酒見賢一のレビュー一覧
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命とは神の啓示を待ち与えられたものとのこと。この巻では孔子の両親がどのように出会って孔子が生まれたのか・・その経緯を孔子の母親である顔徴在の父、太長老が明かします。顔氏の一族の長の末娘である徴在は、その頃の習わしで家に残る定めがありながら、家出同然の有様でかなり年上の男性と一緒になります。男勝りの性格を持ち身体能力の高さで際立った存在だった彼女は、一族の年に一度の祭祀において舞を舞っているときに神の啓示を受けたからなのでした。
この巻ではこの他に妤を回復させた医鶃が、さらにその医師としての腕を発揮する場面が登場します。孔子一門の弟子のひとりが少正卯一味の悪巧みにより瀕死の状態に陥っているところを救いだそうとします。主人公の顔回はほとんど脇役で登場しますが、ちょうど彼が日蝕に遭遇する場面が出てきます。孔子の天文学の知識にも触れており、最近「天地明察」を読んでいたこともあり興味深い場面でした。 -
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前の巻で冥界に降りた主人公の顔回でしたが、妤と子蓉、二人とも連れて帰ることは冥界の決まりでできないという難問が彼の前に立ちはだかります。今回は「眩」の巻とということで、めまいのような人を惑わす場面がテーマになります。この巻での山場は何といっても顔回が子蓉の提案を受け入れ、冥界から帰るときに驚くべき術を実行する場面です。この場面では常に冷静な顔回が熱い感情をほとばしらせるのですから見逃せません。作者はここで、炎神の祝融や最強の媚女というべき子蓉、そして少女でありながら秘めた強い力を持つ妤と3人の女性を全面に出して顔回と対峙させます。女神まで含む女性たちの強さと男性との釣り合いを引き合いに出して述べている部分は、作者の女性観がにじみでているようで興味深く読みました。後半では、一転して孔子の政治的判断が色濃く出る場面が登場します。ひとりの武将の行動にこれがどう影響してゆくのか、孔子や顔回等、願氏一族の行く末を見守る太長老の言動も気になるところです。
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前回の巻で医鶃(いげい)と子蓉との対決は決着がつかず、途中で終わってしまったので、果たしてこの戦いはどうなるのだろうと先を読み急ぎたくなります。
・・というわけで以前に読んだにもかかわらず、やっぱりこの巻では手に汗握るという表現がぴったりの場面が続出するので、最後まで目が離せません。
昨夜の対決から一夜が明けて満月の夜、再度二人の死力を尽くした戦いが繰り広げられます。医鶃(いげい)は医術だけでなく、魔術的医療も駆使して子蓉の掛けた呪術に対抗するのですが、劣勢を強いられます。
そのため彼は、奥の手として顔回の特殊な才能に賭けて、何と!女神を招きます。炎系の神様である祝融が登場するのがこの巻のすごいところです。顔回は「妤」の魂を追って、祝融の後についてとうとう九泉(冥界)へ降りることになります。
そこで、子蓉と妤の二人に出会い、二人とも連れて帰ろうとするのですが子蓉の仕掛けた様々な難題が顔回の行く手を阻みます。
そしてさすがの顔回も危うしという場面に祝融が助けに入り、遂に敵の本性が姿を現わすのでした。
女神祝融は、可愛い男に弱い!という驚くべき弱点もさりげなく披露されていたり、顔回と孔子との出会いや関係性、孔子の生い立ちなども話の中に盛り込まれいて、今回は変化に富んだ筋書きになっています。 -
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この巻では主人公の顔回は気配だけで表舞台にほとんど登場しません。それだけに孔子側と敵対する悪役たちが、隙をねらって孔子の門下生たちや顔回と馴染みの深い人物に深く入り込んでいく様に顔回は一体いつになったら出てくるのかと気が急きます。
事態はどんどん深刻になっていきます。顔回の許嫁的存在の妤は、子蓉からもらった鏡から媚術を仕掛けられ、病的な妖女に変容してしまうのでした。さらに、顔回の守り役だったはずの五六までが妤のとりこになってしまいます。一方孔子は魯国の法務大臣として既得権を持つ家臣一族を制圧する政策を密かに進めているのでした。その過程で少正卯の弟子、悪悦の気まぐれな陰謀により、味方となるべき人物がたぶらかされ、戦乱の世を引き起こすきっかけがもたらされるという筋書きですから、これはもう次の巻を早く読みたくなります。
巻末にこれまでの登場人物のイラストと簡単な紹介があるので、頭で整理しきれなかった人間関係がすっきりしました。 -
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この巻では3巻までの主な登場人物がいよいよ本領を発揮していきます。といってもそれは決して良い意味ではなく、主人公の顔回と敵対する悪役たちが彼の周囲の人物たちを侵食していく様が描かれています。
その中でも歴史上で孔子の敵役とされている少正卯は、その名前そのものが悪を体現している字面であるため、偽造された人物という説もあるくらい薄気味悪く徹底的に悪役です。孔子の故郷である顔氏の一族の住む尼丘まで訪ねて行き、その一族の太長老と面会する場面はこの巻の山場です。本来は土地の神の祀る場所である社を守ってきた”徒”はそこから逃げてしまい歩き行く者になりました。その土地に踏みとどまり礼の一端を伝承してきた儒である太長老は、少正卯のような”徒”の存在を蔑視するのでした。少正卯の要求をはねのけた太長老の胸中は、一心同体のような部下を殺された怒りでいっぱいであり、少正卯の帰途に凄惨な殺害手段を仕掛けていたのでした。
本の巻末に作者のあとがきが毎回結構長めにあります。小説の内容からすると意外な酒見さんの人と成りが分かります。 -
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この小説は10年ほど前に初めて読み始めました。全13巻をすべて読破したのですが、最近になってまた読みたくなり再読しています。
孔子の弟子の顔回子淵がこの小説の主人公。孔子に「賢なるかな回や。一簞の食、一瓢の飲、陋巷に在り。人は其の憂いに堪えず。回や其の楽しみを改めず。賢なるかや回や。」と、高く評価された人物。孔子の儒学の一番の後継者でしたが夭折してしまいました。しかし、その間特に功績があったわけではないといいます。それなのに何故?と作者自身この小説の冒頭でその疑問を語っています。
酒見さんの小説は独特な雰囲気をもっています。ファンタジーといわれる分野がお得意のようですが、この小説も歴史物とだけ言えない要素が多分に含まれています。
20歳前の顔回は文字通り陋巷に暮らしているのですが、巫儒の一族(祖先の霊魂を扱う)として生得の才能を持っています。
この巻では、その彼が礼を広めようとする孔子に魅せられて弟子入りするまでを書いているのですが、途中、その時代の背景は勿論のこと、作者の意見というか解説が相当な分量を占めています。
以前読んだ時は、筋を追うのに夢中で多分に読み飛ばしていただろう現代の日本に残る喪礼(葬礼)の儀式の解説など、今回はじっくり読んだので余禄も楽しむことができました。勿論、今後は敵対する勢力への顔回の特殊能力の発揮場面が一番期待するところです。