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人間や動物における触れ合い、温かい/冷たい、痛みやかゆみ、性的な快感まで、目からウロコの実験シーンと驚きのエピソードの数々。科学界随一のエンターテイナーが誘う触覚=皮膚感覚のワンダーランド。
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Posted by ブクログ
デイヴィッド・J・リンデン氏は、1961年米国ニュージャージー州生まれの神経科学者で、ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授。カリフォルニア大学バークレー校卒、ノースウェスタン大学で博士号取得。記憶や運動、脳損傷後の回復などをテーマとした研究を行う傍ら、一般読者向けに神経科学をわかりやすく伝える著作を多...続きを読む数執筆。科学の魅力を広く伝える「神経科学という国の大使」を自称する。 本書は、触覚が単なる感覚ではなく、愛着・記憶・感情・社会的絆に深く関与することを、神経科学の視点から解き明かした代表作で、2016年に出版、2022年に文庫化された。原書は『TOUCH:The Science of Hand, Heart, and Mind』(2015年)。 私の印象に残った点を列挙すると以下である。 ◆皮膚は外界との境界であると同時に、社会的情報を授受する器官である。人と人との接触は、発達の初期段階で特別な役割を果たしているばかりでなく、社会生活の中で、人への信頼と協調を育み、他人に対する見方にも影響を与える、決定的に重要な要素である。 ◆皮膚には種類の異なる複数の触感センサーがあり、それぞれが異なる種類の触覚刺激を検知する。その情報は神経線維により脊髄へ運ばれるが、その神経線維はほとんどが各種物理的刺激の中のひとつを伝える専用線になっている。神経線維には、伝達の速い線維と遅い線維があり、脳に到達するのに時間差が生じる。多くの場合、速い情報は感覚・識別中枢を活性化し、遅い情報(愛撫や痛みの第2波のような)は感情・認知的な部分を活性化する。これらの情報は、そのほかの信号と合体し、その接触の感覚を意識する段階では、識別的であると同時に感情を伴う、統合され行動と結び付く観念となっている。また、脳は、受動的に触覚情報を受け取っているだけではなく、脳に来る前の触覚信号のボリュームを上げたり下げたりできる。 ◆触感回路は、外界の在り方を忠実に報告するために作られているのではなく、進化の過程で、特定の課題を解決する(食べ物を見つける、危険を避ける、等)ために、外界の在り方を推測するように形作られてきた。 ◆C触覚線維は、毎秒3~10㎝の速度で軽く撫でられたときのみ感知し、脳の報酬系を活性化する特別なシステムである。C触覚系が発達したのは、社会的絆のためにはそれが重要な役割を果たためと考えられる。 ◆世界中のほぼすべての人は、唐辛子を「熱い」、ミントを「冷たい」と表現するが、それは、熱を感知する神経線維が唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを検知し、冷たさを感知する神経線維がメントールを検知するという、それぞれ二重の機能を持っているためで、いわば触覚と化学感覚の錯覚が起こっているのである。 ◆痛みの知覚は脳の各所に分散している。痛みを伝達する神経線維(回路)には、上記の通り、大きく分けて感覚的・識別的な部分と、感情的・認知的な部分の2つがあり、それゆえに、痛みの知覚は感情的・認知的に調整されうる。慢性痛(長期間持続する痛み)、偽薬効果、瞑想による痛みの軽減などは、それにより説明ができる。 ◆痒みは、独立した触感の一つなのか、他の様々な触感(例えば痛み)の上に生じる刺激のパターンに過ぎないのか、十分に解明はされていない。 一読して、人と人との接触が社会的絆を育むために有効であるということは、今や広く認識され、様々な場所・機会で取り入れられていることなので、特段の驚きはなかった。 一方、目から鱗であったのは、皮膚には異なる複数のセンサーがあって、それぞれが異なるルートを通して脳に伝わるため、刺激が同じであっても、感覚と感情における受け取り方は、それぞれケースバイケースで異なり、それは、(ネガティブな刺激の代表である)痛みについても同様だということである。つまり、身体的な痛みは、「気の持ちよう」で、ある程度はコントロールできるのであり、子供の頃、転んだ後などに親から「痛いの痛いの飛んでけ~」と言われたものだが、あれは根拠のあるおまじないだったわけだ。 そして、そこまで明らかになると、(ストレスの多い現代社会に生きる)我々にとっては「心の痛み」のことが気になるのだが、本書では、心の痛みと身体的な痛みは、脳内の感情的な痛み回路の同じ領域を活性化させることや、鎮痛剤が心の痛みを軽減させることなども紹介されている。この分野は、これまでは主に心理学で扱われてきたのだと思われるが、神経科学からのアプローチもぜひ深めて欲しいと思った。(最新の研究のことを私が知らないだけかもしれないが。。。) 五感の中でも、生存のためには不可欠とされる「触覚」について掘り下げた、面白い一冊と思う。 (2025年11月了)
一番印象に残ったのは、feel/feelingということばは触覚の比喩表現だ、というもの。 本論はそれ自体いろいろと面白く楽しく読めたのだけど、冒頭のこの一言のインパクトが大きすぎて何も耳に残らなかった。 言われてみれば確かにfeelということばは「触れて感じること」が第一義で、「触れずに感じること...続きを読む」という意味はそこから派生して母屋を乗っ取ってしまったようなもの。 コミュニケーションがどんどん言葉(テキスト)と映像だけに収斂していく中で、もっとも古く原始的で効率の悪い感覚、触覚について考察を巡らせるのも楽しい読書体験でした。 紙の本の重みや手触りを感じながら。
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