那須正幹のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
歴史にifはないという概念がある。
でも、考えずにはいられない日本があの戦争に勝った時の行く末。すべてが空想上の話にも関わらず、リアリティがあって物語の世界にのめり込んだ。
戦後の"平和"な世界から『太平洋戦争に日本が勝利した世界』に迷い込んだ省平と大二郎が元の世界に戻ろうと格闘し続ける。迷い込んだ世界の世の中の風潮に怒りを感じて、抗う小学生の姿は心を熱くさせる。
軍部による情報の隠蔽、市民生活の監視、言論の統制。負けていい戦はないが、負けないと気づくことができなかったとも感じる。何を言おうと、歴史を知った現代から無責任に言っているだけでもあるが。
元の世界に戻るために、天井裏を開ける時は読んでいる自分も手が震えるくらい緊張した。ハラハラが止まらなくて、どんどん読み進んだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレめちゃくちゃ面白かったです。
小学校の壁新聞の記者になったハチベエ、ハカセ、モーちゃん。三者三様の記事づくりにキャラクターをいかに魅力的に描くか、この辺りに作者の那須正幹先生の高い構成力が伺えます。
なにより終盤、取材相手の気持ちを考え、『気持ちがハッキリするまでは記事にはしないでおこう』と考えたハチベエの記者としての姿。序盤に記事内容を盛りに盛っていた男とは思えないほど成長していて読んでいて少しウルっときてしまいました。
並びに、これはあとがきでも書かれていたことですが、ガス中毒で死にかけていた孤独な老人を三人で助け、地方紙に三人が載るというシーンには舌を巻いてしまいました。あの後、おばあさんは息子さん家族と住むようになったのでしょうか?妄想が捗りますね。
児童文学とはいっても、記者における心構えや葛藤、取材相手との交渉など、『記者ってどういう仕事?』という疑問に100%応えてくれる本作。
本当に面白かったです。 -
Posted by ブクログ
いや驚いた…この那須さんと武田さんの絵本はもう一冊あった。
あの『ねんどの神さま』だ。
粘土の塊の如く心にズシンと重しを乗せてきたあの『ねんどの神さま』のお2人の作品。
那須正幹 作 となっているけど、絵本になる前に亡くなられている。
だからこれは遺作になるらしい。
『ねんどの神さま』と『やくそく』同じ人が描いたとは思えない。
こんなにポップで可愛い絵なのに、やっぱり心に重たい物を投げ込まれた。
最後に那須さんが1990年に記した文書も掲載されているんだけど、まさしく今、2026年の今を心配されていた。
戦争を知らない世代が多くなり、『戦争は嫌だ』という気持ちが私たち一般市民の心から薄まってしまった時、戦争をしたい政治家が平和憲法に手を付けると。
私たちにできることは、声高に「戦争は絶対に嫌だ」と叫び続けることだと言っている。
那須さん、分かったよ。
私も戦争は絶対に嫌なんだ。
だから声高に叫ぶよ。
戦 争 は 絶 対 に 嫌 だ ! ! -
Posted by ブクログ
児童文学という割にはとてもシビアで深いお話が多く、これを理解できる今の子ってとっても大人なのですね…。
文章が易しいからすらすらと読みすすめて、身構える暇もなく重い内容がどかん、と頭上に降ってくる感じ。
現代版「まんが日本昔話」のようで、読んでる間中頭の中を「ぼうや~良い子だねんねしな♪」が流れてました。
個人的には「お民の幽霊」と「ガラスのライオン」が気に入りました。
「お民の幽霊」、これ理解できちゃう子供って、めっちゃ大人だと思うんだけど???
極悪人のいない(クズはいたけど)悲喜劇で、お民の性格の様にサバサバとしたテンポの良い展開は、落語を聞いているよう。今も昔もダメンズっているんですよねぇ(笑)
それにしても、今の子ってこんな男女の機微まで理解するの???
「ガラスのライオン」は、真実は神のみぞ知るなんだけれど、もしかしたらお別れが寂しかった坊ちゃんは、みんなとの思い出の品が欲しかったけれど、恥ずかしくて言い出せなかったから、こっそり宝箱を掘り出したのかもしれない。案外ビー玉も思い出の品としてまだとってあったりして…かもですが、主人公にとってはなんとも落としどころのつけ辛い結末で。
今更事実を問いただすのも野暮だしね…。
人生はほろ苦い(時々甘い)出来事の積み重ねだなぁと思った一冊でした。 -
Posted by ブクログ
すごくキャラクターの作り方がうまいと思ったし、どんな小学生でも大人になれば変わっていくんだなっていう子どもの可能性も感じてしまった。
無鉄砲で先のことを考えるのが苦手だったハチベエが、3人の中で一番冷静に先のことや家族のことを考えていたり、モーちゃんに度胸がついて積極的になっていたり、ハカセが女性に興味を抱くようになっていたり。たしかに三人組が成長したら、こうなるんだろうなってイメージできるものだった。
またミステリーテイストで、オチがどうなるのか興味津々で一気読みした。この作品って、未来が不透明で可能性に満ちている、子どもが主人公だからこそ書ける作品だなと思った。 -
Posted by ブクログ
いろんな作家の作品が一冊になっている本の良いところは作家との出会いがあること、悪い点は短編ごとに気分が途切れてしまうことでしょうか。
どれも良作なので興味のあるタイトルから読むのもいいかも。血とか髪の毛とか白い影とか、そういう分かりやすいホラーは一切ないので、タイトル通りのぞくぞくがわかるかどうかは読解力と繊細さ次第かも。笑
本の小ささと文章量に物おじしないのなら小学4年生ぐらいから読めるんじゃないかな。
イラスト:表紙とタイトルロゴで損をしているなあと感じる。確かに内容とリンクしたものになっているが、内容をまだ知らない人間からするとごちゃごちゃして見にくいだけだし、内容が分かってから見ても身内で盛り上がって作った表紙という感じがする。
挿絵は少ないが、どれも作品とよく連動していて良い。
レイアウト:本のサイズが文庫本サイズであるのに対して文字は大きめに設定されており、子どもも読みやすそう。
漢字:小学校中学年までに習うものはふりがななし。 -
Posted by ブクログ
自分が小学校の教員なこともあり、終盤の宅和先生と新谷さんが焼酎を飲みながら交わすなかでの宅和先生の言葉に心打たれた。
新谷さんが先生に言う。
「子供の自主性を尊重する。つまり、やりたい放題させる。暴力を肯定しようが、人間どうしの信頼をやぶろうが、おかまいなしなわけだ。」
この言葉に宅和先生が返す。
「演じるドラマが暴力的だからといって、子どもたちが暴力を肯定しているとは思えません。事実、彼らは何度も話し合い、それぞれが自分の知恵を出して劇を成功させたんです。(略)あなたは、教師の指導力といわれたが、わたしも大人として子どもに対する時は、かなりきびしくやっておるつもりです。しかしそれは、あくまでかいぞえにすぎん。子どもは、教師の力で成長するわけじゃない。じふん自身の生きる力なんです。よろしいか。子どもは、いきものなんですぞ。人形じゃあない。わしは、30年間、小学校で子どもを見てきたが、わしの力で子どもが成長したとは、これっぱかりも思っておりません。子どもらは、自分の内なる力で成長しておるんです。この力を、じゅうぶん発揮できるように配慮してやるのが、わしの役目です。(略)」
30年のキャリアを持ちながら、周りへの見栄えではなく、子どもが自分たちの力でやりとげようとする力を信じる宅和先生の信念に感服する。そして、「30年間、わしの力で子どもが成長したとは、これっぱかりも思っていません。」と言い切れる先生の教師としてのあり方に痺れる。
自分はどうか…親の目、先輩の先生たちの言葉、周りのクラスとの差を気にして自分のクラスの子どもたちのことを取り繕おうとしてはいないか。そんなくだらない小さな世間を気にして、子どもの成長を1番に考えられていないのではないか。子どもの力を信じられていないのではないか。
本編では、子どもの力をまざまざと見せつけられた。今の自分が、子どもの成長を1番に、子どもを信じて教員やれているかどうか、ふりかえるためにも、手元に置いて数年後にまた読み返したい1冊になった。