ベゾスとマスクはある意味似ている。ふたりとも、情熱とイノベーションと意志の力で業界を根底から変えてきた。部下の扱いは手荒だし、なんでもすぐばかやろうと言い出すし、できない理由ばかり探す人がいると腹を立てる。目先の利益を追求せず、未来を見すえて進む。ベゾスは、 利益のつづりは知っているかと尋ねられ、同音異義の「prophet (予言)」と答えたことさえある。
だが、こと技術開発の方向性はまるで異なる。ベゾスは体系的に進める。モットーはラテン語 "Gradatim Ferociter”、「一歩ずつ、果敢に」だ。対してマスクは直感的である。めちゃくちゃな期日を設定し、リスクを取らなければならなくても構わず、そこに向けて周囲の尻をたたきまくってシュラバを生み出す。
マスクは打ち合わせを何時間も続け、技術的な提案をしたり思いつきの命令を下したりするが、 それはどうなんだろうとベゾスはいぶかしげだ。マスクは言うほどモノを知らないし、彼の介入はあまり役に立たないどころか問題を増やすだけのことが多いと、スペースXやテスラにいた人々からも聞いているそうだ。
一方マスクは、ブルーオリジンがスペースXほど成果を挙げられない理由のひとつに、ベゾスが下手の横好きで技術を重視しないこともあると言う。2021年末の取材でも、「工学の才能がそれなりにある」と一応はベゾスを持ち上げたあと、「細かな点にエネルギーを注ぐつもりがないように見受けられる。悪魔はそういうところに潜んでいるのに」とくさしている。
「ポリトピア」処世術
共感は資源ではない。「彼と違って私には共感力の遺伝子があって、だから、ビジネスで心が痛んだりするわけです」とキンバルは言う。「「ポリトピア」をプレイすると、共感を排除するとどう考えるのか、兄がいつもどう考えているのかがわかります。ビデオゲームには共感が入る余地がありませんからね」
ゲームのように人生を送れ。「なんていうか、子どものとき、こういう戦略ゲームで遊んでいたらお母さんに電源を引っこ抜かれ、でもそのまま気づかずにプレイし続けている人生ってそういうものなのかもしれないね」とジリスはマスクに言ったことがあるそうだ。
敗北を恐れるな。「負けるんですよ。つらいですね。最初の50回くらいは。でも負けるのに慣れてしまえば、感情に左右されることが減ります」とマスクは言う。つまり、豪胆にリスクが取れるようになる。
先を見越して動け。「私はカナダ人らしく、ちょっと平和主義的で、状況の変化に対応するタイプなんです。ゲームのプレイスタイルも、どういう戦略が自分にとって一番いいのかを考えるのではなく、ほかの人たちがすることに反応してばかりです」とジリスは言う。女性にありがちなパターンなのだが、仕事でもまったく同じことをしていると気づいたそうだ。そして、みずから戦略を組み立てなければ成功はおぼつかないと、マスクからもマーク・ジュンコーサからもよく言われているという。
ターンごとに最適な手を打て。「ポリトピア」は30ターンで終わる。だから、毎回、最善手を打たなければならない。「「ポリトピア」と同じく人生もターンの数が決まってるんですよ」とマスクは言う。「うかつなターンがあったら、火星に行き着けなくなってしまいます」
倍賭けする。「どこまで可能なのか、その限界を試し続けるのがイーロンのプレイスタイルです」とジリスは言う。「倍賭け、倍賭けをくり返し、得たモノすべてをまたゲームに投じてどこまでもどこまでも成長していくんです。まるで彼の人生そのものですよね」
選んで戦え。「ポリトピア」では六つとか下手すればそれ以上の部族に囲まれ、戦いをしかけられることがある。全部に反撃したらまちがいなく負ける。マスクはこの教訓を我が物にできておらず、ジリスが教えてあげることになったという。「ほら、いま、あっちからもこっちからも攻撃をしかけられているけど、全部に反撃したら資源が尽きちゃう」という具合に。彼女はこれを「戦線最小化」と呼んでいる。ツイッターでのやりとりも同じだと教えているのだが、こちらも、なかなかわかってもらえないらしい。
休むのも大事。「妻との関係がおかしくなりかけて、プレイするのをやめました」とキンバルは言う。ジリスも「ポリトピア」を削除したという。グライムスも。実はマスクも、削除したことがある。「あまりに多くのブレインサイクルを持っていかれてしまい、「ポリトピア」を削除しなければならなくなったんです。夢にまで見るようになりましたからね」とマスクは言う。 この「休むのも大事」も、マスクは身につけるのに苦労しているようだ。数カ月で再インストールし、またプレイするようになったのだ。
ツイッターは人に優しい職場であることを前面に押し立てている。甘やかしは善なのだ。
「ツイッターは、まちがいなく、共感にすぐれ、多様性を尊重してどんな人もウェルカムな会社でした。社員には、安心して仕事をしてほしかったんです」と、マスクにクビを切られるまで最高マーケティング・人事責任者を務めていたレスリー・バーランドは言う。だから、完全在宅勤務も選べるし、心の「休息日」も毎月1日取ることができる。「心の安全」という言葉がよく使われる職場で、不安を取りのぞく努力がなにかと払われてきた。
「心の安全」なる言葉を耳にしたとき、マスクは、ふっと苦い笑いを漏らした。切迫感、進歩、軌道速度など、彼が大事にするものの敵であり、背筋がぞっとする言葉なのだ。そんな彼が好んで使う言葉は「本気」だ。また、彼にとって、不安はいいものだ。充足感という病と戦う武器になるからだ。休暇、花の香り、ワークライフバランス、「心の休息日」など知ったことではない。そのあたりも、洗いざらいわかってもらわなければならない。
しぶしぶながら、1月3日まで延期することをマスクも承知した。人員整理は、その日のうちに署名なしの電子メールで社内に告げられた。
「ツイッターを健全にするため、世界的な人員の整理という困難に立ちむかわなければならない」
世界全体で社員の半分をレイオフする。インフラストラクチャーチームの一部は90%をレイオフする。社有コンピューターへのアクセス権限や電子メールは、レイオフと同時にオフとする。 マスクは、人事部の幹部も大半をレイオフした。
しかも、これは第1ラウンドにすぎない。血の粛清はぜんぶで3ラウンドになるのだ。