横溝正史のレビュー一覧

  • 金田一耕助ファイル1 八つ墓村

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     映画「八つ墓村」が上映されると知り、本棚の横溝正史覧を確認し、本書を読み直した。消費税3%の時代に購入していた作品である。1977年に渥美清が金田一耕助に分した八墓村では、野村芳太郎監督や橋本忍の脚本で、濃茶の尼や村人が「八つ墓明神のたたり」として、オカルト映画的脚色で、世間を震撼させた。さて、原作はどうか?毛利に負われた尼子一族の言い伝えを縦軸に、実際に起きた岡山県津山の30人殺し(映画「丑三つ村」)をモチーフにした横軸で紡がれる連続殺人事件である。が、しかし、八つ墓村の地下を縦横に走る鍾乳洞や洞窟の探検と主人公を中心とした恋慕と家族愛が織りなす、夢のある冒険・恋愛活劇が私には強く印象に残っている。鬼首村(おにこべむら)で起きた「よる歩く」や「悪魔の手まり歌」の事件を解決して、保養のために寄った八つ墓村の西屋に滞在中の金田一耕助が、東屋を巡る連続殺人事件で、事件を解決へと導くが本書での出番は極めて少ない。村人に追われながらも、自然洞窟に眠る尼子一族の残した財宝を探検して発見する主人公辰也と典子の純愛。著者の横溝正史は、戦時中に岡山に疎開して、意にそぐわない作品を書かされることに嫌気がさし、戦後に疎開中に知った事件や怨恨をテーマに戦後の推理小説と金田一耕助を一躍有名にする。私見になるが、横溝正史の各作品に低通するのは、アジア・太平洋戦争に対する静かな怒りと内省、戦争による親族たちの血肉を争う憎悪と苛烈(かれつ)なトラウマと葛藤を現しているように思う。横溝作品を読み返したい意欲が増すが、一方で積読も増える葛藤に苛(さいな)まれる。

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    2026年10月02日
  • 獄門島 金田一耕助ファイル 3 アニメカバー版

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    ネタバレ

    (表紙が違うんですが多分中身は同じなのでこれで登録)

    市川崑監督をはじめとする映画はいくつか見ていて粗筋も犯人も知っているんだけど、金田一耕助(以下、耕ちゃん)ものは原作だとやっぱり良いので読んでいっている。
    今回はなんと言っても『本陣殺人事件』で探偵デビューした耕ちゃんが、その後戦争の真っ只中で「人生でいちばん大事な時期を空白で過ごし」たあとというのがなんかぐっと来ました。25、6歳だった耕ちゃんは30半ばのくしゃくしゃの頭に和装にソフト帽子の中年に。物語中盤で『本陣殺人事件』で親しくなった岡山県警磯川警部と再会してお互い感じ入る場面があるんですがこのあたりはやっぱり戦争中は考えることもなかった相手が無事で相変わらず活躍しているって知ったときの感慨は私たちが想像するより深いんだろうなあ。
    ※放送禁止用語が使われていますが重要な鍵のためそのまま記載しています。

    その金田一の耕ちゃんは瀬戸内海の小島「獄門島」に向かっている。表向きは戦友鬼頭千万太(以下チマタ)の戦死を伝えること。しかし彼には裏の目的があった。なんとしても生きて帰ることを望んでいたチマタが無念の病死に際しての遺言「俺が死んだら三人の妹たちが殺される…俺の代わりに獄門島に行ってくれ…おれの従兄弟が…」という願いを叶えるためだった。
    金田一耕助物語では親族関係がとても複雑に絡み合うのでまとめておく。
    まずは「網元」について。物語で網元の地元での強さ、漁師たちをまとめる力などは読んでいたんだけど、ここで説明されていたのを読んで納得でした。そりゃー強い。
    漁師には3階級ある。一番下は船も網も持っていない。農家で言えば小作人。
    次の階級は船も網も持っているけれども小規模なので、「自作農」みたいな感じ。
    それらに君臨するのが、船も網も漁業権も持っている網元。「大地主」にあたるんだけどそれより権力がある。網元は漁穫の全てを総取りして、漁師たちに日当を渡すという関係。漁師は網元からそれぞれの網、鯛網、壺網、鰯網…などなどの網をその場その場で借りなければいけない。そして「板子一枚下は地獄」の世界に生きる漁師たちを束ねるだけの肝っ玉が必要となる。改めてナルホド。
    ●鬼頭家(島随一の網元の本家。「本鬼頭」と呼ばれる)
    嘉右衛門(故人):「太閤」と呼ばれる程の権力を持っていた。死んだことにより獄門島の権力のバランスが崩れる。
    与三松:嘉右衛門の長男で本鬼頭の当主のはずなんだけど、「気ちがいさん」で座敷牢に入れられている。
    チマタ(故人):鬼頭家の跡取りだったが、戻れなかったことでどうなるか…。
    月代、雪枝、花子:チマタの三人の異母妹。知的障害者だろう。派手な振り袖に帯に髪飾りでいつでもキャラキャラ大騒ぎで、異様な雰囲気を醸し出す「徒花」。
    お小夜(故人):月・雪・花の母。女役者だったのが与三松の後妻になった。
    一(以下ハジメ):嘉右衛門の次男(与三松の弟)の息子。
    早苗:ハジメの妹。ふんわりカールの美女だがなかなか度胸があるらしい。

    ●分鬼頭(わけきとう。嘉右衛門の従兄弟?の家)
    儀兵衛:当主の老人。本鬼頭から権力奪取を狙っている。
    志保:儀兵衛の妻。あだっぽい中年女性。ものすごく権力奪取を狙っている。
    鵜飼章三:分鬼頭夫妻が、本鬼頭から権力奪取のために住まわせている復員軍人。美少年。

    ●島人
    了然(りょうねん)和尚:獄門島の千光寺住職。故嘉右衛門老人と親しく、島での権力者。
    了沢(りょうたく):千光寺典座で、了然の跡継ぎ。
    荒木真喜平:獄門島村長だが、故嘉右衛門老人の派閥なので、もし分鬼頭が権力を握ったら追い出される。
    村瀬幸庵:獄門島の医者。故嘉右衛門老人の派閥なので、もし分鬼頭が権力を握ったら追い出される。
    竹蔵:漁で潮つくりという大切な役目。
    清公(せいこう):流れ者の床屋。俳諧もかじっていたので嘉右衛門のお太鼓持ちだった。耕ちゃんの重要な情報源。なお、よそ者耕ちゃんが島人から犯人じゃないかと疑われた時に「馬鹿言っちゃいけない、仮にも金田一の旦那は江戸っ子だ。本鬼頭を乗っ取る気なら回りくどいことしないでピストルパンパンぶっ放して解決すらあ。だいたい江戸っ子がこんな島の麦なんざ食ってられるか」とかばってくれた?ようで、耕ちゃんをなんか複雑な気持ちにさせるのです・笑

    ●警察関係
    磯川常次郎:岡山県警察部の警部。耕ちゃんとは『本陣殺人事件』で知り合っている。戦争を経てお互い前の仕事を続けているとわかって感慨深くなっている。なお階級は当時と同じ警部。同僚では警視になった者もいるけれど、戦争のゴタゴタで昇格しそびれたけれど、そのために県警名物の古狸警部としてドドーンと一目置かれているらしい。
    清水巡査:獄門島巡査。島では事件はそんなに起きないので(起きても島の人たちが島の掟で解決する?)、瀬戸内海の海賊対応の仕事なんかもやっているらしい。「向こうは7,8にんポンポンピストル売ってくるし、警察の船も弾丸打ち込むし、壇の浦以上の大合戦ですよ」ってのが警察のお仕事。なるほど。

    ●獄門島絶大な権力の鬼頭家の跡取り順番
    チマタ→月→雪→花→ハジメ→早苗→儀兵衛。
    儀兵衛と志保には子供がいないので、美少年鵜飼章三を雪月花の婿に入れて権力を取ろうとしている。
    チマタの遺言のとおりに「俺が死んだら三人の妹が殺される」としたら、ハジメが跡取り。
    そして現在では「私はハジメさんの戦友でした。ハジメさんは生きて、もうすぐで戻ってきますよ」という復員兵が獄門島を訪れた。

    ●帰ってきたもの、帰ってこなかったもの
    死亡:チマタ
    生きているという知らせがあった:ハジメ
    戻る予定:戦争中に供出されていた千光寺の釣鐘が、戦争が終わったために鋳潰されずに返還されることになった。

    ということで耕ちゃんは戦友の遺言で獄門島に渡ったのだ。
    美しい早苗さんに驚かされる。徒花のような三姉妹に驚かされる。艶っぽいお志保さんに驚かされる。
    そして獄門島の権力争いが蠢いていることを感じる。他所から来た巡査の清水さんは「この島の者はみんな気がくるってる」というくらいだ。
    千光寺の釣鐘が戻って来た日に、チマタの葬儀が行われることになった。だがその夜から連続殺人が起きるのだった。

    今回の連続殺人では、死体を俳句に見立てた装飾をされる。まだそれに気が付かない頃の耕ちゃんが「なんだ、有名な松尾芭蕉か!」などと食傷気味なんだけど、俳句を見てすぐに読人とか背景をかを思い浮かぶのが、戦争を挟んだとはいえこの時代の、耕ちゃんの教養だよなあ。(アメリカ放浪していたので、英語もペラペラのはず)
    「無惨やな 冑の下のきりぎりす」(松尾芭蕉)
    「一つ家に 遊女も寝たり 萩と月」(松尾芭蕉)
    「鶯の 身を逆に初音かな」(宝井其角)

    横溝正史物は死体が装飾されておどろおどろしいんだけど、それでも読めるのは「死」をだのエンターテイメントにしていないことだよなあと思います。P167に「死という事実は厳粛であるべき」って書いてあるのですが、これだけ死体を弄られていても読んでいて不愉快にならないのはちゃんと死を一人の人間の人生の終わりとして書いていることを感じるからじゃないかなあ。そして耕ちゃんも、死を前に不謹慎なことを口走る人には不快の目を向けるのであります。
    そんなおどろおどろしい死を書きながらもちょっと笑ってしまう場面も。駐在の清水巡査が海賊対応する様子(の報告)だとか、岡山県警の磯貝警部と知り合いだって聞いて「あんたはいい人みたいだけど、磯貝警部に疑われるような悪党じゃないだろうね?」と勘違いされるところ、そしてその清水巡査に最初の殺人犯人と間違われて牢屋に入れられちゃったところで「バカ、バカ、清水さんのバカ!」と悔しがるところ。しかし結果的には耕ちゃんが牢屋に入ったお陰で第二の殺人が起きたので耕ちゃんの無実が証明されたのである、あんまり嬉しくないタイミングだけどね(^_^;)。
    今回の殺人は、偶然と偶然が重なり、さらに合ってはならないタイミングでの「嘘」によって行われたことだった。まさに酷いことが重なっちゃったよなあ。
    そして犯人には現実の罰よりも酷い「絶望」が与えられる。それでも後味が悪くないのは、残った人たちが戦後の新しい獄門島を立て直そうとする早苗さんの強い眼差し。また醜い権力争いしているかと思われた分鬼頭の儀兵衛老人がさすがは網元の大人物で、良くも悪くも封建社会の権化であった嘉右衛門老人のことを「とにかく稼いで使ってそのために島の人々の暮らしが豊かに明るくなったことは確かだ」とお互いを認め合っていたのも良かった。

    そういえば横溝正史は「金田一耕助には、恋人も妻もいない」って書いていますが、全小説で耕ちゃんがほぼ唯一よろめいたのが、美しく案外肝が座った早苗さん。東京に出ませんか?って一応プロポーズ???耕ちゃんがんばったね。(振られたけど)

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    2026年09月23日
  • 金田一耕助ファイル3 獄門島

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    ネタバレ

    (表紙が違うんですが多分中身は同じなのでこれで登録)

    市川崑監督をはじめとする映画はいくつか見ていて粗筋も犯人も知っているんだけど、金田一耕助(以下、耕ちゃん)ものは原作だとやっぱり良いので読んでいっている。
    今回はなんと言っても『本陣殺人事件』で探偵デビューした耕ちゃんが、その後戦争の真っ只中で「人生でいちばん大事な時期を空白で過ごし」たあとというのがなんかぐっと来ました。25、6歳だった耕ちゃんは30半ばのくしゃくしゃの頭に和装にソフト帽子の中年に。物語中盤で『本陣殺人事件』で親しくなった岡山県警磯川警部と再会してお互い感じ入る場面があるんですがこのあたりはやっぱり戦争中は考えることもなかった相手が無事で相変わらず活躍しているって知ったときの感慨は私たちが想像するより深いんだろうなあ。
    ※放送禁止用語が使われていますが重要な鍵のためそのまま記載しています。

    その金田一の耕ちゃんは瀬戸内海の小島「獄門島」に向かっている。表向きは戦友鬼頭千万太(以下チマタ)の戦死を伝えること。しかし彼には裏の目的があった。なんとしても生きて帰ることを望んでいたチマタが無念の病死に際しての遺言「俺が死んだら三人の妹たちが殺される…俺の代わりに獄門島に行ってくれ…おれの従兄弟が…」という願いを叶えるためだった。
    金田一耕助物語では親族関係がとても複雑に絡み合うのでまとめておく。
    まずは「網元」について。物語で網元の地元での強さ、漁師たちをまとめる力などは読んでいたんだけど、ここで説明されていたのを読んで納得でした。そりゃー強い。
    漁師には3階級ある。一番下は船も網も持っていない。農家で言えば小作人。
    次の階級は船も網も持っているけれども小規模なので、「自作農」みたいな感じ。
    それらに君臨するのが、船も網も漁業権も持っている網元。「大地主」にあたるんだけどそれより権力がある。網元は漁穫の全てを総取りして、漁師たちに日当を渡すという関係。漁師は網元からそれぞれの網、鯛網、壺網、鰯網…などなどの網をその場その場で借りなければいけない。そして「板子一枚下は地獄」の世界に生きる漁師たちを束ねるだけの肝っ玉が必要となる。改めてナルホド。
    ●鬼頭家(島随一の網元の本家。「本鬼頭」と呼ばれる)
    嘉右衛門(故人):「太閤」と呼ばれる程の権力を持っていた。死んだことにより獄門島の権力のバランスが崩れる。
    与三松:嘉右衛門の長男で本鬼頭の当主のはずなんだけど、「気ちがいさん」で座敷牢に入れられている。
    チマタ(故人):鬼頭家の跡取りだったが、戻れなかったことでどうなるか…。
    月代、雪枝、花子:チマタの三人の異母妹。知的障害者だろう。派手な振り袖に帯に髪飾りでいつでもキャラキャラ大騒ぎで、異様な雰囲気を醸し出す「徒花」。
    お小夜(故人):月・雪・花の母。女役者だったのが与三松の後妻になった。
    一(以下ハジメ):嘉右衛門の次男(与三松の弟)の息子。
    早苗:ハジメの妹。ふんわりカールの美女だがなかなか度胸があるらしい。

    ●分鬼頭(わけきとう。嘉右衛門の従兄弟?の家)
    儀兵衛:当主の老人。本鬼頭から権力奪取を狙っている。
    志保:儀兵衛の妻。あだっぽい中年女性。ものすごく権力奪取を狙っている。
    鵜飼章三:分鬼頭夫妻が、本鬼頭から権力奪取のために住まわせている復員軍人。美少年。

    ●島人
    了然(りょうねん)和尚:獄門島の千光寺住職。故嘉右衛門老人と親しく、島での権力者。
    了沢(りょうたく):千光寺典座で、了然の跡継ぎ。
    荒木真喜平:獄門島村長だが、故嘉右衛門老人の派閥なので、もし分鬼頭が権力を握ったら追い出される。
    村瀬幸庵:獄門島の医者。故嘉右衛門老人の派閥なので、もし分鬼頭が権力を握ったら追い出される。
    竹蔵:漁で潮つくりという大切な役目。
    清公(せいこう):流れ者の床屋。俳諧もかじっていたので嘉右衛門のお太鼓持ちだった。耕ちゃんの重要な情報源。なお、よそ者耕ちゃんが島人から犯人じゃないかと疑われた時に「馬鹿言っちゃいけない、仮にも金田一の旦那は江戸っ子だ。本鬼頭を乗っ取る気なら回りくどいことしないでピストルパンパンぶっ放して解決すらあ。だいたい江戸っ子がこんな島の麦なんざ食ってられるか」とかばってくれた?ようで、耕ちゃんをなんか複雑な気持ちにさせるのです・笑

    ●警察関係
    磯川常次郎:岡山県警察部の警部。耕ちゃんとは『本陣殺人事件』で知り合っている。戦争を経てお互い前の仕事を続けているとわかって感慨深くなっている。なお階級は当時と同じ警部。同僚では警視になった者もいるけれど、戦争のゴタゴタで昇格しそびれたけれど、そのために県警名物の古狸警部としてドドーンと一目置かれているらしい。
    清水巡査:獄門島巡査。島では事件はそんなに起きないので(起きても島の人たちが島の掟で解決する?)、瀬戸内海の海賊対応の仕事なんかもやっているらしい。「向こうは7,8にんポンポンピストル売ってくるし、警察の船も弾丸打ち込むし、壇の浦以上の大合戦ですよ」ってのが警察のお仕事。なるほど。

    ●獄門島絶大な権力の鬼頭家の跡取り順番
    チマタ→月→雪→花→ハジメ→早苗→儀兵衛。
    儀兵衛と志保には子供がいないので、美少年鵜飼章三を雪月花の婿に入れて権力を取ろうとしている。
    チマタの遺言のとおりに「俺が死んだら三人の妹が殺される」としたら、ハジメが跡取り。
    そして現在では「私はハジメさんの戦友でした。ハジメさんは生きて、もうすぐで戻ってきますよ」という復員兵が獄門島を訪れた。

    ●帰ってきたもの、帰ってこなかったもの
    死亡:チマタ
    生きているという知らせがあった:ハジメ
    戻る予定:戦争中に供出されていた千光寺の釣鐘が、戦争が終わったために鋳潰されずに返還されることになった。

    ということで耕ちゃんは戦友の遺言で獄門島に渡ったのだ。
    美しい早苗さんに驚かされる。徒花のような三姉妹に驚かされる。艶っぽいお志保さんに驚かされる。
    そして獄門島の権力争いが蠢いていることを感じる。他所から来た巡査の清水さんは「この島の者はみんな気がくるってる」というくらいだ。
    千光寺の釣鐘が戻って来た日に、チマタの葬儀が行われることになった。だがその夜から連続殺人が起きるのだった。

    今回の連続殺人では、死体を俳句に見立てた装飾をされる。まだそれに気が付かない頃の耕ちゃんが「なんだ、有名な松尾芭蕉か!」などと食傷気味なんだけど、俳句を見てすぐに読人とか背景をかを思い浮かぶのが、戦争を挟んだとはいえこの時代の、耕ちゃんの教養だよなあ。(アメリカ放浪していたので、英語もペラペラのはず)
    「無惨やな 冑の下のきりぎりす」(松尾芭蕉)
    「一つ家に 遊女も寝たり 萩と月」(松尾芭蕉)
    「鶯の 身を逆に初音かな」(宝井其角)

    横溝正史物は死体が装飾されておどろおどろしいんだけど、それでも読めるのは「死」をだのエンターテイメントにしていないことだよなあと思います。P167に「死という事実は厳粛であるべき」って書いてあるのですが、これだけ死体を弄られていても読んでいて不愉快にならないのはちゃんと死を一人の人間の人生の終わりとして書いていることを感じるからじゃないかなあ。そして耕ちゃんも、死を前に不謹慎なことを口走る人には不快の目を向けるのであります。
    そんなおどろおどろしい死を書きながらもちょっと笑ってしまう場面も。駐在の清水巡査が海賊対応する様子(の報告)だとか、岡山県警の磯貝警部と知り合いだって聞いて「あんたはいい人みたいだけど、磯貝警部に疑われるような悪党じゃないだろうね?」と勘違いされるところ、そしてその清水巡査に最初の殺人犯人と間違われて牢屋に入れられちゃったところで「バカ、バカ、清水さんのバカ!」と悔しがるところ。しかし結果的には耕ちゃんが牢屋に入ったお陰で第二の殺人が起きたので耕ちゃんの無実が証明されたのである、あんまり嬉しくないタイミングだけどね(^_^;)。
    今回の殺人は、偶然と偶然が重なり、さらに合ってはならないタイミングでの「嘘」によって行われたことだった。まさに酷いことが重なっちゃったよなあ。
    そして犯人には現実の罰よりも酷い「絶望」が与えられる。それでも後味が悪くないのは、残った人たちが戦後の新しい獄門島を立て直そうとする早苗さんの強い眼差し。また醜い権力争いしているかと思われた分鬼頭の儀兵衛老人がさすがは網元の大人物で、良くも悪くも封建社会の権化であった嘉右衛門老人のことを「とにかく稼いで使ってそのために島の人々の暮らしが豊かに明るくなったことは確かだ」とお互いを認め合っていたのも良かった。

    そういえば横溝正史は「金田一耕助には、恋人も妻もいない」って書いていますが、全小説で耕ちゃんがほぼ唯一よろめいたのが、美しく案外肝が座った早苗さん。東京に出ませんか?って一応プロポーズ???耕ちゃんがんばったね。(振られたけど)

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    2026年09月23日
  • 金田一耕助ファイル7 夜歩く

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    横溝正史の長篇ミステリ作品『夜歩く 金田一耕助ファイル 7』を読みました。
    『悪魔が来りて笛を吹く 金田一耕助ファイル 4』に続き、横溝正史の作品です。

    -----story-------------
    「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂の写真が、古神家の令嬢八千代のもとにまいこんだ。
    三日後に起きた、キャバレー『花』での佝僂画家狙撃事件。
    それが首なし連続殺人の発端だった……。
    因縁の呪いか? 憎悪、貪欲、不倫、迷信、嫉妬と、どす黒い要素が執念深くからみあって、古神家にまつわる、世にも凄惨な殺人事件の幕が切って落とされた!!
    -----------------------

    1948年(昭和23年)から1949年(昭和24年)に中央文芸社から出版されていた大衆文芸・小説雑誌『男女』(後の『大衆小説界』)に連載され、1950年(昭和25年)に刊行された作品……金田一耕助シリーズの第3作です。

    古神家の令嬢八千代に舞い込んだ「我、近く汝のもとに赴きて結婚せん」という奇妙な手紙と佝僂の写真は陰惨な殺人事件の発端であった……卓抜なトリックで推理小説の限界に挑んだ力作。

    佝僂の画家や夢遊病、旧家の因縁、嫉妬などのモチーフをこれでもかと詰め込んだ、怪奇色の濃い本格長篇ミステリ……「汝夜歩くなかれ」という不気味な警告を発端に、狙撃事件、首なし死体、血塗られた村正、佝僂の人物の入れ替わりなど、複数の謎が互いに絡み合いながら進行します、、、

    古神家と仙石家の複雑な関係、夢遊病の八千代の存在が、誰もが秘密を抱えているような不穏な空気を生み、読者を物語の奥へと引きずり込みます……物語は途中から岡山県の鬼首村へ舞台を移し、閉ざされた山村の陰鬱な雰囲気がさらに怪奇性を強めます。

    村に伝わる因習や土地の空気が、古神家の謎と結びつき、物語のスケールが一段と広がるのも魅力です……そして本作最大の特徴は、金田一シリーズでは異例の叙述トリック、、、

    語り手の一人称が読者の認識を巧みに誘導し、終盤でその「語りの罠」が明かされることで、真相の意外性が鮮烈に立ち上がります。

    怪奇味と本格性、そして叙述の妙が見事に融合した、読み応えたっぷりの一作でした……面白かったです。

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    2026年09月22日
  • 金田一耕助ファイル5 犬神家の一族

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    ネタバレ

    見立て殺人かと思いきや、そうでもなかったていう笑
    後々考えると「ん?」と思うところはあるし、全部佐兵衛翁が悪いやんって話なんだけど、これはもう雰囲気が抜群に楽しい小説

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    2026年09月18日
  • 金田一耕助ファイル1 八つ墓村

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    ネタバレ

    さいっっっこうに面白かった!
    私的夜中に一気読みオブザイヤーです。
    典子のことを疑ってたけどただただかわいい人だった。。
    初めて読んだけど読みやすいし他の巻もよみます。
    沼を見つけてしまいました。

    1
    2026年09月17日
  • 獄門島 金田一耕助ファイル 3 アニメカバー版

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    金田一耕助ものの有名作は概ね犯罪悲劇の傑作だ。本作はそのなかでも一、二を争う犯罪悲劇だろう。金田一耕助は「旧来の(旧弊的な)価値観」と「新時代の価値観」の両者を映し出す鏡のような存在であり、さらに「新時代の価値観」を作品から読者に媒介する役割を持っている、とわたしは考える。本作がこれほどの犯罪悲劇にもかかわらず、読後感がどこか開けているように感じられるのは、横溝自身が当時における若い世代に抱いていたほの明るい希望と期待からだということは、ほかの作品からも伺えることだ。

    横溝の筆について触れると、横溝の書く文章の内容は頭のなかで映像として浮かばせやすく、映像喚起力が高い。花子の遺体のシーンは、それこそ暗く耽美なシーンとして浮かばせやすい。また、金田一がときおり「あっはっは」と笑うのも、作品の一服の清涼剤となっている。普通なら「耕助は笑い」などですませられる描写だが、実際に笑い声を描くことで作品内容の暗さを緩和している。

    連城三紀彦はフォークナーの『八月の光』と本作を同等に読むと述べており、作品に書かれていることは「氷山の一角」でありその下部構造の大きさは計り知れない、といった旨のことを述べていたが、まさにその通りだと思う。わたし自身は本作とジェイムズ・エルロイの『ホワイト・ジャズ』を同等に読むが、これらの作品の破綻のない緻密な構成は読む者を圧倒する。

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    2026年09月09日
  • 金田一耕助ファイル3 獄門島

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    金田一耕助ものの有名作は概ね犯罪悲劇の傑作だ。本作はそのなかでも一、二を争う犯罪悲劇だろう。金田一耕助は「旧来の(旧弊的な)価値観」と「新時代の価値観」の両者を映し出す鏡のような存在であり、さらに「新時代の価値観」を作品から読者に媒介する役割を持っている、とわたしは考える。本作がこれほどの犯罪悲劇にもかかわらず、読後感がどこか開けているように感じられるのは、横溝自身が当時における若い世代に抱いていたほの明るい希望と期待からだということは、ほかの作品からも伺えることだ。

    横溝の筆について触れると、横溝の書く文章の内容は頭のなかで映像として浮かばせやすく、映像喚起力が高い。花子の遺体のシーンは、それこそ暗く耽美なシーンとして浮かばせやすい。また、金田一がときおり「あっはっは」と笑うのも、作品の一服の清涼剤となっている。普通なら「耕助は笑い」などですませられる描写だが、実際に笑い声を描くことで作品内容の暗さを緩和している。

    連城三紀彦はフォークナーの『八月の光』と本作を同等に読むと述べており、作品に書かれていることは「氷山の一角」でありその下部構造の大きさは計り知れない、といった旨のことを述べていたが、まさにその通りだと思う。わたし自身は本作とジェイムズ・エルロイの『ホワイト・ジャズ』を同等に読むが、これらの作品の破綻のない緻密な構成は読む者を圧倒する。

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    2026年09月09日
  • 金田一耕助ファイル9 女王蜂

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    伊豆沖に月琴島と呼ばれる小島がある。月琴島。げっきんとう。いい名前。
    江戸時代は密貿易の中心地として栄えたが、鎖国が終わり廃れていった。この家の分限者は、源頼朝の隠し子(娘)の血筋と自称する大道寺家。この家では19年前に悲劇がおきた。
    大道寺家の16歳の跡取り一人娘の琴絵が、東京から来た二人の学生のうちの一人、日下部達哉と結ばれて妊娠した。知らせを受けた日下部は東京から月琴島に戻るが、崖から落ちて死んでいるところが見つかったのだ。
    大道寺家は、日下部とともに月琴島を訪ねた彼の友人速水欣造を壻に入れて、生まれた娘智子の戸籍上の父親とした。大道寺を継いだ欣造は東京、琴絵と智子は月琴島で暮らす。琴絵はその後亡くなり、遺言で「智子が18歳になったら東京の欣造のもとに行く」ことを言い遺した。
    そしてその智子は18歳になり、祖母の槇(マキ)、琴絵の代からの家庭教師の神尾秀子とともに、東京からの迎えを待っている。
    金田一耕助は、大道寺家の弁護士である加納辰五郎氏から連絡を受けた。大道寺欣造と、そして「秘密の依頼人」の元に匿名の脅迫状が届いたという。
    「彼女を東京に呼んではならない。19年前の惨劇が繰り返される。あの娘は女王蜂だ。彼女の前に多くの男の血が流されるだろう」
    そこで加納弁護士は金田一耕助に脅迫者を確かめることと、智子の身に危険がないかの調査を依頼をしたのだ。
    だが智子は予定通りに東京に向うと、予告通り次々に惨劇が起きる。
    果たして19年前の、彼女の父親は本当に事故だったのか?その死と今回の殺人は繋がっているのか?

    ===
    映画では大道寺欣造が仲代達矢のギラギラした人物像だったのに、原作ではまだ若々しく貴族的な顔をした好人物ってことでギャップが・笑
    映画では(こういっては差別的?なのですが)被害者たちがいけ好かない成人男性だったことと、未来に繋がる恋愛要素もあったので、他の金田一モノよりは割と気楽に見てました。
    智子は原作のほうが気が強くて魅力的で生まれながらの女王然としていて絶世の美女というのが現れていたのですが、田舎から東京に出てすっかり垢抜けちゃったり男性たちに魅力を振りまいたりする様子には「男にそんな素振りをするんじゃない!危険だ!」と警告したくなった、ああ、危なっかしい。智子の気持ちが、自分の父が何者なのか、自分の父はなぜ死んだのか、そして今回は自分を中心に連続殺人が起きて引っ込みがつかない感じになるのもわかるし、どうせい未婚の今はチヤホヤされても家の決めた結婚して主人に従う人生だと思うと今は好きにしたいって気持ちもわかるんですけどね。しかし祖母世代に近い私からしたら「ああ、危なっかしい(^_^;)」

    それでも恋愛部分もあったり、途切れていた縁が繋がったりして、未来に向けては大団円ではありました。
    金田一耕助の事件は、過去からの因縁が絡み合い犯人にもどうしようもなく殺人へと駆り立てられるものが多いのですが、小説としては金田一耕助の存在や、生き残った人たちが「前を向いて生きましょう」と手を取り合うため、その酷い殺人によって淀んでいたものが祓われたような、風が通ったように感じます。

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    2026年09月07日
  • 扉の影の女

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    『扉の影の女』
    金田一耕助の報酬事情や懐事情、なぜ事件解決に打ち込むのかとか、助手の多門修との関係とかで、耕ちゃんの私生活が垣間見えます。

    金田一耕助は銀座のバーに勤める加代子から依頼を受ける。加代子は夜道を逃げる殺人犯人とぶつかったのだ。もし顔を見られていたら犯人から狙われるかもしれない。しかし被害者は加代子の恋敵だったので警察に行けば今度は加代子自身が犯人と疑われるかもしれない。そこで金田一耕助に助けを求めに来たのだ。
    耕ちゃんは警察で等々力警部を初めとする馴染の刑事たちと捜査に加わりつつも、依頼人の秘密は保ったままで独自にも動く。

    等々力警部たちの金田一評が「本質は孤独。事件解決に掛かっている時は良いのだが、探偵の仕事が終わるとまた孤独に入り込んでしまう。だが一種の天才のため家族は持てないだろう」。そして読者が気になる収入は「事件5件に1件報酬もらえばいいところじゃないのか」ってことらしい。耕ちゃんは行く先々でたまたま殺人事件に巻き込まれました、というのが多いのでそんな場合は報酬なしですね。そんな時は、下宿先のご主人や、等々力警部がある程度のお金を貸してくれる。なんか放っておけないんでしょうね(後日高額報酬が入ったら上乗せで返ってくるという安心感もあるんだけど)。

    本作ではそんな耕ちゃんの懐事情も語られます。依頼人が資産家だったりすると報酬はかなり多いのだが、入れば入っただけ使っちゃうので仕事がないと素寒貧。今回の事件は関係者に資産家が多くそれぞれが「自分の名前がでないようにしてくれれば高額報酬支払います」と申し出るので、最終的にかなり懐が暖かくなりました・笑
    しかしこの依頼者達、それぞれがビミョ〜に隠し事や嘘をついているので案外ややこしい。耕ちゃんも警察に隠し事しているからお互い様ですけどね。

    そして助手の多門修とのやりとり。彼は30歳ぐらいの元愚連隊で女たらしで刑務所に入っていたこともある。だがある事件で犯人に間違われたところを耕ちゃんが助けたところから彼に心頭して助手働きに。元々人と話すのは得意だし気の良いお兄ちゃんなので、危険やスリルを好む習性が探偵見習い担ったおかげで満足するようになったらしい。「先生の仕事からあぶれちまったら世の中が味気なくなっちまう」というくらいだから良いやつです。表の仕事として、耕ちゃんの幼馴染でパトロンの一人である風間俊六が経営する「クラブK・K・K」のマネージャーも務めている。

    今まで耕ちゃんが話す相手は、依頼人や事件関係者や警察関係者など、耕ちゃんがある程度の礼儀を持って接していたけれど、多門修相手だと親分が子分を教育する感じで一人称も「おれ」になるのが面白い。

    さて、今回の耕ちゃんが受けた依頼は「自分の名前を出さないようにして」なので、事件解決前に手を引きます。でも等々力警部たちにヒントやら物的証拠やらを渡したので事件は警察が無事解決。警察も「なんだかんだいって金田一先生は自分たちを手助けしてくれるさ」と信頼しています。
    金田一モノってたまに耕ちゃんが事件を解決しないことがありますよね。

    『鏡ヶ浦の殺人』
    金田一耕助は、事件の合間に鏡ヶ浦のホテルで休暇を過ごしている。そこで知り合った大学教授の江川は読心術によりヨットに乗っている男女が殺人を計画していることを読み取った。だが翌日、毒殺されたのはその江川だった。

    100ページ程度の短篇ですが、けっこう人間関係が入り組んでいるし殺人の真相もかなり悪どい。しかし最後には耕ちゃんが関係者にこれからは幸せにおなんなさい、と、明るく締めてました。

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    2026年09月04日
  • 金田一耕助ファイル5 犬神家の一族

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    さすが名作の面白さだったー!!
    小さい頃なぜか映画を見て、佐清の顔と菊人形死体が怖かったのをとても覚えていた
    ずっと薄暗い雰囲気と血縁者のドロドロ、最後に明かされる辛すぎる真実
    続きが気になりすぎてかなり一気読みした。

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    2026年09月03日
  • 金田一耕助ファイル1 八つ墓村

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    地元の書店で、何の気なしに文庫のホラーコーナーに立ち寄ったら、ふと本書が目に止まった。言わずと知れた超有名ミステリ、手に取ってみると杉本一文氏のイラストによる限定復刻版カバーで(田舎の書店だからかたまたま置いてあった)、おどろおどしくも昭和レトロな味わいが何とも言えず、レジにソッコー持っていった。

    ページをめくると冒頭から引きが強い。村の名前の由来となった惨劇の落武者伝説、隠された黄金の行方、相次ぐ凄惨な事件など、祟りと因習に彩られた世界観への没入感がハンパない。物語は、名家の後継として村に呼び寄せられた主人公・辰弥の視点で進むが、そこで彼を待ち受けていたのは、更なる不可解な連続殺人事件だった。

    本作は、いわゆる金田一耕助シリーズだが、金田一の活躍はどちらかと言えば控えめ。それよりも、辰弥が何の因果でこの異界のような村に迷い込んでしまったのか、事件を通じて秘められた事実が明かされる描写にウエイトが傾いているな、と感じた。そして、中盤から広大な鍾乳洞を舞台にした冒険活劇へと進む展開が圧巻で、財宝伝説や殺人事件の謎が複雑に絡み合い、ワクワクして読み進められた。

    終盤は息もつかせぬスピード感で伏線が回収され、驚きの連続!
    帯にあった、辻村深月先生の『皆様、心してください。これが“本家”の凄さです。』のコメント。いやはや、なるほど。深く納得です。
    圧巻のストーリー展開を堪能したので、今度はがっつり金田一が推理で魅せる作品を読んでみたいな、と思った。

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    2026年09月01日
  • 支那扇の女

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    『支那扇の女』
    金田一耕助には「多聞修」という助手なのか御用聞きなのかがいるというので、出てくる本を読んでみよう。


    「支那扇の女」として知られる毒殺容疑者がいた。八木子爵の妻の克子は、姑と義妹を毒殺しようとしたとして逮捕され、本人は無実を訴え続けたが審理中に死亡した。
    代は代わり、八木子爵の子孫の朝井と、志那扇の克子の子孫の美奈子が結婚した。この家で新たな殺人が起こる。等々力警部と金田一耕助は捜査に乗り出し…。

    「多聞修」出てこないなーと思ったら、最後にちょっと出てきた。なんでも「数犯の前科を持つ30歳前後の町のあんちゃん風の男で、以前殺人犯の容疑が掛けられた所を金田一耕助の推理により助けられた。それ以来金田一耕助に心酔して助手なんだか御用聞きみたいなことをしている。裏社会にも顔が利くので、人の家に忍び込む、影の仕事をする人を呼び集めるなど、犯罪スレスレな手段ではある」っていうこと。出番は少ないし、実際に何をしたのかは「探偵の秘密です」で秘されるんだが、その数行の出番はなかなか印象的でした!


    『女の決闘』
    あ!これNHK『シリーズ横溝正史I』でドラマ化されてた!金田一耕助は池松壮亮で、地の文章をそのまま使って「原作に忠実に映像化」したものです。
    日本が気に入ったイギリス人で英語教師のロビンソン夫妻の帰国さよならパーティーが行われた。
    金田一耕助もご近所さんとして呼ばれていた。耕ちゃんは「若い頃渡米して風来坊、薬中毒一歩手前、日本人街で犯罪解決したので、顔役に気に入られて、日本に帰って探偵になった」という過去があるので、英語できるしアメリカ時代のお友達もいます。
    このパーティーで顔を合わせたのが、作家の藤本と今の妻多美子と、藤本の前の妻の泰子だった。しかも泰子には偽の招待状が届いて訪れたのだ。気まずくなるパーティー会場。そして多美子と泰子が並んで座っている時に多美子が毒を盛られて倒れる。真っ先に疑われる泰子。この時に多美子の命は助かった。
    しかし数日後、また藤本と泰子は顔を合わせることになり、今度は藤本が毒殺されてしまう。

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    2026年08月20日
  • 金田一耕助ファイル5 犬神家の一族

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    何年ぶりかわからないぐらいの再読で、記憶がだいぶ薄れていたのが功を奏してとても新鮮に読めて、とてもおもしろく満足できました。
    捻りすぎている部分はあるものの、エンタメ小説として非常に質の高い作品だと思います。

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    2026年08月18日
  • 金田一耕助ファイル1 八つ墓村

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    映画、ドラマであらすじも犯人も分かった状態で読みましたが結構印象が違いました。
    だって映画は山崎努のあの風貌、宣伝での「祟りじゃーー」の雄叫び、鍾乳洞のミイラ、小川真由美の怖ろしい美しさ、連続殺人を高笑いで見下ろす夏八木勲の怨霊、などなどおどろおどろしい印象だったのですが、原作は多くの殺人事件もあるけれども、鍾乳洞冒険だとか、いくつもの愛の姿だとかを経て、ラストは驚きの爽やかさ。やっぱりいいな横溝正史。

    ===
    神戸の勤め人28歳の寺田辰弥は、弁護士を通して岡山県の八つ墓村分限者(資産家)の田治見家から「お前は我が家の血を引いている。跡取りとして戻ってきてほしい」と申し入れられる。だが同時に「八つ墓村に帰ってはならぬ。血!血!血!血の大惨劇が再び繰り返されるだろう!」という脅迫状も受け取った。
    八つ墓村は、戦国時代に尼子氏再興を志す八人の武者たちが隠し財産とともに身を隠した村だった。最初は穏やかな関係を築いていたが、毛利家による厳しい探索と、武者たちの財産に目がくらみ、村人たちは武者たちを襲撃して皆殺しにした。武者の大将は「七生までこの村に祟る」と呪詛の言葉を残して死んだ。武者たちの祟りを恐れた村人たちは武者たちを「八つ墓明神」として祀った。この時、武者たちを襲ったときの中心が田治見家だったのだ。

    そして時は流れて大正時代。田治見家の当主は残虐な要蔵だ。彼は妻子とは別に井川鶴子という女性を暴力で犯し、屋敷の離れに監禁した。鶴子には亀井陽一という言い交わした相手がおり、要蔵の隙を見て逃げ出すが、要蔵が暴れて村全体に被害が及ぶことから、泣く泣く要蔵の妾になる。彼の愛撫や嫉妬や虐待は異常性を極め、鶴子の心の慰めは亀井陽一と密かに密かに文を交わすことだった。
    そしてこの物語の語り手、辰弥が生まれたのだった。
    だが要蔵は「辰弥の父親は亀井陽一」という噂を知り、鶴子と辰弥に激しい暴力を振るう。ついに鶴子は辰弥を連れて神戸へ逃げ、寺田という男と結婚したのだった。
    そして鶴子に逃げられた要蔵の狂気は頂点に達し、詰め襟の洋装に脚絆を履き、鉢巻と胸には懐中電灯を灯して、兵児帯には日本刀、手には猟銃を持ち村人たちを次々次々に襲い殺し回った(画像を見たい方は「八つ墓村 山崎努」で検索!怖ろしいんだけど桜をバックにして妙な美しささえ(^_^;)。32人の被害者を出し、山へ消えて今日に至るまで見つかってはいない。
    32人というのが8の倍数だったことから「8人の武者が一人4人ずつの犠牲者を求めた」と、呪いとして伝えられている。

    辰弥は初めて自分の母の置かれた酷い環境、自分の身体の痣や火傷の理由、そして父が狂人の殺人者ということを知ったのだった。
    さらに脅迫状の「血の大惨劇が繰り返される」の言葉通り、辰弥の眼の前で人々が次々毒殺されていく。

    そんな辰弥を訪ねてきたのは金田一耕助という素人探偵だった。探偵って言う割には小柄でモジャモジャ頭でヨレヨレの着物の風采の上がらない吃りのある人物だったんだ。彼は「今後怪しいなって思うことがあったら素直に言いなさいね」って忠告していった。
    怪しいことならたくさんある。
    まず田治見家は、要蔵の叔母にあたる双子の老婦人お梅様とお竹様が差配している。要蔵の正妻は26年前の事件で殺され、久弥と春代がいるが二人共病弱。そこで異母弟の辰弥が呼び戻されたのだ。
    親戚筋には里村慎太郎という復員してからはすっかり尾羽打ち枯らした男と、無邪気すぎっていうか色々危なかっしい妹の典子がいる。
    八つ墓村の田治見家と並び立つ分限者には野村家があり、金田一耕助は現当主壮吉の客人だ。野村家には死んだ弟の未亡人の美也子という都会的で美しい未亡人が滞在している。どうやら里村慎太郎とは再婚寸前の関係だったらしい。
    他にも村には対になる者たち、二人の尼僧、二人の僧侶、二人の医者がいる。
    この対の片方が次々殺されていき、辰弥はそのほぼすべての現場に居合わせる。

    さらに辰弥の部屋となった離れ屋敷はかつて母が監禁されていた場所なので母と密かな恋人との心の絆を思わせるし、隣の納戸には秘密の地下道への抜け道があることも見つけた。辰弥が抜け道を探ってみるとそこは広い広い鍾乳洞だった。どうやら戦国時代の尼子の武者たちの隠し財産はここにあるのか!?

    この物語は、全てを乗り切った辰弥が、金田一耕助に進められて心の整理として八つ墓村での恐ろしい経験を文章にしたもの。辰弥が完全に巻き込まれた中心人物で本人も相当酷い目に合うんだけど、何しろ素人なので金田一の耕ちゃんから「あなたは村から怪しまれてるんだから、何かあったらすぐに言いなさいね」って言わてるにも関わらず、鍾乳洞では秘密の冒険するし、殺人現場で人を見ても誰にも言わなかったりする。大丈夫か!
    さらに自分が容疑者の一人になっている連続殺人よりも「母はどうやって過ごしていたのか」「尼子家臣の隠し財産はどこだ?」「行方不明の父・要蔵はどこに消えた?」ってことや、それよりも自分に好意を示してくれる3人の女性、姉春代、未亡人美也子、遠縁典子との関係にも気を取られてしまう。「朝は春代とご飯食べて、昼は美也子と散歩して、夜は典子と鍾乳洞で会って…」って、あなた村中から狙われてるよ!?
    その意味では探偵小説なのに冒険小説!という面白さもあり、青春恋愛小説でもあり、様々な「愛」も出てます。要蔵の狂気執着の愛、鶴子と陽一の引き裂かれない愛、慎太郎と美也子の複雑な愛、閉鎖的な村にいる典子や春代が外から来た「まとも」な辰弥に示す愛、愛によって人に現れる変化もあります。
    犯人の動機も結局は「愛」でした。
    しかし殺人が解決してみれば…、…、…私は探偵小説において「探偵の眼の前で連続殺人が起こるのは物語の形式上仕方ない」という考えなのですが、今回ばかりは耕ちゃん防げたんじゃないの!?と思わざるを得ない!

    そんなこんなを乗り越えた辰弥はこの手記を書き…、ラストはびっくりの爽やかさ。
    ええ!?『八つ墓村』といったら山崎努のあまりにインパクトのあるあの容貌、映画予告の「祟りじゃーーー」(本編にこのセリフはない)の叫び、小川真由美の怖ろしい美しさ、惨劇を高笑いする落ち武者亡霊の夏八木勲、鍾乳洞のミイラなどなどおどろおどろしさでは金田一耕助映画トップクラスかと思っていたのに、この原作のこのラストの爽やかさは何なんだ。

    今回の事件でも関係のない人たちがたくさん殺される酷い事件だった。しかし戦国時代からの因縁や呪いに明治時代、昭和になっても覆われていた八つ墓村が、今回の陰惨な連続殺人で「祓われた」といえる清々しさ。辰弥だけでなく、八つ墓村も因縁を超えて新しい村を作っていこう!という希望を向いた物語になっていた。
    やっぱりすごいな横溝正史。耕ちゃんも今回の連続殺人は防げたんじゃないのとは思うけど、やっぱり清々しい風のような人だ。

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    2026年08月16日
  • 金田一耕助ファイル1 八つ墓村

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    一九七七年版の映画の印象が強い。原作はあれほどおどろおどろしくなく、語り口はユーモラスでさえある。金田一は終盤まであまり出てこない。鍾乳洞に舞台が移ってからは、探偵小説やホラー小説というより冒険小説。

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    2026年08月14日
  • 金田一耕助ファイル1 八つ墓村

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    ネタバレ

    おもしろかった〜!
    結末気になって一気に夜ふかしして読んだ

    金田一全然出てこなかったな

    あと自分なら財宝に手を付けるか悩むな

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    2026年07月27日
  • 金田一耕助ファイル19 悪霊島(下)

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    1979年。これが最後の作品。
    洞窟。孤島。いいね、横溝作品。
    なんだかんだと死体がいっぱい。この作品は昭和42年の事件ということになってる。しかし、まだ戦争を引きずっている。
    岡山弁まんさい。疎開してたし第2の故郷だね。
    磯川警部の件は驚いたが、犯人というか主犯はわかりやすい。これからも折に触れて読もう~~~~~
    令和の今でも日本語読みやすいのが素晴らしい。後世に伝わりますように。

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    2026年08月02日
  • 金田一耕助ファイル17 仮面舞踏会

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    1974年。再読なんだが、厚手の本だったことしか覚えてない。「江戸川乱歩に捧ぐ」と書いてある。
    昭和35年(1960年)。作者にしては新しい年設定だが、やはり戦前を引きずる。元華族とかねー。
    舞台は軽井沢。軽井沢ゴルフ大会(この時代はコンペとは言わないらしい)マーカーは赤い毛糸。
    東北出身者が多く、ズーズー弁は作者はわからないということで記載はない。昔東北に行ったとき何言ってるがわからず、ニュアンスで受け答えした。ハワイ行ったとき、東北より日本語通じる!って思った。いろえんぴつ、えろいんぴつ。いえ、私は東北好きですよ。
    人生は仮面舞踏会。人間関係がもつれて把握が難しいが、個人的には余韻が良い。

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    2026年08月02日
  • 金田一耕助ファイル3 獄門島

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    現代のビレッジホラーにつながる名作。「封建的な、あまりにも封建的な」戦後と言う時代背景と、島と言う閉鎖的な環境の中では、異常と思えることが日常になる。そして、誤った選択を繰り返してしまう。映画版久々に観たいなぁって思ったけど、原作も気になって読み返し。金田一耕助の目を通して、事件の全貌に触れ島国で起こる異常なまでの執念と、それに取り憑かれた人々による殺人事件。その真相に触れる。昭和中期の作品なので表現も楽しめる。9月には横溝正史原作の『八つ墓村』も新作公開されるし楽しみだなぁ。『八つ墓村』の初代金田一耕助は、寅さんの渥美清さんが演じてたからなんか変な感じだった。寅さんが謎解きしてる!って、見えちゃった。子供心に。

    #映画好きな人と繋がりたい #ホラー映画鑑賞 #映画鑑賞記録 #金田一耕助 #横溝正史

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    2026年07月22日