あらすじ
待望の名著復刊!戦後黒人兵と結婚し、幼い子を連れNYに渡った笑子。人種差別と偏見にあいながらも、逞しく生き方を模索する。アメリカの人種問題と人権を描き切った渾身の感動傑作!
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Posted by ブクログ
終戦後アメリカの黒人兵と結婚した女性主人公。出産後日本で差別に遭い、希望を持ってアメリカに行くも、もっとひどい人種差別が待っていて‥。
差別への反骨精神。
当時のアメリカの人種差別と生活がリアルでとても引き込まれました。
人種差別、同じ人種間の階級差別。
差別は本当に人の心を傷つけ、自尊心を失わせたり憎しみを生むということを深く思い知らされました。
ラストの主人公が清々しい。
Posted by ブクログ
引き込まれる話の展開と考えさせられる深いテーマが盛り込まれていて一気読み。
人種問題や差別はなくなることはない。この世に黒人しかいなくても、生まれや見た目などで差別するだろう。実際、この本の中でも黒人の肌の色が濃いか薄いかの会話が何度も出てくる。
人間は、階級や違いを見つけては差別する生き物だ。「人種差別はしない、するべきではない」という素晴らしい信条を持っていても、「あの人は〇人だから」といった、偏見を少なからず持っている。
黒人のトムが日本に駐在中、「ここには平和がある。そして何より素晴らしいものがあります。それは平等です。平等があるから、だから私は日本が大好きです。」と、笑子や笑子家族に放った言葉。
なんて大袈裟なことを言ってるのかと、この時笑子は思っていたが、トムと結婚してNYに住み始めて、なぜトムがあんなことを言ったのか身に染みて理解できるようになる。
トムにとっては、日本は日本人だけで構成されていて、みな平等な夢のような国に思えたことだろう。
そんなトムでさえ、ニューヨークに戻れば、黒人より下であるプエルトリコ人を下に見て差別する。
ニューヨークに住む日本人同士では、パンパン上がりか、そうじゃないか、留学生か、旦那はどの人種かで差別し合う。
トムのいう「平等」は残念ながらどこにも存在することはない、人間である以上。
そういうどうしょうもない出来損ないの人間であることを認めつつ、与えられた場所で、できるだけ平和な世の中作っていこうと努力するしかないのか?
この本は1964年に書かれたものだが、古さは全く感じない。ということは、この人種差別などの差別問題は全く解決していないから。
格差が拡大して、中産階級が貧困層へ堕ちていってる今、むしろこのテーマのもつ問題が表面化してるといえよう。
日本も人種のるつぼになりつつあるからこそ、読むべき本だと思いました。
Posted by ブクログ
終戦直後、黒人のアメリカ兵と結婚し、ニューヨーク、マンハッタンのハアレムで逞しく暮らす日本人女性、笑子の物語。
初版は1964年。少し古いので身構えたが、めちゃくちゃ面白い!美しく流れるように綴られる文章に引き込まれて一気読み。ところどころ、さくらももこのエッセイを読んでいるような、クスリと笑える皮肉もきいている。
人は自分より下を見つけて優位に立ちたがるものなのだと、その無意識の傲慢さを見事に描いた作品だと思う。
笑子の夫のトムがそれをわかりやすく具現化している。
日本に兵士としている時は堂々としていて気前のいい男だったのに、ハアレムでは「愚鈍」で「無気力」な甲斐性なし亭主であった。そしてプエルトリコ人をバカにする時だけは生き生きとしている・・・
正義感や反骨精神の塊のような笑子の方はもう少しわかりにくい。
「そうやないか。プエルトリコをかばうのはええ気持やろ?黒より下の亭主持ってる女やと思えば、単純な私なら嗤いものにするけど、あんたはもう一つ手ェこんでいるだけや。(後略)(p.223)」
友人に、正義感からの傲慢さを指摘され、血の気が引く笑子。
笑子はやがて「差別とは何なのか」を考えるようになる。果たして色の問題だけなのだろうか。
ワシントンの桜と自分を重ね、自分が何者なのかを悟る笑子が眩しかった。
Posted by ブクログ
島国、日本。
それを思い知らされる一冊だった。
偏見をできる限り手放して皆を平等に映す目を持ちたいという思いは常々持ってきたけれど、この本と、初めての長期海外生活で差別とは、を人生で1番考えているかもしれない。
それは、自分が差別を受けているとかでは全くなくて(移民国家オーストラリアにおいて、過去の旅行からの予想通り住み始めてもやはり明らかな差別は今のところ受けていない)、自分の中にある差別意識に向き合うこと。
世界のニュース、時事に日本人が疎い傾向にあるのはやはり物理的に世界と切り離されている島国だからというのは大きな原因だと思う。
日常に支障のある他国との衝突も実質的な影響が少なくて、なかなか考える機会も知る必要もなく生きている"超平和"な国。
メルボルンに住んでいると、口々に日本は"super safe"だと言われ、日本は別世界のように言われるけれどそれは単純に喜べるものでもないと感じ始めている。
イタリア、プエルトリコ、インド、ニグロ
自分の中の無意識差別
知らないということ
見分けがつかない理由
見た目の事実ではなく歴史の事実に基づく差別、目に見えない原因による差別が1番根深い。
人間が人間であるが故の差別。
ボルネオで感じたこと。
知らないという幸せ、知らないからこそ生まれない差別意識の重要性はあるのではないか。
正直、こっちにきてオーストラリアでコロンビアは差別されていて、その理由は移民としての数が多いことと現地人が仕事を奪われるからだという意見を耳にしてビックリした。その理由もばかばかしいと私は思うが、それ以降コロンビアの人を差別されている人なのだという意識を持っているのは事実。
でも、知らない上で平等だと正義感振りかざして近づくことが傷付けるのも現実。
色や歴史が差別を産むのではない。
教養こそが差別と戦う剣となり盾となる。
少しでも多くの教養を身に付けること。
教養のある人間は皮がどんなものであってもその目といい纏うオーラといい、真に見下されることはない。例え見下されたとしても、見下す人間自身の教養のなさゆえ。
それが今私の考える差別との闘い方。
日本の中でさえ、同程度の教育を受けてきたかどうかが関係性に多大な影響力を持つ。
生まれながらに施された教育の差があり、そこに派生して成人後に教養の差のある人間同士の場合何がその関係を救うのか?
本や映画といった文化教養材こそが救いとなる。
だからこそ、近しい人の中である部分の欠落を認めた場合にそれを補う力のある本を勧めてしまうのかもしれない。
かなり偉そうな物言いになっているけれど、私も知識不足の分野が多々あってそれらを読むには根気がいり、中々手を出せていない。
変わることには根気がいる、、
皮膚の色などといった外見的差別の次に生まれてくるのが階級差別であると著者は伝えてくる。この人とは違うから分かり合えない、断絶する、ではなく同じものを探して共有することが心の豊かさに繋がる。
世界は少しずつ変わっているし、5年の歳月があれば大きく変わる。
これまでもこれからも、人々は差別の問題に個々で向き合いながら時に悩み時に闘って生きている。そんな個々の存在の素晴らしさを体感できた一冊。
また、異国に住んで初めて間違った日本文化を好む人々に本物の日本文化を訴えるようになった。私は日本文化の持つ静寂な儚さが一番の魅力だと思う。
何であれ、一度染まってみることの大切さ。
芯だけを持って付属品は手放して、真っ白な状態になって染まっては手放して、染まった中から芯としたいものだけを手元に残す。
その作業の繰り返しで人は出来上がるし、その芯が太くなるほどに手元に残せるものは少なくなっていく。
笑子は最後には大事なもののためにそこに染まりきり家族全員が仲間、ニグロとなることを選んだ。
何より驚いたのはこの作品が1964年に書き下ろされていたこと。この事実の凄みについてはあとがきで綴られていることがすべてだった。
Posted by ブクログ
だらりとした空気で進んでいく物語。
でも目が離せない。登場人物の心の動きをすごくリアルに感じ取ることができる。そして一人ひとりに共感できる。
「非色」の意味を最後に噛みしめ、寂しいような余韻を感じた。良書。
Posted by ブクログ
残酷な人種差別の現実が容赦なく描かれている。
日本に駐留していた米軍兵も、米国に帰国すると元の立場に戻ってしまい、笑子(主人公)の夫はニグロとしての生活に。笑子のみならず、戦争花嫁のほとんどは現状を何も知らずに渡米したのであろう。読んでいて最も辛かったのは、麗子のこと。ニグロにも蔑まされるプエルトリコ人の妻となり、笑子に比べても相当ひどい生活ぶりを送ることとなったが、日本にいる家族や親戚には高価な毛皮や装飾品で飾った自分の写真を送り取り繕う。最後は自死。
笑子は、途中、夫らと同様に自分を保つためにプエルトリコ人を蔑んだりもするが、最後はニグロとしての自分を受け入れる。そこから初めて前向きな生き方がスタートし、最後は明るく結ばれているのが救いだ。
Posted by ブクログ
戦後の女性が異国の地で精一杯生きる中で、人種差別について考える物語。
主人公・笑子が「色ではなく、使う側と使われる側だ」ということに気がつき、最後は「自分はニグロだ」というセリフでこれからの未来に進んでいく様子で終わる。
この差別的な考えは今もあると感じたし、笑子は差別してないと思いながらも、心のどこかではしていて、それで自尊心を保っていたりと、とても人間的であると感じた。
今とは違う時代背景なのが新鮮であっという間に読み進められたし、笑子の力強く生きる姿がかっこよく見えた。
Posted by ブクログ
とても面白かった! 戦後の混乱期に黒人兵と結婚した女性が日本でも渡米後も体験し見聞した様々な差別。次々に困難に出会っては戦うように泳いでいく主人公の人生が面白く、読むスピードがどんどん上がってしまった。
戦争花嫁である女性の人生を軸にしているが、本作のテーマはタイトルにあるように、差別だ。主人公は差別は肌の色のせいなのか、何なのかを常に考えてしまう。
しかし、観念的な話にならず、常に具体的な事件と行動によってスピード感ある展開をするので飽きずに読んだ。
本作の初の出版は1967年で、アメリカでは公民権運動たけなわの頃だ。また、戦争花嫁を取り上げた本も他に見当たらず、いろんな意味で先進的な作品だそうだ。
時代のせいでNGワード満載なのだが、差別の意図がないことははっきりと読み取れ、現在読んでも古さを感じない良い作品だと思う。
Posted by ブクログ
1964年の作を2020年に復刊したもの。かなりの衝撃的な作品だった。
戦後の日本で黒人米兵と結婚した主人公笑子が子連れでアメリカに渡り、ニューヨークでの生活を描いている。日本での差別以上に、移民のるつぼのアメリカには差別が当然の如く蔓延している。
日本人も恐らくイエローとかジャップと差別されただろうにこの中には描かれてない。が、この中で笑子の娘の、明るい未来を象徴する作文が胸を打つ。笑子自身のポジティブさや負けん気も、内容に比べて救いの空気を出している。最後の場面が凄く印象的で、笑子だからこそのセリフだと思った。
この本を勧めてくれたスキボンさんありがとう。
Posted by ブクログ
すごい作品だった。この作品の衝撃といったらなかった。黒人兵士と結婚してアメリカに行った女性の波乱に満ちた人生の中で問い続けた肌の色による差別について、どこに帰着するのかハラハラしながら読んだ。肌の色の人種差別だけでなく、この世は差別だらけだと実感させられる。異国で、差別の中で日本人女性が子を産み育てながら働き、必死に生きながらの様々な葛藤を読むほどに、有吉ワールドに引き込まれていった。最後は彼女なりに自分は何者かという答えに辿り着く。最後の『私は二グロだ』という言葉に、確かに人間は「肌の色ではなく」、どこでどう生きるのかを選び取っていく主人公の人生に清々しさ、頼もしさを感じた。
Posted by ブクログ
この時代にすごすぎる。
移動中に、感情が追いつかなくて一目もはばからず泣いてしまった。素晴らしかった。
1964年初版、現在は不適切といわれる差別的表現が多いが、出版社や遺族による尽力により、当時のままでの再出版という注がある。
戦争で黒人米兵と結婚し、肌の黒い幼い娘の手を引き日本を出た女性の一代記。しかし、米国において働き始めて階層を行き来することで世の中の差別は単に日本で受けた黒人への糾弾のみならず、さまざまな人種同士がお互いについての考えがあることを知り、そんな世の中でもどんどん混血児は生まれてくる。
黒人も白人も黄色人種も、肌の色に関係なくそのなかでさまざまな階層意識がある。だから「非色」。今日もアンダーグラウンド、もしくは公で交わされている、誰しもにつきまとう差別意識や思想について、上流階級の使用人をつとめる主人公のまなざしはとても正直である。そして、仕事を終えると、彼女とは違う肌や髪を持つ、家族が住むハーレムの貧民街に帰るのだ。
主人公より四半世紀ほど後であり、黄色人種同士であるので単純化はできないが、わたしの親は片方が日本人であり、結婚後米国NYCに住みわたしが生まれ、夢やぶれ日本に家族で越して来たと聞いたことがある。わたしは、日本人の方の親とは言葉が分かっても気持ちが通じないなと何度か思ったことがある。そして、言葉が通じない従兄弟がひしめき合い、賑やかだが寄る辺なく過ごしていた片方の実家の雰囲気をふと思い出した。 いまに至るまで、どちらのアイデンティティに対してもそれらを代表する気にはなれないから、ずっとふわふわとした気持ちでいる。日本で過ごす場合、特にそれで困ったこともないし、そうした「スタンス」が邪魔になることすらあるように思う。
しかし、半世紀以上前のNYにおける肌の色・国籍・訛りがある人種の坩堝において、自分の思想が輪郭を帯びてくる様子がまざまざと描かれる。それが、例えば自分が産み落とし成長した子女とすら違った場合、何を思うだろうか。
生い立ちにまつわるアイデンティティについて、誇りに思うことは大事だと思う。しかし、自分が選ぶ、選ばないにかかわらず、主人公、そして自分の両親、国を越えてパートナーになった人たちを見ていると、その後の人生で「そうなるしかなかった」としか言いようがないことが多い。そして、そんな出自を生まれながらにして生抱えていても、いやどんな出自を持ってしても、決して何かを成し遂げる必要はないのだと思う。そしてそれは決して厭世的な意図ではない。
Posted by ブクログ
人間は誰でも自分よりなんらかの形で以下のものを設定し、それによって自分をより優れていると思いたいのではないか。それでなければ落着かない。それでなければ生きて行けないのではないか。
本書の中の一節。私もきっと無意識のうちに何かを差別し、何かから差別されている、ということを忘れずに生きていこうと思った
Posted by ブクログ
かなりひさしぶりに手にした有吉佐和子の小説はやはり素晴らしかった。
非色というタイトルも内容も文章も何もかも圧倒的な才能を感じた。ここ数年の新刊として読んだの小説と心への響き方が違う。
世間や自分自身と葛藤しながらも、黒人と結婚し子供を産み、豊かな生活を夢見てニューヨークへ渡った笑子。貧しいハアレム暮らしに困惑しながらも生き抜く姿が人間的であり、悲しく優しく逞しい。
目や髪や肌の色に一喜一憂し、碧い目と金の髪を頂点とし、その中でも見下して良い人種をつくり、アメリカとアフリカの黒人間でも優劣をつけあう。
人種の偏見や差別の問題の深く掘り下げ、日本でもアメリカでもアフリカでも、どこでも差別があることを改めて知る
Posted by ブクログ
終戦直後黒人兵と結婚した笑子
生まれた娘はやはり肌が黒く、髪が特徴的
日本で過ごすにはあまりにも目立ちすぎた
島国特有の差別的な目が
アメリカ、ニューヨークへ向かわせた
が、アメリカでのさまざまな人種問題が
あるとあらゆるところで渦巻いていた
貧しい生活の中で
知らず知らずのうちに
自分より劣っていることを
他者に見つけ出している
人間の本質であるかもしれない
安全のために、身を守るため
違ったものを排除したくなる
誰かの上に立っていたくなる
色にあらず
それは
色の違いではなく、別の大きな問題が‥
日本の中でも差別は多々ある
宗教的な差別もある
差別を問う!
すごい小説です
そして笑子は強い!
この小説の時代からなんら変わりのない現代
差別意識の数々
自分は関わりを持つことがないと
知らん顔していてはいけない問題が
山ほどあるのだろうな
Posted by ブクログ
色に非ず。
人はいったい何を見ているのか。
差別する側とされる側。
差別の善悪にとどまらず、何で差別がおこるのか、
差別の構造にきりこんだ、深く考えさせる内容だった。
難しいテーマだけど、笑子の行動力と登場人物の魅力的な
描き方で、どんどん読ませる。
有吉さんすごい。
笑子の自分なりの答えの見つけ方、ラストかっこよくて、しびれた。
Posted by ブクログ
今では禁止用語となっている言葉も多く登場するので、ここにはっきり書けないことも多い。
しかし、いくら言葉をごまかそうとしたところで人間の感情や意識はなかなか変えられないと思う。
それが逆に、この物語が少しも古くならない所以でもある。
林笑子(はやし えみこ)は、長女のメアリイを連れて、夫の待つアメリカに渡る。終戦後7〜8年経った頃。
肌の黒いメアリイに対して周り中から突き刺さる差別の悪意から逃れるため、そして母と妹が、黒人と結婚した笑子が日本から消えることを望んだからである。
連合国軍がアメリカに渡る「戦争花嫁」たちに用意したのは貨物船。
狭い船室に乗り合わせた日本人女性たちとは、その後も縁を持つことになる。
「なに人」の男と結婚したかが、のちに彼女たちの運命を分けた。
1945年の敗戦後、いわゆる「進駐軍」が占領のために日本に入って来たが、なにも知らない日本人の目には、同じ軍服を着ていれば皆アメリカ人だった。違いが見えるのは、肌が白いか黒いか、くらいだった。
しかし、ニューヨークでの複雑な人種カーストに「肌が白ければ良い」という単純な思い込みも壊されていく。
黒人、イタリア人、プエルトリコ人、ユダヤ人・・・
およそ人間ほど、生物学上同じ生き物とされながらそれぞれ違った生き方を強いられる生物はいないのではないかと思う。
差別感情とはコンプレックスの裏返しではないだろうか。
人が最低限生きて行ける心の拠り所とは、自分よりも底辺と呼ばれるものを見下すことによってのみ得られる自尊心ではないかと笑子は気付く。
この物語は人種差別について多くのことが述べられているが、問題定義や啓蒙が目的ではなく、あくまでそれは笑子の目で見た世界、彼女が考えざるを得なかった問題である。
これは、女性の生き方を描いた物語なのだ。
ポトマック河畔の桜を見て、笑子は衝撃を受ける。日本を発つ前に靖国神社でお花見をした桜とはあまりにも違う。
こんな油絵のような桜は、日本の桜ではない。
植物は気候や土壌に合わせて変わっていくものだった。
そして笑子は、自分もポトマック河畔の桜になったと感じたのではないだろうか。
自分が確かにこの大地に根を下ろしたと実感できるまでの、笑子の進化の物語であった。
この小説のタイトル『非色(ひしょく)』とはどういう意味なのかと考えた。
「人間の価値を決めるのは、肌の色に非(あら)ず」
というふうに私は受け取った。
笑子の長女メアリイは、生まれながらの国際人だ。賢い彼女の行く先が楽しみだが、それは想像することにしよう。
Posted by ブクログ
大学生の頃に、紀ノ川という作品を読みそれ以来の有吉佐和子さんです。はじめは、なんという差別的なことばで差別的な内容の…と思いながらの読書でした。それが主人公笑子の心の変化につれて差別の本質についての考察に至ります。
わたしも笑子の考え方の振れと共に差別とは?肌の色とは?について考える機会を持つことができました。階級闘争という言葉が頭に残りました。
差別的なことばや内容はその時代のライブな感覚です。その先にある深い考察には本当にビックリしました。有吉佐和子さん、もっともっと読みたいです。
Posted by ブクログ
時々考えることなのだけど「人が人を差別する意識はどこから生まれるのだろう」ということを、この本を読み終えてまた考えた。
歴史や時代に刷り込まれる場合もあるだろうし、生まれ育った環境(親や友人など)を通して意識に根付く場合もあると思う。
自分自身「差別なんてしたことありません」なんて到底言えないのだけど、果たしてその意識はいつ根付いたのだろう。
初版は1964年。2021年に復刊を果たした本作。
第二次世界大戦後、日本で生まれ育った笑子は、仕事の関係で知り合ったアメリカ系黒人のトムと結婚することになる。
作中では今は差別用語として使われなくなった「ニグロ」という言葉が多用されているが、変更はされず復刊されている。
数年後笑子は娘のメアリィを出産する。
トムはアメリカに戻り、離れた生活をしている間に笑子は一度離婚を考えるが、日本にいてはメアリィを育てるのにも支障があると実感して渡米することを決意する。
ここまでが序盤。
序盤から差別の描写は山のように出てくる。
今は日本と黒人のハーフも珍しくないけれど、当時はそれだけで周りから忌避されることもあったということ。
笑子が渡米してからが物語の本筋なのだけど、さまざまな人種差別が渦巻きまくっていて、だけどその理由を語れる人はいない。
なぜ黒人が差別されるのか。白人の中でも、プエルトリコやイタリアの人間はなぜ差別されていたのか。
ハーレムにある半地下の穴倉のような住まいで、それでも笑子はたくましく生きる。
渡米してからも子どもが生まれ(当時のアメリカの多くの州では堕胎は罪になるという背景もあり)笑子と似たような境遇にある日本人の女たちの奮闘ぶりも描かれる。
読んでいて、思案する時間、理不尽さ、痛快さなど、色んな要素を味わえる。
そして笑子は、とある金持ちの家の家政婦として働いている期間に、ひとつの答えを出す。
「非色」とは「色に非ず」ということ。
それは分かっているのに、今も差別が完全に無くならないのはなぜなのか。
今でも時々話題になる事件を見ていて、1964年に有吉佐和子さんが表現したものは、今も変わっていないのだと痛感する。
日本人に限定しても、色での差別は無いにしても、差別自体はたくさんある。
意識に根付くもので無意識に行動する人の恐ろしさを描いている小説なので、復刊したことはきっと大正解なのだと思う。
社会派をエンタメに落とし込むという意味でもすごい小説だと思った。考えてしまうけど、とても面白かったので。
Posted by ブクログ
一昔前の文体だったが、それが逆に柔らかく読みやすかった(ひと昔前の作品だから当たり前だが)
現代にはない人間の生命力が感じられ生きる実感を味わせてくれる作品だった
Posted by ブクログ
人種差別の根深さについて考えさせられた本。
どんな血が流れているかで人生が決まる、そしてその人生をほとんどの人が当たり前として受け入れていることが苦しかった。
差別されている側であってその辛さをわかっているのに、自分より下とされている種族のことは見下したり、見下すことで自分の誇りを守っていた。
いじめの理由も親の職業や貧乏が理由であったり、自分よりいじめられている人に安心したり、似たような構図になっていると感じて、人間ってそういう風にできているのかと苦しくなった。
Posted by ブクログ
終戦直後、アメリカ社会にひそむ人種問題。
何系のアメリカ人なのか?がここまで強く意識され環境を変えるのだと知った。
当時ニグロと呼ばれた人種もアフリカ系とアメリカ系がお互いにお互いを蔑んでいる。
自分より低い階級が存在することでアイデンティティを感じるというなんとも悲しい人間の性。
問題は肌の色にとどまらず、規律を立てるためには支配するものとされるものに分かれることが必然になっていることにある。
たとえ家の中でさえも力関係は存在する。
決して昔の話ではなく、いまも人種差別は残っているし、人間の性質は変わっていない。
差別、というこの感情は、解決するのだろうか。
Posted by ブクログ
差別そのものに真正面からも向き合った物語。反骨精神の塊のような女性佐和子が、戦争の最中で出会った黒人と結婚してあらゆる差別と葛藤しながら生き抜いていく。自分の中にもある差別の意識をためつすがめつ眺める。それがあることを認めることの苦しみ。
自分が差別を受けているしている対象の一人でもあると認識するラストはなんとも言えぬ読後感。読んでよかった。
Posted by ブクログ
古書購入
これは深く考えさせられた本。
肌の色が違うことの差別、
差別の中でまた細分化された差別。
戦後の話だが、今読んでなんの遜色もなし。
勝手に、有吉佐和子祭りを開催してます。
Posted by ブクログ
最初は贅沢な暮らしだったが後半は貧困生活
子供の世話を充分にできず、贅沢なマダムの暮らしを知り涙してしまう
子供は親を選べない、自分は差別される立場ではないと思っていたが実は自分も差別される側
みんな誰かしらマウントを取り馬鹿にしているのは一緒
知識があれば貧困は回避できたのだろうか
知識があっても人種によってレールがすでにひかれている
みんな平等で労わりあえる社会だと貧困による犯罪や差別も減るのではないか
Posted by ブクログ
本書は、1959年にニューヨークに留学した有吉佐和子さんが、アメリカの人種問題を内面から描いた作品(1964年)ではあるものの、それをアメリカ黒人と結婚し子どもを産み、アメリカで暮らすことを決めた日本人女性の視点で描いている点に、本書ならではの捉え方があるのではないかと感じられたことから、2003年を最後に重版未定となっていた本書が、2020年に河出書房新社から復刊された意義も充分にあったのだろうと思われた。
人種問題といっても捉え方は様々で、戦後の時代背景に於いて、使う者と使われる者との間に生まれる格差に加え、アメリカ黒人だけに限らない差別を知ることによって、無意識下ではあるのかもしれないが、人間本来の嫌な一面を浮き彫りにしたようでもあり、それは『最下層』というものを設定することによって、自分はまだその階層ではないという安心感を抱くことが、自己のアイデンティティを確立させることに繋がっているような描写に、やるせない辛さを感じられたからなのだが、それはあくまでも人種としての見られ方しかされない、『個人』としてではなく『あなたたち』として括られてしまうことの辛さによるものなのだとしたら、おそらく誰も責めることはできないのではないかと思ってしまうような、個の自由の無い閉鎖的な社会の息苦しさを垣間見た気持ちであった。
ただ、そうした中でも有吉さんが問い掛けているのは、人種問題とは身体の色だけに基づくものなのであろうかということであり、それは黒人であっても、考え方や行動は人それぞれで異なるのではないかという不確定要素だけではなく、アメリカ黒人であっても、その人が生まれてくるまでの間に積み重ねられてきた家族の歴史や血の存在如何によっては、確率の高低差こそあるものの、それらが確実に証明してくれるのは日本人と黒人の間に生まれてくる子どもは、決してその二種類の人種だけに限られない場合もあるということであり、この事実がどれだけ大切なことであるのかを考えるにつれて、「見た目だけで人間のいったい何が分かるというのだろうか?」という思いに、もし至るのであれば、それこそが『非色』というタイトルに込められた、当時の有吉さんの切実な思いなのかもしれないと私は思うのだが、どうだろう。
また、以前読んだ「花ならば赤く」同様、本書に於いても、つい感情的になってしまいそうな問題に対して冷静沈着に考えて答えを導き出そうとする姿勢に、有吉さんの真面目な人柄が窺えながら、そうした理性的なものとは真逆な行動を登場人物にさせる描写もあることによって、人間とは色々な一面が複雑に折り重なることで、その存在を成しているのだということを知っていることに、とても好感を持つことができた、そんな対照的なもの同士が当たり前のように共存する人間を描いたという意味では、主人公「笑子」の、反発心旺盛な様で自らの人生を突き進む一方で、お節介とも思われる程に他人への思いやりに溢れた、人物描写からも充分に感じられたのであった。
Posted by ブクログ
色に非ず。肌の色での人種差別、肌の色ではない人種差別、それによって人生が変わってしまうこと、交わらないこと、置かれた環境の厳しさ難しさ、自分の知らなかった世界を知れた。終戦直後から数年間の日本とNYの実情は厳しかった。果たして今に至っては、なにかよくなっているのであろうか?アメリカで何が起きているのか自分からはぜんぜん知れていないだろう。観光でしか行ったことがないので...。日本でも、偏見などによる差別とまではいかなくても差別意識はなかなか消えないと思う。世界中がかわっていくこと変えていくことはとっても難しいと思うが、差別で苦しむ人が少なくなっている、いくことを願う。
Posted by ブクログ
終戦後アメリカ兵と結婚しアメリカへ渡った「戦争花嫁」と呼ばれた女性たちがアメリカで直面する人種差別について描かれた作品。
主人公の笑子(えみこ)は反対されれば逆にやってやろうと反撥心を燃え上がらせるような性格で、親の反対を押し切って黒人のトムと結婚し子供を産みアメリカへ渡ります。なかなかおもしれー女です。そしてどんな過酷な状況でもなんとなく受け入れて、前に進んでいけるたくましい女性。
対照的だったのが渡米する船の中で知り合った同じ戦争花嫁の麗子。彼女の夫は黒人よりもさらに差別される立場だったプエルトリコ人(同じ白人なのに見分けがつくんだろうか…?)夢見ていたアメリカでの幸せな結婚生活とは程遠い苦しい生活の中、日本にいる家族には幸せに暮らしているという嘘の手紙を書き、最後は自ら命を絶ってしまう。あまりにも悲しい末路だった。
アメリカでの生活で笑子は、自分もまた心のどこかで誰かを差別していることに気付き、肌の色に限らず、人は誰かを下に見て差別せずにはいられないという真理に行き当たる。「日本人の戦争花嫁」として存在していた笑子が最後に「自分はニグロ(黒人)なのだ」「どうして私だけが日本人でいられよう」と黒人社会で生きていこうという決意をして物語は終わる。
なぜかこの物語では笑子たち黄色人種への差別は描かれてなかったけど、差別の構図はきっと今も変わらない。古い小説だけど思ったより読みやすくて、考えさせられる内容だった。