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1992年、世界最大のフィルム会社ソアラの日本法人に勤務する最上栄介は、デジタル製品の販売戦略担当を命じられる。銀塩フィルム全盛の時代、最上は半信半疑のままデジタル製品の売り込みを模索するが、その奮闘を凌駕する速さで、写真業界にデジタル化の波が押し寄せる。技術の進歩によって駆逐される産業と超優良企業の転落を、圧倒的臨場感で描き出す。
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Posted by ブクログ
“実話”に着想を得ている物語で、非常に興味深い内容であると思う。 「歴史」とでも言えば、「遠い昔」というように思ってしまうと思うのだが、そういうモノに限らずに「自身の人生の時間」の中で、後から振り返って「あれば歴史上の大きな動きということになるかもしれない…」という動きは起こっているモノだ。 本作『...続きを読む象の墓場』は、世界的なフィルムメーカーに勤める最上という会社員が主人公だ。1990年代から2000年代に入るまでの経過が描かれる。 1990年代から2000年代に入る頃というのは、“写真”というモノの在り方、存在感が人々の中でドンドン変わって行き、フィルムの会社のような企業のビジネスが大きく変わらざるを得なかった、或いは「古くからの写真フィルム関係のビジネスが倒壊」とでも言うようなプロセスが進んだ時期である。 作中、「フィルムからデジタルへの橋渡し」というようなことで、最上達は色々なことを試みる…が…「成功」というようなモノから見放され、社会がドンドン変わって行く…作品の冒頭と、作品の末尾とで最上は新聞社の写真部員であるカメラマンと話すのだが、この対話が作中で描かれた1990年代から2000年代に入る頃の「変化」を如実に表すものかもしれない。そしてこの間に最上達の「苦闘の日々」が描かれる。 ハッキリ言えば…作中の世界的大企業のようなフィルムメーカーが辿らざるを得なかった運命、様々な模索が巧く運ばない他方でドンドン進んだ時代の変化というようなモノを、「自身の人生の時間」の中での経験として承知している。それでも本作は眼が離せなかった…と言うのは、「技術と人間と」とでもいうような、非常に大きなスケール、普遍的なことに想いを巡らせざるを得ないからだ。読後に深い余韻が残った。 なかなかにお薦めな感じの一冊だ!
題名の意味がよく判らなかったのだけれども、”象”とは、巨大な組織、ということだね。 コダックがモデルになっているそうで。結末を知っているだけに、ドキドキしながら、苦しみながら読みました。 十数年前、富士フィルムがフィルム製造をやめる、というニュースを聞いて、「え、社名に入ってるのに⁉」と驚いたけれど...続きを読む、その私が、今や当たり前に写真を画像データとして残し、加工し、送信している。自分の生活の急激な変化を、改めて見せつけられ、そちらにも驚き。
コダックをモデルにしたメーカーがデジカメかの波に乗れずに凋落する物語。 あまりにも図体がデカすぎる組織で、すでに完成されて収益構造の中で利益を稼いでいたが、デジカメが銀塩カメラに取って代わられることが分かっていても、しがらみにとらわれてうまく転換できず、凋落の一途を辿る話だった。組織とは何か、新しい...続きを読む潮流に目を向けること、そしてそれを自分のものにすること、あるいはそれを読みきる力が必要であることを感じた。でも、それって難しい。
ソアラ(コダック)の物語。 コダックの社員だった楡周平が 物語にするのは、 自分の中に 大きな葛藤があったのだと思う。 自分のやって来たことの意味が 問われるからだ。 それでも、冷静に 客観的に とらえる努力をして 大企業が崩壊していく過程を書いたのは、すばらしいことだと思う。 コダックは、フィル...続きを読むムメーカーとしては 世界でトップ。 エクセレントカンパニーと言われていた。 フィルム、現像、そしてプリント。 三つの美味しい事業で成り立っている。 利益率は 1ドルの売上で70セントもあるという。 そこにも、デジタル化の嵐が 巻き起こり始めた。 物語は 1992年から始まる。 最上は、デジタルカメラをプロカメラマンに売っていた。 プロから見るとまだ使い物にならないと言われたが、 デジタルで撮った写真なので、電送できた。 確かに、新しい時代は やって来ている。 フィルムからデジタルへ時代の移行期。 ソアラは充分に利益を上げているので、開発力もあり デジタル化は避けられないと言うレポートが、経営者にはとどいていた。 つまり、フィルムと現像がなくなると言う大きな時代の変化が あったが、デジタル画像にしても、どうつかうのか? イメージがわいていない。 一方で、パソコン、ネットが急速に 発展していく。 それが 深く関連しているが、充分に理解できない状態となる。 『成功体験』とアメリカの株主優先の経営方法がソアラを追いつめる。 1995年 ウインドウズ3.0が 登場することで、 おおきな変化が起こる。 最上は 三河の堂島からアドバイスを受けて、 さまざまな商品を開発するが、残念ながら、突破できない。 中間管理職の悲哀が 綴られる。 さらに 登場したのが カメラ付き携帯電話。 それで、カメラのシャッター数は増大する。 カメラが 子供のある家庭と、老年に限られていたのが 若者が 参加してきたが、デジタル画像は ブログなどに使われて、 プリントはしないという ソアラの 三つの事業が消えざるを得なかった。 確かに、巨象が、崩れ落ちていく過程を 時系列に従って、中間管理職の最上の目線で正確に描かれていく。 ウインドウズ3と一太郎から パソコンを使っていたのだから、 確かにこの時代の歩みが、変化を伴っていること。 その変化に対応できない という企業のしがらみ。 そして、優秀な人材が去って行く。 デジタル化は、ますます さまざまな分野へ波及するのだろう。 『身につまされる』会社の崩壊過程である。 これを、変えていくには、トップの意識なんだろうね。 ここのなかにある 最上の いらだち、焦り、喪失感が なんとも言えず、沈没する会社にいてもがんばったことが、 人生にとっても有意義だったと言えるような物語になっていると思う。
コダックかな?家庭用のアナログの写真を取り扱う企業の マーケティング担当者が主人公。 業界は私の働くところとは全然違うけれど、 マーケティングって何をするところ?というのが、 物語を通して伝わってきます。 楡周平さんの作品は2作目 始めは世界観に追いつくのに時間がかかりましたが、途中からは専門用語...続きを読むを読み飛ばしながら 読むことにしたので、大分楽になりました。 時代設定は今から2〜30年前の外資系企業。 40代の私はフィルムカメラから、プリクラ、APSフィルムなどの流行を見てきた立場。 街のお店も、カメラ屋さんでフィルムの現像をしていた時代から、年賀状の印刷をするようになった時代など、気がつけば色々と変遷が繰り返されてきました。 そんな企業の中の人が主人公の本作。 どこまでが真実かはわかりませんが、 社会の動向にアンテナを張り、自社のビジネスをどちらに持っていこうかという、主人公の気概を感じます。 特に気になったのはこんな点 ・サービスが民間に浸透するには、様々な方法があるけど、フィルムの場合は、街のカメラ屋さんが、一般人の駆け込み寺になっていたこと。 ・新しい製品を産み出すのには、時には新しく協業するメーカーとの関係性を築いたり、タイミングを読んだりするのも大事な仕事。 ・(個人的には趣味の英会話を習っているのですが)この作品にあるような会話を、英語でできるようにするのも勉強になるんじゃないかな。 中間管理職に求められるのは、 業務そのものを理解することに加え、 どの点で、経営にコミットするかなんだと思いました。うかうかしてられないぞっと。
『象の墓場』楡周平 危機感と変革の必要性 ------------ 【物語】 ベストセラー小説家、楡周平さんの『象の墓場』は、2012年に経営破綻したアメリカのコダック社をモデルにした経済小説です。 ※作中は、ソアラという社名です。 コダックは、デジタル化の波に乗り遅れ、巨大な帝国を失いました。...続きを読む この小説が優れているのは、単に大企業の失敗を描いているのではなく、その失敗の裏にある組織の病巣と、変革の難しさを浮き彫りにしている点です。 ------------ 【コダックの教訓:なぜ巨人は滅びたのか】 コダックはフィルム事業で莫大な利益を上げていました。しかし、その成功体験こそが、彼らの未来を阻んだのです。小説では、その原因をこう描いています。 ①ライバルは業界の外にいた: コダックが戦うべき相手は、フジフィルムのような同業他社ではありませんでした。 デジタルカメラという新しいハード、画像を編集・共有するソフトウェア、そして人々のライフスタイルそのものの変化が、彼らのビジネスモデルを根底から揺るがしました。 ②危機感の欠如: 新しい技術への投資はしていたものの、それが既存のビジネスを破壊するほどの脅威であるという危機感が、経営層や組織全体に浸透していませんでした。 ③実行と修正の遅れ: 新しい事業を立ち上げても、収益性の高いフィルム事業と比較してしまい、迅速な実行、検証、そして修正ができませんでした。 ------------ 【組織が生き残るためのヒント】 『象の墓場』は、企業や組織が生き残るために必要な要素を教えてくれます。 ①視野を広げる: 自社の業界内だけでなく、外部の技術やトレンド、そして人々の生活様式の変化に目を向けること。 ②危機感を共有する: 経営層がどれだけ危機感を持っていても、それが組織全体に伝わり、行動に結びつかなければ意味がありません。 ③迅速な行動と修正: 完璧を求めすぎず、スピーディーに実行し、失敗から学び、軌道修正していくことが重要です。 ------------ 【読み終えて】 この小説を読むと、「利益にあぐらをかいていたら、いつか足元をすくわれる」という当たり前の教訓を改めて痛感させられます。 コダックの物語は、まるで他人事のように聞こえるかもしれませんが、私たちの仕事や日々の生活にも通じる部分もあるかもしれません。
技術革新の波に飲まれた、世界的に有名なエクセレントカンパニーの終焉を、とても臨場感ある筆致で描かれた作品でした。 既存事業から新規事業への移行障壁は、確立された技術や熟成したビジネスモデルがある企業ほど高く、乗り越えることが外部 / 内部要因含め容易ではないことがよく分かりました。
デジタルの時代でPCに膨大な写真が保存されているが、みんなで見るという行為はほとんどない。 銀塩写真で作ったふるいアルバムを見返すことはあるのにね。 本編を読んだ後に解説の最後に書いてあった事 印象に残ってます
【感想】 デジタルカメラというテクノロジーの普及や進歩に目を背け、「フィルム(銀塩)産業への固執」によって破綻したコダックがモデルの小説。 コダックの破綻はフィルムからデジタルへの写真産業の劇的なテクノロジーの推移・変化によってというよりも、結局は大企業ならではの腰の重さが大きな原因となったようだ...続きを読むが、これはどの業界のどの会社にとっても決して「対岸の火事」と思えない出来事だろう。 当たり前にあったものも、いずれはイノベーションによって技術や市場は刷新される。 そしてその「進化」裏側には、必ずしも既存事業の「象の墓場」というものは存在する。 そう考えると、どの業界の人でも背筋が冷たくなるのでは? 個人的には、途中で「プリクラ」の企画の話になった時、「ああ、新しいビジネスモデルを見つけてこうして一件落着するのか」と読んでいて安心したのも束の間。 大企業ゆえの決断の遅さ、そして動きの鈍さに首を絞められて、自分たちで見つけた新しいビジネスモデルにさえ手出しする事できないところに「大企業が抱える病」を読んでいて感じた。 作中にあった「そもそもこの製品って本当に市場が待ち望んでいるものなのか?」という最上の問いは、正直自分も感じたことがある。 「寄らば大樹の陰」と、自分の組織の大きさに胡坐をかいて営業しているのではないか?と思ったり、自社製品への信頼を営業が見失ってしまうことは自分も経験したことがあるので・・・ 作中の「ソアラ社」が次々と犯す手数の失敗を見ていて、「いつの日にか自分の会社もこんな感じになって首が絞まってしまうのではないか?」と危機感を抱いた今日この頃。 巨大さゆえに自分の会社の方向転換が出来ず、「沈みゆく船」と分かりつつも心中する人の心の中を描いた、後味の悪い1冊でした。 個人も法人も、既存のモノにずっとすがりついているようじゃ駄目なんでしょうね。 定年まで時間がある年代のビジネスマンは、日々変革しつつあるテクノロジーやイノベーションを受け入れなくちゃ、墓場に直行だよ。 くわばらくわばら・・・・ 【あらすじ】 まさにエクセレントカンパニー。1ドルで70セントの高収益を得るといわれる世界最大のフィルム会社、ソアラ社。 パソコンがまだ高嶺の花の1992年、働き盛りのソアラ・ジャパン社員、最上栄介は新事業のデジタル製品の販売戦略担当を命じられる。 大企業ゆえのジレンマ。全く読めぬ消費者のニーズ。急速に一般化されるデジタル技術。 次々と降りかかる難問に最上は立ち向かう―。 【引用】 1.『大手が乗り出しゃ、中小は黙っていてもついてくる。間違いなく市場はできる。それって、大企業の発想ですよ』 何か、俺たちは根本的なところで間違っているんじゃないか。 そもそもこの製品って、本当に市場が待ち望んでいるものなのか? 2.技術力は確かに群を抜いている。だが、このプリンターもまた、消費者のニーズを完璧に満たすものではない。 「革新的な技術には欠点はつきものだ。新しいテクノロジー、ハイクオリティを享受するからには、多少の不便には目を瞑れ。」 まるで、消費者にそういっているような代物だ。 しかし、それでは駄目なのだ。商品は常に完璧、完成品でなくてはならない。 たとえ些細なことでも消費者に不便を強いるようなものであってはならない。 それなくして、成功はありえない。 ソアラには、その意識が決定的に欠けているのだ。 3.便利になった、効率性が上がった。身近でそう感ずるもののことごとくが、そこに介在していた何かを排除した結果だ。 そして、その多くは間違いなく人だ。 4.大抵の人間は、前例のない仕事に直面した場合、まず最初に否定的な要素を探し出し、如何に困難であるかを口にする。 しかし、有能な人間は違う。否定的見解を口にするところまでは一緒だが、必ず代替案を提示するものだ。 5.退職するデンプシーとの会話 企業において、採算性に乏しい事業や未来への投資はやる意味がないと判断される。 好調な他の事業の足を引っ張る邪魔者以外の何物でもないとね。 そんな事業を継続しようものなら、株主の追求は、ひいては会社のトップへと波及する。 となれば、結論は明らかだ。好調を続ける銀塩ビジネスに力を集中させるしかない。 6.、巨大な組織というものが、いかに変化に対して弱いものか。 過去のビジネスモデル、栄光の記憶から逃れられないものであるかをまざまざと見せつけられた思いがした。 【メモ】 p16 ・1992年 「プロの世界じゃソアラが圧倒的シェアを持っている。なのに、ソアラはデジタルカメラなんて代物を開発している。仮にあんたの言うように、こいつの性能が上がってさ、フィルムに勝るなんてことになったら、それって自分の首を絞めることにならねえか?」 島の指摘はもっともである。 フィルムの収入源は、フィルムの販売、現像、プリント処理にまつわるプロセスにある。 しかし、デジタルカメラの性能が飛躍的に進歩すれば、これらのプロセスはことごとく不能になる。 何故、ソアラは自ら進んでデジタルカメラを普及させようとしているのか? それは、日本の家電メーカーが、実用性には到底堪えない代物ながら、デジタルカメラの販売に踏み切ったことに端を発する。 p131 『大手が乗り出しゃ、中小は黙っていてもついてくる。間違いなく市場はできる。それって、大企業の発想ですよ』 ふと、草野の言葉が脳裏を過った。 何か、俺たちは根本的なところで間違っているんじゃないか。 そもそもこの製品って、本当に市場が待ち望んでいるものなのか? プレーヤーだけじゃなく、アートCDそのものが、本当に必要とされる製品なんだろうか。 p136 またかよ・・・最上は胸の中で毒づいた。 技術力は確かに群を抜いている。だが、このプリンターもまた、消費者のニーズを完璧に満たすものではない。 革新的な技術には欠点はつきものだ。新しいテクノロジー、ハイクオリティを享受するからには、多少の不便には目を瞑れ。 まるで、消費者にそういっているような代物だ。 しかし、それでは駄目なのだ。 商品は常に完璧、完成品でなくてはならない。 たとえ些細なことでも消費者に不便を強いるようなものであってはならない。 それなくして、成功はありえない。 ソアラには、その意識が決定的に欠けているのだ。 p166 「効率いいオペレーション、ユーザーに便利。それってさ、とどのつまりは中間流通に依存して生計立てている人たちを排除するからそうなるんだろ」 言われてみれば、その通りだ。 便利になった、効率性が上がった。身近でそう感ずるもののことごとくが、そこに介在していた何かを排除した結果だ。 そして、その多くは間違いなく人だ。 p302 「このままじゃ銀塩市場は崩壊する。デジタルに行くしかないことは分かってはいても、売り上げは落とせない、利益率も確保しなければならない。 かといって、既存事業の陣容に負荷はかけられない。 しかし、収益が上がらない部門に人は割けないじゃ、打つ手なしじゃないですか」 p349 大抵の人間は、前例のない仕事に直面した場合、まず最初に否定的な要素を探し出し、如何に困難であるかを口にする。 しかし、有能な人間は違う。否定的見解を口にするところまでは一緒だが、必ず代替案を提示するものだ。 p355 フィルム不要の時代が先か、それより早くこちらが新しい市場を開拓できるか。 ソアラの社運は、まさにその一点にかかっている。 p445 ・退職するデンプシーとの会話 「企業において、採算性に乏しい事業はやる意味がないと判断される。好調な他の事業の足を引っ張る邪魔者以外の何物でもないとね。そんな事業を継続しようものなら、株主の追求は、ひいては会社のトップへと波及する。 となれば、結論は明らかだ。好調を続ける銀塩ビジネスに力を集中させるしかないじゃないか。」 溜息が漏れそうだった。 これじゃ、破滅を覚悟で戦いに挑むドンキホーテだ。 「ソアラはね、生き残る時期を逸してしまったんだよ。事態はあのレポートに書かれていたように推移していることは間違いないんだからね」 p495 違う!と最上は思った。 いま市場で起きているのは、消費者の写真に対する概念の変化だ。 写真の撮り方、使われ方、楽しみ方、目的のことごとくが根底から変わってしまったのだ。 なのに、今に至っても尚、それに誰も気が付いてはいない。 その現実を目の当たりにして、最上は愕然とした。 同時に、巨大な組織というものが、いかに変化に対して弱いものか。過去のビジネスモデル、栄光の記憶から逃れられないものであるかをまざまざと見せつけられた思いがした。 p527 「最近つくづく思うんだが、永遠に存在し続ける技術や産業なんて、ありゃしねえんだ。 そうだろ。学者、技術者、新しい物を開発しようって人間たちは、既存の製品よりもより優れた便利なものをと考えて、新技術の確立に心血を注いでいるんだ。 フィルムの歴史はソアラの歴史。130年以上もの間、俺たちは存在して当たり前と思っていた技術の上で商売をやってきたんだ。 だけど、考えてみりゃ銀塩写真なんて不便な点だらけだ。それを解消しようと考え始めたら。。。 そして、デジタルカメラはその不便を解消した。
2012年、フィルム業界で世界に君臨していたコダックが破綻した。 この物語は、1992年から2004年まで、映像のデジタル化がじわじわとフィルムを浸食していき、他に追随を許さなかった大企業が崩れていく様子を描いたものだ。 写真は紙で楽しむもの。そんな常識が昔はあったわねと、デジタルの歴史はまだ浅...続きを読むいのに懐かしく思う。100年以上続いた常識が崩れ去るなんて誰が想像しただろうか。 でもコダックでの破綻はデジタルによる変化ではなく、その変化の波をうまく利用することができなかった経営不備のせいだと言われる。だってデジタルをいち早く開発したのはコダックだし、フィルムの時代は終わると自分たちで予言までしていた。デジタル商品の開発に投資するということは、現存の商売の邪魔をすることになるいう矛盾との闘い。デジタル化が進んでも、保存は紙だろうという期待に縋る甘い読み。小説の中で、会社に振り回され、不安の中で働くコダック(小説内ではソアラ)社員の奮闘ぶりが巧みに描かれている。かつてはコダックに籍を置いていた楡氏の実体験に基づく話なのか…。 この小説を読んでいると、苦しいほど身につまされる。テレビ業界、出版業界、広告業界だって他人ごとではない。未来永劫なんてものは存在しない。いかに次の時流に乗っていくきっかけをつかむか。多くの社員を路頭に迷わせることなく新しいビジネスに移行できるか。独占市場にあぐらをかく大企業(象)たちの明暗をわけるところだ。実際に、フィルムが廃れた現在でも富士フィルムは元気に生き残っている。 富士フィルムは果敢に新しい商機を探り、磁気テープ、光学デバイス、ビデオテープなどフィルムの隣接分野で商品を開発。さらにゼロックスとの合弁事業を通じて、コピー機やオフィスオートメーションなどの事業に進出した。今日、同社の年間売上高は200億ドルを超え、ヘルスケアやエレクトロニクスにも参入し、ドキュメントソリューション事業でも大きな収益を上げている。(他サイトからの抜粋) ↑上記サイトではこうも言っている。 大いなる皮肉は、既存企業こそ破壊によるチャンスを最も掴みやすい立場にあることだ。結局のところ、そうした企業は新規参入者が必死に追い求めているものを多数持ち合わせている。市場へのアクセス、技術力、健全なバランスシートなどである。もちろん、それらの組織能力は制約にもなりえる。そしてほとんど常に、新しい市場において新しいやり方で競争するには不十分だ。新たな成長を追求するには、相応の謙虚さが必要となる。
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