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筆まめの極地
ドキュメンタリータッチの導入部から一気に読者を引き込む筆致は、学者の著作とは思えないほど巧みである。描き出し方が上手な上に、描かれている内容が十二分に称賛に値するものである。日記をつけている当人たちは将来この資料がどれほどの値打ちを持つものである ということをまるで意識していないと思われるが、今日 これほど詳細で 些末な 生活記録というのは、実に貴重であると思わざるをえない。
中国の史書は、将来の人にどう読まれどのように評価されるかを、常に意識しながら書いたようだが、その分 内容が歪められることも多かったように思う。本書のように他人に読まれることを気にしていない資料こそ、精度が高いと思ってしまう。
Posted by ブクログ
武士は貧乏だったと聞いていたが実態は知らなかった。猪山家の家計簿から武士の生活を読み解き、当時の社会とその価値観を味わえた。
内職以外の副業が許されなかったことや、親族の行事への多額の出費など、身分費用が収入を超えてしまうという話が面白かった
この割に合わない身分制度のおかげか、明治維新になると武士たちがあっさり身分を捨てることができたからこそ、短期間に日本社会が大きく変化を遂げることができたという考察も良かった。
また、土地から税収を受け取れる武士たちが、その土地へ行くことや影響を与えるようなことを控えるようにされていたことから、地行を剥奪されることに抵抗を示さなかったり、逆に土地に積極的に関わっていた九州の藩では強い抵抗感があったから西南戦争に繋がったという考察も面白かった。
武士たちが親族同士で助け合い、小規模の金融システムを構築していたことや、投資にも積極的だったことを知り、自分たちの生活を良くしたいという気持ちは過去も現代も変わらないのだと思った。
Posted by ブクログ
家計簿だけでなく手紙も解析されているからなのか、ものすごくドラマに満ちた猪山家の生き様を覗かせてもらった。
武士は食わねど高楊枝、とはなんとなく聞いたことがあったものの細部に至るまでを丁寧に見せてもらって腑に落ちた。
猪山家を通して時代を俯瞰するならば、
御算用者として評価されても借金に苦しむことが避けられないような制度・構造だったから、武士の時代が終わりを迎えたのだと頷ける。
御算用者として評価されてきたからこそ、激変する明治維新の荒波の中でも実力を示し、最終的に海軍に出仕することができるような時代が来たとも言える。
おじいちゃんになってからも教育熱心なのは、やっぱり学問の大切さが身に染みていたんだなあ。ソロバンで頭ぶちのめすのは勘弁して欲しいけど。
いずれ士業はAIに取って代わられるのかもしれないけど、御算用者のように緻密な計算の鍛錬によってしか磨かれない視座というか世界があるのだろうか。
不安定な世の中で身を助けるのは実学スキル、というあとがきも込みで、刺さりました。
Posted by ブクログ
おもしろい。
タイムカプセル開封感がたまらない。旧金沢藩士の猪山家は代々「御算用者」という会計•経理の家柄だった。幕末に新政府の会計方を任され、明治以降は海軍に出仕した。経理のプロが自家の借金返済のために付け始めた家計簿が、現代までよく残っていたものだ。関連する手紙類も含めて、取りまとめて保管した几帳面さも驚嘆に値する。
一応、大学で歴史学を学んだ身としては、何となく『こうじゃないかな』と類推していた幾つかのことに正答を得られた感じで満足感が高い。
だが、私がこの本を読んで何よりも感じいったのは別の所にある。それは"藤沢周平の小説のもつ時代描写の的確性"だ。ご存知の通り、藤沢周平は学者ではない。様々な文献にあたったり取材したりして書いたのだろうが、描かれたフィクション(時代小説)は江戸期の武家生活を見事に活写していたと言わざるを得ない。何か、『事実が後から追いついた』…そんな感覚に陥ったのだ。
…という訳で、藤沢周平ファンはぜひ一読してみる事をお薦めします。家計のやり繰りに苦心する歴代の猪山家の人々が、藤沢周平作品に登場する無名の人々に重なって見えるかもしれません。
Posted by ブクログ
はしがきから引き込まれました。その筆致も見事なのですが、積み上げられた膨大なナレッジから飛躍のない考察を展開する点はいかにも歴史学者らしく、それらのバランスが本書を良書たらしめています。
明治維新は家の由緒で禄を食んでいた旧弊な士族を没落させた一方で、実務の才覚を頼りに細々とやりくりしていた士族にスポットライトを当てました。磯田先生も折に触れて述べられているように、維新後の士族についての一面的な理解を改める必要があります。
目を見張るべきは、猪山家が現代の平均的な家庭より遥かに高い金融リテラシーを有していた点です。
・自力で債務整理。債権者を相手に有利に交渉し残額を無利子に
・家禄奉還を申請。制度廃止のリスクと現在価値計算上の優位性を踏まえ一括支給を選択
・支給された家禄は運用。期待リターンを比較し許容可能なリスクを考慮した上で、地価の下げ止まり・要用会社の信用リスク低下を待って投資
理財の才に長けていたとはいえ、動乱期に安直に貯金に走らず、熟慮を重ねて私財を運用しようとした合理的で冷静な判断力は推して知るべしです。
Posted by ブクログ
時代は幕末。新しい時代を築くべく行動を起こした若きリーダー達(坂本龍馬や高杉晋作など)ではなく、歴史上無名の一介の士族・猪山家がこの激動の時代をどう生き抜いたかが家計簿と手紙のやり取りから手に取るように見える。
"歴史とは過去と現在のキャッチボールである”
テクノロジーによって日々目まぐるしく進化する今の世の中をどう生き抜けば良いのかという問いを持って本書を読んだ時、過去から返ってきたボールに学びを得た。幕末という激動の時代に生きた士族の運命は、世襲によって得た肩書や特権の上にあぐらをかいていた者と、”既存の組織の外に出ても、必要とされる技術や能力をもっている”者で大きく分かれた。これからどんな時代が来ようと、求められる人材というのは変わらないのだろう。これだけは誇れるという技術や能力を磨き続ければ、未来を恐れることはない。
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ビジネス・実用
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