あらすじ
翻訳機が使えない本だけを売っている辺境の惑星の書店を訪ねてきた女性の意外な目的とは……(表題作)。物に触ると鋭い痛みを感じる女性の家には、かつての思い出の品があって……『サボテンを抱く』。見たこともない不思議な世界の瞬間へと誘われる掌篇14作
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Posted by ブクログ
視点の切り取り方の目新しさや、特に女性同士が築く関係性の描き方の豊かさが特徴的なように感じている作者の新刊。こちらもこれまでの作品同様の温かさと新鮮さが感じられた短編集でした。すべてSF作品ではあるんですが、血の通ったSFというか、必ず人の感情が影響して物語が成り立っているので、目新しい設定でもすんなりと入り込めるように思います。
他のだれもが読めない本を並べる書店にやがて読める人が訪れる奇蹟を描いた表題作で運命的な邂逅に心を躍らされる一方、「サボテンを抱く」では物理的な感覚と内からの感情に乱される哀れさをただ切なく受け止める。
この本のお話では「外から来た居住者たち」が一番好きです。不可思議なひととき限りの出会いは少しだけ、けれど確実にひとりの意識を変えることになった。ありえないけどありえるかもしれない「もしかして」が日々に彩りを増したと考えるとなんだかふわりと楽しい気分になれました。あなたの隣に宇宙人って古くからずっとあるけど、料理の仕方でいろんなふうに味わえて、好きなテーマです。
そんな、多様な面白さが詰まった短編集です。長編「派遣者たち」のプロトタイプの作品もあるので、そちらを読んでからのほうがすっと馴染んで読めるかもしれません。
Posted by ブクログ
掌編集でどれも読みやすいし著者自身が序文で語っている通り、掌編だから思い切って細かい設定や背景の描写はすっ飛ばしてる潔さもあって読みやすい。
過去作同様マイノリティへの優しい視線や普遍的な人生観を扱っているけれど掌編故にメッセージがむき出しで迫ってくるのも良い。
デイジーとおかしな機械、惑星語書店、とらえられない風景、外から来た居住者たち、が特に好きだった。
Posted by ブクログ
掌篇集ということで、キム・チョヨプさん特有の抒情性は少し薄れるものの、あいかわらずのやわらかな筆致。ワンアイデアで広がる豊かなイマジネーションがすばらしい。
絵画から着想を得たもの、特殊な五感を持つ人、20年ごとにバラードが流行る謎の調査、アナログへと回帰することで捉えられるもの。
表題作の『惑星語書店』はふたりのこの先も見てみたくなるようなわくわく感があった。
Posted by ブクログ
『サボテンを抱く』
皮膚が過敏になり、物質と接触するだけで激しい痛みを伴う障害を患った元建築家のパヒラと、お手伝いロボットの話。
『#cyborg_positive』
機械の眼を持つインフルエンサーリジーが、企業のプロモーションを受けるか迷う話。
『メロン売りとバイオリン弾き』
万引き常習犯の子供ふたりが出会ったメロン売りとバイオリン弾きの話。
『デイジーとおかしな機械』
同じ空間にいるふたりと音声を文字として表示する機械の話。
『惑星語書店』
脳内インプラントの言語変換機能を妨害することで、読む能力がなければ読めないようになっている本を売る書店の店員と、努力して惑星語を習得しようとしている教授の話。
『願いコレクター』
願いを形にする人格オブジェクトの話。
『切ないラブソングはそれぐらいに』
なぜ周期的にバラードが流行るのか調査するタイムトラベラーの話。
『とらえられない風景』
ウェディングフォトグラファーのリッキーが写真撮影できない場所でなんとかして風景をとらえようとする話。
『沼地の少年』
高度な集合知性を持つバクテリアが繁殖する沼と、そのバクテリアに吸収されながらも自我を保っている元人間のオーウェンと、死にかけの少年の話。
『シモンをあとにしながら』
研究者のソウンと、寄生生物に顔を覆われ仮面のような様相になったシモンの人の話。
『みんなのココ』
トラックに轢かれて3年後に目覚めたユナと、当たり前のように存在する地球外生命体ココを愛玩する人間たちの話。
『汚染区域』
研究者のラトナと、キノコに皮膚を覆われた人々が住む村の話。
『外から来た居住者たち』
寂れたサービスエリアで人を待つ味覚音痴のダヒョンが見つけた、超味覚をもつ店主が経営するレストランの話。
『最果ての向こうに』
研究者ヨヌが研究者ラトナに宛てたメッセージ。
14編のSF短編集。
感覚の共有と感覚の相違、あたりまえがそうじゃない。常識を軽く揺さぶってくるような微妙な距離感のSF。作り込まれた長編作品より、これぐらいの短編の方が想像の余地があって面白い。
Posted by ブクログ
読んだ。薄かったのでサクッと。全体的には「切ない」という言葉なのだが、「切ない」と言い切ってしまうまで「切ない」わけでもない。ふと胸に宿る寂寞のカケラに気が付かされるような。そのカケラに向き合って過ごすにはあまりに小さすぎるような。でもその存在に気がついたなら明日からの私達は同じではいられない。ケン・リュウの時のようなひりつく苦味と切なさでもなくて、地に足をつけた優しさを感じる。
また、この著者は自らの世界観を広げて小説書くタイプだ。他の本も繋がっている。「派遣者たち」は読みたいし、他も手を広げたい。
直接内容の感想ではない所だと、翻訳が日本人では無いということが新鮮。勿論相互の言語に堪能なのであればどこの誰がやっても構わないのだが大抵の場合訳者の欄にはどの言語であっても日本人の名前が載っている場合が多いので。
Posted by ブクログ
短編なのでさくさく読める上に、どのお話もしっかりと心にあたたかいおみやげを残してくれる。収録作の『サボテンを抱く』と『惑星語書店』が特に良かった。「痛みを与えないことが愛なのか、はたまた痛みに耐えることが愛なのか」という言葉が印象的。
Posted by ブクログ
「サボテンを抱く」と、表題作「惑星語書店」がとてもよかった。
特にサボテンを抱くは最初に収録されているお話なのもあって一気に心を掴まれてしまった。
SFなのでそれぞれに世界観設定のようなものがちゃんとあるわけなのですが、説明的な文章が全然ないのにしっかりその世界に入っていけて、本当にすごい。頭の中がサボテンやらキノコやら謎の菌糸生物やら宇宙の黄色い絶景やらでいっぱいです。
どうしてこんなに景色が浮かぶんだろう。掌編だけあって色んな世界を見れるので、惑星間旅行から帰ってきましたみたいな顔で本を閉じました。
ひとつひとつのお話は短いのに、ひとつ終わるごとに色んな景色を頭の中で想像してなかなか先に進めなくて、それがとても楽しかった。
表紙カバーを外すとこれまたオシャレなのですが、そのイラストも読み終わった後に見ると発見があってとても面白いです。
「派遣者たち」をまだ読んでいないのですが、これはもしかして繋がってるのかな?という物語もあり、楽しみが増えました。
Posted by ブクログ
表題作は電脳インプラントの普及した宇宙で、消滅寸前の弱小言語を媒介に心を通わせる話。ほのぼの。かと思えば植物に侵襲された地球でキノコを生やす人たちのブキミな話も。
自分は宇宙人で、地球人の振りをして暮らしているものの味覚だけは真似ようがなく、食べ物がどうにも美味しくなかったから、研究を重ねて地球の素材で自分も美味しいと思えるものを作れるようになったというダイナーの店主が語る「外から来た居住者たち」が好きだったかな。もうちょっと読ませてくれーという絶妙なところで終わってしまうのが惜しいけど。
Posted by ブクログ
タイトルに惹かれて手に取ったSFショートショート14篇
限られた紙幅で世界観をしっかり掴ませつつも、決して語りすぎない絶妙な文量と端正な筆致が良い
総じて、他者との繋がり方、関わり方についてのお話が多い気がした
たとえ深宇宙にまで進出したとしても、誰かと触れ合いたい、誰かと語りたい、誰かを分かりたいという人間の願いは、ちっぽけな地球に押し込められていた頃からまるで変わっちゃいない
ラストの『最果ての向こうに』を読みながら、そんなことを考えていた
Posted by ブクログ
SF掌編集の14作品。短いからこそ突飛なSF設定の中でメッセージが煌めくような強烈な光を感じる。
痛みを与えないことが愛なのか、はたまた痛みに耐えることが愛なのか。
特に前半の8作は触れあうことへの過信への警鐘でもあるように感じられた。
Posted by ブクログ
初めての韓国小説。SF小説という枠で考えれば、そんなに奇をてらった話ではないのかな、と思う。あと10年とか20年もすれば、日常になりうる未来の形もありそうだし、宇宙開発の話は、規模を地球サイズに置き換えても、通用しそう。
カタカナが、韓国の地名とか、そういう固有名詞なのか、それとも私の知らない一般名詞なのか、分からず、ちょっと読み下すのに、力が要ったな。
Posted by ブクログ
安定のキム・チョヨプ節が短編より簡潔な掌編で楽しめる。全体でも150頁ほどで2時間くらいで読み切ってしまった。若干物足りないというか、もう少し読みたい感もあるけど、終盤の何作かは世界線として繋がっていて、続きものとしても楽しめる。
Posted by ブクログ
SFは少し苦手なジャンルだけど、キム・チョヨプさんの世界観、やっぱり好きだな。『派遣者たち』も早く読みたい!「メロン売りとバイオリン弾き」「惑星語書店」「切ないラブソングはそれぐらいに」が特に好きかな。*痛みを与えないことが愛なのか、はたまた痛みに耐えることが愛なのか(サボテンを抱くより)