青山美智子のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレ『遊園地ぐるぐるめ』は、アートと物語が互いに刺激し合いながら生まれた、まさに“二人の合作”ならではの魅力に満ちた作品だった。
田中さんのアート作品を見て青山さんが物語を書き、その物語を読んで田中さんがさらにアートを作る――この創作の往復運動を知ったうえで作品を眺めると、視覚的な楽しさに加えて「この作品からどんな物語が広がるのだろう」という想像が自然と膨らんでいく。
最初に登場する、ハンバーガーをメリーゴーランドに見立てたアート作品は、その発想の可愛らしさと柔らかい色合いに心がほぐれた。
食べ物が遊園地の乗り物へと変身する世界観は、見ているだけで癒される。
そこから物語が始まるという構成も、まるで絵本を開いた瞬間に物語が動き出すようでワクワクした。
物語自体は、バイト先で知り合った大学生の二人が「ぐるぐるめ」で告白しようとする短編で、こちらも温かく、優しい余韻を残す内容だった。
アートの世界観と物語の雰囲気がぴったり重なり、読んでいて自然と笑みがこぼれる。
さらに、軽量スプーンと塩の小瓶で絶叫マシンを表現した作品、紙コップと割りばしでフードコートを作り上げた作品、丸い金網とウインナーでジェットコースターを表した作品、トウモロコシとフォークでスイングマシーンを描いた作品、サラミのピザとピザカッターで観覧車に見立てた作品など、どれも発想がユニークで、見ているだけで心が軽くなるような“癒し”があった。
日常の身近なものが遊園地へと変わっていく驚きと楽しさが、ページをめくるたびに広がっていく。
そして、それらのアートから生まれた短編物語もまた、どれも心温まるものばかりで、読後には満足感と優しい気持ちが残った。
肩に力を入れず、リラックスして楽しめる――まさに“大人のための絵本”のような一冊だったと思う。 -
Posted by ブクログ
一穂ミチさん目当てで読み始めた一冊。
序盤は、読んでいる間はそれなりに気分が高揚して、まさにタイトル通り「ほろよい気分」にはさせてくれる。だけど、いざ読み終わってみると、あとに残る余韻があまりにもサラリとしすぎていて、どこか物足りなさが残る読後感だった。
お目当ての一穂ミチさんの一編を読み終えたときは、思わず「やったね!」と心の中で思った。やっぱりこの作家の描くものは毒薬だ!「ほろよい」どころか悪酔いしそうな、人間の不穏な心理描写は健在で、この強烈な一杯は楽しめた。
他にも、下戸だと言い出せない青年の葛藤を描いた一編には、男だからこそ「飲めない」と言えないリアルな空気感を感じて、身につまされるところもあり、そこまでは良かったのだが……。
後半に進むにつれて、お酒そのものの捉え方に大きな疑問と物足りなさが募った。
感情を吐き出すためだけでなく、嬉しいとき、お祝いのとき、純粋にその味を楽しむときなど、お酒にはもっとポジティブなパワーがあるはず。本作はお酒自体を好むというより「料理」や「その場の人間関係」を際立たせるための引き立て役として扱われている印象が強すぎる。
女性作家陣によるアンソロジーということもあってか、お酒そのもののこだわりや深い味わいをじっくり描くよりは、シチュエーションや食とのペアリングに全振りの世界観。お酒そのものが主役の描写を期待していた身としては、少しがっかりさせられた。
一穂ミチさんの“毒”は味わえたものの、お酒好きとしては深みや余韻がもう少し欲しかったな、と感じてしまう一冊だった。 -
Posted by ブクログ
ミニチュア写真家の田中さんとの共著とも言える作品。
このことを知ってから私の印象はガラリと変わった。
知らずに読んでいたときは、「日常の些細な出来事から、自分のしていた行動や思考を反省し、先に進もう、楽しくやっていこう」というファンタジー系のいつものパターン(いい意味で)の度が増しているような気がして、数日前まで桜木紫乃を読んでいたのもあってその落差にモヤモヤしていた。
でも読み終わって改めて各章の始めと終わりにあるミニチュア作品を見ると、実に内容にぴったりの作品で嬉しくなった。
「遊園地ぐるぐるめ」はミニチュア作品も併せての連作短編集なんだ。
ぐるぐるめの意味も結局わからないところがいい。
小説として楽しかったポイントは、トマト抜きのサラリーマンが営業マンとして再登場したこと(連作短編集の醍醐味)と、各章のこれまでのシーンを振り返りつつその語り手が別の人になっていたこと。
この点は小説として楽しかった。 -
Posted by ブクログ
見えない紐が紡ぐ再生の物語です。――
青山さんの静かなる輝きを感じました。
単なる「心温まる癒やし系小説」の枠には
収まらない。
緻密に計算された構造美と、
人間の普遍的な営みに対する深い肯定感に満ちた、
秀逸な連作短編集です。
本作が小説として極めて優れている点は、
その構造の「循環性」にあると思います。
一見すると、
迷える人々がラジオの声に救われるという
一方向の構図に思えますが、
ある章の主人公が発した何気ない一言や
小さな善意が、他者へと伝播し、
巡り巡って全く見知らぬ次の章の主人公の
背中を押していきます。
目に見えない運命の紐を、
極上のミステリーのように鮮やかに描き出す手腕には感嘆です。
そうこの作品はミステリーなのです。
さらに、
タイトルにも冠されている「月」のモチーフの扱い方が実にお見事です。
作中では、
満ち欠けを繰り返す月の満ち干が、人間のバイオリズムや人生の機微に重ね合わせて描かれます。
とりわけ印象的なのは、
光を失ったように見える
「新月」へのまなざしです。
月が見えない夜、それは月が消えたのではなく、
次の満ちが始まるための「準備と始まりの瞬間」。
青山さんは、
挫折や停滞を「終わり」ではなく、
次なる豊穣へのプロセスとして全肯定しています。
最後のエピローグにおいて、
すべての伏線が美しく回収されて、
ポッドキャストの配信者自身の物語へと
収束していく構成は圧巻です。
他者を癒やし続けていた存在もまた、
実は不器用な一人の人間であり、
網の目のように張り巡らされた他者との繋がりに救われていた
『月の立つ林で』は、
巧みなプロットの妙を愉しむ文学的エンターテインメントでありながら、
読み終えた後に日常の景色を一変させてしまう力を持っている。