【感想・ネタバレ】派遣者たちのレビュー

あらすじ

地下都市に暮らすテリンは、もはや人が住めなくなった地上へ行くことを切望していた。師匠のイゼフが地上の素晴らしい夕焼けの美しさや夜空を横切る星の輝きを教えたから。だがタリンは地上へ行ける“派遣者”になるための試験の直前、不思議な幻聴を体験する。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

〜あらすじ〜
正体不明の菌類『氾濫体』に地上は汚染され、地下都市に追いやられ、『氾濫体』による『錯乱症』怯えながら暮らす人類。
地上奪還のため氾濫体の調査・研究を行うため、地上へ出ることを唯一許されている『派遣者』になることを夢見る地下都市ラブバワに住む少女テリンは、師匠である派遣者のイゼフに憧れながら、派遣者の資格試験に挑み続ける。
美しい地上を夢見るテリンを中心に展開するSF。

〜感想〜
あらすじから住処を奪われた人類と氾濫体との戦いを巡るディストピアかと思い読み始めると、冒頭から三分の一くらいまでは地下都市ラブバワでのテリンの日々を淡々と描いていたのに、中盤から突然、個について、意識や自我の存在について問いかけ始める。
「自我とは?」
「個体とは?」
「死とは?」
「われわれとは?」
「わたしたちとは?」
「きみが本当にひとつの存在なのか」
人間と外側との境界線が崩れることで、人間と非人間との共生の難しさ、変化と困難がテーマとして浮き彫りになってくる。
本来の自分を全く失うことなく、異質な他者との共存は難しい。自身の存在や生存を脅かす危険性がある他者を、主人公のテリンは苦悩の果てに信じ、受け入れ、変化する。
テリンとイゼフが望む2人共通の夢と未来は、そこに憎しみも加えられて到達した結末はとても美しかった。
コロナを経たからこそ描くことができた、他者との共生と個の存在について描いた作品でした。
また何年かしたら再読してその時の自分がどう感じるのかを味わってみたい。

0
2025年10月15日

Posted by ブクログ

同著者2冊目。
完全にファンになりました。
SFの世界観でありながら純文学のような、あるいは思考実験のような側面をもつ作品なので、これまで全くSFに触れてこなかった私にも刺さります。

キム・チョヨプさん、これから積極的にオススメしていきたいです。

0
2025年09月22日

Posted by ブクログ

互いの不完全さを知り、違いを認め、生き方を尊重することの大切さ、そして自分にとっての幸せのあり方について考えさせられた一冊。「大事なのはね、自分が自分だけで成り立ってるって幻想を捨てること。そしたら、可能性は無限だよ」という言葉に連れた。

0
2025年06月14日

Posted by ブクログ

今時点で今年一だなと思う「わたしたちが光の速さで進めないなら」の著者の二つ目の長編。これもサイコウだった。

今回は人と人じゃないものの共生がテーマ。

氾濫体ってなに!?振動はなんなの!?テリンとイゼフ、ソノの関係は!?
世界の状況はすぐわかるのだけど、主人公のテリンを取り巻く状況がなかなか理解できず、読みがノってくるまでに少し時間がかかった。

ソールが覚醒したところあたりから、段々とページを捲る手が止まらなくなる。
テリンの生い立ちの謎。初ミッションで出会った沼人の正体。地下にもいる仲間たち。そして何よりイゼフの計画に自問自答する。

果たして自分だったら、イゼフのように考えるのではないか。見た目が違う、感じ方や伝え方が違うものへの畏怖、そこから生まれる差別的言動。
自分というのは、自我のある一つ個体で他から完全に独立したもの、ではなく他とゆるく繋がった存在である、というのがこの作品の構想にあるようだけど、そのように考えるならばイゼフのような考えには至らない。
2020年以降の世界への提言にも思えた。

あぁ、そしてテリンのイゼフへの愛と訣別。イゼフはテリンに世界を教え、テリンはイゼフに未来を見せた。両者とも愛が故に行動していたのに、最後は氾濫体への考え方の違いにより、悲しい結果になった。

SF度はめちゃくちゃ高い…けど、私がイメージしてた少年・男性っぽいSFとはまた違った優しい作品だから、ぜひたくさんの人に読んでみて欲しいと思った。

0
2025年03月15日

Posted by ブクログ

キム・チョヨプさんの長編です。
この作品の舞台は、宇宙から飛来した外来種である「氾濫体」に覆われた地球。人類は氾濫体に触れると錯乱症を発現するため、これを恐れて地下へ潜って生活をしています。いつか地球を自分たちの手に奪還するため、地上の探査をしており、その危険な任務を担うのが派遣者と呼ばれる選び抜かれた人たちです。物語は、派遣者になることを夢見る主人公のテリンを中心に描かれています。
この設定に惹かれて手に取りましたが、めちゃくちゃ面白くて一気読みでした。
キム・チョヨプさんの作品は、一貫して他者理解と共生がテーマにあります。今作も、人間と氾濫体がいかにして共存していくか、テリンが葛藤を抱えながらも不可能に立ち向かい、その方法を模索していく姿に感動しました。
私たちが生きているこの世界では、他の存在と関係を結ばなければ生きられないこと。すでに異質な他者と繋がりあって存在していることに気付かされた作品でした。

0
2025年01月11日

Posted by ブクログ

今年のK-BOOKフェスティバルで行われたファンミーティングでは、この小説の結末が賛否両論を呼び起こすかもしれない、と編集者らには言われていた。なぜだろうか。読んでみれば、キム・チョヨプは"平常運転"しかしていない。他者との共存をテーマにしている点で、キム・チョヨプが追究しているテーマの範疇にあると言える。彼女の作品はSFミステリーというよりはSF倫理学だ。SFの想像力をもって、宇宙から飛来し、人類の歴史を超えた他者を作り出す。それとの共存さえ模索すべきであることを示唆するので、極めて倫理的なのである。

0
2024年12月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

他者との共生とそこで発生する問題についてしっかりと描かれていた。氾濫体に対する嫌悪感の描写が昨今の移民問題や過去の迫害の問題に繋がっていることがすごい。
確かに個人という意識、国のアイデンティティ、そういうものにずっと囚われていては争いはいつまでたっても終わることがないよな
人間という生き物をイゼフが象徴していると思う。自分や自分の守りたいものを守るため正義の名の下に他者を傷付ける。

相変わらず翻訳がとても読みやすい

0
2025年08月05日

Posted by ブクログ

面白かった。SFは苦手だと思ってたけど、恐い描写があるわけではなく、綺麗であたたかい世界の中でストーリーが流れていって、読んでて心地よかった。

0
2025年07月13日

Posted by ブクログ

地上が正体不明の菌類 "氾濫体" に汚染され、地下都市のラブバワに住む少女テリンが、地上世界に憧れ、氾濫体の調査・研究を行う "派遣者" を目指そうとする話

しかし、自身の脳内に氾濫体となる、自分とは異なる意識をもっていることに気づく

脳内にいる氾濫体を呼びやすいよう "ソール" と名付け、コントロールしようとするができず、消すと脅したり、なだめたり、ほっといたりするがやがてソール自身が意思を持って主人公をコントロールしだす

地上を再び人類のものとする目的のもと派遣者となるが、
氾濫体と人間のあいだにたち
葛藤に苦しみながら、心が揺れ動きながら
地上と地下都市の共生や、
氾濫体と人間の共生や、
そして他人との考え方や価値観が異なること、
わかりあえない他者との共存について考えるようになる

希望のある、新たな道のりを歩む的な終わりかたが心地よく清々しい

0
2025年08月16日

「SF・ファンタジー」ランキング