明智光秀はなぜ本能寺の変を起こしたのか、そして本能寺の変の知らせが秀吉にどう伝わり、どう「中国大返し」を成功させたか、最新の研究を踏まえて説明されており、興味深く読みました。秀長とのナイスコンビネーションでスピードを制した秀吉が、まさに最強だったことがよくわかりました。
とにかくおもしろかったです。豊臣兄弟のおもてなしにちょっと感動してウルウルしちゃったり、井上陽水さんの『夢の中へ』を「♪うふっふー」と本の中で歌ってしまう磯田さんはお茶目だし、宇多田ヒカルさんのご先祖が出てきてびっくりしたし。
〈ぎりぎりの決断をするとき、案外、人間は奇妙な「情」で動く側面がある〉という文には深くうなずきました。そうなんですよ、戦も政治も、しょせんは人間がやっていること。だから、世界平和は決して実現不可能ではないと、きっと実現できると信じています。
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すでに鬼籍に入られている方も多く対談されている日本史議論。
磯田さんの豊富な引き出しの量もさることながら、2026年の今読んでも、どうして日本人ってこうなんだと気が付かされることが多く、対談時から時間が経っていても全く古びない本だと思う。
終章の半藤一利さんとの対談での磯田さんのコメントこれは、ちょっと刺さりました。
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日本人は時折、戦争の本来の目的を手段と取り違えることがあります。203高地も観測点を確保すると言う局所の目的が、いつの間にか、旅潤要塞の攻略と言う大きな目的に取り違えられてしまう。
結局、何のためにこの仕事はやっているのだ、と言う大局観が失われたとき、組織は暴走を始めます。
高級将校や将官さえも、目的と手段の取り違えに気づかず、命令してしまうことがあります。こういう時、戦争スローガンはこわい。
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武士は貧乏だったと聞いていたが実態は知らなかった。猪山家の家計簿から武士の生活を読み解き、当時の社会とその価値観を味わえた。
内職以外の副業が許されなかったことや、親族の行事への多額の出費など、身分費用が収入を超えてしまうという話が面白かった
この割に合わない身分制度のおかげか、明治維新になると武士たちがあっさり身分を捨てることができたからこそ、短期間に日本社会が大きく変化を遂げることができたという考察も良かった。
また、土地から税収を受け取れる武士たちが、その土地へ行くことや影響を与えるようなことを控えるようにされていたことから、地行を剥奪されることに抵抗を示さなかったり、逆に土地に積極的に関わっていた九州の藩では強い抵抗感があったから西南戦争に繋がったという考察も面白かった。
武士たちが親族同士で助け合い、小規模の金融システムを構築していたことや、投資にも積極的だったことを知り、自分たちの生活を良くしたいという気持ちは過去も現代も変わらないのだと思った。 -
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家計簿だけでなく手紙も解析されているからなのか、ものすごくドラマに満ちた猪山家の生き様を覗かせてもらった。
武士は食わねど高楊枝、とはなんとなく聞いたことがあったものの細部に至るまでを丁寧に見せてもらって腑に落ちた。
猪山家を通して時代を俯瞰するならば、
御算用者として評価されても借金に苦しむことが避けられないような制度・構造だったから、武士の時代が終わりを迎えたのだと頷ける。
御算用者として評価されてきたからこそ、激変する明治維新の荒波の中でも実力を示し、最終的に海軍に出仕することができるような時代が来たとも言える。
おじいちゃんになってからも教育熱心なのは、やっぱり学問の大切さが身に染みていたんだなあ。ソロバンで頭ぶちのめすのは勘弁して欲しいけど。
いずれ士業はAIに取って代わられるのかもしれないけど、御算用者のように緻密な計算の鍛錬によってしか磨かれない視座というか世界があるのだろうか。
不安定な世の中で身を助けるのは実学スキル、というあとがきも込みで、刺さりました。 -
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ネタバレこの本は内容が興味深いのはもちろんですが、「はじめに」で書かれているように、「古文書なり良質の資料を読み込んできた歴史学者が、人物評価の要点を提示して正面から論じる『史伝』が必要」という志で書かれているということに、さすがだなあと感銘を受けました。
歴史上の人物を評すると、「それは小説に影響されすぎだ」という向きもあります。しかし磯田先生は、政治は「感情でこそ動く」ことを大切にされています。無味乾燥な資料の羅列でも、フィクションの混じる小説でもなく、その中間を狙った本であることが、「はじめに」で述べられています。
そこで一気に引き込まれて、気付いたら読み終えていました。
磯田ファンとしては、千田嘉博先生と京の御土居に上るシーンや、光秀が山崎の戦いの時に本陣とした恵解山古墳で鉄法玉を掘り出すシーンなど、番組を録画して何度か見返している場面が随所に出てきて面白かったです。 -
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面白かった。
最近、国際情勢が激しいよね。それと、国内政治を考えることもある意味では面白くなってきた。
誰に入れても同じこと…という虚しさを払拭してくれる…そんな気配を感じていることだけでも奇跡。。。
そんなわけで先人に学ぶことも多いのでは?と思って読んでみました。
学ぶこと、多かった。
よく比較対象になるお三方。
信長、秀吉、家康…もちろん、彼らの背景には沢山の知恵者が揃っていて、各々のつながり方も違うのだけど、わかりやすく組織として、またはリーダーとして比較されているので、そこを抜粋。
信長型→求心力が強く急速成長可能だがブラック化しやすく、メンバーが「信長疲れ」を起こす。
(強烈なカリスマ性、力による圧迫ゆえに)
秀吉型→強い成長、拡大路線には強いが、朝鮮出兵の失敗のように行き詰まると「秀吉疲れ」。
家康→若くして人質となり、今川家の「権威による支配」か織田家の「力による支配」かというテーマと向き合った→今川氏真の無力さを目の当たりにして権威による支配に見切りをつけ、織田の「力による支配」に寄るも本能寺の変で、一直線に力の支配を追求した失敗を見る→その両方の限界を知る
そして→「互酬信用・棲み分けによる支配」にたどり着く→日本社会によく適合し長期政権となる。
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家康は元々、武田、今川、織田などの強国に囲まれた中でいかに生き残るかを考え抜いた人だったことがわかった。大勢を見極め、広く視野を持ち、一方で武人としての志しを一貫して通し人としての信頼を失わないような生き方を目指していた点が揺るぎない徳川幕府としての地盤を築く重要なポイントだったことを教えてくれる。
日本もロシアや中国、北朝鮮、といった核保有国に囲まれている中で不穏な世界情勢を考えると、この家康の人生は何かをアドバイスしてくれるような気がするかな。。。
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最後に。
お三方の辞世の句を。
ここにも大きな違いがみてとれるので。
信長→「死なうは一定、しのび草には何をしようぞ、一定かたり遺すよの」(人は誰でも死ぬものだ、生きているうちに何をするか、人は語り残してくれるだろう、生きているうちに語り草になるようなことをやるべきだ)
有名な「人間五十年、下天の内をくらぶれば、ゆめ幻のごとくなり」も同様で自分死んだらそれまでなんだ、ということ。生物は個体単位で消滅するとみる信長の人生観が伺えます。
秀吉→「露と落ち露と消えにし我が身かな浪速のことも夢のまた夢」有名なものですが、やはり、一代で天下をとっても、死んだら全て夢のようなものだ、と。
やはりこれも、「消える人生観」です。
家康→辞世の句というよりもこういう句を詠む人という意味で…「先に行くあとに残るも同じこと連れていけぬを別れとぞ思う」(これは殉死を思いとどまらせる歌です。死後に残された人にポイントを置き、自分がいなくなっても徳川の世を続けよ、というメッセージになっています。
もうひとつ…
「嬉しやと再び覚めて一眠り浮世の夢は暁の空」
(目が再び覚めて、うれしいな、また一眠りする。現世で見た夢は、また東から世を照らす日が昇ってくる空だった)
なんとものんき、らというか、明るい辞世です。
彼の死生観は2人とは全く異なっていて、信長、秀吉が「消えゆく人生観」に対し、家康のそれは「再生、永続の人生観」です。ここに家康の原点があるように思いました。
弱く小さいなら敢えて力や権威に頼るのではなく、共に生きる、共生、互助によって生きようよという処世術を通して大きなメッセージをもらえたように思います。
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磯田さんの最新作は、2026年大河ドラマ主人公•豊臣秀長の歴史を俯瞰したもの(最終章には『奈良出身の高市早苗総理』という文言もあるから執筆は今年の後半と思われる)
非常に面白い。
“豊臣秀長本人が出した書状など一次史料は130点余しかない”ことなど、第一級の歴史研究者としての視点で書かれている点が興味深い。
『歴史学者の本は古文書の引用が多いわりに評論が少ない』『説明せずに、事実や古文書そのものを並べがち』
その一方、
『もっぱら人物評は司馬遼太郎先生•堺屋太一先生など、小説家の仕事になっている感がある』『小説家の描く人物像は、必ずしも史実ではない』
そこで、
『しっかり、古文書なり良質の史料を読み込んできた歴史学者が人物評価の要点を提示して正面から論じる「史伝」が必要だ』
という論考には大いに同意する。特に、史料の信憑性の是非を解説して評論を進める所が非常にわかりやすくて良い。“何故この話が信じるに値するか”を、読者が判断できるから。良い。
豊臣兄弟は、“わかっていないこと”がものすごく多い。しかし、“わかっていること”から類推しながらドラマや小説を楽しむのは、色々な意味で人生を豊かにしてくれる。そんな気持ちで軽く読める本。お薦めです。
【余談】
“人物評”としての豊臣秀長を見るなら司馬遼太郎の『豊臣家の人々』一択。短編だけど、家族の情景までありありと描き出す文章はさすがだなと感じます。 -
Posted by ブクログ
6人の論客が日本の問題点を明らかにする。
275ページの新書に6つの論文。
1人40-50ページと短い文章だが、
その中に鋭い視点を見た。
一番鋭いと思ったのは中島岳志氏。
「保守とリベラル」という対立軸に、新しい視点をもたらした。
「リベラルとパターナル」がそれ。
パターナルとは、家父長的、権威主義的。
そこにリスクの社会化、リスクの個人化という軸を合わせ、
4象限で自民党の政策の変遷を分析する。
田中大平のころの自民党はリスクの社会化+リベラルだった、
それが小泉で個人化、リベラルとなり、
安倍で個人化、パターナルとなったと。
自民は時代とともに鵺のように変遷していると。
ちなみに「民主党」は社会化・リベラルだったと。
さらに中島氏は社会化・リベラルが好ましいとしている。
私もかなあ。。
以前は自己責任!と思っていたが、生まれ育った環境など運が大きすぎる現在、
社会化が大事だと思っている。パターナルなどもってのほか。
お次はお馴染み神保哲生さん。
政府に食いつくべきマスコミが、官僚になりそこなった偏差値エリートの
おりこうさんばかりになると、素直に言うことを聴いてしまう。まずい、と。
記者クラブ、クロスオーナーシップは論外と。
独立系メディア、ビデオニュースドットコムを自ら立ち上げた神保氏だから言えることば。
そして流石波頭さん。
法人税を下げ、消費税を上げ、消費を冷やしてしまった日本。
企業は法人税が下がって生まれた利益を配当で海外にばらまいてしまった。
結果需要は伸びず、負のスパイラルに陥ってしまったと。
ここからは私の意見。
百歩譲って安定財源の消費税を確保させるとして、
何で所得税を下げないのか。数式を変えるだけで、所得税減税は可能。
消費税をとっているのだからそれでよいではないか。
税収上振れが何年も続いているという無策。
財務省はそれで喜んでいるのかもしれないが、国民はどんどん疲弊する。
減税を歌えば「財源は?」と問うくせに、
政治家が五輪だ万博だといえば、どこからともなく出てくる予算。
それも当初予算より増えてもスルー。
バカすぎる。
AI本格稼働で労働力が賄えるようになれば、
ベーシックインカムを国民に与えることが現実的になる、
というものも2人からあった。
それを真剣に考えられる時代になってきたが、、
基礎控除の引き上げや選択的夫婦別姓すら決められない機能不全の国会に
それを求めるのは無理な気がする、、、
ピンチだよなア日本
第1章 歴史に学ぶ日本の再興(磯田道史)
第2章 生成AI:38億年目の創発(西川伸一)
第3章 わが国の今とこれからの方向性~経済からのスコープ~(波頭亮)
第4章 現代日本の政治思想(中島岳志)
第5章 日本のメディアの構造問題(神保哲生)
第6章 夢見るAI(島田雅彦) -
Posted by ブクログ
ネタバレタイトルどおり磯田さんがホストとなって著名人・専門家のみなさんと歴史を語り合うという、私好みの一冊でとても楽しく読ませていただきました。
とくに印象に残ったのは、養老孟司さんとの対談の中で、自然史と人間の歴史を結びつけるとさらに面白いという話。
昆虫の話から始まり、日本人が均質的に見えるのは客観的な事実かも…と結論づけるあたりは、なるほどなぁと頷きながら読みました。
とくに「思わぬ自然変化が歴史に影響する」という説が面白かったです。
大災害が一度に起こると、その後、被害に対して感覚が鈍くなる。太平洋戦争のような乱暴な戦争をしたのはそのせいではないか、そうでなければ、モダンな大正時代からなぜ軍国主義が突然発生するのかわからない…というもの。
そう考えると、いま日本は、幾度も大きな震災を経験し、気象は様変わりし、夏がくるたびにどこがで豪雨や土砂崩れの災害に見舞われています。
養老孟司さんの言われる「無意識の影響」がどんな風に表れてくるのか、少し怖い気がしています。 -
Posted by ブクログ
高校生向けの特別講義がもと。(笑)(「えーっ」)(「へー」)(「キャーハハハ!」)という反応も挟まっていて、臨場感がある。
百点神社実験、自分の結婚の年齢、ゆるキャラの歴史、サカナくんのネクタイといった、女子高生の喜びそうなネタも入れながら、歴史を学び研究するとはどういうことなのかをレクチャーする。より広く、なにかに興味をもつとはどういうことなのか、それを突き詰めるにはどうすればよいかという本としても読める。
史料だけに頼ることの限界や落とし穴にもちゃんと触れている。ちょっと脱線して、天皇家には姓がないが、姓がなければ易姓革命もないといったことや、前方後円墳の形がなにに由来するのかなど、結構ディープなことも喋っている。軟硬をうまく混ぜるあたりはさすが。
タイトルのネイミングもいい。なんで歴史が靴なの? 思わず手にとってみたくなる。女子高生気分で読むのもいいかもしれない。