父親の死後、生前の父親を知っていく物語です。
主人公はようやく決まった就職先を会社の風潮に馴染めず1か月で辞めてしまった青年。生活費が乏しくなる中、突然知らない番号からの連絡で父親の死を知る。仕事人間だった父親とは疎遠にしており、数年前に引っ越したと連絡を受けたものの一度も訪れたことはない。きっと寂れた田舎の街で一人孤独に生きていたのだろうと勝手に思い込んでいたものの、父親の亡くなった後の手続きや家の片づけなどをしているうちに、生前の父親の姿が少しずつ見えてくる。それは全く自分の知らなかった、想像すらしたことのない姿だった。地域の人に慕われ、別荘地に固定の顧客を何人も持って、海でサーフィンをする。いつしか彼は一体父親が見ていた景色はどんなものだったのか知りたいと思うようになっていった。
亡くなってから初めて、その人がどんな人だったのか知るということはあるように思います。遺品の整理や、弔問に来てくれたお客様や、地域の人の口から聞く故人は、自分の知らない姿をしていることがちょくちょくあります。今作の主人公は、無口で仕事人間だった父親しか知らず、家族での交流もほとんど持っていませんでした。自分からしたら縁もゆかりもない遠方に引っ越した父親が、そこで何をしていたのか、どんな人とつながりがあったのかまるでわからないままに、とりあえず家を売ってお金にしないと、と動き出そうとしますが、現実に簡単にお金に換えられるものは多くありません。しかし、整理を進めるうちに段々見えてきた父親の姿は、人間味があって、魅力的です。もっと知りたい、となっていく息子の姿がどことなくリアルで、相手が亡くなっているからこそ素直に受け入れられることもあったように思います。
都会に慣れた人間が海辺田舎で暮らすというのも、もちろん簡単なことではないと思います。けれど、全部を一人でなんとかしなければ、と思わず人を頼ることができる人は、田舎の人間関係を大切にできる人だと思います。できる時にできる人が助ける。そんな関係を続けて行けば、自分もその時が来た時に誰かを助けることができる。関わろうとしてくる人を煩わしいと思わずに、そういう心持ちを大切にできる生活を大切にしていってほしいと感じたりします。
今作は続きものの一作目のようなので、また海が綺麗な季節に続きを読んでいけたらと思います。