Posted by ブクログ
2021年05月17日
司馬遼太郎の作品は戦後の復興期から日本人の心を捉えて離さず、彼の作品により脚光が集まった歴史上の人物も多数存在する。
その一方で、司馬史観と呼ばれる、彼特有の歴史の捉え方は、彼の作品の影響力の大きさから、誤った事実を普及しているとして、否定的に捉えられることも多かった。
その司馬史観について、歴...続きを読む史学者の観点から切り込み、彼の思想を読み解き、その思想を理解した上で司馬遼太郎の作品を楽しむべきとした本作。
司馬史観の存在は知っていたものの、体系立てて整理したことがなかったため、大変勉強になった。
ここからはややネタバレになるが、司馬遼太郎の思想として、昭和初期を鬼胎の時代と位置づけ、日本にとって非常に悪い時代とし、そこに至る過程を整理する中で、特に江戸、幕末、明治を紐解き、さらにその源流として織田信長の時代にまで遡っている。
そのため、国盗り物語→竜馬が行く→飛ぶが如く→坂の上の雲、という作品が彼の思想の本筋として存在している。
それに付随する作品、特に作者は花神を推奨していたが、これらの中にも名作が多く、そこには本筋以外の彼の思想が現れている。
彼の作品は、荒唐無稽な日本礼賛ではなく、本質的な日本人の良さを浮き彫りにし、そうした良さを理解した上で国家の形成に役立ててほしいということを伝えている。
歴史的に正しいかということも、もちろん大切ではあるが、そうした彼のメッセージを理解した上で、日本の、特に近現代史に触れることはメリットしかないように思える。
そうしたことに気付かされる、大変有意義な書籍であった。