カンバンファのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
“自我”とは何か
我々は我々の方法でしか物事を理解することができない。
テリンを取り囲む粘液質の集合体が言う。
「意識こそ主観の感覚が生む幻想にほかならない」
物語を読んで最初に浮かんだのが「風の谷のナウシカ」の“腐界”の物語(アニメではなく原作漫画の方) 受け入れることの難しさがこのお話同様に語られていた。
たしかに、生まれてからずいぶんと長い時間を経てやっと折り合いをつけた“自分”と“この世界”
それを捨て去るのはとても勇気がいる。
「大事なのはね、自分が自分だけで成り立っているって幻想を捨てること。そしたら、可能性は無限だよ」
死ぬまでわからないだろうなぁ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ7作品のSF短編集。
どの話も美しく繊細な響きがあって、どこか懐かしく切ない。未来で色んな技術が進歩していても、そこで生きているのは同じような感情を持った人間であるというのが想像できてよかった。完璧にはなれないが故の過ちやエゴだってたくさんある。
『スペクトラム』が特に好みだった。宇宙において、異なる文化を持つ知的生命体同士が出会ったらどんなことが起きるかという物語のパターンとしては、最も優しくあたたかいものに分類されると思う。みんなが同じ考えを持っているとは限らない。分からないなりにお互いを思い合う個体がそれぞれにいてもいい。似通った星ではあっても、地球人の能力や感覚が通じない文化がある描写がとても面白かった。
『共生仮説』も面白かった。我々が人間(地球人)の特徴だと思っている情緒や倫理観や社会性が、「彼ら」によって幼少期に教えられているとしたら。教えられなければ学べないと思うので、ありえない話ではないと思った。 -
Posted by ブクログ
詩のように情緒的で美しい7作のSF短編集。
未来の宇宙工学やバイオテクノロジーがテーマだが、その裏で女性の主体性、マイノリティへの差別など現代に存在する社会問題的テーマも組み込まれていて、登場人物たちに感情移入しやすい。
『巡礼者たちはなぜ帰らない』
ユートピアこそがディストピアなのかもしれない。
『スペクトラム』
性善説だけでは生きられない世界でも、知性を持つものの善性を信じようと思える1作。
『共生仮説』
決して自分のものではないのに生々しく懐かしく感じる美しい記憶、というものが私にもいくつかある。遠い美しい世界にロマンを感じる1作。
『わたしたちが光の速さで進めないなら』
タイトルは"わたしたちが光の速さで進めないなら"だけど
"わたしたちが光の速さで進めなくても"という人間の覚悟のようなものを見る1作
『感情の物性』
私の心の色や形はどんなだろう。
心の色や形まで誰かとおそろいで求める世界はきっとディストピアなのだろう。
『館内紛失』
もしあらゆるものがデータ化され、世界からアナログなものが排除されたら、人間の生きた痕跡もすぐに消えてしまうのだろうか。
私を私たらしめる記憶をひとつ選ぶとしたら、なんだろう。
母親になることによって自分のこれまでの人生が消えてしまうような感覚。
母と娘の間に生まれる複雑な感情。
自分の身にも覚えのある気持ちが描かれていた。
色々なわだかまりを抱えながらも、自分が母になるとき、娘はもう一度母と出会うのかもしれない。
『わたしのスペースヒーローについて』
ヒーローでも自由になっていい。いつかの自分のヒーローに、どこか遠いところでも穏やかに過ごしていてほしいとそんなふうに思った。
全体を通して、とても女性作家の良さを感じる作品でした。
優しくて柔らかくて美しい。
SF小説はこんなにも美しくなりえるのだなと心が洗われる思いがしました。 -
Posted by ブクログ
ネタバレあるひとときの出会いと別れの短編集で、寂しさと温かさが入り混じる心情になりました。
個人的には最後のライオニと古の協約のお話が特に好きで、誰かを思い続けることの透明さに憧れを感じました。
ライオニと約束をしてシステムを守り続けるセルが痛ましい姿になりながらも、番人の役目を果たし続けていて泣きました。
古の協約では星の活動から生まれる成分が毒になる、そしてその解決方法が星の破壊である、星での一族についてのお話でした。物質「ルチニール」に耐性のある人さえ25年しか生きられない星で、地球からの宇宙探査機が来着して、そこで恋心が芽生えるロマンチックな話であり、次の来着までには現地のノアは死んでいることが確定している残酷な話でした。星が持つ性質としては人間には有害で厳しい環境だけど、星が慈悲で活動を止めてあげる優しさの両面がありました。 -
Posted by ブクログ
普段SFと呼ばれるものはあまり読まないのだけれど、キム・チョヨプさんの本はよく手に取る。表紙の絵と、余韻を残すタイトルがたまらなくて。
この「惑星語書店」という短編集は、スカッとした読後感があるわけではなく、仄かに物寂しいような気持ちになる。
多分、普段は「面白い動画を」「もっと効率よく」「もっと有益な情報を」というモードなので、それと対極の寂しい、静かな感じが良いのではないかな。
「互いに触れないよう気をつけながら」と「ほかの生き方もあることを」という二つのセクションに、8編と6編の掌編小説。
前者は、「痛みを与えないことが愛なのか、はたまた痛みに耐えることが愛なのか」というフレーズに導かれるとおり、愛するものや憧れるもの、親しいものとの距離感が描かれているかと思う。
後者は、全体的につながった世界を共有していて、宇宙からやってきた植物に地球が侵略されてしまい、人間の在り方も大きく変わってしまった世界。
「昔一万年時計なんてものを作った人がいたけど、私たちはもう数十年しか持たない」のような話なので、かなり危機的な状況なのかもしれない。
地球にやってきてしまった宇宙人の、地球の食に馴染めない様子とか、人の脳に作用して愛玩植物として大流行している宇宙植物が蔓延る世界とか、想像力豊かにちがった世界を提示してくれる。
空想を羽ばたかせる、でもなく、空想を静かにじんわり広げる本。