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Posted by ブクログ
七月の目玉となった作品。個性がいくつもある。一つにはニュージーランド発ミステリー。作者は、法心理学者としての本業の傍ら、小説は電子書籍でしか契約しないという欲のない姿勢を貫いているが、この通り、内容が素晴らしいため、作者の意に反して紙のメディアでも世界中に翻訳され、売れっ子となりつつある。
ページを開いた途端、絶体絶命の窮地にある主人公の現在が描写される。いきなりの海岸の崖に車いすごと足が岩に引っかかって宙ぶらりん。ぼくはこの作品の前に、クレア・マッキントッシュの『その手を離すのは、私』という本を読んでいて、その最終シーンが海辺の崖の上での意味深なシーンだった。まるでその続きみたいに始まるのだが、場所は『その手を離すのは、私』のウェールズの崖ではなく、遠く離れた南半球、ニュージーランドは南東のしかも南の外れにあるリヴァトン。面白過ぎて、グーグルマップで場所を探す作業からぼくの読書は始まる。凄い!
南の果てで南極に一番近い海岸線。凄い! それも崖の上で宙ぶらり状態。しかも車いす利用者なのか。凄い。描写は六か月前の過去に、私ことフィン・ベル(そう著者と主人公が同名である)が銃と、人の頭を吹き飛ばせるホローポイント弾を買い込むシーンから始まる。その後、気になり過ぎる現在と、過去とを行き来しつつ物語は進んでゆく。
主人公は南アフリカ出身でニュージーランドに流れ着いた「人生の落後者」(=原題のDead Lemons)であり、妻に去られ、酔いどれてトラックに突っ込んで両足とその感覚を失ってしまった車いす生活者。『楽園の世捨て人』というカナリア諸島に行き着いた中年男が正義を通して自分を撮り戻す作品があったが、そちらが悲壮で真面目な小説だったのに比べると、こちらの作品は同じような絶望的設定なのに、何故か明るいのだ。脇役たちの明るさ、軽さ、人の好さ、等々が主人公を助けると同時に、読者をも笑いや優しさに満ちた時間へと掬い上げてくれる。主人公の独り語りも、悲壮感というより破れかぶれな決意感のようなものがすっと通っていてなかなか宜しい。
作家の持ち分であるサイコセラピーの部分は、優しく厳しく熱いおばはんセラピストによって、すごく専門的な知識を駆使して語られてゆく。この辺の知識豊富な部分と、ニュージーランドに流れ着いた者たちの歴史を紐解く部分も凄まじい。
捕鯨やら砂金やらに群がった無法者たちの300年前の姿がロマンチックであると同時にワイルドで、その舞台となったこのリヴァトンの辺りが、何ともきな臭い隣人三兄弟の薄ら寒いような悪の怖さを醸し出し、主人公の緊張感を行間から滲ませ続ける。過去に起こった少女とその父の連続行方不明事件を調査するにつれ、緊張は高まる。
主人公が車を飛ばして相談に駆け付ける元刑事ボブ・レスの犯罪心理分析の語りのシーンもおそらく作者ならではの専門知識が活躍する。怖い隣人のこと。行方不明事件のこと。主人公自身が脅しや恐怖に曝される緊張状態の中で、世界の果ての海岸線に接した小さな町が、事件の再びの捜査に湧き立つ。
そして最後に現在に戻る。二転三転。驚きの結末。全体を包む現在時間の緊張感と、じっくり語りゆっくり進み、時々恐怖、という過去時間がついに集約する大団円。見事な構成。見事な読ませ感。ミステリの要素をいろいろと重ね合わせてホチキスで止めたような結末。読み始めたら最終シーンまで収まりのつかないこの一冊に、是非とも翻弄されて頂きたい。
しかし、これがこの作者、小説デビューだって? うーむ、俄かに信じ難いのだ。次が楽しみである。
Posted by ブクログ
妻と離婚し、酒に溺れ飲酒運転で下半身の自由を失ったフィン(作者と同じ名前)が心機一転向かったのがニュージーランド最南端の町
フィンはその町のさらに南の人里離れたコテージを購入
しかしフィンが購入する以前にコテージに住んでいたコッター家の娘アリスが26年前に失踪していた
それを知ったフィンは事件に関わっていると思われるゾイル家を調べ始めるが…
冒頭、いきなりフィンは絶体絶命…
車椅子に乗ったフィンは崖で車椅子ごと巨石にはさまれ宙ぶらりん…
どうした?
なぜ?
助かるのか?
そんなことを気にかけながら、フィンがそれに至った出来事の道筋をたどっていくようにページを捲っていく
そして明かされた事実に…
おもしろかった!
前回読んだ『壊れた世界で彼は』
より登場人物のキャラが立っていてのめり込めた
何よりミステリーとしてのおもしろさはもちろん、主人公フィンの成長、ニュージーランドの歴史のそれぞれが楽しめた作品
猟奇的な内容もあるので苦手な人は要注意だが、フィンの脇を固める登場人物たちに救われる
特に陽気なフィンのマーダーボールの友人のタイやその娘ミヒの存在が良い
それにしても…
常に繁栄の裏には悲しい歴史があるものだ…
人間の欲の餌食
今日もまたおかしな夢をみてしまうのか…(笑)
Posted by ブクログ
車椅子生活の主人公の、ニュージーランドの南端での緊迫したシーンから物語がスタートする。
筆者はカウンセリング専門職が前職ということで、犯罪者の言動や行動に反映されている内面が細やかに描写されていて、怖かった。
地名や人物名に慣れず読むのが大変だったが、サスペンスとしての出来も高く暇なシーンはない。
それでいて、終盤の終盤にどんでん返しもある。
また、自分に絶望していたり、この先どうしていいかわからない、そんな状態の時に読むと、希望が見えるような一面も持ち合わせている作品でもありました。
学びとは苦痛であるという言葉は、しっくりきました。
Posted by ブクログ
のっけから車椅子の主人公はピンチに陥っており、すでに犯人と思われる敵に狙われている。回想と現在が交互に語られるうちに、事件の詳細が分かってくるというストーリー。タイトルの「死んだレモン」とは「人生の落伍者」という意味らしい。その一歩手前でふんばる主人公は、結構大変な目にあってもしぶとく生き残る。まるでホラーな犯人たちとは対象的に、主人公の周りは温かく優しい人たちに見守られている。この人たちが巻き込まれませんようにと思いながら読んだ。最後すっきり決着できて良かった。
舞台はニュージーランド。羊が人口より多い国など牧歌的なイメージしかなかったが、入植者、捕鯨、ゴールドラッシュ等、どんな国にも黒い歴史があることを思い知らされる。
Posted by ブクログ
島国ニュージーランドのミステリーが読めるとは。グローバル社会の恩恵を実感します。日本のミステリーがニュージーランドで読まれることがあるかなあ。
風景描写が具体的なので、荒涼として寒々しいリヴァトンの風景がイメージできました。ニュージーランドの歴史の説明も実に詳しく、知らなかったことばかり。一冊で二種類の本を読んでいるかのような錯覚に陥ります。やり直そうとするフィンを囲む地元の人々の温かさが沁みますね。タイの接し方が素敵で、こんな風にしたい!と思わされました。
事件の方は誉田哲也作品かと思うくらいの酷さだし、冒頭はヒッチコックの映画のよう。けれど、前述のようなサブストーリーの中に埋もれてしまって、あっけない終わり方では?と思ってしまいました。とはいえ、様々な国の風景を思い浮かべながら好きなミステリーに没頭できる幸せを噛み締めました。
Posted by ブクログ
ニュージーランド南島の最南端「リヴァトン」が舞台のミステリー
NZも大好きな国の一つだが、「リヴァトン」なんて初めて聞く
早速Googleアースで検索
うーん田舎(笑)
リヴァトンはかつて捕鯨とゴールドラッシュの二度の好景気に湧いた街
どちらも採りまくったらどうなるか…
それが今のリヴァトン
その中でも街から離れた海沿いのフィヨルド地域の「最果ての密猟小屋」と呼ばれる古いコテージを手に入れ新生活を始める主人公
訳あり感満載
彼の名前はフィン・ベル
著者と同姓同名だ
その意味深な理由は、実はトホホな内容だが、お陰で著者の名前をバッチリ覚えることが出来た
この作品は著者フィン・ベルの初出版とのこと
元々は、電子媒体の自費出版市場で活躍する作家であり、南アフリカ共和国出身であり、法心理学の専門家
また主人公と同様に(経緯は逆だが)、ニュージーランドへ移住する
そんな著者の体験も作品にふんだんに折り込まれている
主人公フィンは、ビジネスの成功者だったものの、気づいたら不眠に悩まされ、アルコールに依存し、離婚し、飲酒運転の末、下半身の自由を奪われ車椅子の生活を余儀なくさせられる
そんな彼が新生活に選んだのが、最南端のリヴァトンのコテージだ
リヴァトンでの新しい生活は、まず銃を手に入れることからスタートする
何のためか…
残念ながらまだ再起できていない自分のためであった
しかしここでたくさんの素敵な出会いがある
(日頃カタカナの名前がちっとも頭に入らないのだが、登場人物たちがとても個性的で、良い意味でアクが強くすぐ覚えることができた)
人だけじゃない
「マーダーボール」という車椅子ラグビー(ネーミングからわかると思うが、車椅子同士が激しくぶつかり合うまさに殺人球技である)
仲良くなった友人タイの勧めで始めるも、すっかり夢中になる
その喜びがこちらにも伝わり、心からフィンを応援したくなる
頭を空っぽにして身体を動かすのは、健全な精神状態の第一歩だ!
セラピスト、友人、新しい女性…
人間関係にも恵まれ、フィンの人生が変わっていく
それと同時に巻き込まれていく事件
リヴァトンの街が成立する前から一族が住んで居たという隣人の不気味なゾイル家三兄弟、そしてコテージの元の持主の殺害
2つの時間軸が進行し、過去と現在が最後一つにまとまり、事件が解決する
ドキドキ・ハラハラバージョンと、じっくり謎解きミステリーバージョンの2つを楽しめるようになっている
ミステリーとしてはもちろんだが、フィンの人生の物語でもあり、ニュージーランドの歴史物語でもある
ラダニテと呼ばれたユダヤ商人、人身売買、移民、マオリ族…
NYの重厚な歴史を窺い知ることができる
そんな三方面から楽しむことができ、満足度はなかなか
フィン人生設定が重いかな?と思ったものの、リヴァトンの陽気な人達と、フィンの立ち直りの早さに爽快感を覚える
一方ゾイル家の不気味さ、生業のエグさ、事件の結末の不快感など、胸クソの悪さは結構あるものの、何故か最後の最後はカラッと乾く
リヴァトンを知らないが、重い歴史がありながら、2回の好景気が過ぎ去り、ひっそりとした街になった今、そこにあることだけに満足し、明るくその土地で生きる人たちの姿を反映しているのではないか…
そんな清々しい感じが悪くない
フィンとリヴァトンの人達に最後は救われる…そんな小説
しっかり楽しむことができた
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