馳星周のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ感想
アイヌに誇りを持つ祖父、差別を嫌って街を出たい孫娘どちらの気持ちも分かる気がする。それぞれの立場での葛藤が描かれている。
話の合間に出てくる北海道の自然の素晴らしさと失われていく文化や自然とのバランスなど学ぶべきことも多い。
読んでいて、単純に北海道に行きたい!摩周湖の霧滝が見たい!つつじが原のお花畑が見たい!えぞ鹿肉のカレーが食べたい!あと、「はんかくさい」という方言も何となく気に入った。
久しぶりに読んで良かったと思える小説だった。心が温まった。
あらすじ
アイヌの木彫り職人の敬蔵は、両親を事故で亡くした孫娘の悠と二人暮らしだ。敬蔵は木彫りと酒飲みにしか興味がなく、悠はアイヌであることを嫌い、街の外の高校に行って、いずれは誰もアイヌであることを気にしない東京に行きたいと願っていた。
そんな敬蔵の元にある日弟子にして欲しいと尾崎という青年が現れる。尾崎には何か事情がありそうだが、近くで働きながら、木彫りを学ぶことになった。
尾崎は母を福島の仮説住宅で亡くしており、似た境遇の樹と健吾と出会う。最初はボランティアに精を出していたが、次第に東電の社長に責任を取らせるという話になり、計画を立てて、元社長を拉致して謝罪させるつもりが、誤って死なせてしまう。
尾崎の祖母が、実は敬蔵の妹であり、尾崎にもアイヌの血が流れていた。健吾が尾崎を追って、北海道に来たことにより、東電社長の殺害は敬蔵と悠の知るところとなり、一悶着あったが、尾崎とケンゴは自首する。この事件を通じて、敬蔵と悠は言いたいことが言いあえる本当の家族となった。 -
Posted by ブクログ
ほんと、イヌ好きにはたまらない。
あと、山好きにも……。
雨のあとの北八ヶ岳の森の香りには、生命の息吹きが漂う。
新芽を伸ばすコメツガやシラビソ。
木漏れ日と水滴をたっぷりと蓄え、いっそう青さを増す苔たち。
いく筋も、普段は枯れている沢からも流れ集り、森を潤す雪解け水。
森の中で、その重量感のある空気を胸に取り込みながら歩くと、不思議な一体感が生まれてくる。
そんな気分が、本を読んで見事に蘇るとは……まさかのことでした。
御泉水からの蓼科山頂上までの道のりはその通りで、「蓼科山荘」もよく雰囲気が出ている。
ずいぶん行ってないなあ〜。
「イヌは今を生きているんだ」
ヒトも同じ事……。
さぁ、もう少し今を楽しみますか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ人はここまで堕ちていく――未曾有の巨編が迎える衝撃のラスト。
毒ガス・サリン撒布計画を実行に移す――。教祖・十文字の反社会的なエゴは肥大化し、やがて侍従長である幸田のコントロールが利かなくなってゆく。若き幹部・太田慎平は信仰のために自らが犯した罪に苛まれ、苦悩を深める。一方、金蔓と見定めて彼らと手を組んだ警部の児玉は、権力者たちの暗闘に搦めとられていく。負の感情に囚われ、死臭を放ち始めた男たち。向かう先は天国か地獄か。未曾有の巨編が迎える衝撃の結末。
一気に読んでしまった。世代的にオウムという悲惨で凄惨な事件があったというが、それをモチーフにしているとは言え、ここまで愚かな事を行なっていたとは。
とりあえず。この小説では、幸田というお金に走ったものの最後は全てを諦めてしまう元共産主義者の弁護士と高卒で勢いのまま宗教にのめり込んでしまいそのまま尖兵とされてしまう感受性豊かな太田。自らを貶めた官僚への復讐のために教団を利用する警察官の児嶋。誰1人として救われる者がいないっていうのが、この小説が問いかけてくるものだろう。
ただ、最後に十文字が言い捨てた、お前らなら止められただろ。それをしなかったのはお前等の選択だ、みたいなところは新興宗教だけの問題ではなく、広く社会的な事を言っていて身に染みた。
オウムの事件として起こった数々の出来事をここまで繋ぎ合わせる作者の力はすごかったし、教団が守られていた背景には警察と政治家のパワーバランスがあったというのは納得できる推論だとも思った。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ犬のエッセイです
自分が14年ともに暮らしたミックスの愛犬を虹の橋の向こうに見送ってから、しばらくこの手の本を読み漁っていました
うちの子は6キロ程度の子でしたが、それでもいなくなったあとのがらんとした感じはたまりませんでした
ましてやマージはバーニーズマウンテンドッグ
でかい
精神的に占める大きさはうちの子も変わらないとは言え、物理的なサイズ感は5倍?6倍?
喪失感も大きいことだっただろうと
病気がわかってからの著者夫妻のマージへの献身ぶりは、お金があるからできることだなと思いますが、それにしてもなかなか出来ることではなさそうです
幼少から一緒にいたマージが、日々弱っていく姿を見つめ、支えることは辛かったでしょう
でも犬に限りませんが、動物と暮らすということは命を見つめること
生命を見送ること
見送っても見送っても、また命を迎える
性懲りもなく
馳さんもそうてした
同じ子は二度とおらず、全然違う個性の新たな子に前の子の姿も重なる
見送った子たち誰も忘れることなく、また新たな子との暮らしをつくっていく
でも生命を見送ることの慟哭を忘れないようにしておこう
この子との毎日も一期一会なんだから -
Posted by ブクログ
ネタバレ“カリスマ教祖”十文字源皇率いる〈真マントラ言の法〉。弁護士の幸田敏一は十文字と共謀し、教団ナンバー2の侍従長として勢力拡大を推し進める。組織に切り捨てられ左遷された公安刑事の児玉弘樹は、金の匂いを嗅ぎつけ、この新興宗教に接近する。教団に不利な行動をとる弁護士の殺害計画が持ち上がったとき、男たちの欲望は業火の火種となり、音を立てて燃えはじめた――。
出てくる登場人物がみんなすごいキャラをしていて面白い。主人公は元アカの弁護士で、新興宗教のナンバー2の幸田。彼はナンバー2の立場ゆえに金儲けに執着することになる。その金儲けをなくさないために、教祖の十文字を動かしてきたが、教団の発展とともにその立場が危うくなる。金儲けと立場を守るために、熱心な信者を使ったり、教団が崩壊すれば運命を共にしてしまう人たち、さらには公安の警察官を取り込み暗躍していく。
新興宗教の教祖である十文字は自分が祭り上げられるにつれに、神聖だと信じ込み、ほんとにそうだと自覚してしまう人。さらには、薬物によって思考もおかしくなり、聖人であると勘違いしていく。それによって、教団もまた暴力的な組織へと遂げていってしまう。
幸田と教祖によって殺人を犯すことになってしまった太田慎平。若い人特有の自分の居場所のなさを宗教に求めてしまい、はまってしまった信者。自身が犯した罪故に、その深淵に落ちていってしまう。ただ、一定の良心があるのが救いかもしれない。
公安の警察官である児島は自身をはめたキャリアへの復讐のため、教団を使うことを思いつく。最初は教団への反対運動をしていた水書弁護士一家殺害事件の目撃者になったことであったが、それを利用して幸田から金を巻き上げることに。そのお金とキャリアへの復讐による甘い蜜に味をしめた児島も教団とは切っても切れない関係に落ちていく。
新興宗教による信者の囲い込みと薬物による洗脳をはじめとして、薬物の流通に公安の警察官を使ったり、警察のキャリアの人たちの人事に政治家が出てきたり、など、今の世界で聞いたことがあるような話題ばかりで面白かった。
下巻でこの人たちの運命がどうなるか、がとても楽しみ。自身の欲望に従った結果、どうなっていくのだろうか。 -
Posted by ブクログ
馳星周さんによる「ソウルメイト」シリーズの続編である「陽だまりの天使たち ソウルメイトⅡ」を前作に引き続き読んだ。
犬や猫を飼うということはその最期を看取る覚悟を持って始める必要があると、愛猫達を飼い始めた際に教わった。ただ可愛いからという無責任な理由で飼われ、挙げ句に虐待されたり捨てられるペット達の多いことも知った。更には幼犬、幼猫のうちに親と引き離され、仔犬や仔猫のうちでないとペットショップで買い手がつかず、売れ残ると店によって処分されることもあったという残酷な業界の闇も知った。その経験や知識を踏まえて馳さんの犬と人間をテーマとした作品群を読むと、馳さんの愛犬マージ《ソウルメイト》への愛が作品の出発点となっていることを実感できる。だからこその魅力なのだ。
馳さんの犬と人間の関係を綴った作品群が他にも文庫化(電子書籍化)されていることを知り、また別の機会に読んでみたくなった。馳さんの愛犬マージへの思いがこもった「走ろうぜマージ」も是非とも読んでみたい。
『いつもそばにいるよ』
いつもそばにいるよ こんなに陽射しが強いのに、 そんなに遊んでばかりいたら熱中症になっちゃうよ。 よその子と取っ組み合って遊ぶなんて、 怪我でもしたらどうするの。 向かいから来たワンコ、この前、すれ違う時に唸ったのよね。 違う道を行きましょうね。
わいちいちうるさいんだよなあ。 そんなに心配ばかりしてたら、 楽しいことひとつもなくなっちゃうじゃないか。 ぼくたちはね、人間と違って今を生きてるんだ。 その瞬間、瞬間に、 楽しかったり嬉しかったり怖かったり悲しかったり。 昔はこうだったからとか、あのときこうだったからなんて 考えたりしないんだよ。 今がすべて。大切なのは今だけ。 せっかくぼくらと暮らしてるんだから、
あなたたちも今を楽しもうよ。 起こるかどうかもわからないことに怯えてないでさ。
どうしよう、どうしよう。 この子はもう助からないのかしら。 この子がいなくなったら、わたしたち、どうしたらいいの? この子のいない人生なんて考えられないわ。
どうしてそんなことばかり考えるのさ。 ぼくはまだここにいるよ。
自分の脚では立てなくなったけど、 尻尾も振れるし、ご飯も美味しいんだ。 そりゃぼく、いつかはいなくなるよ。 ぼくたちの一生は人間よりずっと短いんだから。 でも、今はまだその時じゃない。 今がすべて。大切なのは今だけ。 お願いだから、ぼくたちみたいに今を生きて。 いつか死んじゃうなんて考えるより、 今日は昨日より元気だとか、昨日より食欲があるみたいとか、 いいこと考えようよ。だって、ぼくはここにいるんだから。 ここにいて、みんなのこと愛してるんだから。
どうしていつまでも泣いてるの? 悲しんでるの? 確かにぼくはこっちの世界に旅立っちゃったけど、 あなたたちとの楽しかった日々を覚えてるよ。 ぼくは幸せだったんだよ。 なのにどうして泣くの? 今を生きようよ。一瞬、一瞬を大切に生きようよ。 そうしたら、寂しくはあっても悲しくはないと思うよ。覚えてるでしょう。 ぼくと暮らした日々。楽しかった一瞬、一瞬。 ぼくが幸せだとあなたたちも幸せだった。 あなたたちが幸せだったらぼくも幸せだった。 別れの時より、楽しかった時の方がずっと長かったんだから。 ぼくはずっとあなたたちのそばにいるんだよ。 ぼくとあなたたちは魂で繫がっているんだから。 魂の絆は永遠なんだから。 だから、約束してよ。 新しい子を迎えるって。その子に、ぼくにしてくれたのと同じことをしてあげて。 愛してあげて。幸せにしてあげて。 そしたら、その子はあなたがたのことを愛してくれるよ。 幸せにしてくれるよ。 その子との生活の一瞬、一瞬を楽しんでね。 だって、あなたたちが幸せなら、 ぼくの魂も幸せになれるから。 あなたたちの幸せがぼくの幸せなんだから。
だから、今を大切に生きてね。 -
Posted by ブクログ
7匹の犬と人間(飼い主やその家族など)との物語を描いた短編集。馳星周著「少年と犬 」を読み、同じ作者による他の犬と人間の物語を読んでみたくなり、「ソウルメイト」シリーズを見つけて読み始めた。
子供の頃、犬を飼っていたもののその後はペットを飼えない環境に暮らしてきた。今も管理規約でペット禁止のマンションに住んでいるが、内緒で3匹の猫を飼っている。猫を飼うのは初めての経験で最初は犬との違いに戸惑った。しかし、長年共に暮らす中で犬との共通性にも気付いた。今回『犬の十戒』を初めて読み、そのほとんどが猫に置き換え可能だと悟った。
7つの短編を読み進めるにつれて、犬と人間の心の交流に引き込まれていった。犬好きには(猫好きにも)涙や感動なくして読むことができない物語だ。
最後に「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」を読み、ただひたすらに寂しかった。私の愛犬は私が進学のため実家を離れている間に亡くなった。したがって愛犬や愛猫の最後に立ち会ったことはまだない。私は愛猫達が亡くなった時、はたして寂しさに耐えらるだろうか…
『犬の十戒』
【1】ぼくは10年から15年ぐらいしか生きられないんだよ。 だから、ちょっとでも 家族と離れているのは辛くてしょうがないんだ。 ぼくを飼う前に、そのこと、考えてみてよね。
【2】父ちゃんがなにをして欲しがってるのか、 ぼくがわかるようになるまでは忍耐が必要だよ。
【3】ぼくのこと信頼してよ。ぼくが幸せでいるためには、 みんなの信頼が必要なんだから。
【4】長い時間怒られたり、 罰だっていって閉じ込められたりするのはごめんだよ。みんなには仕事だとか遊びだとか友達がいるでしょ? でも、ぼくには家族しかいないんだよ。
【5】いっぱい話しかけてよ。人間の言葉はわからないけど、 話しかけられてるんだってことはわかるんだ。
【6】ぼくにどんなことしたか、ぼくはずっと覚えてるからね。
【7】ぼくをぶつ前に思い出してよ。 ぼくはみんなの骨を簡単に嚙み砕けるんだよ。 でも、ぼく、絶対にそんなことしないでしょ?
【8】言うことを聞かないとか、頑固になったとか、 最近怠けてばかりだとか言って叱る前に、 ちょっと考えてよ。 食事が合ってなかったのかも。 暑い中ずっと外にいて体調が悪くなったのかも。 年をとって心臓が弱くなってるのかも。 ぼくの変化にはなにかしら意味があるんだから。
【9】ぼくが年をとってもちゃんと面倒見てね。 みんなもいつか年をとるんだからさ。
【10】ぼくの嫌なところに行くときは、 お願いだから一緒にいてよ。 見てるのが辛いとか、 見えないところでやってとか、 そういうことは言わないでよ。 そばにいてくれるだけでいろんなこと、 頑張れるようになるんだ。愛してるよ。 それを忘れないでね。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ頑固な祖父と反抗的な孫。
あー先が読めるぞ。些細なことで孫が生意気なこと言って、爺ちゃんが怒鳴って、何日も口を聞かないとか…はいはい、幾度となく読みましたよこの展開…と思ってましたが大間違いでした。
頑固ではあるけどいつも悠のことを想ってる敬造、アイヌや敬蔵を嫌いだといいながらも感謝の気持ちを忘れない悠。言葉が足りなくともお互いが心の奥で想い合う所が、あぁ・・リアルな家族の形だなぁと感じた。
人は人を裁けないー。
雅比古は本当にはんかくさい事をしたけども、その答えに辿り着けたから”捕まるまで逃げる”のではなく”自首”を選んだのだろう。
最初から最後まで、3人が大好きでした。 -
Posted by ブクログ
めっきり読んでいなかったが、最近妙に懐古的なので10~20代の頃ハマっていた馳作品を久しぶりに読みたくて、まだ未読の作品を。
ページを捲って即没入。
何も知らずに読み始めたのだけど、途中でやけにリアルな人間模様に「?」となって調べると
どうやら馳さんご自身の自伝小説に近い作品なのだとか。
新宿ゴールデン街を舞台に、北海道から出てきた小説好きの青年がディープなバーで働き始めてからの成長(?)記。
ミステリー要素を重ねつつも、実際に体験したからこそのリアリティに長けた描写が沢山。
呑み屋に生息する人間たち特有の濃くて浅い人間関係、強くて脆い精神。寂しい病。
飲み明けの空を眺める背徳感。
毎晩繰り出す酒場。嫌気が差しているにも関わらず、戻ってきてしまう矛盾。
二日酔いの癖して、迎え酒でスタートを切る夕方。止まらぬ煙草。止まらぬハシゴ酒。
そこかしこに20代の自分と重なる描写が描かれていて、歌舞伎町の街並みや、馴染みの店の数々、マスターや常連の顔、手に取るように思い出されて、どこかとてつもなく愛おしくあの頃がとんでもなく懐かしくなってしまった。
街は変われど、小説に出てくるような人間関係は今もどこかの飲み屋街で存在しているはず。
濃過ぎて脆い中毒性のある場所は、自分を見失うと溺れる反面、いつか次のステップを踏めた時、そこで過ごした時間がとんでもなく愛おしい経験になる。
みんなみんな、寂しくて脆い癖して、精一杯模索して強く踏ん張って生きている。人と自分の弱さを知った時、初めて強く優しくなれる気がしている。
久々の馳作品は、テンポが良くとても人間臭くて、やけにノスタルジックにさせてくれ、この先何年経っても読み返したくなる作品になってしまった。