古川日出男のレビュー一覧
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こういっては何だが、本人の書いた源氏物語を材にとった小説『女たち三百人の裏切りの書』より面白かった。現代語訳とはいっても、本来語り物である『平家物語』を、カギ括弧でくくった会話を使用し、小説のように書き直したそれは、もはや別物だ。加筆した部分に作家自身の小説作法が顕わで、いかにも小説家らしい訳しぶりであることが評価の別れるところかもしれない。が、そのおかげで、この大部の物語を読み通せるのだから、ありがたいと思わないわけにはいかないだろう。
読み通した人は少ないだろうが、誰でも中学や高校の教科書でその一部は読んだことがあるはず。冒頭部分の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色 -
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ネタバレ『お前のことは忘れていないよバッハ』
家族崩壊、象徴、ハムスターの脱走、ハムスターの生存
『カノン』
ザマウスの王国を爆破しようとする男の子と、ザマウスで働くことを生きがいにしている女の子。埋立地、この世界は全て作り物、喪失、陰、違和感、愛、カノン
『ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター』
幽体離脱により同級生3人を観察するサカリの男子高校生。
幽霊ビル、その解体、3人+1人の新たな出会い
『飲み物はいるかい』
離婚したばかりの主人公、神楽坂で旅に出る
『物語卵』
自分の中の何人
『一九九一年、埋め立て地がお台場になる前』
湾岸戦争終結を祝うドラッグパーティー、狂気、暴 -
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平家物語は以前読んだことがあるが、『犬王の巻』犬王とは何だろうと興味を引かれ手にとった。
時は室町、歴史から消された
謎の能楽師犬王と盲目の琵琶法師友魚が奏でる
もう一つの「平家物語」
鳴り響く琵琶は呪いか?祝福か?
読み終わって、あれ?と思ったのが手塚治虫の『どろろ』と似ているなと。
さすがに百鬼丸みたいに仕込み刀とかはないけど設定とかは似ている。
文体も独特で読み手に語りかけるような口調で同じ言葉を反芻したりと「べんべんべん」と琵琶の音が聴こえてきそう。
犬王と友魚の対比が興味深い。
特に後半では真逆の対応をしている。
最後まで抗い続け悲劇にあった友魚、抗うことを諦めてしまった犬 -
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吉川英治の新平家を読んでいたら琵琶法師の所作も取り入れてすごいからこれも読めと勧められた
平曲風?の語り口調が独特で合戦の場面みたいな物理的な緊迫感がある場面は勢いがあって良いのだが他はつい目が滑ってしまう。あと掛け声の「よ!は!」とかも慣れるまで笑ってしまった。凄いことをやっているのはわかるのだが。
あと新平家がキャラ付けが強烈で人間くさかった余韻なのかそれぞれの登場人物の個性があまり感じられなかった。文量の違いもあるが新平家はかなりガツンとくるがこちらはサラサラ読める感じ
個人的には本編より後書きや解説が読み応えがあった。
全文訳してるとのことだが平家物語の原文が900頁に納まる量とい -
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長いタイトル、本文も350頁あまりでそこそこ長い。
パンデミックのころを、京都を軸に描くという体の作品なのだが、一筋縄ではいかない。
第一部は著者自身の回想や実在の人物との交流で始まる。が、発想はあちらに飛び、こちらに飛び、パースペクティヴ的である。八艘飛びを繰り返しながら、「あの頃」が立体的に立ち上がっていく。同時に、空想の中から、三島由紀夫のフェイクである「二島」由紀夫や、冥界で閻魔の補佐をしていたという小野篁、そして源氏物語の著者である紫式部が召喚され、彼らが現代の京都を闊歩し、オペラを演じるのだ。
・・・いや、何を言ってるのかわからないと思うが、だいたいそういうお話なのである。
こう -
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紫式部本人による紫式部日記、ということで、所々補足があって理解しやすい作りになっている。
紫式部が小式部内侍のことがとても好きなこともしみじみ伝わってくるし、清少納言に対する苛立ちも現代的で面白い。
けれども使っている言葉が「ワイフ」「グルーミィ」など、度々普段自分は使わないものに置き換えられていて気が散ってしまった。
具体的にいうと、90ページの「大晦日の夜には鬼やらいがある」のところなんて、原文が「うちとけゐたるに」(くつろいでいたところに)が「いずれにしても、いつもはどこか冷めているわたしは、けれどもこの瞬間は、ただの冷静(チル)な物腰よりもチル・アウトをもとめていた。そう、くつろぎ。 -
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湯浅監督のアニメ「犬王」がこれまた傑作だったので、原作も気になり手を取ってみました。どうしても、アニメーションと比べると映像がない分、臨場感に欠ける印象はあるのですが、それでも口承のていで展開する短い文章が連続する構成は非常にテンポがよく、まるで能を見ているような気持ちよさがありとても新鮮でとても楽しめました。
あくまで個人的な感想なのですが、映画は友魚と犬王の友情がかなり濃密に(時に湿っぽく)描かれていたのが印象的で、かつそこが一番好きな点でもあったので、そのあたりが結構あっさりとしていたのは少し残念でした。(ただ、ラストの展開は小説版も負けず劣らず良かったです)