1.著者;楡氏は、大学院卒業後に写真用品の大企業に入社。在職中に出版した「Cの福音」で作家デビュー、当書はベストセラーとなりました。その後、退社し執筆に専念。「クーデター」を始め、6連作のシリーズはすべてベストセラーとなり、6作合計で当時250万冊を突破したそうです。「再生巨流」はテレビドラマとなり、ATP賞ドラマ部門の優秀賞を受賞。本書の「プラチナタウン」もテレビドラマになりました。氏の著作は、スリラーとハードボイルドとアクションを取り入れた作品群が特徴でした。しかし、『再生巨流』を発表してからは経済小説をメインに執筆しています。
2.本書;出世の道を外された商社部長の山崎(主人公)は巨額の負債を抱える故郷の町長を引受け、第二の人生を送ります。町は大赤字を抱え込む一方で、公共事業を請負った土木業者と政治家は大儲けという理不尽。そのような状況で、工場誘致を狙って整備した3万坪の土地に定年退職後の人達の住める町作りに挑戦し、成功するという話です。
3.私の個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、感想と共に記述);
(1)第二章より、「生きるか死ぬかのビジネスの最前線でしのぎを削ってきた身からすると、・・・絶対潰れやしない。仕事でヘマをしでかしても刑事罰の対象にさえならなければ、一生涯安定した収入を得られると踏んでいる公務員の発想そのものである」
●感想⇒私が学校を卒業した時代には、公務員志望がかなりいました。就職理由は、「倒産しない・収入安定・・・」が多かったと思います。私は民間に就職しました。会社は、社員の頑張りを尻目に景気に左右され、業績は波を打ちました。業績が急激に悪化した時には、ボーナスや昇給に多大な影響を及ぼします。公務員ならではの仕事の厳しさはもちろんあるでしょう。しかし、ボーナスが出ない会社がある反面で、役所では一定水準の支給があり、危機感の欠如に唖然としたものです。
これに関連した独り言です。私は愛知県の某市に住んでいます。庁舎は、清潔感はあるものの、建屋・トイレ等の設備は陳腐です。近隣の市庁舎に比べ、劣っていると思います。財政はそんなに逼迫していません。環境に重点投資しているのです。充実した公園遊具、公園トイレは毎朝清掃等々、また民間企業と意見交換会を行い、市長参加で良い事を学ぼうという姿勢。こうした市民目線の施策を推進している市政もあるのです。トップの“公僕”という考えが浸透し、民間に匹敵する仕事をしていると思います。知る限りでは、このような市町村は少ないでしょう。応援したいと思います。
(2)第三章より、「老後をどう過ごすか、人生最後を迎えるまでの介護をどうするかは、何も都会の人間だけの話じゃねえ。万人の共通した問題なんです」
●感想⇒推計では、65歳以上の高齢者比率は、2021年29%⇒2065年には38%に上昇するそうです。定年後は自分の時間がタップリあり、現役の時に出来なかった好きな事を存分に出来ます。但し、年金だけでは心細いので、ある程度の蓄えが必要です。若い人にはまだ先の事で、他人事かもしれません。老婆心ながら、自分の夢や愉しみの為に、ある程度の貯蓄をした方が良いと思います。月日の流れは思いの他早く、光陰矢の如しです。また、現役リタイアした方々は身の丈に合った生活を前提にした生甲斐作りですね。
(3)第四章より、「今回のプロジェクトの基本コンセプトは、生活資金に限りのある高齢者に、いかに安心して豊かな老後を送って頂けるかというところにあるんです。そのためには、施設の運営においては、無駄は絶対に許さない、かと言って質を落とすことなく、どれだけ基本コストを落とすことが出来るか。成否の鍵はその一点にかかっているんです」
●感想⇒民間企業出身者ならではの発想です。私は企業で企画部門を担当したことがあります。色々な企画に携わりました。中でも、施設等の箱物作りにはかなり入念な検討をしました。まず、社内からメンバーを選抜し、検討チームを編成します。企画は、建設目的・利用者意見等の多角的な条件を設定し、最適解に向けたシュミレーションを重ね、上程しました。ポイントは、存在意義とLCC(ライフ・サイクル・コスト)だったとと思います。無用の長物は禍根を残します。品質を落とさずに費用対効果を最大にする事は大変難しく、関係者の協力なくしては成功しないでしょう。
4.まとめ;本書は、山崎(主人公)が活き活きとした老後を送れる町“プラチナタウン”の建設という夢プロジェクトに挑戦し、成功を遂げる話です。これは、民間発想のある山崎だからこそ出来たと思います。高齢者への福祉投資の大きい町は、財政が苦しく、現状維持で四苦八苦しています。所で、新聞によれば、「政府調達の布マスク8,000万枚115億円が余剰、8カ月間の保管費が6億円、厚生省幹部は、『調達に問題があったとは考えていない』とコメント」という記事です。庶民感覚の希薄な人達のやる事には厭きれるばかりです。以前に、役人を民間企業に出向させ勉強させたことがありました。しかし、官庁トップの意識改革が先でしょう。幼児から高齢者の各世代に必要な施策の費用対効果を十分検討し、優先順位付け出来る人材の出現が待たれます。資金は有限です。借金を先送りすれば、子々孫々までの足かせになります。昨今のバラマキで票田作りする政治家には閉口します。(以上)