あらすじ
話題作『わたしたちが光の速さで進めないなら』に続く第2短篇集、待望の文庫化!
人より何十倍も遅い時間の中で生きる姉との葛藤を描く「キャビン方程式」など、社会の多数派と少数派が共存を試みる7つの物語。
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Posted by ブクログ
最近ちょくちょく韓国発の作品が増えてきて、早川書房やるな…!という感じ。
早川書房は安定して面白い作品を邦訳してくれるから助かるぜ。
短編集なのに、全体としての主題が全くブレないのは凄かったな。あとがきで語っていたように、ずっと同じことを考え続けてきたのだろうな、というのがしっかりと伝わってきた。
ある社会形態と個人の生態が矛盾するとき、その個人は時に異物とされることがある。
奈須きのこに言わせれば「怪物」なんだけど、社会形態に慣れている私たちにとって「怪物」と一緒に暮らし続けることはできない。もしそれを可能とするのなら、私たちが「怪物」になるか、「怪物」が「怪物」であることをやめるかしかない。
だから、作中の「怪物」であった彼らは、誰も社会の中で生きるという選択肢をとらなかったのだろう。(『ローラ』はそれでも愛があれば、その溝を埋められるかもね、という作品だったけれど)
SFにおけるファーストコンタクトとは、普遍だと思っていた私たちの価値観が、ある観点からすれば「怪物」になりうるという驚きだと思う。
その驚きこそがセンスオブワンダーであり、SFファンである以上そういった驚きを喜ばなくてはならない。科学によって文明が広がるように、出会いによって世界を広げなくてはならない。
キム・チョヨプが人と「怪物」における物語の舞台をSFに選んだのも、なるほど頷ける話だ。
まぁここらへんは序文と後書きで書かれているのだけどね。そこも含めて、短編集としてのクオリティが高かった名著です。
Posted by ブクログ
前作から好きだったが、今作でさらに好きな作家さんになった。
日常では当たり前すぎて意識しない人間の機能や感覚を、SFの世界を通して際立たせることで、改めてその尊さに気付かされるようだった。
前作もそうだが、翻訳者の方がとても上手で、国外の作品であるというフィルターを全く感じることなく読むことができた。
ブレスシャドー、認知空間、キャビン方程式が特に好きだった
Posted by ブクログ
自分がSFというジャンル自体をあまり読んでこなかったこともあるかもしれないが、概念や設定が完全には理解できない中で感情が動かされるという、不思議な読書体験ができた。
理解や共感が完全には及ばなくても他者を愛することができる、というような話も出てきたが(「ローラ」)、それが全話に共通するテーマの一つにもなっていると感じた。
「最後のライオニ」の、主人公自身の弱点だと思っていた特性が任務遂行に不可欠であったと気付く場面には、かなり励まされた。
上記のように要約しようとすると教訓めいた表現になってしまうのが惜しい…。
各話とも、その舞台となる場所の秘密が徐々に明らかになり、引き込まれながら楽しく読み進めることができた。
Posted by ブクログ
どの作品も心に残る作品でしたが、その中でも
最後のライオニ
ブレスシャドー
キャビン方程式
が好きでした。
相容れない者たちが時に反発し、時に惹かれあう姿が
とてもやさしい視点で描かれていました。
○最後のライオニ
他の人とは違うと思っていた主人公がほかの星に行くことで
他者とのつながりを知ってアイデンティティを確立していく姿が泣けました。
○ブレスシャドー
言語体系が全く異なる二人の友情と別れ。
リアルで蔓延している排外主義に重ねてしまいました。
「砂漠の隅っこで帽子をかぶっている靴下が見つかった……」
という言い回しが天才だと思います。
○キャビン方程式
物理学的な部分は宇宙猫状態でしたが、
局地的時間バブルというものを通して
姉妹が再びリアルタイムで通じ合えるラストがとても印象的でした。
マリのダンスは、
「マジョリティはマイノリティの声がうるさいと言うが
うるさくしないとマジョリティには聞こえない」
というようなことをどこかで聞いたことがあり、それを思い出しました。
ローラは、クレイジージャーニーの人体拡張回みたいでした。
古の協約は、村田沙耶香の「信仰」に入っていた「無害ないきもの」を思い出しました。
認知空間は、集合知識の危うさを描いていました。
ラストに亡き友人が遺し主人公が完成させたスフィアを手に、
格子ストラクチャを後にする主人公の姿が泣けました。
全く違うかもしれませんが、
ウィキッドでオズの魔法使いが言う
「みんなの信じたことが歴史と呼ばれている」というセリフを思い出しました。
Posted by ブクログ
前の短編集が面白かったので、今作も購入。しばらく積んだのちようやく読み終えた。
どの作品でも、作中の人物は自分が属していた環境を離れる経験をする。
その時旅立つ彼らが振り返った、今まで属していた世界、また旅立つ彼らを見守る人、そんなものを描いているようだ。
彼らは自分と周囲の社会にどうしようもないミスマッチを抱える。
ある人は幻肢を持っているが、それは精神の病気だから治療すべきだと言われ、自分の気持ちを否定され続ける。
ある人は数百年のコールドスリープからすっかり変わってしまった世界に目覚めさせられ、言葉も通じず、何年経っても馴染むことができない。
彼らはたった一人で多数の人が作る良識や常識に耐え、傷つけられて、住み慣れた環境を離れる。
その時に、見送ってくれた人にそっと心を残す。それがタイトルの『この世界から「は」出ていく「けれど」』のように感じられる。
どの人にも、世界を出ていく前に一人の心通わせられた人がいた。感じ方や環境の変化から、離れることになっても、やはりお互いがお互いを理解しようと努め続けたり、心に残し続けたり、みんな繊細で、誠実で、優しい。
設定はSFなので非日常的だけど、他者と理解し合えず、違う世界を生きてるくらい孤立した気持ちは日常にある。
そんな気持ちを言語化されて、登場人物の中に客観視できて、成仏させられる、とても優しい短編集だと思う。
ただ、SFを読み慣れていないので、いちいち新しい世界の異なる常識に頭を書き換えるのが、面白くもあり、大変でもあった。
「一人前のロモン」?「間違った地図」??「粒子の意味」???
Posted by ブクログ
1作読み終えたら「次の作品を読もう」ではなく、余韻に浸りたくなる短編集だった。
社会が複雑すぎて、相手の気持ちを理解するのが難しくなっている。何かのきっかけで心が通うように、ちょっとしたことですれ違ってしまう。
相手を大切に想っているのに、だからこそもどかしくて切なくて、いつまでも心に引っかかって残る作品ばかりだった。
Posted by ブクログ
やっぱりキムチョヨプさんの創り上げるSFの世界観が個人的にすごく好きだなと感じました。
前作の光の速さよりもSF感が強くなっていて、のめり込んで読んでしまうほどでした。
Posted by ブクログ
個人の世界とまた別の個人の世界とが重なる瞬間、すれ違う瞬間を感じた。
わたしたちが人と関わるときに感じるズレや一致を思い出す。どの短編も心に響くものがある。自分はとくに「マリのダンス」「認知空間」が好き。
Posted by ブクログ
“わたしたちが光の速さで進めないなら”に続き、またも印象的なタイトルと表紙に惹かれて購入。
初っ端から最後のライオニに涙腺を緩ませられました。他の短編もやっぱりどこか切ないものばかりでしたが、それだけではなくじんわりあたたかい優しさも持ち合わせた作品ばかりで、読んで良かったです。
Posted by ブクログ
『私たちが光の速さで進めないなら』が良かったので期待してこちらも購入。文庫化たすかる。
たとえ同じ人間という種族であっても違う個体であれば本当に理解し合えない部分というものは存在する。様々な理由からどうしたって一緒にはいられないけれど、あなたはかけがえのない存在で互いの芯の部分に触れ合えたような気がした瞬間や一緒に居れた時間をギュッと抱きしめて、あなたの幸福を祈りつつ私は自分の人生を生きていくよ、といったような寂しさを描くのが本当に上手だなと思う。
好きだったお話は『ブレスシャドー』と『古の協約』。
『ブレスシャドー』は全然馴染めなかった故郷と、そんな中でも仲良くしてくれた数少ない友人を思い出した。悲しくつらい環境の中で温もりを感じされてくれるただ唯一の存在。ジョアンの言葉に私はとても共感した。「ここに愛着を抱かせるものが、ここへの憎しみを紛らわせてくれるわけじゃない。それは同時に存在するものなの。あらゆるものがそうであるように」
『古の協約』はノアからイジョンへのメッセージの形式で書かれている。違う星で生まれた者同士がこれほどまでに気が合って交流している様子が本当に尊くて、二人が一緒に居た宝物のような時間を見せてもらった気持ちになる。彼らはやっぱり一緒にはいられないけれど、このメッセージを読み終えた時、私が想像していたノアの住む惑星ベラータの景色がさらに彩度を増し輝いた。惑星の生命サイクルの一部つまり惑星の一部としてノアはきっとずっとそこにいるし、かつて二人が交流した美しい時間があったことを知っているので。
Posted by ブクログ
色んな意味での旅立ちや別れがそれぞれの短編で起きるので、どうしてもものさみしい気持ちになる。
同じ場所で、あなたと変わらずこのままで、が叶わない世界。
だけどそれは決して絶望的な別れではなく、互いのことを想いあった上でのままならない別れであったりもするから、読み終わったあとに残る感情は決してネガティブなものではない。
不思議。
別れの中でも死別が最も大きなものと私は捉えてしまうけれど、今なら「またね」と言える気がする。もう会えない、交わらない時間のことだけを想って絶望する私ではなくなったような感じがする。
地球が舞台の短編の方が少ないくらい、あくまでもしっかりSFなんだけど、舞台がどこかなんて関係がないなと思った。
誰かが誰かを(それが人間でなくても)想う気持ちにおいて、有機物か無機物かですら関係ないと思えるのだから、性別だとか人種だとか年齢だとか、普段うっかり気にしてしまうような事がすべて些細なことに思える。マイノリティとマジョリティの対比が印象的な場面が多いけれど、決してどちらにも加担しない、同情しないような描き方でとても好きだった。
「最後のライオニ」「ブレスシャドー」が特にお気に入りです。