原田宗典のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「やや黄色い熱を帯びた旅人」から個人的原田宗典ブームのときに購入した1冊。
甘たるいような男女の短編集かと思っていたけど、表題作以外はミステリー?サスペンス?の要素が強くて、自分が思っていた著者のイメージと異なるが面白かった。
著者の書く繊細な心理描写、人の、特に男女のやり取りの生々しさはすごい。世の中の多く男性がおそらく思っているが、口にしないことがたくさんあったと思う。言っちゃダメ・思っちゃダメでしょ!とひやひやした。表題作は、文章の読点・句読点・改行が少し変で、その部分から考えが溢れ出てくる雰囲気を感じた。パン屋もこの二人も優しくって少しばかで、愛くるしいと思えた。今風にいうとエモいんだろうか。
何か知識とか得たくて読書することも多いけど、このくらい余裕のある読書もいい。面白かった。 -
Posted by ブクログ
放蕩生活に身をやつした主人公の長坂誠は、今や65歳。
なんとか放蕩生活から逃れようと、心機一転東京へ出てきた。
そこで派遣社員として物流倉庫のフォークリフトの運転手として職を得て、今に至っている。
経済的には楽ではなく、住まいは築40年を過ぎたボロアパートで、家賃が3万8千円の6畳一間の時代に取り残されたような住まいだった。
ある日、共用スペースに置いてある洗濯機の水道栓から、隣の部屋に住んでいる少女が水を汲んでいるところに誠は遭遇する。
事情を少女に尋ねると、ガス、水道、電気が止められていると言う。
20日前、直ぐに帰るからと言って1万円を残して出掛けたきり、母親が未だ帰ってきていないと言う。
猛暑の中、クーラーも使えず食事もできないのではと誠は同情し、翌朝の食事と飲み物を少女と弟の住んでる部屋に届け、夕食には誠の手作りカレーをご馳走しようと、中学生の真子と小学生で自閉症の弟の圭を自室に招待する。
最初は警戒と遠慮していた姉弟は、誠の勧めもあってカレーを美味しいと言いながら貪り喰った。
これまで孤独の生活を過ごしてきた誠は、真子と圭との交流を通して、初めて生活に充実感を感じるようになる。
数日が経過した辺りで分かったことに、真子は並外れた歌唱力があり、弟の圭は書道に長けていて、難しい漢字を見事に書き、そして難しい漢詩も書けるという特異な才能を擁していた。
誠の趣味の一つがギター演奏ということもあり、誠の伴奏で真子が歌う時もあった。
しかし3人の穏やかな生活がこのまま続くわけもなく、波乱万丈の日々が迫ってくる。 -
Posted by ブクログ
表紙のデザインの色とタイトルを見て、
希望を感じる話だとは、あまり思わないだろう。
65歳の自分はもうおじさんではなく、おじいさんだと人生を半分諦めてしまっている主人公、長坂誠が、母親に置き去りにされてしまったアパートの隣人の姉弟を、親切(お節介)に世話する物語。
自分の辛い境遇はさておき、姉弟のために奔走する。優しい、優し過ぎる。こんないい人いないだろう、と思うほど彼は優しい。
やがて彼の優しさに姉弟は心を開き、特に自閉症の弟は、好きな書道で才能を開花させる。
最後の方は話が、多少、支離滅裂になっているようにも思うが、お伽話のような展開で、道が開かれていく希望のラストが心地良い。
以前、著者のエッセイが面白いからと、人から勧められた。読んでみると本当に面白かった。読みやすい文章、話の面白さ。あれから、どうなってしまったのか、気になっていた。だが読んでみて、分かった。彼の作家としての才能は、あのまま埋もれてしまってなど、なかった。 -
Posted by ブクログ
何年ぶりだろう、著者の本を読んだのは。
著者の書く、優しくってちょっと不器用な感じの登場人物が好きで、どこかふんわりとした雰囲気の物語が好きで、気に入って頻繁に作品を手にしていたのはどれほど前だったか。
著者の率いる劇団の舞台を見に行って、握手会?サイン会?そんなのにも参加した覚えがある。
事件があってからずっと、作品に触れる機会がなく、いつしか私も小説を読むことがめっきり少なくなってしまっていた。
昨年、新刊が出たと知って懐かしくなり、予約して読んでみたのだが。
ああ、そうだった、こんなふうに物語を書く人だった。読みやすくて入りやすくて、ふわっと心を温めてくれるようなお話。
ほぼ一気読みで読み終えて、喫茶店で読んでいたのに、気づけば泣けてしまっていた。
正直なことを言えば、自閉症だという圭については、ほんとはいろいろ言いたいことがある。だけどこの際野暮なことはいうまいと思った。そう思わせてくれるくらいの作品ではあったということ。
この物語に出てくる人たちはみんなフィクションなのだけれど、どうかみんな、幸せに暮らせますように、そんなふうに願わずにはいられなかった。
読んでよかった。 -
Posted by ブクログ
(装丁原研哉 装画長岡毅)
主人公長坂誠は自らのこれまで65年を不甲斐ないものと感じて日々をやり過ごしている。
東京郊外小平市の外れにある住まい「さくら荘」は築40年。旧態然とした設備ゆえに破格の家賃にもかかわらず住人がいるのは六部屋のうち二部屋、長坂と23号室に住む母子のみ。
23号室の母親が失踪。13歳の姉と自閉症の弟10歳に食べ物、飲み物を差し入れ、部屋に招きカレーライスを共に食べることとなって長坂誠の日々が一変する。長坂の59歳になってからの再上京を助けたまにメールで連絡をくれる二人の友人が著名なグラフィックデザイナーと弁護士。
かつて志半ばで自らの才能のなさを自覚して見切りをつけたのが絵を描くこと、ギターの演奏をすること。生来生真面目で心優しい長坂が姉と弟の窮状に手を差し伸べる。
夜は二人を自分の寝室に寝かせ、二人が電気と水道を止められた部屋にとどまらず、真夏の暑さを凌ぎ喉の渇きを癒せるよう日中仕事に出かける自分の部屋を自由に使っていいと申し渡す。自閉症の弟は書道に卓抜した能力を持ち、姉は藤圭子の再来を感じさせるような声で歌を歌う。タイトルになっている吉田拓郎の「おきざりにした悲しみは」を長坂が二人に歌って聴かせ、姉が「私も歌ってみたい」と言い出したことから事態が急展開することとなる。YouTubeへのアップロードにあたって背景の襖が余りにもみすぼらしいことの打開策は弟の手本は王羲之だという書を襖に書くこと。このYouTubeの動画が更なる展開へと物語を導いていくことに。明るい兆しの見える結末への展開には少々荒唐無稽に思えることがないでもないけれど、テーマの重さを軽く払いのけて疾走するおとぎ話として楽しむ、そんな物語と思いなすことに。
作者の原田宗典は1959年生まれ。
3才違い1962年生まれの原田マハは妹。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ海の短編集を読んでみた。
12個の短編。短いので、サクサク読める。
ほとんどが日本ではないどこかの話なので、すごく不思議な感覚になる。
日本ではないけど、主人公は日本人なので周囲の言葉は「片言の日本語」だったり、「全く分からない言葉」だったりする。
広がっている世界は日本にいたらおそらく体験することはないだろう世界だけれども、「地球のどこかにはある」という世界。
それでいて、お話しは完全に非現実で、幻想的なネタが詰め込まれている。
一番気になったのは、「黒魔術」と言う話。
お店の人が「高い」と言って示した値段に「買えない」と答えたはずなのに、呼び止められもせず、放置されて苛立った主人公が、値引き交渉をして買おうとする。
結局元の値段に近くなったところで、ホテルに付いた時間に戻る。
「誰かの妬みをかうようなことは止めておけと言ったろう?」
とタクシーの運転手の言葉を残して、主人公はパスポートもカバンもない状態でホテル前に放置される。
放置されて苛立ったのは、たぶん「俺は日本人で金を持っている」というプライドだったんじゃないかな。
と思うとこれって、なんかすごく皮肉めいた話だなと思った。
でも、一番好きなのは「美しすぎる風景」という話。
行くなと言われたのに、「美しい風景」という噂の真偽を知りたくて、行ってしまう。
そして、美しい風景の中に飛び込んでいく。と言う話。
ある意味オカルトだけれども、私が好きなのはこーいう話だなと思う。
他にもいろいろと、面白かったり綺麗だったり、不思議な話満載で、短いけれども、満足なのでした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ昔通っていた予備校の先生のオススメの本の一つにあったので読んでみました。
<あらすじ>
主人公のショウジショウイチは劇団21世紀少年の役者(といっても実態は裏方や通行人役などをする奴隷)。
本書は3章構成になっていて、それぞれショウジショウイチを中心に劇団員との関わりが描かれる短編連作集なのである。
1章:
元劇団員でショウジショウイチと同期だったクスコちゃんの引越しのお手伝いをする話。
2章:
劇団の看板役者、三島さんが失踪したのでショウジショウイチが探す話。
3章:
新人奴隷のカンパチ青年と劇団内の公演に向けて二人芝居を練習する話。ショウジショウイチと一時期関係のあった真知ちゃんが出てきて・・・
<感想>
ショウジショウイチを通じて、移ろいゆく劇団の人々の繊細な心理描写が胸に染みます。
私には劇団の人たちのような夢は持っていないという点では大きく異なりますが、
このまま何もなく終わるのではないか、今のままで本当にいいのだろうかと思い、悩む彼らの様は自分と重なるところがありました。
作中にはロクでもない奴や、今後苦労するだろうなあという決断する人が出てきてスカッとする類ではないですが、
ロクでもないことも、苦労するであろうことも一つの「状態」であって、正解不正解をつけられるものではない、と感じさせられました。
劇団や役者の知識がなくても不思議なほど読みやすいと思います。