角川書店のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
正直、私の中の松尾芭蕉のイメージは『ギャグマンガ日和』の芭蕉でしかなかった。
改めてこの『おくのほそ道』を読むと、松尾芭蕉というひとの人間性の一端が垣間見える。
’俳聖’と呼ばれるような人物でも愚痴も溢すし疲れもするし気の合う人と会えばちょっとだらけもする
し師匠リスペクトが過ぎる面もあるし…なんとも親しみを感じる。
驚異の移動力には素直にびっくり。夕飯食べてから普通に出かける距離ではないような気が。
俳句そのものに対してどうこうは言えないが、自然や景色、更には自分の心に対して本当に素直に真で向き合っているのだな、という事は感じる。
ビギナーズクラシックスらしく読みやすい。
地図・年譜も完備で隙がない。
コロナが明けたら旅に出よう。
出来たら芭蕉の足跡を辿る旅をしたい。
45刷
2021.6.8 -
ネタバレ 購入済み
短編集
一部ご紹介します。
『炎に飛び込み、身を焼いて食事に差し出したウサギ』:昔々、とある場所で、行き倒れた老人を、ウサギとキツネとサルが見つけた。
キツネとサルは、食べ物を探してまわり、老人に与えた。だが、非力なウサギだけは、何も与えることができなかった。
そこで、ウサギは、キツネとサルに焚き火の準備を頼んだ。彼等が火を起こしたところで、ウサギは言った。
「僕には食べ物を探し出す力がありません。だから、僕の体を焼いて食べてください。」と言うや、 たちまちウサギは炎の中に踊り込んで焼け死んだ。
このとき、老人に変身していた神は、このウサギが火に飛び込んだときの姿を、そのまま月の中に移して、命あるもの全てに見せるために、月面に刻み込んだ。
月を見上げる人間の心には、ウサギへの愛情と共に自己犠牲の意味が染み込んでいく。
月はウサギの墓標なのである。
・『前妻のミイラと愛し合った侍』:昔々、京に若くて貧乏な、だが仲の良い夫婦が住んでいた。
ある時、仕官(就職)の機会が訪れた。それには、地方に赴任することが条件だった。
遠い地方に下るには、それなりの旅支度がいる。旅支度は自腹で用意しなければならなかった。そして、法律が守ってくれない時代でもあった。 そこで、最愛の妻を捨てて、裕福な女に乗り換えた。
だが、希望が叶い生活が落ち着くと、思い出すのはかつての妻のことばかりだった。
やがて、任期を終えて、帰京した男は、別れた前の妻の元へ走った。
すっかり荒れ果てた家の中に入ると、前妻は、いつもいた場所に、ひとり座っていた。
他には誰もいない。
男は、妻に、地方の赴任先で長年心にかけていたことをあれこれと語った。
妻は夫を見て、捨てられたことを恨むようすもなく、嬉しそうに聞き、長年積もり積もった思いを語っているうちに、夜も更けていった。
「話はこのへんにしてもう寝よう」ということになり、南側の部屋で二人は固く抱きしめ合い、互いの愛を確かめた。
夜が明け、日の光が部屋に差し込んで、男は目を覚ました。
隣を見ると、自分が抱きしめて寝ていた女は、からからに干からびて骨と皮ばかりになった死体だった。
貧困であるがゆえ、愛し合いながらも別れざるを得なかった男女の物語である。 -
Posted by ブクログ
学校で必ず習う冒頭の「月日は百代の・・・」以外の部分を初めてまともに(大半は現代語訳で)通読。
風情ある景色の移ろいを書き留めているのかと思うとそうでもない。土産を持たされても重たいだけだし、宿だって道中どこにでもあるわけではなく、冷たい土間で一夜を明かすこともある。奥羽の関所では旅人自体が珍しく通過も難儀する。
そんなようなことを、李白だの西行だのの基本的教養を下敷きに書き綴っている、と言われてもそうわかるものでもない。
それでも旅好きの人が読めば「あーこのあたりか。ルートは今と同じだなー」といった楽しみ方はある。個人的にツボだったのは山形「出羽三山」参詣の下り。ここ数年来、ここを踏破してみたいというのが個人的な念願なのだ。芭蕉が参詣後に奉納した句がなんともいい。
「涼しさや ほの三日月の 羽黒山」(羽黒山)
「雲の峰 いくつ崩れて 月の山」(月山)
「語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな」(湯殿山)
とくに月山(がっさん)。標高1,400m、峰のように連なった雲が風で次々形を変えふと姿を見せる山頂。うーん、行きたい。
きちんと回ると二泊三日必要。仕事の合間を縫ってうまくスケジューリングできるかな、なんて言っているうちはできないのである。住み慣れた庵も(いったん)打ち捨てて今年あたりいよいよ(新幹線で)挑戦したい。
(ちなみにもともとは修験道、神仏習合の聖地だが、明治以降は神社)。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ断片的には読んできたが、今回初めて通して読んだ。
内容はあまりにも有名だが、こうやって通して読むと、松尾芭蕉という一人の天才の魂の軌跡みたいなものが浮かび上がってくる。すでに俳諧の世界ではトップに君臨しながらも全てを捨てて旅を続ける心境がなんとなく分かることで、その俳句の精神世界が少し理解できたような気がする。
ある意味、究極のロードノベル。
詳しい日本語や、旅の経緯が入った地図、俳句の説明など、私みたいに古語や俳句に疎い人間にも分かるように丁寧に編纂されていて本当にありがたかった。入門書として最適で、これを読むと、芭蕉や俳諧の世界がもっと詳しく知りたくなった。 -
Posted by ブクログ
一応中学・高校で古文はやったが、あまり馴染むこともできず、その後はすっかりご無沙汰、でも古典にまったく興味がないわけでもない……といった向き(つまり僕だが)にはありがた過ぎる角川文庫の「ビギナーズ・クラシック」シリーズの中の一冊。
「おくのほそ道」自体は短い作品なので、全文が収載されているが、本書ではそれを場面ごとに細かく項分けしている。各項は現代語訳→原文→解説で構成されるが、これとは別に随所に理解を助けるためのコラムが挿入されている。現代語訳と原文は総ルビ。巻末では「解説」で芭蕉の人物伝と、「おくのほそ道」全体の概説がなされ、「付録」には本作の旅程図、芭蕉の年譜などが付く。まさに至れり尽くせりである。
古典とはいえ要は旅行記なのだから、肩肘を張る必要はない。芭蕉とともに旅を楽しめばよいと思う。各所に垣間見える芭蕉の人柄や人生観、当時の人びとの人情なども興味深いところである。 -
Posted by ブクログ
旅行記書きとして、そして俳句の読み手として(どっちも中途半端ですが)、一度は読んでおかねばとかねがね思っていた古典。
平泉のような有名なくだりは勿論読んだ事がありますが、通して触れてみると、なぜ芭蕉があんなにも平泉に思い入れがあったのかよく理解できます。
それにしても、驚くほどの簡にして要を得た文章です。本文に対し、訳文(通釈)の長いこと長いこと。こういう物の書き方、爪の垢でも煎じて飲んで学ばなければなりません。
ビギナーズ・クラッシクスと銘打たれた本シリーズは初めて読みましたが、文字通り初心者にはサクサク読めてありがたい編集です。
冒頭の一文を「時は永遠の旅人である。」と訳すこの編者、割と好きですよ(笑)。 -
Posted by ブクログ
古文への最初の出会いとその後の一般的な付き合い方が、日本人を古典から決定的に引き離していると思います。
「ビギナーズ・クラシックス」シリーズは、原文の直訳だけではなく、訳文の中に解説的な補足と文意をより理解しやくする表現を加筆してくれています。
例えば有名な序段の一文。訳文の括弧内は、訳者の配慮で加筆されたと思われる表現です。
原文
つれづれなるままに、日暮し硯に向かひて、心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく書き付くれば、あやしうこそもの狂ほしけれ。
訳文
(今日はこれといった用事もない。のんびりと独りくつろいで、)一日中机に向かって、心をよぎる気まぐれなことを、なんのあてもなく書きつけてみる。すると、(しだいに現実感覚がなくなって、)なんだか不思議の世界に引き込まれていくような気分になる。
括弧内の有無で理解が全然違います。
鎌倉時代に書かれたエッセイが、こんなに自由な主張をしていたとは全然知りませんでした。無常観を底にした随筆ですから、これを特に高校生のような時期――散漫で、傷つきやすく、知識も浅いとき――に、「高尚な」文学として紹介してしまえば、古典との修復不可能な関係と、致命的な眠気に導くこと簡単です。
しかし実際には、くだらない話や自慢話も収められた、フランクに触れられる内容です。
なんだか、おじさんのFacebookへの投稿みたいな感じですよ。 -
Posted by ブクログ
歴史と名勝を訪ねて、風流を味わう徒歩の旅。それは辛い路だったでしょうが、毎日おなじ時間に起きて、毎日おなじ場所に勤める者としては、憧れてします。
「だったらさ、あんたもやったらいいじゃない」
もし声をかけてくれるようなことがあったなら、芭蕉さんにはそんな風に言われそうだな。
おかしみのある章から、もの哀しい章、愚痴っぽい記事、ちょっと自慢っぽい記事まで、現代でいえば旅ブロクのような感じでも楽しめます。
毎日書き続けた日記的なものとは違って、全旅程が終わってから時間をかけて最終稿に至ったものだそうですから、各章に漂う情緒、各章のつながり、要するに構成にも相当にこだわって作られたのでしょう。そのあたり、解説でもよく説明してくれています。
本書の構成は初心者にも親切で、
・わかりやすい補足込みの現代語訳
・原文
・記事全体解説
・記事中の句の解説
その他適宜、文中の和歌、歌人、名勝などについても個別に解説が付されています。
巻末の付録には、「おくのおそ道」により深く分け入るための参考文献のリストや、芭蕉の足跡をたどるための最寄り駅リストもあります。