カンバンファのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ最近ちょくちょく韓国発の作品が増えてきて、早川書房やるな…!という感じ。
早川書房は安定して面白い作品を邦訳してくれるから助かるぜ。
短編集なのに、全体としての主題が全くブレないのは凄かったな。あとがきで語っていたように、ずっと同じことを考え続けてきたのだろうな、というのがしっかりと伝わってきた。
ある社会形態と個人の生態が矛盾するとき、その個人は時に異物とされることがある。
奈須きのこに言わせれば「怪物」なんだけど、社会形態に慣れている私たちにとって「怪物」と一緒に暮らし続けることはできない。もしそれを可能とするのなら、私たちが「怪物」になるか、「怪物」が「怪物」であることをやめるかしかない。
だから、作中の「怪物」であった彼らは、誰も社会の中で生きるという選択肢をとらなかったのだろう。(『ローラ』はそれでも愛があれば、その溝を埋められるかもね、という作品だったけれど)
SFにおけるファーストコンタクトとは、普遍だと思っていた私たちの価値観が、ある観点からすれば「怪物」になりうるという驚きだと思う。
その驚きこそがセンスオブワンダーであり、SFファンである以上そういった驚きを喜ばなくてはならない。科学によって文明が広がるように、出会いによって世界を広げなくてはならない。
キム・チョヨプが人と「怪物」における物語の舞台をSFに選んだのも、なるほど頷ける話だ。
まぁここらへんは序文と後書きで書かれているのだけどね。そこも含めて、短編集としてのクオリティが高かった名著です。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分がSFというジャンル自体をあまり読んでこなかったこともあるかもしれないが、概念や設定が完全には理解できない中で感情が動かされるという、不思議な読書体験ができた。
理解や共感が完全には及ばなくても他者を愛することができる、というような話も出てきたが(「ローラ」)、それが全話に共通するテーマの一つにもなっていると感じた。
「最後のライオニ」の、主人公自身の弱点だと思っていた特性が任務遂行に不可欠であったと気付く場面には、かなり励まされた。
上記のように要約しようとすると教訓めいた表現になってしまうのが惜しい…。
各話とも、その舞台となる場所の秘密が徐々に明らかになり、引き込まれながら楽しく読み進めることができた。
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Posted by ブクログ
ネタバレどの作品も心に残る作品でしたが、その中でも
最後のライオニ
ブレスシャドー
キャビン方程式
が好きでした。
相容れない者たちが時に反発し、時に惹かれあう姿が
とてもやさしい視点で描かれていました。
○最後のライオニ
他の人とは違うと思っていた主人公がほかの星に行くことで
他者とのつながりを知ってアイデンティティを確立していく姿が泣けました。
○ブレスシャドー
言語体系が全く異なる二人の友情と別れ。
リアルで蔓延している排外主義に重ねてしまいました。
「砂漠の隅っこで帽子をかぶっている靴下が見つかった……」
という言い回しが天才だと思います。
○キャビン方程式
物理学的な部分は宇宙猫状態でしたが、
局地的時間バブルというものを通して
姉妹が再びリアルタイムで通じ合えるラストがとても印象的でした。
マリのダンスは、
「マジョリティはマイノリティの声がうるさいと言うが
うるさくしないとマジョリティには聞こえない」
というようなことをどこかで聞いたことがあり、それを思い出しました。
ローラは、クレイジージャーニーの人体拡張回みたいでした。
古の協約は、村田沙耶香の「信仰」に入っていた「無害ないきもの」を思い出しました。
認知空間は、集合知識の危うさを描いていました。
ラストに亡き友人が遺し主人公が完成させたスフィアを手に、
格子ストラクチャを後にする主人公の姿が泣けました。
全く違うかもしれませんが、
ウィキッドでオズの魔法使いが言う
「みんなの信じたことが歴史と呼ばれている」というセリフを思い出しました。 -
Posted by ブクログ
〜あらすじ〜
正体不明の菌類『氾濫体』に地上は汚染され、地下都市に追いやられ、『氾濫体』による『錯乱症』怯えながら暮らす人類。
地上奪還のため氾濫体の調査・研究を行うため、地上へ出ることを唯一許されている『派遣者』になることを夢見る地下都市ラブバワに住む少女テリンは、師匠である派遣者のイゼフに憧れながら、派遣者の資格試験に挑み続ける。
美しい地上を夢見るテリンを中心に展開するSF。
〜感想〜
あらすじから住処を奪われた人類と氾濫体との戦いを巡るディストピアかと思い読み始めると、冒頭から三分の一くらいまでは地下都市ラブバワでのテリンの日々を淡々と描いていたのに、中盤から突然、個について、意識や自我の存在について問いかけ始める。
「自我とは?」
「個体とは?」
「死とは?」
「われわれとは?」
「わたしたちとは?」
「きみが本当にひとつの存在なのか」
人間と外側との境界線が崩れることで、人間と非人間との共生の難しさ、変化と困難がテーマとして浮き彫りになってくる。
本来の自分を全く失うことなく、異質な他者との共存は難しい。自身の存在や生存を脅かす危険性がある他者を、主人公のテリンは苦悩の果てに信じ、受け入れ、変化する。
テリンとイゼフが望む2人共通の夢と未来は、そこに憎しみも加えられて到達した結末はとても美しかった。
コロナを経たからこそ描くことができた、他者との共生と個の存在について描いた作品でした。
また何年かしたら再読してその時の自分がどう感じるのかを味わってみたい。 -
Posted by ブクログ
前の短編集が面白かったので、今作も購入。しばらく積んだのちようやく読み終えた。
どの作品でも、作中の人物は自分が属していた環境を離れる経験をする。
その時旅立つ彼らが振り返った、今まで属していた世界、また旅立つ彼らを見守る人、そんなものを描いているようだ。
彼らは自分と周囲の社会にどうしようもないミスマッチを抱える。
ある人は幻肢を持っているが、それは精神の病気だから治療すべきだと言われ、自分の気持ちを否定され続ける。
ある人は数百年のコールドスリープからすっかり変わってしまった世界に目覚めさせられ、言葉も通じず、何年経っても馴染むことができない。
彼らはたった一人で多数の人が作る良識や常識に耐え、傷つけられて、住み慣れた環境を離れる。
その時に、見送ってくれた人にそっと心を残す。それがタイトルの『この世界から「は」出ていく「けれど」』のように感じられる。
どの人にも、世界を出ていく前に一人の心通わせられた人がいた。感じ方や環境の変化から、離れることになっても、やはりお互いがお互いを理解しようと努め続けたり、心に残し続けたり、みんな繊細で、誠実で、優しい。
設定はSFなので非日常的だけど、他者と理解し合えず、違う世界を生きてるくらい孤立した気持ちは日常にある。
そんな気持ちを言語化されて、登場人物の中に客観視できて、成仏させられる、とても優しい短編集だと思う。
ただ、SFを読み慣れていないので、いちいち新しい世界の異なる常識に頭を書き換えるのが、面白くもあり、大変でもあった。
「一人前のロモン」?「間違った地図」??「粒子の意味」??? -
Posted by ブクログ
韓国の警察小説。
22年前の事件を追う3人の刑事の動向と、犯人の独白が交互に続く。
この巻の後半、被害者が所属していたドフトエフスキー小説を読む読書会のメンバーへの刑事のインタビューが始まるあたりから、犯人に近づいているような雰囲気が出始めるが、まだわからない。
下巻を読むのが待ちきれない。
内容とは別に、韓国語を勉強しているので、登場人物の名前や、ところどころに出てくる韓国語もとても興味深かった。
・アイゴ---女刑事ヨン・ジヘの口癖 「ああ、まあ、はあ」という意味の感嘆詞
・ノ・ナ・シロ---被害者の口癖 「あなた、わたしのこと、嫌いでしょ」の意 -
Posted by ブクログ
韓国文学にハマり、色々読み漁っていますが、短編集でこんなに好みだったのは久しぶりです。
ホラー作品とありますが、ホラーが苦手な私でも読める、ホラー要素控えめな作品です。
どの作品も登場人物の心理描写が切なく、それぞれの回想エピソードがエモさを引き立てています。
表題作の『カクテル、ラブ、ゾンビ』は、父親が飲んで帰って来た次の日にゾンビになったというお話。主人公のジュヨンは、しばらくゾンビになった父親を家で匿いますが、今後どうしていくべきか、色々な思いと葛藤する様子に、面白みと切なさを感じました。
『オーバーラップナイフ、ナイフ』はネタバレなしで読んでもらいたい作品です。 -
Posted by ブクログ
今時点で今年一だなと思う「わたしたちが光の速さで進めないなら」の著者の二つ目の長編。これもサイコウだった。
今回は人と人じゃないものの共生がテーマ。
氾濫体ってなに!?振動はなんなの!?テリンとイゼフ、ソノの関係は!?
世界の状況はすぐわかるのだけど、主人公のテリンを取り巻く状況がなかなか理解できず、読みがノってくるまでに少し時間がかかった。
ソールが覚醒したところあたりから、段々とページを捲る手が止まらなくなる。
テリンの生い立ちの謎。初ミッションで出会った沼人の正体。地下にもいる仲間たち。そして何よりイゼフの計画に自問自答する。
果たして自分だったら、イゼフのように考えるのではないか。見た目が違う、感じ方や伝え方が違うものへの畏怖、そこから生まれる差別的言動。
自分というのは、自我のある一つ個体で他から完全に独立したもの、ではなく他とゆるく繋がった存在である、というのがこの作品の構想にあるようだけど、そのように考えるならばイゼフのような考えには至らない。
2020年以降の世界への提言にも思えた。
あぁ、そしてテリンのイゼフへの愛と訣別。イゼフはテリンに世界を教え、テリンはイゼフに未来を見せた。両者とも愛が故に行動していたのに、最後は氾濫体への考え方の違いにより、悲しい結果になった。
SF度はめちゃくちゃ高い…けど、私がイメージしてた少年・男性っぽいSFとはまた違った優しい作品だから、ぜひたくさんの人に読んでみて欲しいと思った。 -
Posted by ブクログ
純文学っぽい文体で綴られたホラーは初めてかも。すごく新鮮だった。ストーリーの展開やいかに怖がらせるかのエンタメ要素の強い日本のホラーと違って、心情描写多め。面白かった。
『韓国で10万部突破の話題作、ついに日本上陸』との触れ込みで、2年連続年間ベストセラーに選ばれているらしい。デビュー作で海外に翻訳されるとか羨ましい限りである。
特に好きだったのは『湿地の愛』と『カクテル、ラブ、ゾンビ』
「湿地の愛」は、地縛霊である水辺の幽霊「ムル」が主人公。川で退屈な日々を送っていたとき、林のなかを歩いていた「スプ」に出会う。その後、二人はしばしば会いながら静かに心を通わせる。
「カクテル、ラブ、ゾンビ」の主人公は塾で講師をしている女性。ある日、いつものように会社の仲間たちとお酒を飲んで帰ってきた父が、ゾンビになってしまった。ニュースを見ると、ゾンビウイルスの一次感染者はすべて殺されてしまうことがわかる。家では家庭を顧みず偉そうに振る舞ってきた父だけれど、母と共になんとか匿おうとする。
普通ゾンビ作品ってもっとスケールが大きくて、人類やその土地に住む全員がゾンビ化するのを防ぐために戦ったりなんとか逃げたり、製薬会社に乗り込んで原因を突き止めたりするけれど、こんなにミニマムな「家族」という単位で描いていて、なおかつ面白いのはすごい。家族愛だけじゃなく、愛憎、父への憎しみも確かに心に抱きながら、それでも人生を前に進めようとする葛藤が良かった。