酒見賢一のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
この最終巻では、劉備の遺児、劉禅を戴き、南方への遠征、そして五度に渡る北伐の末に、孔明が落命する件が描かれる。
私にとっては、マイ・ファースト三国志。
出師の表はかろうじて「聞いたことがある」レベル。
五丈原の戦い、「死せる孔明、生ける仲達を走らす」はこのことであったか、という体たらく。
第四部がなかなかしんどかったこともあり、読み通せるか心配だったが、冒頭の「ラーメン屋三国志」によるここまでのあらすじのおさらいで助かった。
劉備死後の孔明は、自分の柄に合わないことをやらざるを得なくなっている感が強い。
普通(!?)の三国志ものを読んでいたら、孔明の晩年はなかなか読んでいて寂しく、つらかったかもしれない。
が、酒見版では、天才軍師も変態軍師として、徹底的に戯画化される。
孟獲との七たびに及ぶ戦いも、どこか面白いお話として楽しめてしまうのだ。
どうしよう、もう他の三国志になじめないかもしれない。 -
Posted by ブクログ
「素乾書」「乾史」「素乾通鑑」を紐解いて明かされる、後に素乾国の正妃となる少女銀河の物語。
正史二点と無官の歴史家の歴史通釈の書一点を丁寧に比較・考察し、時には新発表の論文にも触れ、時には異なる説を併記して想像力を掻き立て、描かれる銀河のいた素乾国が架空の国だとは…
その丁寧な引用の仕方ときたら、読者を誑かすとんだ狸である。……楽しかった!
歴史書から引用考察するかたちで書かれるということは、キャラクターを客観的に遠くから眺めることになると思いきや、それぞれの人物のなんと面白いこと!愛おしいこと!
歴史の中で見るからこそ、人の子のか弱さが悲しく、懸命さが胸を熱くする。
これも作中で我々に語る"筆者"の巧妙さだろう。実に軽妙で、しかし傍観者としての抑制も効いていて、作中の人物を真っ直ぐに見つめる。
読み終わると、全てが夢の跡である。
素乾朝も素乾後宮も数々伝説を残した銀河もない。
でも不思議と充足している。大乱の中で躍動した彼女らの愛と友情とブッ飛び武勇伝が"歴史を前にした人の儚さ"なんて吹っ飛ばすほど、あまりにパワフルなのである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレアニメの方を見てから読んだが、あまりに内容が振り切れているのでびっくり。よくこれを大賞に据えてアニメにしたな、と思う。玉遥樹の最後や「道女」になるシーン、馬小屋の二人は子供に分からないように映像を作っているのがなんとなく分かったが、相当苦心されたろうな、というのが伝わってくる。
歴史資料をもとに作者が想像交じりで小説風に語るという形式を取っており、普通の小説で見せ場になるような部分はあえて簡素にして切っている。もっと会話を聞きたくなるような魅力的な人物ばかりなのに、世界観にどっぷり浸るということはさせてくれない。その分読んでいる方はああでもない、こうでもない、と想像が膨らんで、そこに作者の飄々とした語りがだんだんはまってくる。不思議な感じ。
角先生の哲学、アニメでは「女とは子宮があること。子をはぐくむこと」というだけで終わっていたが、小説を読み進めていくと、先生の言う真理とは森羅万象(おそらくいのち)、という部分があり、国の真理とはすなわち皇帝、後宮とは子宮である、女の腹はすべての真理を生む、とつながっていき、ようやく全貌がわかるようになっている。
哲学の大先生がなぜ壮大な後宮の教育に生涯をかけたか、後宮とは何なのか、そこまで来てはっきり分かる仕組み。面白い。それなのに、終盤に渾沌がこの作品の屋台骨のような後宮哲学をくだらない(美しいけど)と一言で切ってしまうのがまた一層面白い。
渾沌の頭がいいのにその場の気分と思い付きでしか行動しない感じ、私の昔の親友に非常に似ており、なんだか懐かしくなってしまった。いつも信じられないほど突拍子もないことばかりしていて、10年近く親友だったのにどうでもいいことで喧嘩別れしてそれっきり、それも渾沌風に言えば縁というところか。他人と思えなくて、妙に彼の言うこともしみじみと心にしみた。
「人の心は太古は生命力の渾沌とした沼であった。生の欲求が時々ぼこっと浮かんできて泡になる。その泡が弾けて、泡の中に詰まっていた気を吸うことによって人は生命の欲求を知るのである。」
ここの部分がかなり好きだ。沼の上に建てられた人々の社会、その揺らぎ。そして建物を持たない危険人物が、渾沌であったということ。
江葉がクールで聡明でとてもかわいいので、後宮生活と戦いを経て銀河と親友になったらしいのは嬉しかった。故郷に連れ帰るほどだったとは!もっと二人の話を読みたかったな。この説は信用しないが、なんて言いながら最後に二人が欧州に渡った説をちらりと書くあたり、本当に分かってやってるんだなあ、と思いつつ作者の手のひらで踊り狂ってしまいそうだった。