人生相談を読むのが好きだが、本書はそもそも人生相談なのか微妙。著者自身もそんなつもりではないと言ってるし。ほとんど「答え」になってないのが結構あり、それどころか何を言っているのか(私には)わからないのもチラホラある。それでも随所にウーンと唸らされるくだりがあって、じっくり読んだ。
著者は、世に流布
...続きを読むする型通りの考え方に縛られて苦悩することの愚を説く。以下は心に残った箇所の抜粋。
・「今何をすべきかわからない。若いうちにしておいて良かったことを教えてほしい」という問いかけに対して
「『今』は『未来』の保険ではないし、つながりもしない。今が未来につながっているように見えるのはそうした『物語』をわたしたちが信じているからです」「その都度好きにすればいいのだとわたしは思います」
・「ロシア文学の大作を読みたいが踏ん切りがつかない。背中を押してほしい」という人に対して
「世間はいつの頃からかとてもやさしくなりましたがそれはただ『波風を立てたくない』ということなのがじっと見ているとよくわかる」(「いちいち人に頼むな」とか言うときつく聞こえるが)「だけどそのことがわたしたちの首をしめている。その程度をきつく感じてしまうわたしたちはしかし『自己責任』などというおそろしい言葉には慣れてしまった。どうでもいいことは手取り足取りやさしい笑顔で親切にしてくれるのにいちばん頼りたいことは『自分でやりな』と死に方さえ教えてもらえず放り出される。死に方は自殺の仕方じゃないです。『死に方』です。生きた人間のすべてが切望しているのはそれのはずなのにそこは自己責任でと戸が閉められるからつまらないインチキに引っかかってしまう」
・「文学って何に対して何を与えるものだと考えるか」と質問されて
「大きな質問というのがあって、たとえば『幸せとはなんですか』とか『人生とは』とか『文学とは』とかそういうやつ。聞いた方は聞いた気になれてこたえる方はこたえたきになれるやつ。文学に何かあるとしたらそうしたものをしなくなる、できなくなるものだとわたしは考えます。誰かのことをよく知れば知るほどその誰かを外に簡単な言葉で語れなくなるように」
・恋人から別れを告げられて悶々と悩む人に対して
「ふられただけだぞしっかりしろ。ふるのに理由なんかない。ふられる理由もない。何をしたとかしてないとか関係ない」「いいやつだからいいというわけではない。その理不尽。人間のダイナミック。感心してあきらめるしかない」
・「人見知りな人に話しかけたい。僕の知らないその人を知りたいし、その人の知らないその人を教えてあげたい」という人に対して
「こういうことって字にして考えることではなくて、実践しかなくて、それは自転車の乗り方のようなもので、だから字にせずやってみるしかないと思います。字にしてると変になる」「『その人の知らないその人を教えてあげたい』これはなんだか偉そうだし余計なお世話だ。読んでるだけで腹が立つけどあなたにもちろん悪気はない。臆病なだけだ。書くから臆病を増長させる。開き直らせる。誰でも字はまあ書けるから言葉も書けるだろうと勘違いしている。書けねえんだから書いて間違えないよう書かずにやるのがいちばんです」
・「自分と無関係な他人の怒りに反応してしまってつらい」と言う人に対して
「そういう人を『やさしい』という。わたしたちは何とも無関係なんてことはないし、驚くべきことに、ありとあらゆるものがわたしたちに関係しているし関係する」「防ぐ方法はないと思います。自分にとって良いか悪いかその都度考えて、良ければ良かったと喜び、悪ければその怒鳴り声のようにしばらく影響を受けるしかない。そのうち飽きる」「それまでは『よい耳と反応のよい脳だ。わたしだ』と堪能してください。敏感な端末は地球の宝です。やさしい人間は知らないうちに(知らないうちですから知ってしまうと話は変わる)誰かを何かをやさしくさせている」