大倉崇裕のレビュー一覧
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ネタバレ大倉崇裕さんの『福家警部補』シリーズ第4作。最初に第5作『福家警部補の考察』を読んだが、第4作は倒叙ミステリとして文句なしに面白い。
第4作は中編2編という構成だが、真犯人の人物像といい、動機といい、緊迫感といい、いずれも十分に長編化可能だろう。敢えて中編に留めているために、内面を見せない福家警部補のキャラクターが生きているし、切れ味も鋭い。
「未完の頂上」。息子の未踏峰挑戦を控えた著名登山家が、支援を止めるという有力スポンサーを撲殺する。登山のロマンは認めるが、山を愛する男が山で偽装工作をするとは。登山家としても経営者としても、早々に読者に見限られるだろう。
偽装工作はことごとく福家警部補に見抜かれるが、何よりも興味深いのは、真犯人の男が自らのエゴに対峙させられる展開だろう。命がけの挑戦は、成功すれば賞賛されるが…。それは誰のための挑戦か? こんな男にも、親子の情はあったか。
「幸福の代償」。動物愛護に取り組む女性が、悪質ブリーダーの義弟を殺害する。ペット業界の闇はニュースでもよく聞くが、もちろん殺していい理由にはならない。登山家の男と似たような人物と思考回路だなあという印象を受ける。
初対面時、明らかに福家警部補を見下していたのも、登山家と同じ。結局、能ある鷹は爪を隠していたことを思い知らされることになり、同じ道を辿るのだ。動物愛護活動家だけに、頭に血が上ってかっとしたのが致命的だったねえ。
2人とも芯が通った人物だし、知性もあるのに、自らの正義の名の下に、短絡的な手段に走ってしまった。他に手段はなかったのかと思ってしまうが、犯人が短絡的だからこそ、ミステリーは成り立ち、我々読者は楽しめるわけで。
本作が倒叙ミステリの傑作であることは、疑う余地がない。とりあず、第1作まで順番に遡ってみよう。新刊で福家警部補の前に強敵が現れるのも期待したい。 -
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初めて怪獣が現れたのは1954年のこと。日本領海だった。以来、世界は度重なる怪獣襲来に悩まされる事態となった。特に四方を海に囲まれた日本の被害は深刻だ。
そこで日本は怪獣対策のため1970年に「怪獣庁」を設立し、さらに2000年に「怪獣省」に昇格させ、防衛力を強化した。
こうして日本は、他国の追随を許さない対怪獣防御システムを誇るまでになっていた。
これは怪獣襲来に際し、その進路および迎撃方法を分析し決定する怪獣予報官と、怪獣絡みの犯罪を捜査する怪獣捜査官の活躍を描いた物語である。
◇
太平洋沖の日本領海に突如現れた怪獣。怪獣省第1予報官の岩戸正美は特徴を分析し、対象をグランギラスと特定した。
グランギラスについては1971年に襲来したときのデータがある。
体長 53㍍、体重 2.3万㌧。水陸両棲で、全身を覆う硬い鱗には物理的な攻撃は通用しない。
この鱗は体内の水分が蒸発するのを防ぐ役目もしているが、逆に言えばグランギラスは乾燥に弱いということだ。
熱攻撃兵器を沿岸部に設置して迎撃すると決定した岩戸は、続いてグランギラスの上陸予定地を静岡市清水と割り出した。
ただ岩戸には懸念があった。
グランギラスは大きな動きを見せるものに興味を示す習性がある。そして、清水区沿岸には風力発電用に多数の風車が設置されている。このままではグランギラスは風車目がけて上陸する。そして沿岸部の殲滅特区に熱攻撃兵器を設置するには風車が邪魔になる。
岩戸はすぐさま、第3予報官の橋本に命じて静岡県の管理機関に風車停止を要請した。
だがグランギラスが間近に迫っても、なぜか風車は回転を止めず……。( 第1話「風車は止まらなかった」) ※全3話。
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物語は怪獣省チーフ予報官である岩戸正美の視点で描かれるのですが、彼女は狂言回しの役割です。
真の主人公は船村秀治という警察庁から特権を与えられた怪獣捜査官でした。この船村が魅力的なのです。
風采の上がらぬ見た目。穏やかで言動はとぼけていても、頭脳のキレは抜群で格闘技の達人でもあるという人物像は、『死神刑事』の儀藤堅忍とほぼ重なります。
そんな船村が岩戸を相棒にして、硬軟使い分けた捜査で事件を解決していく過程は非常に読み応えがありました。
ただし船村が扱うのは、怪獣絡みで人間が起こした事件です。そう、物語のメインは怪獣との戦いではないのです。
そして事件の謎を解いた船村に追い詰められていく犯人の、動機も含めた人間臭さにはリアリティーを感じます。
だから本作は、パニックファンタジーと言うよりも、できのよいミステリーとして出色でした。大倉崇裕さんの、そんな巧者ぶりも窺えておもしろかったです。
怪獣に対しては有効な対策を構築できた日本ですが、人間が身勝手な欲望から起こす犯罪を防ぐ手立てはありません。ますます巧妙になる犯行の手口。
「怪獣は怖い。だけどね、人も怖いよ。私にとっては、怪獣なんて比べ物にならないくらい、怖い」
岩戸に向かって、つぶやくように言った船村のことばが印象的でした。 -
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無罪判決が出た事件を再捜査して真相を突き止める、儀藤堅忍警部補の活躍を描く連作短編ミステリー。
シリーズ2作目も、各話ごとに儀藤の相棒となる刑事の視点で描かれていく。
◇
警視庁鑑識課の川代翔子警部は今日も若手鑑識課員をきつく叱り飛ばしていた。
翔子の怒りは凄まじく、20分を経過しても叱責は止む気配もない。悪いのは軽率な行動で検視前の現場を荒らしてしまった課員の方だ。そう思って部下をさらに糾弾しようとしたとき、内線電話が鳴った。鑑識課長からの呼び出しだった。
出向いた翔子を待っていたのは思いもよらぬ異動の内示で、異動先は大学の法医学研究室、ポストは講師であるという。つまりは警察機構から逐われることを意味している。
理由は行き過ぎたパワハラで、多くの部下から苦情の申し立てがあったからとのことだった。
突然の左遷宣告に、ショックのあまり女子トイレで涙ぐむ翔子。と、真っ白なハンカチが目の前に差し出された。隣を見やれば知らぬ間に中年の小男が立っている。
驚く翔子を宥めるように男が恭しく差し出した名刺には「警部補 儀藤堅忍」とだけ書かれていた。
( 第1話「死神 対 天使」) ※全4話。
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2作目もおもしろかった。
刑事コロンボばりのトボけた言動と抜群の頭脳のキレで、無罪が確定した殺人事件の再捜査を進める儀藤の頼もしさ。
真相を突き止めたあと、相棒に心尽くしの贈り物をして去っていく儀藤の背中に漂う哀愁も相変わらず。このお決まりのパターンには心が和むばかりでした。
各話について少し紹介しておくと……。
第1話「死神 対 天使」
緩和ケア病棟に入院していた資産家の男性が急死した。死因は筋弛緩剤を投与されてのもので、殺人事件として捜査が始まった。
やがて目撃情報から被害者の死の直前に病室に入った看護師が逮捕・起訴された。
だが裁判の結果は、証拠不十分で無罪が確定。安楽死殺人事件は振り出しに戻った。
儀藤は事件当時の鑑識課員だった川代翔子を相棒に指名して再捜査に乗り出した。
儀藤たちの聞き込みで浮かび上がってきたのは、「死の天使」の存在である。
重篤で決して助かる見込みのない患者を安楽死させる「死の天使」。その正体はいったい誰なのか。
☆終盤に二転三転する見事な展開でした。準レギュラーの福光弁護士がいい味出してますし、今回はキーパーソンでもありました。幕開けを飾るに相応しい物語です。
第2話「死神 対 亡霊」
相棒は、赤坂西署の宇佐見一成巡査部長です。
宇佐見が関わったのは安達という資産家が殺された3年前の事件。ただし安達邸は厳重な警備システムが導入されており、いかにプロの泥棒であろうと侵入は難しい。
しかし捜査本部は付近の住宅を荒らし回っていた座間伸介を逮捕・起訴。取り調べでは犯行を認めた座間だが、裁判では一変して容疑を否認。
検察は立証できず無罪が確定した。
逮捕当初から座間犯人説に懐疑的であった宇佐見は署内で反感を買い、現在の孤立に繋がっている。もともと勘と経験を重視する宇佐見の捜査が捜査三課の推し進める効率重視の科学捜査と相容れなかったという土壌もあってのことだが、儀藤はそんな昔気質の宇佐見に注目したのだった。
亡霊でもない限り、安達邸への侵入は不可能。儀藤と宇佐見は地道な聞き込み捜査を開始する。2人が突き止めた「亡霊」の正体とは!?
☆見せ場は外国人強盗団逮捕のシーン。宇佐見の勘と経験が脚光を浴びる出来事であり、格闘シーンでは ( 詳しい描写はないものの ) 図体のデカい犯人を瞬殺したらしい儀藤の凄みを垣間見ることができます。
第3話「死神 対 英雄」
相棒は退職警官の冨藤歩。根っからそそっかしく失敗続きの歩は採用されて数年で自主退職したのだが、巡査として最後に関わったのが、スーパーマーケットチェーンの店長が2人組の覆面をした強盗に刺殺されたという3年前の事件である。
被害者の田坂店長は、強盗に刃物を向けられたレジの女性を庇おうとして犯人と揉み合いになり、刺殺されたということだった。
ほどなく逮捕・起訴された2人組が裁判でも犯行を認めたため罪が確定した。
だが店長殺害の時間に、2人組は別の場所で残忍な暴行殺人事件を起こしていたことが判明。店長刺殺事件は振り出しに戻った。
従業員を守ろうとして命を落とした田坂店長は、店舗の売上成績でもチェーン店中トップを3年連続で取り続けた人物でもあり、今や「英雄」として讃えられている。
現在はそのスーパーの従業員で、伝説の英雄を讃える1人でもある冨藤歩を相棒に選んだ儀藤は、殺害事件の真相を探るため意外なところから捜査を開始する。
☆真相に迫るために必要なことは何か。印象や先入観に囚われることの危険性を改めて認識できる展開です。
第4話「死神 対 死神」
相棒は警視庁副総監亀島秀康警視監。
キャリアとして順調に出世の階段を駆け上がり、次期警視総監と目されている人物だ。
その亀島が関わったのは15年前に死刑判決が出た事件。二子玉川署管内の一戸建て住宅で起きた家族3人が惨殺された事件だ。
偶然パトロール中に通りかかった警官が事件現場から血まみれで飛び出してきた若い男を追跡して取り押さえたうえ逮捕に至った。
逮捕された大殿浩介は一貫して容疑を否認したものの、状況証拠から大殿犯行は間違いないとして二子玉川署は検察に送り、裁判でも有罪が確定。判決は死刑だった。
ところが裁判で首席判事を務めた磯谷は物証も自白もないまま下した死刑判決を後悔しており、死病に取り憑かれ余命幾ばくもない現在、儀藤に再捜査を依頼したのである。
無罪判決が出ていない事件だが、大殿の死刑執行は明日に迫っているため儀藤は依頼を了承し、事件当時の所轄署署長だった亀島を相棒に指名した。
大殿に向かって、大鎌を振り下ろすべく迫りくる「死神」。それを阻止しようと真相究明に奔走する死神・儀藤。死刑執行は刻々と近づいている。
☆のんびりした口調で捜査を進める儀藤が挑むタイムリミット・サスペンス。この設定がおもしろい。また、携帯の着信音が謎解きの突破口になるなど、締めに相応しいよくできたミステリーです。
2作目も短編とは思えない読み応えのある連作でした。流れとしては1作目と同じなのですが、異なる点が2つあります。
1つめは最終話にあった「無罪判決」が出ていない時点で儀藤が再捜査に着手する点です。元最高裁判事の依頼というところもなかなか興味深い。依頼のルートが気になりますね。
2つめは、儀藤よりも高い階級の警察官が相棒に指名される場合があるという点。( 第1話では警部、最終話では警視監。)
特に最終話では、儀藤は亀島警視監に対し副総監の職を解き自分の下に入るよう命じています。亀島は警視総監に電話して助けを求めようとしますが取り合ってもらえず、副総監付きの秘書官からも冷たく突き放されてしまいます。
短時間でこれだけの人事処遇を警視庁内に徹底させる儀藤とは、いったい何者なのか。
これらから推測すると、儀藤の所属は警察庁か法務省あたりではないかと思われます。
彼は名刺を差し出しながら、必ず「警視庁の方から来ました」と挨拶します。「警視庁から」とは言わない理由は、そこにあるのではないでしょうか。
警視庁の上級省庁なら、かなりの権限を儀藤が委嘱されているのも頷けますし、元最高裁判事の訴えを取り上げて儀藤を警視庁に送り込むことも可能だと思います。
さらには公安を動かすことも可能であるため、警視庁上層部や所轄署幹部の秘密まで調査可能なのもわかります。
軽いタッチの作品ながら、いろいろと想像を膨らませることができる、本当におもしろい、優れたミステリーでした。 -
Posted by ブクログ
福家警部補シリーズ第三弾。
どうしても下の名前を明かすつもりはないらしい。
今回は3本立てで、一編が長め。
犯行の動機・理由がそれぞれ方向性が違って、別の味わい。
「倒叙ミステリ」なので、犯行そのものは最初に見せられるけれど、それにまつわるストーリーは、徐々に明かされていく形になる。
二編目の、組が解散したヤクザの話が良かった。
想像もつかない世界だが、ヤクザから堅気になるというのは大変なことらしい。
特に若者は、多分家庭に事情などあり、居場所が無くなって行き着く先の一つが暴力団だったのだろう。
若いから、ヤクザ気質は根元まで染み込み、なかなか消えない。
カタギになっても、周りは前科者を見るような色眼鏡である。
彼らの行く先を先代から託された菅原は、その使命を達成するまでは捕まるわけにはいかないと思う。
任侠、だなあ・・・
『禁断の筋書(プロット)』
元は漫画同人誌を一緒に出し「大手」だった二人、河出みどりと三浦真理子。
河出だけが大手出版社にスカウトされ、人気漫画家になる。
真理子はみどりに復習するために出版社に入り、潰しにかかるが・・・
『少女の沈黙』
先代の意向で解散した「栗山組」
解散に反対だった先代の次男・栗山次郎が、嫡子の栗山邦孝の娘を誘拐し、元構成員を動かそうとする。
菅原さんは・・・刑務所でも模範囚になるんじゃないかな。
『女神の微笑(ほほえみ)』
意外な幕引き。
法の目をかいくぐった悪人に制裁を。
それを痛快に思うこともあるけれど、それは相手が到底手が出せない巨悪とかで、別の方法で手を回して、みたいな場合かなあ・・・個人的に。
細かい個人の事件に仕返し代行して殺して終わりとか、なんだかこの老女は鼻につく。 -
Posted by ブクログ
「死神」と呼ばれる儀藤は、すでに解決済みの事件の再捜査で真相を突き止める為に、必ず相棒を決める。その相棒は地位が危うい人ばかりで…
ねちっこい捜査で辟易する相棒達だけど、事件の真相が近づく度に気持ちが変わってき、そして、事件解決後は相棒達は上司の弱みを儀藤から知らされて再び元のポジションへと戻っていくのが爽快でした。
お気に入りは「死神 対 死神」。
死刑囚の冤罪を晴らすのが今回の目的。タイムリミットは次の日までで、どう解決するのかハラハラしっぱなしでした。副総監まで上り詰めた亀島が、事件の本質を全く理解していなかったけれど儀藤と組んで心持ちが変わり、今度は上司の一掃が出来そうで、これまた爽快でした。