カンバンファのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ最近ちょくちょく韓国発の作品が増えてきて、早川書房やるな…!という感じ。
早川書房は安定して面白い作品を邦訳してくれるから助かるぜ。
短編集なのに、全体としての主題が全くブレないのは凄かったな。あとがきで語っていたように、ずっと同じことを考え続けてきたのだろうな、というのがしっかりと伝わってきた。
ある社会形態と個人の生態が矛盾するとき、その個人は時に異物とされることがある。
奈須きのこに言わせれば「怪物」なんだけど、社会形態に慣れている私たちにとって「怪物」と一緒に暮らし続けることはできない。もしそれを可能とするのなら、私たちが「怪物」になるか、「怪物」が「怪物」であることをやめるかしか -
Posted by ブクログ
ネタバレ自分がSFというジャンル自体をあまり読んでこなかったこともあるかもしれないが、概念や設定が完全には理解できない中で感情が動かされるという、不思議な読書体験ができた。
理解や共感が完全には及ばなくても他者を愛することができる、というような話も出てきたが(「ローラ」)、それが全話に共通するテーマの一つにもなっていると感じた。
「最後のライオニ」の、主人公自身の弱点だと思っていた特性が任務遂行に不可欠であったと気付く場面には、かなり励まされた。
上記のように要約しようとすると教訓めいた表現になってしまうのが惜しい…。
各話とも、その舞台となる場所の秘密が徐々に明らかになり、引き込まれながら楽しく読み -
Posted by ブクログ
ヒューマノイドが浸透し
人間から労働力を奪っている近未来の韓国
競走馬にはスピードが求められ
選手としての寿命は1年ほど
軟骨がすり減り立っていることもままならなくなると安楽死に処される
相棒の馬トゥデイを助けるためわざと落馬して騎手としての存在価値がなくなってしまった廃棄目前の
騎手ヒューマノイド コリー
そんなコリーに手を差し伸べた少女ヨンジェ
脊髄性小児麻痺で車椅子生活の姉ウネは故障のため安楽死が確定していたコリーの相棒の競走馬
トゥデイに手を差し伸べた
いろいろなものを消費しては生み出していく
循環社会からこぼれ落ちてしまったものたち
社会的価値がないもの
役に立たないものたち
そ -
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ネタバレどの作品も心に残る作品でしたが、その中でも
最後のライオニ
ブレスシャドー
キャビン方程式
が好きでした。
相容れない者たちが時に反発し、時に惹かれあう姿が
とてもやさしい視点で描かれていました。
○最後のライオニ
他の人とは違うと思っていた主人公がほかの星に行くことで
他者とのつながりを知ってアイデンティティを確立していく姿が泣けました。
○ブレスシャドー
言語体系が全く異なる二人の友情と別れ。
リアルで蔓延している排外主義に重ねてしまいました。
「砂漠の隅っこで帽子をかぶっている靴下が見つかった……」
という言い回しが天才だと思います。
○キャビン方程式
物理学的な部分は宇宙猫状態 -
Posted by ブクログ
〜あらすじ〜
正体不明の菌類『氾濫体』に地上は汚染され、地下都市に追いやられ、『氾濫体』による『錯乱症』怯えながら暮らす人類。
地上奪還のため氾濫体の調査・研究を行うため、地上へ出ることを唯一許されている『派遣者』になることを夢見る地下都市ラブバワに住む少女テリンは、師匠である派遣者のイゼフに憧れながら、派遣者の資格試験に挑み続ける。
美しい地上を夢見るテリンを中心に展開するSF。
〜感想〜
あらすじから住処を奪われた人類と氾濫体との戦いを巡るディストピアかと思い読み始めると、冒頭から三分の一くらいまでは地下都市ラブバワでのテリンの日々を淡々と描いていたのに、中盤から突然、個について、意識や -
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前の短編集が面白かったので、今作も購入。しばらく積んだのちようやく読み終えた。
どの作品でも、作中の人物は自分が属していた環境を離れる経験をする。
その時旅立つ彼らが振り返った、今まで属していた世界、また旅立つ彼らを見守る人、そんなものを描いているようだ。
彼らは自分と周囲の社会にどうしようもないミスマッチを抱える。
ある人は幻肢を持っているが、それは精神の病気だから治療すべきだと言われ、自分の気持ちを否定され続ける。
ある人は数百年のコールドスリープからすっかり変わってしまった世界に目覚めさせられ、言葉も通じず、何年経っても馴染むことができない。
彼らはたった一人で多数の人が作る良識や常識 -
Posted by ブクログ
韓国の新進気鋭のSF作家 キム・チョヨプの初短編集。
ほとんどの作品がマイノリティを主人公にしている。特に女性科学者が多い。これらの主人公はマイノリティである一方で、社会的には成功者達である気がするので、その辺をどう捉えたらいいんでしょうか。フェミニズム文学?マイノリティ文学?(そもそも間違っているかも?)についての理解不足が露呈している。
この短編集は地球滅亡などの大きな危機に立ち向かうものではなく、科学技術の発展した近未来での人間の心理を題材にしたものになっている。ハードの進化によるソフトの変化を考えるうえで非常に面白い作品群だった。
ハード面については、サイボーグ化といった身体改造