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Posted by ブクログ
古川日出男さん訳の『平家物語』。
850ページ以上の超大作。
読むのに半月ほどかかった。
まずひとつ重要なこととして、『平家物語』はそもそも原文で爆裂的におもしろいということ。
そしてこの訳はそのもともとのポテンシャルをちゃんと生かしており、まあおもしろいこと。
特に平家が壇の浦で滅びた後、大地震とともにせり上がってくる語り手の声たちというアレンジ、
そして灌頂巻の建礼門院の六道めぐりの物語は、圧巻。
あらためて、平家一門の運命の壮絶さたるや。
そして建礼門院の運命。
帝と妻となり安徳天皇を生み国母となった。
都を追われ、安徳天皇・平家一門とともに西海のうえに漂った。
幼い我が子安徳天皇が海に沈むのを目撃し、それでも自分は死にきれなかった。
都に戻り粗末な庵を結び、仏道に帰依した。
一人の女性の、一回の人生とは思えない。
そんな運命だからこそ、彼女も、語り手たちも、読者も祈らずにはいられない。
「南無阿弥陀仏」
この重みを感じずにはいられない。
いやーしかし訳すごいな。
琵琶法師によって語られた『平家物語』は、原文を読むと確かに語りの口調が認められるのだが、それを現代語訳で感じさせるこの訳はすばらしい。
そしてそもそもこれを単なる訳といっていいのか?というくらい一つの作品として仕上がっている。
しかし原文を尊重しているのもわかるからあくまでもこれは訳なのであって、、、
これはれっきとした古典の『平家物語』でありながら、現代に生まれた一つの小説でもある。
原文もそうだけど、最初のほうは古典や歴史に興味ないとやや苦しいかも。
そういう人は清盛が亡くなる巻六あたりから、それでも長いなって人は「一門都落」がある巻九あたりからがいいかも。
Posted by ブクログ
「平家物語 (池澤夏樹=個人編集 日本文学全集)」(古川日出男 訳)を読んだ。
ええ読みましたとも。
訳者あとがきまで含めて880頁。
原文は『祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、云々』のところぐらいしか知らないけれど、この古川日出男さんの訳文は見事だと思うな。
まさに琵琶の音に合わせて歌うような語りかけるようなリズムだものな。
畳みかける饒舌さが良いです。
単なる英雄譚ではなく人の弱さを余さず語るところが平家物語の真髄か。
しかしまあ誰も彼もよく泣くのね。
『赤地の錦の直垂に紫裾濃の鎧を着て』とか『赤地の錦の直垂にに唐綾威 の鎧を着て』とか『朽葉色の綾の直垂。その上に赤革威の鎧』とか誰も彼もオシャレだしね。
あー面白かった。
今このときの『安◯派』の凋落ぶりを見るにつけてもまさにまさにおごれる人も久しからずということでございますでしょうか。嗚呼!
Posted by ブクログ
2022年1月からアニメ「平家物語」と大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が始まらなければ、私はこの本を読もうと思わなかったかもしれない。とはいえ抄訳版の『平家物語』(角川ソフィア文庫)を持っているくらいには好きで、だが本書の情感の深さは抄訳版とは比べものにならないほど違った。
小松殿こと平重盛の清廉でどっしりとしたたたずまいへの敬意がそこかしこから感じられる。その嫡男で富士川の戦いや俱利伽羅峠の戦いに敗れ、断ちがたい妻子への思いに苦しみながら入水する維盛への温かい眼差し。その訃報を聞いた弟・資盛の嘆き。世を儚んで兄より先に逝った清経の絶望。アニメはこの本を原作としているが、重盛の子どもたちを軸に描いた理由がよくわかる。
文体は「琵琶法師による語り聞かせ」であることを重視し、短く、わかりやすい。だから圧倒的に読みやすい。合戦の場面では琵琶の数を増やし、合いの手を入れ、躍動感に溢れていて、まるで演芸場で実際に琵琶語りを聞いているような臨場感さえある。武士の直垂や甲冑の色まで細やかに描写されているから、情景が鮮やかに浮かぶ。その背景となる平安時代の自然もさぞ美しかっただろう。
特に一の谷の戦いから壇ノ浦にかけて、平家の武将が次々と討ち死に・自害していく様は圧巻で、哀切極まりない一人一人の死に様が胸に迫り、いつまでも読み終わりたくないと思うほど世界観に浸れた。
殺し、殺される男と生き延びて後世を弔う女という2つの視点が強調され、”男”の物語は維盛の嫡子・六代御前の処刑で終わる。”女”の物語は清盛の娘で安徳天皇の母・建礼門院が最後を担い、この世の栄華も苦難も全て見たと語り静かにその人生を終えていく。「穢土から浄土へ。」その一文に尽きる。一貫して鎮魂と祈りを込めた物語なのだ。
これほど長大な古典文学を飽きずに読ませるすばらしい現代語訳をして下さった古川日出男さん、二段組みにせず読みやすい文字の大きさを保ちながら四六判ハードカバー・厚さ4.5㎝の美しい装丁に仕上げた出版社やブックデザイナー、製本所など関係各所の見事な仕事ぶりにも深く感じ入っている。
Posted by ブクログ
生者が、死者が、怨霊が、物怪が、語る平家の没落の物語。明確な作者が存在せず、無数の琵琶法師たちにより形成された本作は、このようなポリフォニックな無数の声により形成された稀代のエンターテイメント作品である。
本書は古川日出男による平家物語という古典の現代語訳である。その訳文は死者の世界にいる無数の琵琶法師たちとの一種の霊的な結びつきにより示されたのではないか、と思うくらいの完成度を誇る。それは何よりも、この物語が、恋愛、戦争、政治紛争、災害、物の怪への恐怖、家族との情愛など、人間が生きる上での様々な要素を余すことなく盛り込んだ一大エンターテイメントであるということを完膚に伝えることに成功している。
正直に言って最初のページを繰る手が重かった本作であるが、やはり歴史を経た弩級のエンターテイメント作品の面白さというのは途轍もない重力がある。池澤夏樹監修の日本文学全集の中の一冊であるが、この平家物語の役者に古川日出男を選んだ同氏の慧眼に感謝したい。
Posted by ブクログ
900頁近くに亘る語りが、凄すぎる。
以下、ネタバレ有り。
ストーリーは知っている方も多いだろうが、古川日出男の紡いだ声が凄い。
敢えて伏せないので、引用等、ネタバレ嫌な方は気をつけてください。
最後の最後まで、読ませきる。
それが仕事だからか。
そこに生きていた人々の、無数の声と、撥と、琵琶の音が響き渡る。
幾つか『平家物語』を訳した本や小説を読んできたけれど、筋ではなくまさに物語として秀逸だった。
泣けます。
序盤、政治パートとした、清盛の栄華からの驕り、そして後白河院や山門とのバランスを上手く保てなくなってゆく。
そこに文覚上人、頼朝、そして木曾義仲登場。
まもなく清盛の壮絶な死に様が描かれる。
このターニングポイントを盛り上げる語りが、ものすごく上手い。
「閏二月四日、いよいよ病苦に責められて、最後の手段として板に水を注いで、その上に寝ころばされたけれども楽になった心地もなさらず、悶えられ、苦しまれ、気絶され、地に倒れ伏され、とうとう踠き死にをなされました。悶絶死を。
悶絶死をなされました。清盛公は。
死んだ。清盛は。」
語りの口調が変わり、そのハッとさせられた気持ちはそのまま、戦パートへ。
「一つ鳴れ。鳴らせ。よ!
また一つ鳴れ。二つめの撥、鳴らせ。た!
いま一つ鳴れ。三つめの撥、鳴らせ。は!
それから控えよ。この三面、この撥三つ。琵琶と琵琶と琵琶、三分の天下の寿永の三年。いよいよ戦さに次ぐ戦さに次ぐ戦さの年は来る。合戦の年は、来る。いや、もう来た。しかしまずは静けさがある寂しさがある。そこからだ。」
平家の都落ち、福原落ちの後、九の巻にある有名な木曾最期でわーっとなる(笑)
義仲の鼓判官イジリが仇となったか、自軍がどんどん減っていく中での巴ちゃんと今井四郎が格好良すぎる。
からの義経に追い詰められ、忠度、敦盛、知章の最期と重衡生捕り。
男と女、それぞれの悲哀。
父と子、それぞれの悲哀。
敵も味方も宿命の前には何も出来ない。
けれど、死を選ぶその時に、最期の名誉を考え、死後の安らぎと解放を願う。
潔さに清さを伴わせ、語りは遺されてゆく。
十一の巻。
壇浦が近付く。
男も女も船から飛び込み、平家の赤旗と相まって海が赤く染まる。
「二位殿は、見られていた、女房たちのありさまを。また戦さの形勢を。男たちの合戦がどうなったか、どうなり果てるのかを。戦場には出られない女として、一切をご覧になっていた。女としてー。
そう、女としてです。女。
二位殿は、女なのです。
かつ主上の、おん祖母。そうなのですよ。女。」
誰も残らない。
灌頂の巻に辿り着き、
そして鎮魂の語りは止む。
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