古川日出男のレビュー一覧
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「平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集)」(古川日出男 訳)を読んだ。 ええ読みましたとも。 訳者あとがきまで含めて880頁。
原文は『祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、云々』のところぐらいしか知らないけれど、この古川日出男さんの訳文は見事だと思うな。 まさに琵琶の音に合わせて歌うような語りかけるようなリズムだものな。 畳みかける饒舌さが良いです。
単なる英雄譚ではなく人の弱さを余さず語るところが平家物語の真髄か。
しかしまあ誰も彼もよく泣くのね。
『赤地の錦の直垂に紫裾濃の鎧を着て』とか『赤地の錦の直垂にに唐綾威 の鎧を着て』とか『朽葉色の綾の直垂。 -
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ネタバレ古川日出男による『平家物語』の完訳。
そもそも平家は原文自体が美しく、リズミカルだが、現代から見ると説明が必要だったり冗長だったりする部分も多い。訳者はそこに複数の「語り手たち」を、しかも無常観や仏の功徳について深く知っている「語り手たち」(彼らの正体は平家滅亡時の語りで明かされる)を登場させることによって、物語の主題がより明らかになるようにしている。「前語り」にて、訳者が書いた「物語の中味に改変の手を入れず、どうやって『構成』を付す? 私は、平家が語り物だったという一点に賭けた」という文に示されているように、「語り手たち」の登場によって、物語に新たな構造が生まれている、ということなのだろうと -
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2022年1月からアニメ「平家物語」と大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が始まらなければ、私はこの本を読もうと思わなかったかもしれない。とはいえ抄訳版の『平家物語』(角川ソフィア文庫)を持っているくらいには好きで、だが本書の情感の深さは抄訳版とは比べものにならないほど違った。
小松殿こと平重盛の清廉でどっしりとしたたたずまいへの敬意がそこかしこから感じられる。その嫡男で富士川の戦いや俱利伽羅峠の戦いに敗れ、断ちがたい妻子への思いに苦しみながら入水する維盛への温かい眼差し。その訃報を聞いた弟・資盛の嘆き。世を儚んで兄より先に逝った清経の絶望。アニメはこの本を原作としているが、重盛の子どもたちを -
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ネタバレ映画「犬王」原作本。
室町時代、京で実在した能楽師・犬王と、盲目の琵琶法師・友魚のお話。
スピード感たっぷりの文章が心地よく、あっという間に読み切る。
友魚と犬王の友情が熱い。
二人の生い立ち、芸能の頂点にたつまでの物語。
犬王の顔の面が取れる瞬間は、震える。
実際に目にしたような感動があった。
そして、頂点を極めてから、あっさりと終わってしまうのも、またなんとも言えず熱い。
しかも、権力者の都合によって、有無を言わさぬ、絶対抗うことができないというのが、また苦しい。が、それもまた物語としての美しさになっていて、素晴らしい。
友魚の最後は泣ける。そして、犬王の最後のセリフも泣ける。
これは映 -
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読んですぐにこれはオウム真理教と一連の事件を念頭に置いた作品であることは分かる。しかし、それをどう感じるかは、人によってだいぶ違うだろう。当時、親しい人たちが入信したり、被害にあったり直接的な影響があった人たち、わたしのように、同時代に生きながら、半分笑ってたり、何もできなかった人間もいる。テレビで中継される事態に目を離せなかった人も多数いるはずだ。また、存在自体を過去のものとして、終わったものとして遠くに認識している人も多いだろう。
当時、わたしたちは少なからず傷付いたはずなのに、すでにそのこと自体も忘れて生活している。日々のことにかまけて普段思い出さないくらいならいいが、わたしたちはあまり