あらすじ
謎の蔓草モスバナの異常繁殖地を調査する植物学者のアヨンは、そこで青い光が見えたという噂に心惹かれる。幼い日に不思議な老婆の温室で見た記憶と一致したからだ。アヨンはモスバナの正体を追ううち、かつての世界的大厄災時代を生き抜いた女性の存在を知る
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Posted by ブクログ
作者のSF第2作らしい。デビュー作はSF短篇集だったけど本作は長編。
面白いねぇ。
もちろんSFとしての設定は確かなものなんだろうけど、読んでいてSFらしさを感じない。サイボーグや未知の物質に覆われたディストピア世界なのに。それだけ物語として素晴らしい。
アフターコロナの世界を予見するような人々。人間の業は、特に欲望は未来永劫変わらないのでしょうね。破滅すると分かっていても欲望を制御できない。それでも生命はいつどんな時も生き残る道を探すのだ。
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面白かった!続きが気になって一気に読んでしまった。
「この世界からは出ていくけれど」ではSF短編集といっても強いメッセージングの方がメインなのかな?と思っていたが、SFとしての設定やストーリーも好きだったので、今回の長編もSFとしてすごく面白く読めた。
他の国の訳書と違って、韓国語は日本語と文法が似ているからかすごく読みやすい。
Posted by ブクログ
めちゃくちゃ面白い小説だった……!!!
翻訳小説は独特の文体があると思うのだけど、韓国語は文法が似ているからかこの作品ではその感じもおぼえず、本当に読みやすい文体でするする読めた。
するする読み進めたのはもちろん内容がめちゃくちゃよかったのもあって、SFって謎が解けたり時空を超えて何かが繋がったときに自分の脳内で小爆発が起きて面白さが加速する瞬間が好きなんだけど、そういう瞬間を1回だけでなく味わえた作品だった。
植物がキーとなるディストピアの舞台も魅力的だったけど、個人的に魅力的だったのはキャラクターの描き方で、アヨンの周りの人間関係もよかったし、後半核心に迫って描かれたジスとレイチェルが本当に……切なくて切なくて……胸がずっとギュッと掴まれてた……。
時系列や視点が入れ替わりながら進むのであとからじわじわあの人は……あの二人は……と想わされることも多かった気がする。
大人と子供の描き方も魅力的でよかった、ナオミ視点は児童書を読んでるみたいなワクワク感があったなあ。
ナオミとジス、アヨンとヒス(ジス)の交流の場面好きでした。
あとアマラとナオミがいっとき緩い連帯を持っていた女性たちもよかった。
絶望だらけで、人間がいかに脆いかを描きながらも希望の欠片を積み重ねて前向きな終わり方をしているのが素晴らしかった。勇気とか努力とか忍耐をもって希望の欠片を積み重ねているのが素晴らしかった……。
でもやっぱり一番はジスとレイチェルのことがしばらく心に残りそうだ〜。。。
Posted by ブクログ
SF特有のマッチョな感じがなく、その時代、その環境にサラリと飛び込めるような文章や登場人物の設定が好き。SFらしくなく、しかしSFじゃないと書き得ない物語。描かれているものは普遍の苦さや焦がれる想い。
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ダストフォールという地球規模での災害が発生した後の世界。ドームに逃げ込むことができた人と、耐性を持っていた人が生き残って、世界を再建した。ダストの時期に、地球を覆っていた植物、モスバナが、今頃になって再発生したことから始まった調査だが、主人公アヨンの思い出につながる点があり詳しく調べていく中で、ダスト時代の人々の行動が明らかになっていく。
序文で作者本人が書いているのだが、この本の執筆時期がCOVID-19が最も深刻だった時期に重なっていたとのこと。小説の中のダストフォールが、現実のパンデミックと重なる部分もある。
とても面白かった。おすすめです。
Posted by ブクログ
韓国人著者のSFを読むと独特な気分になる。その世界の中に入り込むような没入感がありつつも、描かれる世界とは距離を少し置くような感じ。世界観には引き込まれるが、その中の当事者になる事はない。幽霊みたいにプカプカしている。この感じが好きだ。
これまで読んできたものは短編が多く、世界を移ろうさすらいの幽霊感があったが、こちらは長編。ひとつの世界に長く留まる地縛霊の気分になった。
読んでいてヒントや手がかりは散りばめられているのに、この本が提示する謎が解けない。幽霊でも分からないことがあるんだな。
ありそうでなさそうでありそうな世界の傍観者、として楽しむことが出来た
Posted by ブクログ
ダストという毒物の蔓延時代を生き抜いた人々と、アマラとナオミの姉妹、レイチェルとジスの物語、そしてダストと謎の蔓草モスバナがたどる道。
滅亡寸前の悲惨な時代から、ようやく復興した地球。あのとき世界を救った、二人と二人の真実とは…。
コロナを彷彿させる描写ですが、私は最初なかなか読み進められなかった。第一章(100ページ)が終わってから段々と物語は加速しだすんだけどゆっくり語られていくような感じ。第二章のアマラとナオミの話が面白かった。第三章のレイチェルとジスの関係性には興味深かった。
ダスト終息はテクノロジーと全人類的な協力による勝利と受け止められてきたけど、本当はそれだけではなかった。
ダストを取り除く効果があるモスバナを各地に植え育てたナオミ、ジス、フリムビレッジにいた人たち、そしてレイチェルのお陰で人類は救われてたいた。
キム・チョヨプを読むのは「わたしたちが光の速さで進めないなら」から2作目。難しかったけど再生していく姿は清々しくもあって希望がもてた。
Posted by ブクログ
ダストという毒物の蔓延により、動植物が死に絶え、滅亡の危機に立たされた時代を生き抜いた幼い姉妹・アマラとナオミ、そして謎の女性・ジスとレイチェルの物語。
過酷な状況の中、アマラとナオミが辿り着いたフリムビレッジでの生活は、束の間の平穏と、徐々に追い詰められていくことで破綻していく人間関係が上手く描かれていました。そんな中でも、“明日“を迎える希望を胸に、生き抜こうととする力強さがとても良かった。
ジスとレイチェルは、キム・チョヨプさんが作品のテーマとしている、分かり合えないものだとしても共生したいという関係性を感じました。
キム・チョヨプさんの、切なく物悲しい世界の中に、かすかな温かさを感じる眼差しがとても心に沁みる作品でした。
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SFのいいところを凝縮した、素晴らしい作品でした。著者のキム・チョヨプさんは、作家ともう一つ物理学者という側面も持っているので、作品の
中にも化学用語とかがよく文章に投影されています。未来の世界を舞台に、ダストという毒物が蔓延された世界で、人々は外に出られない状況で、ドームシティーを創り出し密閉された世界で生きている。そんな蔓延された外の世界に、憧れを抱き、生きれる場所を探す姉妹がいた。
森の奥にダストに対応できる環境があると、植物の持つ再生と破壊が鮮やかな目線で描かれています。
Posted by ブクログ
これは、著者あとがきのことばで言うと、「とうてい愛せそうにない世界を前にしながらも、最後にはそれを建てなおそうと決心する人々」の存在を発掘していく物語だ。世界の中心を占める利己主義から逃れて生きることは困難だ。しかし、その外で生きようとする共同体も存在する。共同体では、連帯、利他主義が人々の間で大きく働いているものの、意外なことに、その根底では、片方によって調整された"女"同士の愛憎が存在し、また外からは敵が迫る。共同体は内外から必然的に崩壊していくが、「場所を移す」ことで世界は救われる。って感じかな。
全体としておもしろいけれど、第三章で論証が長いところは退屈だった。
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この地球は植物のもの……人間その他の動物は植物に依存して生きている。
SFしかもディストピア小説で、人類自らの過ちから地球上の生物滅亡の危機という設定にも関わらず、健気でひたむきな主人公たちのようすが、素直に心に響く。
過去と現在を交互に描いているが、混乱もなくすんなり頭に入っていき、没頭してしまった。
ただ……
ほぼ、女性しか登場しない。なぜ?意図的?
もう一つ、
舞台はほぼ、韓国、マレーシア、エチオピア。
これもなにか……。
Posted by ブクログ
とつぜん繁殖した雑草の秘密をめぐってほどかれてゆく世界の歴史と、そこに生きた女性たちの物語。
どこか懐かしくて柔らかい、ロマンチックなSF物語。この世界はどうしようもなくても、もう立て直せないと思っても、それでも守る価値のあるものは存在する。世界がどんな形に変わろうともそれでも愛はそこにあるのだと、穏やかな文体が静かな力で描き出す。
出てくるモチーフひとつひとつがとても魅力的で知的好奇心をくすぐられるのと同時に、儚くも美しい光景が頭の中に広がっていく。
そして登場人物も。かつての機械整備士と植物学者がたどり着いた夢の果ては決して哀しいものではなかったのだと信じたい。
前作が好きだったので今作も購入。変わらずノスタルジーとロマンチックが溶け合った、静かに染み入る物語だった。
Posted by ブクログ
巷に繁茂し出した雑草の謎を追ううちに、ひとりの植物学者はかつて滅びかけた世界の真実と、その時代を潜り抜けた女性たちの半生を知っていく。
途方もない災厄の中で醜く争う人類たちと、その中でも親愛を失わず、未来への希望も捨てきれずに生きる人々をやわらかく繊細に描き出し、やがて一人の科学者と整備士の深い絆を思い知ることになる。複雑な事情の絡んだ彼女たちのあいだにあった真実が明かされる終盤は、抒情的で切なく、とても素敵でした。
そして世界の危機に瀕した人々が、生きることに汲々としてわだかまりもあった彼らが、実は共通の行動を起こして未来を作っていた。そんな、どこか理想的だけれど、こんな善性を信じてみたいと思わせる真実に作者のやさしい視線を感じました。
ディストピアSFに区分される物語なのでしょうが、破滅や諍いだけでなく、その中で生きる人々の、愚かしくもいとおしい姿を繊細に描いた作品だと思いました。
すごく良かったです。
Posted by ブクログ
やはり独特の情緒とやわらかさのあるSFを書かれる、好きな作家さんだなぁと感じる。今回は植物を通したシスターフッド年代記になっているのだが、とくにレイチェルとジスの言葉で定義できないような関係の描き方が、せつなくロマンティックで心に残った。
Posted by ブクログ
デビュー作でもある前作の短編集から一気に大ファンになった作家さん。
待ちに待った新刊でウキウキしてあらすじを見るとどうやら今回は長編とのこと。
それもあってか前作よりも展開はゆったりとした流れ。
それでも中盤から終盤にかけて過去と現在が交差し運命が紐解かれていく様は圧巻だった。
終末という救いようのない世界を描きながら、まるで陽だまりの中に包まれるような安堵感を覚えるのは、やはり作者の優しい眼差し故なのかな。
前作から共通する、好奇心が揺さぶられるSF設定の楽しさと「あなたを知りたい」という人間的な願いの尊さが、引き続き素晴らしかった。
早くも次作が待ち遠しい。
Posted by ブクログ
短編集「わたしたちが光の速さで進めないなら」が印象的だった、韓国の新鋭SF作家さんの長編作。品のある文体というか、静かで丁寧な文章は読んでてとても心地よい。途中それだけに短編集では感じなかった会話や描写が冗長に感じる場面もなくはなかったが、構成がしっかりしているので着実に読み進めることができた。ちょっとあの日本で有名なアニメの設定を連想させなくはないが、そこは気にせず読むのがよいでしょう。
Posted by ブクログ
著者の短編集である「この世界からは出ていくけれど」、「わたしたちが光の速さで進めないなら」がとても面白くて、長編も読んでみたいと思い手に取った。
私はキムチョヨプさんの描く文章や世界観、人の心の温かさや愛情深さがとても好きなので、この本も総じて好きだし、好きな作家さんだと思った。
物語は3人の視点で描かれており、3つの物語が繋がって一つのストーリーになっている。それぞれ短編を読んでいるようでもあり、とても読みやすく一気に読める。
ナオミとアマラ、ジスとレイチェルのお話は、特に面白くて引き込まれた。著者は温かくて切なくてどこか悲しい人の感情を書くのが上手だと思う。
あと、著者あとがきの中の「わたしたちがすでに深く介入してしまった、後戻りできない、けれど今後も住み続けなければならないこの地球」、「とうてい愛せそうにない世界を前にしながらも、最後にはこれを立て直そうと決心する人々」という表現が心に刺さった。
ただ短編集にはあった、簡潔で無駄がないのに起承転結がはっきりしている点や、SFならではのワクワクする設定や気持ち、驚きが詰まっている点などの長所が損なわれてしまっていたと感じ、少し残念だった。
丁寧に全ての伏線を回収しようとしすぎて、終盤が冗長になってしまっている感じがした。