古川日出男のレビュー一覧
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時は室町。犬王は疾り、謡い、舞う。友魚の琵琶が響く。
父親が、芸の頂点を窮めるために魔性の者と交渉し,異形のものとして生まれた犬王。壇ノ浦から引き揚げた草薙の剣によって視力を失った友魚。二人は出会い、能楽師として、琵琶法師として、名声を得ていく。
リズムのある短文を重ねた語り口で『腕塚』『重盛』『鯨』と、能の舞台が目に浮かんだ。
「世に知られていないからこそ、それゆえに語ってほしいと願う者たちがもたらす真の異聞」とある。友魚の死を知る犬王、友魚の呪縛の様、そして解きあい。また、「犬王は余の偏愛する者」と足利義満に言わしめたにもかかわらず、観阿弥・世阿弥以上に歴史に名を残すことのなかった -
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映画を観てからこちらの小説に触れたので、犬王や友魚の台詞はあの声や抑揚で聞こえるし、もちろんビジュアルは映画そのものを想像して読んでいきました。けれど、それで違和感を感じないほど、しっくり馴染めてたのしく読めました。
それは、展開も結末もところどころ違う小説と映画だけれど、物語の根っこにある「犬王と友魚」という不運に遭いつつも前向きに生きるふたりの生き方や友情が篤く描かれている、その芯がまったく違っていなかったことが、まずひとつ大きいからだと感じました。
そしてもう一つは、小説そのものの文体。歌をうたいあげるように、切れ味の鋭い抑揚の波に載せられるがままに、人々の運命を紡ぎあげてゆく描きか -
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アニメーション映画『犬王』原作
室町時代、時の将軍は足利義満のころ。猿楽の能の頂点を求めた父の呪詛によって犠牲になり、醜く穢れた姿で生まれ落ちた犬王。
平家と共に壇ノ浦に沈んだ草薙剣の光によって盲目となり、琵琶法師となる友魚。
2人が「平家物語」によって固くむすばれ、解放され、縛られていく。
リズム感を重視されているのか、出来るだけ短く区切られた文体でつづられていく物語です。
個人的に文章だけではイメージが追いつかないところがあって、わたしは先に映画を見ていて良かったとおもいます。
映画と原作と比較できて、演出方法に学べたのが何よりおもしろい。
犬王と友魚の関係性が好きです。
「さあ、お -
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アニメ「平家物語」の元になったということで興味があり読んだ。
大変な長編で圧巻だったが、読んでいくにつれ、私はここまでのものを求めていたわけではないということに気づいた。なぜなら、アニメとはだいぶ違ったからだ。アニメでは、重盛や建礼門院徳子など描かれるのは数人ながら、その代わり心情などは細かく描写されていた。一方今回読んだ「平家物語」は文字どおり平家の物語。実にさまざまな登場人物とエピソードがある。これがあの有名な「平家物語」か、という満足感はあったものの、やっぱり私はアニメの方がわかりやすくて好き。幼い我が子を亡くし自分だけ助かってしまった徳子の悲しみや、次々と入水していく様子などは、アニメ -
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ネタバレ親の業によって犬王がぐちゃぐちゃで生まれてしまうのは悲しい。悲しすぎる。呪いという言葉もまた悲しくてつらい。
でも犬王はそういった悲哀を感じさせないキャラクターで、生きる力が強くて、とても惹かれました。
すごい魅力ある人だなあと。目に映る美醜ではない美しさ。目の見えない友魚だから、犬王のほんとうの魅力がわかったのかもしれないですね。
映画も観ました。映画を先に観て、色々と確認したかったので原作を読みました。
映画も本も、すごく良くて映画のパワーに圧倒されましたが、この本が無ければ存在しなかった映画なのかと思うと、それもまた友魚と犬王の関係のように感じられて胸が熱くなります。 -
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『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』は一冊も読んでいないし読む気もないが、現代語訳をした方々が何を思ったのか、そして単純に「平家物語」と付くものは何でも摂取したいという気持ちから手に取りました。
「平家物語」古川日出夫
…『平家物語』のなかで人は本当によく泣きますよね。…月を見て泣きます。風が鳴ると泣きます。…現代のわれわれは近代ヨーロッパ以降に教育された泣き方しか知らないんです…現代の教育が入ってくる前の人は別の感性をもっていて、別のことで泣いていたはずなんです…(p.48)
私は月を見て泣き、空の色が変わっていくのを見て泣く人間なので、そうか私は別の感性で生きている人間なのかと指摘された -
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めちゃ良かった……!賢治は詳しくないし、読んだことないお話もあったし、読んだはずやけどいまいち内容が思い出せないのもあったけど、読み直したくなった。なめとこ山の熊、鉄道のない「銀河 の夜」が好き。
手持ちの『銀河鉄道の夜』(新潮文庫)を読み直して、古川版すご……!ってなったし、後半の「グスコーブドリの伝記 魔の一千枚」もめちゃくちゃ良かったなって。グスコーブドリは自分的神作品である『プラネテス』でもたくさん触れられてたから筋は何となく知ってるけど未読で、未読なりにモヤってたことが整理されてた。
「一人の犠牲で大勢を助ける」シチュは王道ゆえに何度も何度も語られてるけど、物語とシチュとそこから導 -