カンバンファのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
視点の切り取り方の目新しさや、特に女性同士が築く関係性の描き方の豊かさが特徴的なように感じている作者の新刊。こちらもこれまでの作品同様の温かさと新鮮さが感じられた短編集でした。すべてSF作品ではあるんですが、血の通ったSFというか、必ず人の感情が影響して物語が成り立っているので、目新しい設定でもすんなりと入り込めるように思います。
他のだれもが読めない本を並べる書店にやがて読める人が訪れる奇蹟を描いた表題作で運命的な邂逅に心を躍らされる一方、「サボテンを抱く」では物理的な感覚と内からの感情に乱される哀れさをただ切なく受け止める。
この本のお話では「外から来た居住者たち」が一番好きです。不可思議なひととき限りの出会いは少しだけ、けれど確実にひとりの意識を変えることになった。ありえないけどありえるかもしれない「もしかして」が日々に彩りを増したと考えるとなんだかふわりと楽しい気分になれました。あなたの隣に宇宙人って古くからずっとあるけど、料理の仕方でいろんなふうに味わえて、好きなテーマです。
そんな、多様な面白さが詰まった短編集です。長編「派遣者たち」のプロトタイプの作品もあるので、そちらを読んでからのほうがすっと馴染んで読めるかもしれません。 -
Posted by ブクログ
ネタバレダガー賞読書会のために読んだ本その2。
韓国ミステリ小説は初めて読みました。ミステリというより、サスペンスやスリラーかな。
裏表紙のあらすじでかなりネタバレされているとはいえ、ハラハラしました。
旅行先で、災害ツアーを保つために、人為的な災害を引き起こそうとする企みに巻き込まれてしまう。
旅行企画会社の社員でも、「ワニ75」を与えられてしまう…「自分は読者じゃなく、読まれている側」だと思い知ってしまうのはかなり怖いです。
一人一人にはドラマがあっても、大きな災害となると個人は見えなくなってしまう。
番号で描かれていく終盤の災害描写、あまり読んだことがない形式で、ほんとに台本みたいでした。こんな作品だとは…
旅行前に読んでしまったのを後悔しましたが、こちらも引き込まれて引きずった読書でした。 -
Posted by ブクログ
『私たちが光の速さで進めないなら』が良かったので期待してこちらも購入。文庫化たすかる。
たとえ同じ人間という種族であっても違う個体であれば本当に理解し合えない部分というものは存在する。様々な理由からどうしたって一緒にはいられないけれど、あなたはかけがえのない存在で互いの芯の部分に触れ合えたような気がした瞬間や一緒に居れた時間をギュッと抱きしめて、あなたの幸福を祈りつつ私は自分の人生を生きていくよ、といったような寂しさを描くのが本当に上手だなと思う。
好きだったお話は『ブレスシャドー』と『古の協約』。
『ブレスシャドー』は全然馴染めなかった故郷と、そんな中でも仲良くしてくれた数少ない友人を思い出した。悲しくつらい環境の中で温もりを感じされてくれるただ唯一の存在。ジョアンの言葉に私はとても共感した。「ここに愛着を抱かせるものが、ここへの憎しみを紛らわせてくれるわけじゃない。それは同時に存在するものなの。あらゆるものがそうであるように」
『古の協約』はノアからイジョンへのメッセージの形式で書かれている。違う星で生まれた者同士がこれほどまでに気が合って交流している様子が本当に尊くて、二人が一緒に居た宝物のような時間を見せてもらった気持ちになる。彼らはやっぱり一緒にはいられないけれど、このメッセージを読み終えた時、私が想像していたノアの住む惑星ベラータの景色がさらに彩度を増し輝いた。惑星の生命サイクルの一部つまり惑星の一部としてノアはきっとずっとそこにいるし、かつて二人が交流した美しい時間があったことを知っているので。 -
Posted by ブクログ
『サボテンを抱く』
皮膚が過敏になり、物質と接触するだけで激しい痛みを伴う障害を患った元建築家のパヒラと、お手伝いロボットの話。
『#cyborg_positive』
機械の眼を持つインフルエンサーリジーが、企業のプロモーションを受けるか迷う話。
『メロン売りとバイオリン弾き』
万引き常習犯の子供ふたりが出会ったメロン売りとバイオリン弾きの話。
『デイジーとおかしな機械』
同じ空間にいるふたりと音声を文字として表示する機械の話。
『惑星語書店』
脳内インプラントの言語変換機能を妨害することで、読む能力がなければ読めないようになっている本を売る書店の店員と、努力して惑星語を習得しようとしている教授の話。
『願いコレクター』
願いを形にする人格オブジェクトの話。
『切ないラブソングはそれぐらいに』
なぜ周期的にバラードが流行るのか調査するタイムトラベラーの話。
『とらえられない風景』
ウェディングフォトグラファーのリッキーが写真撮影できない場所でなんとかして風景をとらえようとする話。
『沼地の少年』
高度な集合知性を持つバクテリアが繁殖する沼と、そのバクテリアに吸収されながらも自我を保っている元人間のオーウェンと、死にかけの少年の話。
『シモンをあとにしながら』
研究者のソウンと、寄生生物に顔を覆われ仮面のような様相になったシモンの人の話。
『みんなのココ』
トラックに轢かれて3年後に目覚めたユナと、当たり前のように存在する地球外生命体ココを愛玩する人間たちの話。
『汚染区域』
研究者のラトナと、キノコに皮膚を覆われた人々が住む村の話。
『外から来た居住者たち』
寂れたサービスエリアで人を待つ味覚音痴のダヒョンが見つけた、超味覚をもつ店主が経営するレストランの話。
『最果ての向こうに』
研究者ヨヌが研究者ラトナに宛てたメッセージ。
14編のSF短編集。
感覚の共有と感覚の相違、あたりまえがそうじゃない。常識を軽く揺さぶってくるような微妙な距離感のSF。作り込まれた長編作品より、これぐらいの短編の方が想像の余地があって面白い。 -
Posted by ブクログ
読んだ。薄かったのでサクッと。全体的には「切ない」という言葉なのだが、「切ない」と言い切ってしまうまで「切ない」わけでもない。ふと胸に宿る寂寞のカケラに気が付かされるような。そのカケラに向き合って過ごすにはあまりに小さすぎるような。でもその存在に気がついたなら明日からの私達は同じではいられない。ケン・リュウの時のようなひりつく苦味と切なさでもなくて、地に足をつけた優しさを感じる。
また、この著者は自らの世界観を広げて小説書くタイプだ。他の本も繋がっている。「派遣者たち」は読みたいし、他も手を広げたい。
直接内容の感想ではない所だと、翻訳が日本人では無いということが新鮮。勿論相互の言語に堪能なのであればどこの誰がやっても構わないのだが大抵の場合訳者の欄にはどの言語であっても日本人の名前が載っている場合が多いので。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ私の周りに溢れている愛と幸せを改めて実感。
色んな人から沢山の愛をもらってる。私もちゃんと伝えたい。言葉でも、行動でも。
いつも読むのは小説、ビジネス本、自己啓発本が多いけれど、時にはエッセイもいいな。心が軽く優しくなる。
---以下、引用
>幸せが逃げていく3つの言葉
「今」ではなく「いつか」
「ここ」ではなく「どこか」
「あなた」ではなく「だれか」
>強く押しても、引き戸は開かない。
相手への充分な理解と関心なくして心の扉は開かない。今、このドキドキが本当に恋なのか
それとも単にドアを開けてみたいだけなのかじっくり見極めて。
>いつかだれかの部屋に長居することになっても自分の部屋の掃除や、植木の水やり、布団をたたみ、時にはすてきな小物で玄関を飾ることを言ってはダメ。
「愛」が望んでいるのはあなたが自分を忘れることではないから。
>愛とは、相手に合わせて自己を犠牲にすることでもなければどちらが優勢か試すことでもない。
今日は何が食べたいのかを正直に伝え合い時に譲り時に譲らず、共に決める過程こそ愛である。
自分を大切にしながら相手を思いやる。
どちらも楽に息ができる場所を一緒につくっていく。
二色の絵の具が混ざっていくように二つの自己は本来の色を損なわず、新しい色となって美しい絵を描きだす。 -
Posted by ブクログ
ダストという毒物の蔓延時代を生き抜いた人々と、アマラとナオミの姉妹、レイチェルとジスの物語、そしてダストと謎の蔓草モスバナがたどる道。
滅亡寸前の悲惨な時代から、ようやく復興した地球。あのとき世界を救った、二人と二人の真実とは…。
コロナを彷彿させる描写ですが、私は最初なかなか読み進められなかった。第一章(100ページ)が終わってから段々と物語は加速しだすんだけどゆっくり語られていくような感じ。第二章のアマラとナオミの話が面白かった。第三章のレイチェルとジスの関係性には興味深かった。
ダスト終息はテクノロジーと全人類的な協力による勝利と受け止められてきたけど、本当はそれだけではなかった。
ダストを取り除く効果があるモスバナを各地に植え育てたナオミ、ジス、フリムビレッジにいた人たち、そしてレイチェルのお陰で人類は救われてたいた。
キム・チョヨプを読むのは「わたしたちが光の速さで進めないなら」から2作目。難しかったけど再生していく姿は清々しくもあって希望がもてた。 -
Posted by ブクログ
サイケデリックな装丁の表紙が示すように、表現されている物語には少し血の色が濃くて、ゾンビだったり殺人だったり、強烈な展開が含められています。けれど物語はそのけばけばしいエグさばかりでなく、登場する人物のなまなましい感情が描かれていて、表面的なインパクトばかりを狙った作品たちではない、と思います。
表題作では、突然ゾンビになった父親を前にした、母と娘の葛藤が描かれています。それまでの家族関係の複雑さ、母娘の間の互いへの親愛、ゾンビ化が進む父親に対する最後の決断をしかねる、親子というしがらみ。さばさばとしたようで、絡まる親子の縁に悩まされる娘を、えいやと救ったのは他でもない母親で、その行動と台詞の気風の良さがとてもすがすがしい。
一方、「オーバーラップナイフ、ナイフ」では泥沼めいた家族関係を打破しようと足掻く人々の、まっすぐな想いと、それが裏腹に出る運命、「起こるべきことは起こる」悲惨を、いっさい救いなく描き切っています。終わりが来るということを「必然」として、それでもそれが哀しく酷いばかりでない、過程の人々の他者へ向けるやさしさや想いは真実だったからと思わせる、やはりすがすがしさが後に残ります。
この作品集は、血や恨みを描きつつも、そういった後腐れのない爽快さがあり、それは作者の個性なんだろうなと思えました。これからも作者の作品を読んでいきたいです。 -
Posted by ブクログ
ダストという毒物の蔓延により、動植物が死に絶え、滅亡の危機に立たされた時代を生き抜いた幼い姉妹・アマラとナオミ、そして謎の女性・ジスとレイチェルの物語。
過酷な状況の中、アマラとナオミが辿り着いたフリムビレッジでの生活は、束の間の平穏と、徐々に追い詰められていくことで破綻していく人間関係が上手く描かれていました。そんな中でも、“明日“を迎える希望を胸に、生き抜こうととする力強さがとても良かった。
ジスとレイチェルは、キム・チョヨプさんが作品のテーマとしている、分かり合えないものだとしても共生したいという関係性を感じました。
キム・チョヨプさんの、切なく物悲しい世界の中に、かすかな温かさを感じる眼差しがとても心に沁みる作品でした。