有吉佐和子のレビュー一覧
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敬愛する肉ノ小路ニクヨ氏が薦めていたこともあり、ずっと読みたいと思っていた。
伝聞形式による小説。生前のさまざまな地点でかかわった人たちの視点を通じて、富小路公子という人が語られる。伝聞形式は好きだ。なにより読みやすい。伝聞形式で思い出すのが、『壬生義士伝』や『永遠のゼロ』。誰かが今はいない人について尋ね回ることにより、360℃ビューで照らし出され、人物像が立体像がうかびあがってくる。なのに唯一空っぽなのが当の本人の視点。本人が何を思っていたのか、意図していたのか、わからずじまい。それで、その本人への興味がますます募る。
没落階級の「斜陽の人」、田園調布のシャンデリア付き豪邸、お金持ち奥様た -
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有吉氏による2025年上半期文庫本売上1位の作品。
とある青い壺の旅を巡る13編の物語。
時に贈られ、時に盗まれ様々な形で人々の手を流転していく壺とそれを背景に映し出される人間社会の密度が素晴らしい作品。
有吉氏が戦時中の経験者ということもあり、戦時中から高度経済成長期の時代背景の解像度が非常に高く、自分がもち得ない価値観を得た気がする。
また、その時代から見た「現代」というのも巧みに表現されていて読む世代によって様々な見方ができると感じた。
この作品から何を感じ、どんな感想が生まれるのか。
是非様々な異なるバックボーンをもつ人たちに聞いてみたいと思えるようなそんな作品でした。 -
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有吉佐和子さんと文化人類学者・畑中幸子さんによる、1968年のニューギニア滞在記。
まだ海外旅行すらハードルの高かった時代に、未開のジャングルへ飛び込んでしまう行動力にまず圧倒される。
「ニューギニアはほんまにええとこやで。あんたも来てみない?」という、畑中さんの信じられないくらいの気軽すぎる誘い文句は、まさに畑中さんの人柄をよく表している。
畑中さんは好奇心と冒険心が桁外れで、誰もが躊躇するようなことを当たり前のようにやってしまう人。
さらに強靭なメンタルと恐るべき体力オバケで、クレイジージャーニーの常連になれそうなすごい人だ。
私はこういう人が大好きなので、畑中さんの尊敬するほどのクレイ -
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引き込まれる話の展開と考えさせられる深いテーマが盛り込まれていて一気読み。
人種問題や差別はなくなることはない。この世に黒人しかいなくても、生まれや見た目などで差別するだろう。実際、この本の中でも黒人の肌の色が濃いか薄いかの会話が何度も出てくる。
人間は、階級や違いを見つけては差別する生き物だ。「人種差別はしない、するべきではない」という素晴らしい信条を持っていても、「あの人は〇人だから」といった、偏見を少なからず持っている。
黒人のトムが日本に駐在中、「ここには平和がある。そして何より素晴らしいものがあります。それは平等です。平等があるから、だから私は日本が大好きです。」と、笑子や笑子 -
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文化人類学者の畑中さんに軽く誘われ、軽いノリで出向いてしまったパプア・ニューギニア。しかしそこはとんでもない奥地で、ちょっとやそっとの好奇心で行ける場所ではなかった。完全なサバイバルである。それをライトにユーモアを交えて語られているので、とにかく面白い。相棒の畑中さんとのやりとりが漫才のよう。
畑中さんの研究する奥地に辿り着くのまでの道のりが壮絶だ(なんせ、3日間歩きっぱなし)。さらに辿り着いてからの生活も「仕事の合間にリゾート地でのんびり」とは程遠い世界。
そこは豚3匹と女一人が物々交換されるような文明なのである。一夫多妻制に児童婚・・・女の地位が低すぎる。女二人で生活できるような場所と -
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終戦直後、黒人のアメリカ兵と結婚し、ニューヨーク、マンハッタンのハアレムで逞しく暮らす日本人女性、笑子の物語。
初版は1964年。少し古いので身構えたが、めちゃくちゃ面白い!美しく流れるように綴られる文章に引き込まれて一気読み。ところどころ、さくらももこのエッセイを読んでいるような、クスリと笑える皮肉もきいている。
人は自分より下を見つけて優位に立ちたがるものなのだと、その無意識の傲慢さを見事に描いた作品だと思う。
笑子の夫のトムがそれをわかりやすく具現化している。
日本に兵士としている時は堂々としていて気前のいい男だったのに、ハアレムでは「愚鈍」で「無気力」な甲斐性なし亭主であった。 -
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ネタバレ(2025.11再読)
昭和50年頃の話。ちょうど今から50年前。終戦から30年ばかり。
40代以上は、戦争経験者であったり、戦争の記憶があったり、というところだろうか。
ちびまる子ちゃんと同じくらいの年代。もちろんスマホなどない時代だが、ちびまる子ちゃんを観ている時と同じで、それほど古さは感じない。古いというより懐かしいという感じ。
むしろ、シングルマザーや、マンションを持っている独身キャリアウーマンがさらっと登場し、意外に現代的で驚いてしまった。
作中で、印象に残った石田先生のお母さんのセリフ。
「戦争に敗けて、何もかも根こそぎ変ってしまった」「世の中は、私の生きている間だけでも千変万化 -
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ネタバレ島国、日本。
それを思い知らされる一冊だった。
偏見をできる限り手放して皆を平等に映す目を持ちたいという思いは常々持ってきたけれど、この本と、初めての長期海外生活で差別とは、を人生で1番考えているかもしれない。
それは、自分が差別を受けているとかでは全くなくて(移民国家オーストラリアにおいて、過去の旅行からの予想通り住み始めてもやはり明らかな差別は今のところ受けていない)、自分の中にある差別意識に向き合うこと。
世界のニュース、時事に日本人が疎い傾向にあるのはやはり物理的に世界と切り離されている島国だからというのは大きな原因だと思う。
日常に支障のある他国との衝突も実質的な影響が少なくて、 -
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『週刊朝日』に連載後、1969.1朝日新聞社より刊行
鈴木保奈美の番組で紹介されていたのだが、面白いの一言!
私的には、『青い壺』より数段よかった。
言葉遣いも的確で、情景や心情がユーモアをもって、かつ、過酷さも感じられる滞在記。
使われている言葉もそれほど古くなく、若い人が読んでもそれほど違和感ないのでは?
なにより、文化人類学者の畑中幸子さんが強すぎる。wikiによると、現在も95歳でご存命。金沢大学の教授などもされていたようで、講義受けてみたかったなあ。
有吉佐和子が畑中さんの学問に対する姿勢に畏敬の念を抱いているのもよくわかった。ある事柄や言葉についても、決して決めつけるのではなく -
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下巻を読んでいる間、ずっと過去、現実に接点のあった自己愛性パーソナル障害と思われる元同僚のことが思い出されて仕方なかった。まさに息をするようにウソをつくが、ほとんどの人が気づかずに騙されていた。フレネミーとも言え、表面的には極めて愛想がよい。
下巻では、正子はなんども絶交を言い渡しているのだが、どういうわけか蔦代は何度でもうまく正子のもとに戻り、親切にしているように見せてとんでもないことをしでかしている。
この親切に見せかけて実は、、という部分、下手したらされている方は気づかないことも多い。そのあたりを有吉佐和子は本当に上手に描いており、引き込まれるようにして読んだ。 -
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青い壺が、色んな人の手に渡っていく。手にした人達の、生き様や心持ちが描かれる。劇的な出来事があるわけでも、ミステリー、謎解きの要素があるわけでもない。時代背景も古いのに、人の気持ちや揺れる様が手に取るように分かってそれがおもしろく感じる。
第二話、定年退職した夫に壺を持たせた奥さん。壺を持って退職前と同じように出勤した夫の気持ちは、全く描かれない。あり得そうで、つかみどころのない怖さ。
第九話、お婆ちゃん達の同窓会旅行も、分かる分かる。
最後に、省造のところに思いがけない形で戻ってくるのがびっくり。刻印はしないと決めたのはなぜか?先生にとって貴重な骨董品なら、それはそれで良いと納得したのかな。