京極夏彦のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
益子徳一、72歳。未婚のまま定年を迎え、現在は公団アパートで独り暮らしだ。
これという趣味もなく、博打や酒色に向かうこともない。ただ、己を見つめつつ日々をきちんと生きるのみ。
そんな益子徳一の1週間を描いた日常スケッチ。
◇
「オジいサン」と呼ばれて、ふと目が覚めた。5月某日早朝のことである。
寝床の中で徳一は考える。
家には自分のほかは誰もいない。だから実際に呼ばれたのではなく、以前そう呼ばれたときの記憶が夢の中で再生されたのだろう。
徳一はそう結論づけ、物思いに耽りだす。
室内は、暑くも寒くもないし明るくも暗くもない。夜は終わっているのだろうが、起きるにはまだ早いようだ。きっと6時前だ。
早く目覚めるとうんざりする。時間のたつのがどうにも長い。
いや、1日はあっという間に終わる。1週間も1ヵ月も1年も、すぐに過ぎてしまう。
それなのに、1時間が、1分が、長い。呆れる程に長く思える。起床前の寝床の中では特に長い。妙なものである。
ならばさっさと床を出ればよさそうなものなのだが、それが儘ならないところがもどかしい。億劫なのだ。
つまり、脳の神経は覚醒していても身体の方が駄目だということなのだろう。
ーーお爺さんだからか。
そう呟いた徳一は、まだ床の中である。
( 第1話「七十二年六箇月と1日」)※全7話。
* * * * *
「じいさん」を描いた作品を読むのは、この半月ほどで3作目です。
過去2作品のじいさんはかなりの存在感がありました。
『秋山善吉工務店』の秋山善吉。
80歳を過ぎても大工の棟梁を務め、気力体力ともパワフルそのもので、仕事から他人の困りごとまでテキパキ片づけてしまう。
そのカッコよさには、真打ち登場の華があります。
『じい散歩』の明石新平。
90歳を過ぎても健康で食欲旺盛。営んでいた工務店は畳んだものの、気になる建築物やカフェを巡って歩くほどの健脚を誇り、妻の介護も一手に引き受ける。問題だらけの息子たちにも動じない。
主人公にふさわしい度量を有しています。
ところが本作の益子徳一はと言うと……。
まだ72歳。善吉や新平よりよっぽど若い。なのにどうにも締まらない。
朝の始動に時間がかかる。
やっと起きても、運動などしないし、読書や芸術鑑賞といった有意義な趣味もない。テレビをつけることすらほとんどないため、社会の動向にもさほど目を向けない。日がな1日、とりとめもないことをつらつら考えるだけの日々を送っています。
たまに外出してもあたりの風景に同化しているかのような存在感の希薄な人物です。
そんな徳一の暮らしぶりを描く本作。読み始めはおおいに戸惑いました。
アクティブさの欠片もない徳一。だから生活の中でドラマ性のある出来事が起こるはずもなく、徳一が物思いに耽るその内容が延々と綴られていくのです。
その物思いのベースには老境の悲哀と諦念があるため、淡々とした文体のわりに辛気臭さが滲んでいて、読み続けるには忍耐力が要ったというのが、正直なところでした。
例えば、徳一が公園で小さな女の子から言われた「おじいさん」の言い方について。
その発音はカタカナ表記 ( みたい ) だった気がする。少なくとも漢字ではないようだ。ただし、「い」のところに妙なアクセントがあったので、文字にするなら「オジいサン」という感じか。
などと延々と考えているのです。
他には、枕にカバー代わりに巻いた手拭いの替えどきについてグダグダ悩んだり、天井板の節目模様が何の形に似ているのかをあれこれ考えたりもします。
すべてどうでもいいことなのになあと、ため息を吐きつつ読まねばなりませんでした。
万事この調子で、徳一の頭の中だけで物語が展開するため、事件などはまったく起こりません。いちばん大きな出来事は、地デジ対応テレビに買い替えるかどうかの決断を、電気屋の主人から迫られるところです。
ですから、短気でせっかちな人やドラマチックな展開が好きな人にはオススメできません。
ところで、読み終わっておもしろく感じたのは、あれだけ苦痛だった日常スケッチめいた展開を、終盤は楽しんで読んでいたことでした。
恐らくクライマックスであろう、電気屋の主人とのやりとりにほっこりして、わりといい気分で本を閉じることができたのです。特に最終話は微笑ましいばかりです。
年寄りのよもやま話に付き合うのはやぶさかではありませんよという方は、お読みになってみるのもいいのでないでしょうか。 -
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ネタバレ姑獲鳥、狂骨と読んで初めてこれが”百鬼夜行”シリーズであると知る。京極堂という作者の名前を使った主人公(?)中禅寺の蘊蓄トークが炸裂するこのシリーズは物語半分、作者京極氏の蓄積された知識のライブラリの品評会よろしくどこまでも広く深く夥しい文字数を使って怒涛のごとくページ数を貪り尽くすかのように書き連ねたトーク半分で構成されている笑
一冊もので読むと文庫本なのに手にして読むことを拒絶するかのように重くページがめくりにくい、しかしその実、京極氏による綿密なレイアウトに収められた文字列は読みやすいからどうしろっていうものなので、今回は分冊シリーズで読んでみた。正直とても読みやすい。ただ、上中下と別れているので借りるタイミングを逃すと間が空いてしまうので、このシリーズ、間が空くと訳が分からなくなるので要注意。できる事なら一気集中して読みたいところである。
さて、内容的には上巻では匣の存在が大きく取り上げられ、匣をめぐって様々な事件が起こる。今回は刑事の木場が中心となり物語の渦中に立たされるわけで、これを読んでようやく”狂骨の~”に繋がるのだ。上巻の後半でいよいよ真打中禅寺が登場するとペテンが何者なのかが延々と蘊蓄が始まり、ああ、これこれってこのシリーズはこれがなくっちゃね、インディージョーンでいう大量演出(蛇や蟲)さながらこれが楽しみの一つだ。
評価的には上巻は物語でいう起承転結の「起」までしかないので何とも評しがたい。”匣”をめぐるダレかの回想シーンと現実が交互に構成されているので何かが始まっているのは感じるがまだ点でしかなく線に繋がらない。謎の施設の匣で管理された謎の少女もまだこれからで、期待しながら中巻に進む! -
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京極夏彦の特別授業を書籍化した『文庫版 地獄の楽しみ方』を読みました。
京極夏彦の作品は3年前に読んだ『百器徒然袋 雨』以来ですね。
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「あなたの世界」は言葉ひとつで変わってしまいます。
SNS炎上、対人トラブル――あらゆる争いは言葉の行き違いから起きています。
言葉の罠にはまらないため、語彙を増やして使いこなすわざを身につけましょう。
小説家・京極夏彦が指南する、地獄のようなこの世を楽しく生きていくための「言葉」徹底講座。
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2019年(令和元年)に「学校では教えてくれない本物の知恵を伝える白熱授業」と題して京極夏彦が聴講生50名を対象に特別授業を行った内容をもとに、同年に刊行された作品です。
■第1部 言葉の罠にはまらないために
・言葉は人類最大の発明である
・「過去」と「未来」は言葉で作られた
・言葉はデジタル、だから不完全
・人は言葉の欠けを勝手に埋める
・SNSが炎上するわけ
・日本語のすぐれたところ
・すべての読書は誤読である
・あらゆる争いは言葉の行き違いから起きる
・「勝った」「負けた」も言葉の魔術
・人間は自分がなりたいものになる
・スポーツも勉強も勝ち負けではない
・世の中にいいことなんてないでも面白がろうと思えば面白い
■第2部 地獄を楽しむために
・「ら抜き言葉」は間違いか
・「正義」の対義語は「悪」?
・「神」という言葉があらわすものは
・「愛」という便利で危険な言葉
・語彙の数だけ世界がつくれる
・人生でいちばん大切なのは「整理整頓」
・本の数だけ人生がある
・嫌いなことをしないために頭を使おう
■京極さんとの言葉をめぐる一問一答
・カオスとは、言葉で切り取らなくてはならないものですか?―切り取るのは、認識するための手段にすぎません。
・「言霊」とはどういうものですか?―「呪う」ことも「祝う」こともできるものです。
・「言葉は不幸である」と思われますか?―言葉は不幸でもあり、幸福でもあります。
・理不尽な勝負を挑まれたら、どうすればいいですか? ―勝負を無効化しちゃいましょう。
・本の収納の仕方を教えてください。―本の収納だけは「愛」と執念
・なぜ嫌いな小説を書いているのですか。 ―生活のためですね。
「今の十代の皆さんは、私が十代だった頃に比べても、はるかに優秀です。
しかし、大人になった皆さんを待ち受けているのは地獄のような現実です。それはいつの時代も変わりありません。
地獄を楽しむためのヒントを、もう地獄に堕ちている先輩が、少しだけお教えします」(京極夏彦)
「あなたの世界」は、言葉ひとつで変わってしまいます……SNS炎上、対人トラブル――すべては「言葉」の行き違い、、、
語彙を増やして使いこなすわざを身につければ、楽しい人生を送ることができます……地獄のようなこの世を生き抜くための「言葉」徹底講座。
大人前夜のきみたちへ。学校では教えてくれない本物の知恵を伝える白熱授業……「17歳の特別教室」シリーズ第5弾。
京極夏彦の特別授業……若い方からミドル、そしてリタイア後の生き方を考えている方まで、なるほどと思う含蓄が詰まった一冊でしたね、、、
そんな中でも印象に残ったのは、
●言葉は非常に不完全なもので、伝えたい事柄を正確に言い表すことは不可能に近い
●受け取る方は常に過剰な意味合いを付加してしまう
●自分の気持ちでさえ言葉にはできない……言葉は通じないので、それを承知で使う
というメッセージことですね……仕事のことで議論する中で、なかなか相手と噛み合わないことがあるんですよねー このメッセージを理解しながら言葉を選ぶことで、少しは改善できたらいいな と思います。
言葉について、色々と考えさせられる……そんな一冊でした。