荻原浩のレビュー一覧
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広告代理店営業部長の佐伯は五十歳にして“若年性アルツハイマー”と診断される。仕事では重要な案件を抱え一人娘の梨恵は結婚を間近に控えていた。
同世代といっても五十代のシッポの方の私と佐伯とでは少し違うかもしれない。ましてや妻の枝実子は四十代だ。
でも やっぱり自分自身とおきかえて読んでしまう。
佐伯になったり枝実子になったり…。
失っていく記憶を補う為にとったメモでスーツのポケットを大きくふくらませ、人の表情に神経を尖らせ、それでも娘の結婚式まではと職場に居続けようとする佐伯。
病に良いといわれる魚や緑黄色野菜や発芽玄米を夕食に並べ 帰りの遅い佐伯をずっと待っている枝実子。
恐かったよ -
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神森と呼ばれる小樹海で行方不明となった5歳児、
真人(まひと)。真人はASD(自閉スペクトラム症)で、一週間後に無事保護される。
無事に発見された喜びの一方、母親の岬は、空白の一週間による真人のさまざまな変化に違和感を感じる。
神森で真人の身に何があったのか・・・
そこには複数の男女と、神森の神秘が隠されていた。
あらすじと装丁から、ホラー要素でもあるのかとドキドキしていたが、いい意味で全く違った。
登場人物が、みな個性豊かで様々な事情を抱えていて時に笑いあり涙ありで面白い。
人間の内面を丸裸にしたような描写のせいだろう。
森という大きな存在の前では人間なんてちっぽけで、その懐に入ると、 -
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ネタバレ「もう一度人生をやり直すことができたら、どこからだろう」というお話です。
主人公は銀行を不本意に辞めることになって、「こんなはずでは」と思いながらタクシーの運転手をやって、そこでもなかなかうまくいかずに、家族とも折り合いが悪い。
「どこで間違ったんだろう。あの道を違う方向に曲がれば人生は変わっていたんじゃないか」
人生なかば、誰もが思うことですね。自分も思います。
悩みますよね。もがきますよね。そしてどこにも行けない。
主人公は、そんな中、自分なりに試行錯誤の中で、仕事にも家族にも少し明るさが見えてきて、「自分の選んだ道が最善ではなかったかもしれないけれど、またちがった人生もあったかもし -
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この本の物語はもちろん創作だけれど、縄文時代(やその前)から歴史や命は続いていたという事実の壮大さにやられる。
1万年続いたという縄文時代の後、たった2700年の間に、人類は進化したのか退化したのか…いろいろ考えてしまう。
人種のこと、争いのこと、話全体にすごく重くて大切な主題が流れているが、ひとりの人間の想いや人生も大切に描かれている。人類の大きなテーマはいつでも個人のテーマだと思った。
そして荻原浩さんの軽快で暖かくチャーミングな文体が好き。
この本を読んだしばらく後にいろいろなキッカケがあり縄文時代の文化にハマり、その後再読した。縄文博物館で見る遺物や資料がより鮮やかに見えた。
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自殺の名所神森で5歳の真人が、行方不明になり数日後に健康な状態で発見された。真人はクマさんに助けてもらったとしか言わない。空白の数日に何があったのか。そこには訳ありな男女4人が絡んでくる。もう面白くないわけがない。
もっと怖い話かなと思ったが、空白の数日という謎に迫るストーリーは、読んでいて飽きない。過酷な自然を相手に生き延びた真人が、逞しく成長した姿を感じられるのも何だか泣ける。
訳あり男女にも、各々が抱えている闇がある。そこに真人の素直さを絡ませることで、闇を溶かしてくれたのだろう。また子もそうだが、SNSの過激な投稿にも
負けずに闘う母の強さにも感動した。
最後の空白の1日の仕掛け -
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タイトルと表紙からでは作品のイメージが広がらなかった。それだけに冒頭の展開は衝撃的で、この先を読むことへの抵抗を感じるほどだった。消防団団員の田村武志が行方不明になった5歳の男の子、山崎真人を森の中で探していた。出口の見えない感じと捜索にあたっている人たちの焦りが伝わってくる。こういう状況は、実際に事故として起こった記憶があるので、その時の状況が思い起こされる。結果は、一週間という時を経て、良い方向で終わる。不明から一週間後に真人が無事保護されたので。でも、この後の展開はどうなるのだろう。この出来事とどう繋がっていくのだろう。逆に興味が増していく。
母親は、山崎岬。二人でこの森に出かけていた