あさのあつこのレビュー一覧
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野球でなくとも良かったのかもしれない。ピッチャーでなくとも。
例えば、バイクのレースに出るライダー。
コンマ一秒を削り取るために、バイクと一体化するために、
そのためだけに走る。
右手が、エンジンの爆発と、ドライブチェーンを通じて伝わる力をコントロールし、
タイヤのゴムがアスファルトと擦れ合ってちぎれ飛ぶのを感じる。
ただ、その思いで走る。
あるいは、ソロギタリスト。
指が弦をはじいて生まれる、それまでは存在もしなかった世界。
強くも、弱くも。激しくも、優しくも。
誰でもない、自分が一人で生み出す、一人の世界。
ピッチャーをするために、球を投げるために生まれてきた -
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ネタバレ新田東中と横手二中の練習試合が終わり、高校へ進学した瑞垣は野球を辞めた。チームメイトだった門脇も推薦入学を辞退。あの試合でいったい彼らに何があったのか。
『バッテリー』ラストシーンの続き。あの試合の結果が明らかにされる。今作は巧ではなく、横手二中の瑞垣視点から描かれている。試合だけではなくその後の瑞垣の心情が中心となっている。ラストの試合を組んだのは瑞垣。スケジュールや場所、メンバーを揃えるのも新田東中の海音寺とともに彼らだけでやった。なぜ、そこまでしてあの試合を行うことに躍起になったのか。瑞垣はなぜ野球を辞めることになったのか。
瑞垣はとても中学生とは思えないほど頭のきれる、きれすぎる男 -
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大人になると知らず知らずのうちに、余計なモノを集めてしまっている。
持ち物も、やる事も。
残り時間を考えると、使い切れないぐらいのたくさんのモノに囲まれて生きている。
それでも欲しくなる。手に入れるために、欲してしまう。
無駄、無駄、無駄。
時折、あれこもれも投げ出してしまいたくなる。
捨て去って、投げさって、それでも捨てきれないごく一部のモノを確かめたい。
野球以外、ボールを投げる以外に必要なものなんてない。
そう思い切れる巧は、若さ故なのだろう。
5巻では、それ以外のところも知ろうとする。
そこを超えて、一回り大きくなるのか。
シンプルに。でも残ったモノは大切に -
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天才だけのストーリーは、どこかで袋小路になってしまうのかな。
天才に翻弄される、周りの人々のデッサンが、どんどん出来上がってきた4巻。
主人公も食う勢い。
つるりとした、天才を書き続けるよりも、苦悩する凡才の方が魅力的だったりする。
才能ってなんだろう。
巧も天才。門脇も天才。
でも、そこに追いつけない才能は、どう違うんだろう。
スポーツの世界は厳しくて、結果があれこれ見えやすいけれど、もっと一般的な社会生活の中では、それぞれの才能の差って、なんだろう。
「あいつは頭がいいから」「彼は○○大学出身だから」「奴は××の資格持ってるから」
自分ができないことをやれる同僚を見 -
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望みを叶えるために譲歩する。
大人の言う事なんだからと、訳もなく折れてしまう。
試合に出るために、監督の言うことを聞く。
それが理屈に合わなくても。
その時の悔しさを抑えても、のちのちの結果をとる。
大人はそうする。
いつの間にかそうなっている。
自分もいい加減年を食ってきた。
子供もいれば、部下もいる。
仕事も失いたくないし、立場も守りたい。
目の前に立ちはだかる不条理や、理屈に思いを曲げることはしばしば。
損して得取れ。
戦略。
全体を見ろ。
マウンドに立つピッチャーが、
試合の勝ち負けも、
チームメイトの思いも、
何も考えてずに、ただミッ -
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キャッチャーがいてこそのバッテリー。
ピッチャー一人では何もできない。
そんな関係ってたくさんある。
子がいてこその親。
生徒がいてこその教師。
妻がいての夫。夫がいての妻。
相手がいるからこそ成り立つ関係。
それを理解しながらも、言葉にして感謝して、自らを弱めたりはしたくない。
わかっているけれど認めなくない。
若さゆえの傍若無人ぶりか。
経験や知恵の裏打ちがないからこその強がりなのか。
自信過剰。
干渉されたくない。
薄情なまでの真摯さ。
未来への疑いのなさ。
心の奥にほこをかぶって忘れていた記憶が甦る。
少年時代の思い出。
いつ失ったのか。 -
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「メフィスト」に連載されたものの単行本化で、シリーズ4作目。
この世にいてはいけない魂を還るべき場所に還す役割を負う少年。白兎は、あさのあつこの原風景だという。
まぁ、白兎抜きでも、ちゃんとしたミステリーになってるんだけど。
舞台は山の中にある、少数の金持ちのためだけのホスピス。
がけ崩れで孤立し、6人のスタッフで奮闘するさなか、入所者でもあるオーナーの気まぐれで、50億の遺産をスタッフに与えると発表され、スタッフが殺され、続いてオーナーも殺された。
誰がなぜ?
人の心の奥底にある暗闇を、さらりと掬って見せてくれる。
読み終わってみおると、やはり、「あさのワールド」の作品。 -
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ネタバレ“「…虫けら同然に潰され、殺され、苦しめられ、なぜ安らかに逝くことなどできる?できるわけが、ないだろう。人狩りに捕まれば、ほとんどの人間が助からない。無残な死を強いられる。だとしたら、死んでいく者は、苦痛や怨みの言葉を撒き散らして息絶えるべきなんだ。せめて本物の思いだけは・・・・・・それが、怨嗟と呪詛だけであろうと、本物の思いだけは奪われちゃならない。安らかな死なんて、紛い物じゃないか。虫けらみたいに扱われて、虐げられて、笑って死んでいくだって?何が救済だ。そんなもの、ごまかしにすぎない。…」”
ネズミのこの言葉は虐げられ苦痛の中死にゆく者にとってあまりにも残酷で厳しい。けれど私達の社会でも