大森望のレビュー一覧
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・ケン・リュウ編「金色昔日 現代中国SFアンソロジー」(ハヤカワ文庫SF)は「折りたたみ北京」に続く中国SFの第2弾である。登場人物等、さすが中国である。カタカナでではなく、漢字の名前が多い。ま づこのことに感心してしまつた。それほど私が中国とは無縁の読書生活を送つてゐるといふことである。さういふ内容の作品もあればさうではない作品もある。実に様々である。「本アンソロジーには、全部で十四名の作家による十六篇の作品が収録されて」(「序文」12頁)をり、「作品渉猟の場を拡大する方向に目を向けて」(同前)編まれたといふ。ただし、「本プロジェクトは、中国現代SFの代表的な作品を集めるという意図は」(同13頁)持つてゐないといふ。私にはいかなる作品が「中国現代SFの代表的な作品」か分からない。「中国SFと呼びうる作品の多様さと中国SF作家界の雑多な構成」(同前)といふことは、中国SFといつたところで、決して一つにくくれるものではないといふことなのであらう。
・表題作宝樹「金色昔日」はおもしろい作品であつた。私は現代中国の歴史を知つてゐるわけではないが、 それでもこの作品が現代中国の歴史をさかのぼつてゐることは分かる。主人公の「いちばん古い記憶はオリンピックの開会式だ。」(222頁)といふのが北京五輪であれば、彼は私達の同時代人であると言へる。 「三年生のときに感染症のSARSが流行し」(226頁)た。次にサダム・フセインやビン・ラーディンが出てくる。例の9・11もある。かうして様々な出来事があり、ゴルバチョフがソ連邦を作り、「?小平の計画経済改革が失敗し、経済は悪化の一途をたど」(243頁)る。さうして共産党内部抗争から天安門事件が起きる。主人公は学生側の指導部に加はるも、最後は軍隊に掃討される。……ここまで書けば十分であらう。この作品は歴史を改編しつつさかのぼつてゐる。従つて、最後は日独伊の三国同盟対米ソ同盟であ り、この中国側の動きとして国共内戦と国共統一戦線による抗日闘争である。この間に幼なじみの恋人が登場する。この女性の運命は歴史に弄ばれてゐる。最後は日中戦中に主人公に会ふことかなはず死ぬ。「ある意味で本書の作品中最も中国的な物語であ」(ケン・リュウ解説218頁)り、「人民共和国の歴史を知れ ば知るほど、この物語の意味もはっきりと見えてくる。」(同前)といふ。私に見えたものが宝樹の見たものであるなら、これが中国国内で発表できるのかと思ふ。「最初の公式な出版が英語版と」(同前)なるさうである。原典には"No Chinese publication"とある。中国語版なし。訳者はケン・リュウである。「公式な出版が英語」であるなら、非公式な中国語もあるのであらうか。中国国内で出せないから英語版を出したのではないのか。中国の現状を見る限り、危険を顧みずに敢へて出版するとは思へない。宝樹はいかなる人かと思つても、フリーライターであるらしいとしか分からない。web上 にもこれ以上はなささうである。この人、中国で現役の作家としてやつてゐるのだらうか。天安門事件や文革を描き、?小平の経済改革を失敗といふ。かういふことが許されるのなら、中国は今少しまともな国にな つてゐさうでる。しかしさうではない。あくまで習某の中国である。かうして日本語版が出るからには、この人の現在を心配する必要はないのかもしれない。もちろんこれは例外的な作品である。本書は普通のSFばかりである、とは語弊があるか。しかし、ここに様々な傾向の作品があり、様々な内容の作品があると知れる。おもしろい作品集であつた。 -
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ネタバレ“彼はめざめた——そして火星を恋い、その峡谷を想った。一歩一歩、足を踏みしめてその谷間を歩くのは、どんな気分のものだろう。意識がはっきりしてくるにつれ、しだいしだいに大きくその夢はふくれあがっていった。その夢、その憧憬。自分をとりかこんでいるその世界の存在さえ、実感できるような心地がした。(『トータル・リコール』より、p.9)”
ハマっていると言うほどでもないが、ここ数ヶ月ディックをよく読んでいる気がする。短編集初収録の3篇を含む、全10篇を収録。
表題作『トータル・リコール』が良かった。火星に行くことに憧れる会社員クウェールは、ある日リコール社を訪れる。夢が到底叶いそうにないことを悟り、それならばと偽の記憶を植え付けてもらうつもりだったのだが・・・。若干バカSFっぽい、とても愉快な作品だった。「現実と非現実」というディックが好むテーマも見える。
トータル・リコール/出口はどこかへの入口/地球防衛軍/訪問者/世界をわが手に/ミスター・スペースシップ/非O/フード・メーカー/吊されたよそ者/マイノリティ・リポート -
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近年スマッシュ・ヒットを飛ばし続けている現代中国SFのアンソロジー、2019年に発売された「折りたたみ北京」に続く第二弾が満を侍して発売。SF者の期待感を表すかのような分厚さ。「折りたたみ北京」の1.5倍ぐらいになっている・・・(^_^; 早川書房さん、紙の文庫本は上下巻に分かれても構いませんので一冊あたりの厚みを抑えていただけないものでしょうかね〜。紙の文庫本にとって、「携帯性」ってとても重要なポイントだと思うんですけどね〜〜。
閑話休題。
一通り読んでみて、「折りたたみ北京」を読んだ時ほどの衝撃は、正直感じませんでした。読むこちら側の期待値の違いかもしれません。「よーし、面白いSF読むぞー!」と鼻息荒く読み始めたら、肩透かしを食った感じ。SFというよりも、「幻想小説」または「実験小説」といった趣の作品が多い印象です。
ただ、面白くないわけではありませんので念のため。SF風味は薄めかもしれませんが、ひとつの小説のとしての完成度はどれも高く、読後感は良いです。これ、中国の商業作家たちが、クロスオーバーにレベルの高い作品を輩出し続けている、ということですよね。中国の文壇は今、とてもエキサイティングな状況にあるのだと思います。SFの枠に囚われることなく、もっと読まれても良い作品集だと思います。
鴨的お気に入りは、劉慈欣「月の光」、宝樹「金色昔日」、張冉「晋陽の雪」あたり。いずれもSFとしてレベルが高いです。そして、やたらとインパクトがあったのが馬伯庸「始皇帝の休日」。「どこの野崎まどだよ」とツッコミを入れたくなる斜め上のぶっ飛びぶりで、どのような心構えで読めば良いのか最後までよくわかりませんでしたヽ( ´ー`)ノ
いやー、相変わらず肩幅広いですねー。中国SF、当たり外れはありますが、この先も引き続きチェックしていきたいです。 -
Posted by ブクログ
ネタバレフィリップ・K・ディックを読むのはこの本がはじめて。ディックと言えば『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の思弁系SFのイメージがあったけれど、この短編集には、軽いユーモアSFや超能力を題材とした正統派のSFが主に収められている。『パーキー・パットの日々』と表題作『変数人間』が印象に残った。
『パーキー・パットの日々』
“父親がつぶやいた。「あのオークランドの連中。あのゲーム、あの特別な人形、それがあの連中になにかを教えたんだよ。コニーは成長しなくちゃならない。それで、あの連中も彼女と一緒に成長するしかなくなったんだ。ピノールのまぐれものは、そのことをまなばなかった。パーキー・パットからは。これからも、まなべるかどうかはわからない。パットも、コニーとおなじように成長しなくちゃいけないんだ。コニーも、前にはパーキー・パットとおなじようだったようにちがいないよ。ずっと前には」
父親のいっていることに興味がないー人形だの、人形を使ったゲームなんかのどこがおもしろいんだろう? ティモシーはさっさと駆け出し、目をこらして、なにが行く手に待っているかをのぞいた。自分と、母親と父親、そして、リーガンさんを待っている、たくさんの機会と可能性を。(p.59)”
核戦争後の荒廃した地球で、火星人から与えられる物資を頼りに各地の地下シェルターで暮らす人々。大人たちが興じているのは「パーキー・パット」という名の人形を使った奇妙な遊戯で、彼女に手作りの小物を与え、架空の人生を送らせることでかつての豊かな日々を懐かしんでいた。そんな中、隣のシェルターには「コニー・コンパニオン」人形があることを知り、興味を持った彼らは…
少し前までは他でもない自分たちのものだった、たくさんの物に溢れ平和な人生を、人形に託すことで心の支えとする中年たち。
”ノーマン・シャインは自分のLPコレクションを覚えている。以前は、パーキー・パットのボーイフレンドのレナードとおなじように、高級な服を持っていた。(略)あのころのわれわれは、いまのパットとレナードのような暮らしをしていたんだ。(p.23)“
彼らの姿には同情と哀れみを覚えるが、手作りの人形に対するそのあまりの執着には、恐怖と同時に滑稽さも感じる。非常に味わい深い作品。
『変数人間』
“「これはーこれは変数なんです」カプランは身ぶるいしていた。唇は血の気がなく、顔は蒼白だった。「そこからどんな推論も引き出せないデータなんです。過去からきた男。コンピュータは彼を処理することができません。変数人間を!」(p.380)”
西暦二一二八年。地球は、太陽系を包囲するケンタウルス帝国と緊張状態にあった。彼我の勢力差を逆転させることを期待された、地球軍の新兵器イカロス。その完成する直前、過去からやってきた男トマス・コールが唯一の不確定要素となり、コンピュータは開戦後の趨勢を計算できなくなってしまった。公安長官エリック・ラインハートは、彼を排除せんと執拗に追いかけるが…
人類が宇宙に進出した未来を舞台にした、大スケールのSFアクション中編。コールを匿った研究所での戦闘シーンは迫力がある。
パーキー・パットの日々/CM地獄/不屈の蛙/あんな目はごめんだ/猫と宇宙船/スパイはだれだ/不適応者/超能力世界/ペイチェック/変数人間 -
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アメリカの作家「コニー・ウィリス」の長篇SF作品『ドゥームズデイ・ブック(原題:Doomsday Book)』を読みました。
「ヒュー・ハウイー」の『ダスト』に続きSF作品です。
-----story-------------
〈上〉
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。
過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。
オックスフォード大学史学部の女子学生「キヴリン」は、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。
だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。
〈下〉
21世紀のオックスフォードから14世紀へと時をさかのぼっていった女子学生「キヴリン」。
だが、彼女が無事に目的地にたどりついたかどうか確認する前に、時間遡行を担当した技術者が正体不明のウイルスに感染し、人事不省の重体に陥ってしまった。
彼女の非公式の指導教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、「キヴリン」のために、新たな技術者を探そうと東奔西走するが!?
英語圏SFの三大タイトルを独占した「コニー・ウィリス」の感動作。
-----------------------
本作品は、近未来(21世紀中盤)のオックスフォード大学が舞台で、若き女性歴史家「キヴリン・エングル」がイギリスの最も危険な時代と思われている14世紀にタイムトラベルするというSF小説、、、
作者の「コニー・ウィリス」は、これまでにヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞しており、1980年代から1990年代における最も優れたSF作家の一人と呼ばれている女流作家… 彼女の作品は初めて読んだのですが、本作品も、その3賞を受賞しているので期待して読みました。
物語は2054年のオックスフォードから幕を開ける… 過去へ向かうタイムトラベル技術が確立され、歴史研究のために利用されており、ブレイズノーズ・カレッジ中世史科の女子学生「キヴリン・エングル」は本人の強い希望もあり、前人未踏の14世紀に送り出される、、、
しかし、彼女が無事目的地に着いたかどうかを判定するデータが出る前に、時間遡行の実務面を担当した技術者「バードリ・チャウドゥーリー」が正体不明のウィルスに感染して突如、意識不明の重体に陥り、「キヴリン」が計画通り1320年に到着したかどうかの確認が取れないが、町はクリスマス・シーズンで、かわりの技術者は見つからない… 「キヴリン」の非公式の指導教授でベイリアル・カレッジの教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、なんとか教え子の安否をたしかめようと孤軍奮闘するが、ウィルス感染が拡大し、オックスフォードは他の地域から隔離されてしまい、自身も未知のウィルスに感染して倒れてしまう。
一方、14世紀にやってきた「キヴリン」も、到着と同時に病に倒れ、やはり意識不明に陥る… たまたま通りかかった現地の人間に助けられ、かろうじて一命はとりとめたものの、意識不明の状態で村まで運ばれてしまったことから、未来世界に帰還するためのゲートとなる出現地点の場所がわからなくなる、、、
果たして「キヴリン」は元の世界に帰り着けるのか… 「レイディ・エリウィス」等の献身的な介護もあり、なんとか体調が回復した「キヴリン」だが、追い打ちをかけるように、思っても見なかった危難が発生する。
周囲の人物が次々と病に倒れ、その症状は、当時、ヨーロッパを恐怖に陥れた黒死病(ペスト)に酷似していた… ペストがイギリスに辿り着いたのは1348年なので、「キヴリン」が到着した1320年には、まだペストはイギリスに存在していなかったはずなのだが、、、
実は、「キヴリン」が到着したのは1348年で、まさにペストが猛威をふるっていた時代だった… 「キヴリン」は、伝染病について無知な村人を少しでも多く助けようと懸命な介護を続けるが、村人は次々と命を落とし、彼女の命の恩人で献身的に村人の介護にあたっていた「ローシュ神父」まで発病していまう。
一方、謎のウィルス感染により発病し、なんとか一命を取り留めた「ダンワージー」は、友人の医師「メアリ」の姪の息子「コリン」とともに、「キヴリン」の迷い込んだ時代に遡り、彼女の救出を試みる… 彼らは限られた時間の中で、「キヴリン」を捜索するが、そこはペストによる夥しい死体が山積みに放置され、見捨てられた村だった、、、
あっと驚く展開はなく、予想通りのエンディングで、期待通りの内容でしたね… 面白くないわけではないのですが、ちょっと物足らない感じかな。
14世紀のパートは、シリアスな歴史小説風な展開で、その時代に生きる人々の息遣いや生活の匂いまで含めて、中世イングランドの日常を鮮やかに描き出されているのに比べ、、、
21世紀のパートは、コメディ風で、交互に描かれる700年の時を隔てたふたつの時代が、巧く書き分けられていることが印象的でした… そのふたつの時代の展開が、ひとつになってクライマックスに向かう終盤の展開は集中して読めましたね。
でも、上下巻で1,000ページを超えるボリュームは、ちょっと冗長な感じ、、、
途中で少し飽きそうになりましたね… シンプルな物語なので、もう少しコンパクトな方が良かったな。
21世紀のパートで、
いつもトイレットペーパーの残量を心配している「フィンチ」、
いつもずぶ濡れになっていて、色の変わるキャンディを舐めている「コリン」、
いつも新しい女性といちゃついている「ウィリアム・ギャドスン」、
いつも行方不明で一度も登場しない史学部の学部長「ベイジンゲーム」、
等々、同じシチュエーションを繰り返すキャラクター達の行動が印象的でしたが… 映像化されることを想定した仕込みのような気がしましたね。
以下、主な登場人物です。
<21世紀(オックスフォード大学)>
「キヴリン・エングル」
ブレイズノーズ・カレッジ中世史科史学生
「ジェイムズ・ダンワージー」
ベイリアル・カレッジの教授
「フィンチ」
ダンワージーの秘書
「ベイジンゲーム」
史学部の学部長
「ギルクリスト」
史学部の学部長代理。ブレイズノーズ・カレッジの中世史科教授
「バードリ・チャウドゥーリー」
ベイリアル・カレッジのネット技術者
「ラティマー」
ブレイズノーズ・カレッジの教授
「ループ・モントーヤ」
ブレイズノーズ・カレッジの考古学者
「メアリ・アーレンス」
付属病院の医師
「コリン・テンプラー」
メアリの姪の息子
「ウィリアム・ギャドスン」
ベイリアル・カレッジの学生
「テイラー」
アメリカ人の鳴鐘者
「ヘレン・ピアンティーニ」
アメリカ人の鳴鐘者
<14世紀>
「レイディ・イメイン」
ギョーム卿の母
「レイディ・エリウィス」
ギョーム卿の妻
「ロズムンド」
ギョーム卿の長女
「アグネス」
ギョーム卿の次女
「ガーウィン」
ギョーム卿の家臣
「メイリス」
召使
「ローシュ」
神父
「サー・ブロート」
ロズムンドの婚約者 -
Posted by ブクログ
アメリカの作家「コニー・ウィリス」の長篇SF作品『ドゥームズデイ・ブック(原題:Doomsday Book)』を読みました。
「ヒュー・ハウイー」の『ダスト』に続きSF作品です。
-----story-------------
〈上〉
歴史研究者の長年の夢がついに実現した。
過去への時間旅行が可能となり、研究者は専門とする時代を直接観察することができるようになったのだ。
オックスフォード大学史学部の女子学生「キヴリン」は、実習の一環として前人未踏の14世紀に送られた。
だが、彼女は中世に到着すると同時に病に倒れてしまった…はたして彼女は未来に無事に帰還できるのか?
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞を受賞した、タイムトラベルSF。
〈下〉
21世紀のオックスフォードから14世紀へと時をさかのぼっていった女子学生「キヴリン」。
だが、彼女が無事に目的地にたどりついたかどうか確認する前に、時間遡行を担当した技術者が正体不明のウイルスに感染し、人事不省の重体に陥ってしまった。
彼女の非公式の指導教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、「キヴリン」のために、新たな技術者を探そうと東奔西走するが!?
英語圏SFの三大タイトルを独占した「コニー・ウィリス」の感動作。
-----------------------
本作品は、近未来(21世紀中盤)のオックスフォード大学が舞台で、若き女性歴史家「キヴリン・エングル」がイギリスの最も危険な時代と思われている14世紀にタイムトラベルするというSF小説、、、
作者の「コニー・ウィリス」は、これまでにヒューゴー賞を11回、ネビュラ賞を7回、ローカス賞を11回受賞しており、1980年代から1990年代における最も優れたSF作家の一人と呼ばれている女流作家… 彼女の作品は初めて読んだのですが、本作品も、その3賞を受賞しているので期待して読みました。
物語は2054年のオックスフォードから幕を開ける… 過去へ向かうタイムトラベル技術が確立され、歴史研究のために利用されており、ブレイズノーズ・カレッジ中世史科の女子学生「キヴリン・エングル」は本人の強い希望もあり、前人未踏の14世紀に送り出される、、、
しかし、彼女が無事目的地に着いたかどうかを判定するデータが出る前に、時間遡行の実務面を担当した技術者「バードリ・チャウドゥーリー」が正体不明のウィルスに感染して突如、意識不明の重体に陥り、「キヴリン」が計画通り1320年に到着したかどうかの確認が取れないが、町はクリスマス・シーズンで、かわりの技術者は見つからない… 「キヴリン」の非公式の指導教授でベイリアル・カレッジの教授「ジェイムズ・ダンワージー」は、なんとか教え子の安否をたしかめようと孤軍奮闘するが、ウィルス感染が拡大し、オックスフォードは他の地域から隔離されてしまい、自身も未知のウィルスに感染して倒れてしまう。
一方、14世紀にやってきた「キヴリン」も、到着と同時に病に倒れ、やはり意識不明に陥る… たまたま通りかかった現地の人間に助けられ、かろうじて一命はとりとめたものの、意識不明の状態で村まで運ばれてしまったことから、未来世界に帰還するためのゲートとなる出現地点の場所がわからなくなる、、、
果たして「キヴリン」は元の世界に帰り着けるのか… 「レイディ・エリウィス」等の献身的な介護もあり、なんとか体調が回復した「キヴリン」だが、追い打ちをかけるように、思っても見なかった危難が発生する。
周囲の人物が次々と病に倒れ、その症状は、当時、ヨーロッパを恐怖に陥れた黒死病(ペスト)に酷似していた… ペストがイギリスに辿り着いたのは1348年なので、「キヴリン」が到着した1320年には、まだペストはイギリスに存在していなかったはずなのだが、、、
実は、「キヴリン」が到着したのは1348年で、まさにペストが猛威をふるっていた時代だった… 「キヴリン」は、伝染病について無知な村人を少しでも多く助けようと懸命な介護を続けるが、村人は次々と命を落とし、彼女の命の恩人で献身的に村人の介護にあたっていた「ローシュ神父」まで発病していまう。
一方、謎のウィルス感染により発病し、なんとか一命を取り留めた「ダンワージー」は、友人の医師「メアリ」の姪の息子「コリン」とともに、「キヴリン」の迷い込んだ時代に遡り、彼女の救出を試みる… 彼らは限られた時間の中で、「キヴリン」を捜索するが、そこはペストによる夥しい死体が山積みに放置され、見捨てられた村だった、、、
あっと驚く展開はなく、予想通りのエンディングで、期待通りの内容でしたね… 面白くないわけではないのですが、ちょっと物足らない感じかな。
14世紀のパートは、シリアスな歴史小説風な展開で、その時代に生きる人々の息遣いや生活の匂いまで含めて、中世イングランドの日常を鮮やかに描き出されているのに比べ、、、
21世紀のパートは、コメディ風で、交互に描かれる700年の時を隔てたふたつの時代が、巧く書き分けられていることが印象的でした… そのふたつの時代の展開が、ひとつになってクライマックスに向かう終盤の展開は集中して読めましたね。
でも、上下巻で1,000ページを超えるボリュームは、ちょっと冗長な感じ、、、
途中で少し飽きそうになりましたね… シンプルな物語なので、もう少しコンパクトな方が良かったな。
21世紀のパートで、
いつもトイレットペーパーの残量を心配している「フィンチ」、
いつもずぶ濡れになっていて、色の変わるキャンディを舐めている「コリン」、
いつも新しい女性といちゃついている「ウィリアム・ギャドスン」、
いつも行方不明で一度も登場しない史学部の学部長「ベイジンゲーム」、
等々、同じシチュエーションを繰り返すキャラクター達の行動が印象的でしたが… 映像化されることを想定した仕込みのような気がしましたね。
以下、主な登場人物です。
<21世紀(オックスフォード大学)>
「キヴリン・エングル」
ブレイズノーズ・カレッジ中世史科史学生
「ジェイムズ・ダンワージー」
ベイリアル・カレッジの教授
「フィンチ」
ダンワージーの秘書
「ベイジンゲーム」
史学部の学部長
「ギルクリスト」
史学部の学部長代理。ブレイズノーズ・カレッジの中世史科教授
「バードリ・チャウドゥーリー」
ベイリアル・カレッジのネット技術者
「ラティマー」
ブレイズノーズ・カレッジの教授
「ループ・モントーヤ」
ブレイズノーズ・カレッジの考古学者
「メアリ・アーレンス」
付属病院の医師
「コリン・テンプラー」
メアリの姪の息子
「ウィリアム・ギャドスン」
ベイリアル・カレッジの学生
「テイラー」
アメリカ人の鳴鐘者
「ヘレン・ピアンティーニ」
アメリカ人の鳴鐘者
<14世紀>
「レイディ・イメイン」
ギョーム卿の母
「レイディ・エリウィス」
ギョーム卿の妻
「ロズムンド」
ギョーム卿の長女
「アグネス」
ギョーム卿の次女
「ガーウィン」
ギョーム卿の家臣
「メイリス」
召使
「ローシュ」
神父
「サー・ブロート」
ロズムンドの婚約者 -
Posted by ブクログ
ネタバレハリウッドのドラッグと嘘と虚栄に満ち満ちた近未来SF。
コニーウィリスの章初めに引用する手法がこれでもかと使われて、冒頭ドタバタするもハッピーエンドまで落とし込むところもさすが。
ただ、男の子主役の荒っぽさややさぐれ感はちょっといただけないとこもあり、最後アリスとうまく行ったのは奇跡やと思う。
今回特に感銘を受けたのは、訳者の登場した映画をほぼ観て巻末に注釈を入れてくれてるところ。
単に翻訳するだけではなく、膨大な作品を見まくって、少しでも映画不慣れな読者の補完をしようと努力されてるのはすごすぎる。この仕事こそまさにプロでしょ。 -
Posted by ブクログ
臨死体験をめぐる医学SF。読み終えた直後の率直な感想は、「あ〜長かった」のひとことにつきるかな。医学、文学、映画、そして遭難事故などに関する情報量とディティールはすごいが、それが面白さにつながっているのかは微妙。とにかくすべてが冗長に感じられる長ったらしい文体、これを楽しめるかどうか。第二部のラストで仰天させられ、ようやく面白くなってきた時点で残り4分の1。医学的にどこまでが実在の話なのかはわからないが、ミステリの謎解きのようになるほどと納得のできる着地はする。その過程を楽しめるかどうか。正直自分にはいまひとつ、合わなかったようだ。
キャラクターは魅力的だが、臨死というテーマの深刻さをユーモアとコミカルさで緩和している感じ。ギャグもそれほど笑えない。これはこの作家の作風なのか。もう少しロマンス色が濃いほうが好みなので、そのあたりも不満が残る。
初めてのコニー・ウィリス、圧倒的に評価の高い作家なのでこれにこりずに、もう何作か読んでみようと思う。