有吉佐和子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
紀州の素封家を舞台に明治、大正、昭和の時代を紀ノ川のようにたくましく生きた女の物語。
九度山の名家・紀本家の娘・花は、早く亡くなった母親替わりである祖母・豊乃の愛情と教育を受けて、才色兼備の女性に成長する。
彼女は、紀ノ川の流れに沿って、六十谷の名家・真谷家に嫁ぐ。婿となる真谷敬策は新進気鋭の村長であり、その後、県議会議員、衆院議員と政治の道を順調に進んでいく。花は敬策を支えながら真谷家にとけ込み家霊的な存在となっていく。娘・文緒は男のような侠気があり、新しい女性の姿を求め独立自尊の気持ちが強く、花とよく対立する。また、大学を卒業して出版社に就職した戦後世代の孫娘・華子は感受性豊かで賢く花と情緒を通わせる。
それぞれの女性が世代の落差はありながらもエネルギーを内包した生き方を見せる。
敬策の弟で分家した浩策、花の長男で覇気に欠ける政一郎、文緒の夫であり、青白い秀才のイメージのある晴海英二など男性の登場人物はいずれも弱い川として強い女性の象徴である紀ノ川に吸収されていく。
破滅的な戦争末期に「家」こそが女の砦だったこと、長男が嫁をもらうことで次男が分家として格下げされる宿命、農地改革により息のねを止められた地主など時代背景を物語の中で実感として味わうこともできた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ歌川広重の東海道六十九次に惹かれて、中山道の宿を訪ねる機会が増えた。すると随所随所で和宮が降嫁の折に立ち寄った形跡を見るようになり、「この険しく長い中山道を宮さんが駕籠か何かに乗ったにしろ延々と江戸まで続く道を行かれたのか」と、驚くとともに知りたいと思った。
そして、手に取った本書であるが、のっけから和宮が身代わりであったという驚きの展開であった。そして、あとがきで著者は、本書を書き始めてから太平洋戦争に召集された若者たちと、和宮の身代わりにされた少女が重なって見えたと書いている。どちらも歴史の流れの中での犠牲者であったと。最も無力であった人々に対する鎮魂歌として書いたと。
その時代を生きた人々に思いをはせる想像力に、著者の大きさを感じた。
有吉佐和子さんの他の作品も読んでいこうと思います。 -
Posted by ブクログ
自分が老いるってわかってる? お爺ちゃんボケちゃった。
昭和後期に書かれた、老人介護のお話。
当時はセンセーショナルな作品で、ベストセラーにもなった模様。当時から社会情勢は大分変わったものの、この問題自体は何一つ解決しておらず、そちらにショックを受ける。
主人公自らが言っているように、彼らの状況は決して最悪ではない。もっと悪い家庭はいくらでもある。それでも、本人にとっては辛く厳しい日々であり、誰にも理解してもらえない。それこそが、高齢社会の最たる問題ではないだろうか。
今や待ったなしの、だれもが関わらなければならない問題。自分が老いると頭では分かっていても実感は無い、そんな若者にこそ。 -
Posted by ブクログ
文楽の世界を舞台にした愛に生きた女性の一代記であり、
芸道一筋に命を賭けた男の物語です。
タイトルの一の糸と言うのは三味線の3本ある弦の中で一番太くて強い糸なのですが、
「三の糸が切れたら二の糸で代わって弾ける。
二の糸が切れても一の糸で二の音を出せる。
そやけども、一の糸が切れたときには、
三味線はその場で舌噛んで死ななならんのやで。」
文中で値段の張る一の糸を贅沢に使う徳兵衛に
糸を惜しんだ茜が言われるセリフです。
この本で有吉さんが書きたかったのは
一途な茜であり、芸道にストイックに邁進する徳兵衛なのでしょうが、
芯になっているのは、ここかなと思いました。
茜、徳兵衛、世喜、宇壺大夫みなが一の糸なのでしょう。
これは文楽という男の世界を舞台にした、
愛の物語であり、家族の物語であり、
名人たちがしのぎを削る芸道の物語であると同時に戦いの物語のようでした。
文楽には全くなじみのない者でも面白く感動出来る作品だと思います。
これが40年も前の作品だと言うのに全く古びず感動して読める事に感動します。
覚悟をもった人たちは美しいですね。