池内紀のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『蜘蛛の巣』
1923年に書かれた本作は、既にナチの脅威を的確に予知しています。ロートは予言者であり、シャーマン。アル中ゆえでしょうか。もしくは時代を感じとる神経過敏さがアル中へと繋がったのでしょうか。またこれがウィーンで新聞連載だったというのが凄い。
ヨーゼフ・ロートの何が凄いかまとめると、
・10年後のヒトラー台頭の予言と、ナチというものの原理を的確に描写
・「ユダヤ人に向けられた憎しみの心性」をユダヤ人が的確に描写
・当時の陰惨な世界を渇いた目で描写。ワイマール後は想像以上に地獄だったようで。簡潔な文体で、今でもありありとよみがえらせるところ
・亡命してアル中で死ぬ点
ここには、貧困と格差による鬱屈した人々の感情が、はけ口を求めて秩序の崩壊と胡散臭い扇動家へのコミット。民主主義の危険性。煽動の中心には、政治思想が無く権力欲のみ。それこそが「ヨーロッパの申し子」である。
民主主義というものが永遠に内包しつづける問題が考えられて、現在の見方が少し変わる。戦後の民主主義という虚像への希求がなんともまあ、切実なものとわかる。
「聖なる酔っぱらいの伝説」はそれら全部を踏まえて読むと泣けてしまいそうです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレたまに読みたくなり、読むとでかけたくなる。
牧水さんが、関東近郊に出掛けた紀行エッセイ。
その土地を知ってるから、楽しさも倍増、なのだが、とにかくアホっぽいのがとても楽しい。
子規の「病状六尺」も、患って寝ている子規の大食漢ぶりがアホっぽくておもしろいが
牧水も全く高尚な文化人を微塵もみせず(笑)
丸沼では「酒をくれ」ととなり村(って峠1つ越えますよ…)まで買いにいかせ
川原湯温泉から軽井沢まではバスに乗り遅れ、徒歩で強硬突破…も、遭難しそうになりくじけそうになる。
貴殿はアホでいらっしゃいますか?
と、つっこみたくなる。
このおバカさん加減が堪らなくおもしろい。 -
Posted by ブクログ
「のちの世の人々は、きっとこの二十世紀を支配した拝金主義の猛烈さに驚くだろう。金銭はすべてのものから、ものの個性と象徴性を奪い取る。つまりはその「魂」を剥奪する。これは何であれ姿を変えることはできるし、すべてに入りこむこともできる。しかし、何ものでもない。金銭はすべてを支配して、何ものも愛さず、すべてを知っていて、しかし、何ものも信じない」 ー 81ページ
最近の若者はあまり金に執着しないという言論が形成されつつある昨今ですが、皆様お元気にお過ごしでしょうか。
挨拶はともかく、もし仮に人が金に執着することを嫌がるのだとしたら、このへんが一番の理由なのだなとは思う。その非人間的な質感に対する抵抗。とはいえ、それが最も活発だったのはいわゆるニューエイジ・ブームの時だったと思うから、その対立軸として存在していた高度経済成長、バブル経済というものの勢いの凄さが逆照射的に分かるというものである。
現在はバブル的な勢いがまるでない分(僕が知る限りは)、その対立軸としてのヒッピーみたいなのも先鋭化はしてこないけれども、その分ゆるい感じで金に対する付き合い方をゆるふわなものに変えていきたいみたいな人は体感的にはかなりいるように思われる。というかそれが主流になるのではないかという予感すらある。
そのような世界の中で、むしろ拝金主義のほうが今度はカウンターカルチャーとして隆盛したりしないのかな、と思う木曜日の午後。