青柳碧人のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「浜村渚の計算ノート」シリーズ3と1/2さつめです。
今回は「フェルマーの最終定理」をテーマに、シリーズ初の長編になっています。「4さつめ」になっていない理由は、今回の事件が数学テロ集団「黒い三角定規」によって直接引き起こされたものではないため、本筋からやや離れているからだそうです。
瀬戸内海の小島「増留間(ふえるま)島」にあるホテル・ド・フェルマーを舞台にした密室殺人事件に挑む浜村渚&「黒い三角定規」特別対策本部(主には武藤刑事と大山刑事)の活躍が描かれるのですが、今回のこだわりはフランスの数学者です。
ホテルの支配人はパスカル、副支配人はルネ、女性バーテンダーはソフィ、シェフはガロア、フロント係はニコラとブルバキの双子と言った感じで、徹底してフランスの数学者にこだわったネーミングです。本編の中で武藤刑事が調べたデータベースの形でそれぞれの数学者の横顔については紹介されていますので、これらの名前を全く聞き覚えのない方でも大丈夫です。
また、今回も数学ネタは随所にちりばめられていますので、考えながら読み進んでいくと2倍・3倍に楽しめます。
「フェルマーの最終定理」については、ワイルズが解決して以降、教育現場でも紹介される機会が少なくなっているようですが、ワイルズの証明方法は、数学のいろいろな方面の成果を取り入れたものと言えます。この本の中でキューティー・オイラーが
「ワイルズ先生より、もうちょっとシンプルな証明を見つけたんだ」
と述べているように、よりシンプルな証明が見つかる可能性は捨てきれません。
もともとフェルマーが本の余白の書き込みで宣言している「驚くべき証明」は、ワイルズの証明よりシンプルなのかもしれません(フェルマーの勘違いではという声もありますが)。
その意味では、いまだに「フェルマーの最終定理」の教育的価値は失われていないと思いますし、学校などでももっと紹介してほしいと思います。
なお、今回の物語のうってつけの「副読本」は、『フェルマーの最終定理』(新潮文庫)です。この本と重複するトピックもいくつかあり、より詳しく知りたい方はこちらを読んでみるとよいでしょう。また、すでに『フェルマーの最終定理』を読んだ方は、本書の物語世界をより楽しめると思います。
さらにワイルズの証明のより詳しい概略を知りたい方は『数学ガール フェルマーの最終定理』が良いでしょう。数式が少々出てきても大丈夫な方にはこちらもオススメです。
なにはともあれ、本書は「フェルマーの最終定理」をより身近かに感じさせてくれる傑作です。
ぜひご一読を! Have a nice math. -
Posted by ブクログ
昨夜、一人の少女が――
「はじめまして。千葉市立麻砂第二中学校二年の浜村渚といいます」
「あれ、キミは……。どうしてこんなところに?」
「最近あるネットのサイトで、『tenkiya友の会』という数学サークルができたという情報が入りまして、ひょっとしたら数学テロ組織『黒い三角定規』と関連があるのでは……と武藤さんが言っていたもので。あ、武藤さんというのは警視庁の『黒い三角定規・特別対策本部』の方です。武藤さんはまだ来ていませんか?」
「来ていませんが」
「困ったなあ。ちょっと待たせてもらっていいですか?あなたがtenkiyaさんですよね?」
「ええ、ボクがtenkiyaです。待ってもらうのは構いませんが」
「ありがとうございます。では失礼します」
「何かこの部屋。本がたくさんありますね。本棚に収まらず、机の上やパソコンの周りにまで。この本を全部読んでいるのですか?」
「いや、大半の本は“積読”状態だよ。そのキミが言っていた『tenkiya友の会』ができたサイトの影響で読みたい本がどんどん増えていくんだ。このままでは家計にも響いてくるとつれあいもいい顔をしていないね」
「あ、これ、『オイラーの贈り物』。かのオイラー先生が書いた本ですね」
「オイラー自身が、「はい、贈り物」って本を書いたんだったら相当お茶目なんだけど。それはオイラーの公式e^πi=-1について一から解説している本だよ。今ひそかに売れているそうだね」
「『その2』でキューティー・オイラーが着ていたTシャツにも書かれていた式ですね。あ、私の本もあります」
「そうなんだよ。ちょうど一週間前に本屋さんで見つけて、思わず3冊買ってしまった。そこで今『3さつめ』を読み終えたところさ。『1さつめ』,『2さつめ』に比べてかなり難しくなっているみたいだね。何度も前を読み返したりして、少し時間がかかったよ」
「そしたら、私のこともよくご存じですよね。『黒い三角定規』のテロ活動と闘っていることも……。『tenkiya友の会』にとっては、やっかいな存在なのでは?」
「いや、ちょっと待って。どうも誤解があるようだ。先ほどキミは『tenkiya友の会』を“数学サークル”と言ったけど、正しくは“数楽サークル”だ。いや、サークルですらないのかもしれない。何せ、面白い数楽の本を紹介することが会員の唯一の任務で、他に何もない。もちろん「幽霊」でも構わない。数学テロ組織『黒い三角定規』とは一切無関係だよ」
「では、武藤さんたちの情報は誤りなんですね」
「その情報はもしかして、クレタ人から得たものでは?『その3』の第log10章では登場してきているよね」
「私は詳しくは聞いていないけど、そうかもしれません。千葉から出てきてタイヘンだったのに……」
「そう言えば、『その3』では第log10000章で北海道の函館まで行ったよね。五稜郭はやっぱり美しかったかい?」
「それはもう……。正五角形って黄金比も隠れていて、美しいですよね」
「でも今回ボクが楽しめたのは、第log1000章の『「プラトン立体城」殺人事件』だった。読んでいて森博嗣の『笑わない数学者』を思い出したよ。立体トリックは素敵だよね」
「そうなんです。私も小説は読まないのに。あれは本当に数学の問題だったんですよ」
「ところで、一つ気になったことがあるんだけど」
「何ですか?」
「第log10000章でマダム・エミーが黒い三角定規のメンバーかと聞かれたキューティー・オイラーが『真部分集合ではないけど、共通部分はφ(ファイ)ではないって感じ?』と答えているよね。このφは空集合の意味で使っていると思うけど間違いじゃないかな」
「えっ!どういうことですか?」
「そこの『数学入門辞典』で「空集合」を引いてごらん。何て書いてある?」
「えっと、『自然数について0を考えたように,集合についても元(要素)を1つも持たないものも集合と考えると扱いやすい.これを空集合という.なお空集合の記号は,もともとゼロ記号0(またはO)と記号/の合成であり,ギリシア小文字φと混同しやすいので注意する必要がある.』……」
「つまり、空集合の記号はφではないんだよ。キューティー・オイラーにしては初歩的なミスを犯したものだ」
「でも、いろいろな本に空集合の記号はφって書いてありますよ。それはどうしてですか」
「おそらく、印刷技術によるものなのだろう。『ゼロ記号0(またはO)と記号/の合成』という記号が作りにくくて、ギリシア小文字φで代用した。それを読んだ人が空集合の記号はφと誤解した。その誤解が広まったという次第さ。学校の先生でもφ(ファイ)って言う人が多いからね。でも最近は、正しく『ゼロ記号0(またはO)と記号/の合成』で書いてある本も増えているよ」
「ありがとうございます!千葉からわざわざ出てきた甲斐がありました。私も『tenkiya友の会』に入ってもいいですか?」
「ああ、もちろん大歓迎だよ」…………
――目が覚めた。 -
Posted by ブクログ
天才数学者・高木源一郎(通称:ドクター・ピタゴラス)率いる数学テロ集団「黒い三角定規」と闘う中学2年生浜村渚&特別対策本部の活躍を描くシリーズ第2弾。今回も各章は常用対数で表されています。
そのタイトルと数学的内容は
第log10章「その処刑台、カラフル」……ルービック・キューブの話
第log100章「麗しのルイ様」……指数の話
第log1000章「割り切れなかった男」……剰余の話
第log10000章「不思議の国のなぎさ」……n進法の話
となっており、エピローグとして「ケーニヒスベルクの夢」という章があります。
「黒い三角定規」のメンバとして登場するキャラクタは、第1弾より洗練されてきているような気がします。特に第log10000章に登場する「キューティー・オイラー」はドクター・ピタゴラスの片腕的存在だそうですが、かなり魅力的です。この章では捕えられてしまうのですが、エピローグでは留置場からあざやかに脱出します。
『プレーゲル川の橋を、全部一回ずつ渡ってから、わたしを捕まえにきてね♡――Cutie Euler』というメモを残して……。
これで「だから『ケーニヒスベルクの夢』なのか!」と気付いたアナタ。かなりの数学マニアですね。
この「キューティー・オイラー」の脱出により、「3さつめ」への期待も高まっていきます。
なお今回も各章の中の節の番号も凝っています。
第log100章は指数がテーマなので、
5^0(=1),4^(1/2)(=√4=2),3^1(=3),2^2(=4),5
となっていますし、第log10000章は2進数で
1,10(=2),11(=3),100(=4),101(=5)
となっています。
他の2章は、√1,√4,√9,……となっているのですが、私の個人的な趣味としては第log1000章は裁判の番号が823543などを始めとして、7を大きなテーマにしているので、
142857/999999×7(=1),285714/999999×7(=2),428571/999999×7(=3),
571428/999999×7(=4),714285/999999×7(=5)
とでもしてほしかったなぁと思いました。
それほど今回も数学ゴコロをくすぐられます。
ところで、第log1000章で浜村渚は、定期テストの勉強もせず、「デデキントさん」の本を読んでいたという描写が出てきます。この本はおそらく『数について――連続性と数の本質――』でしょうが、中学生でこれを読むとは恐るべしです。19世紀になってやっと実数の本質を明らかにしたという記念碑的な本なのですから。
ここにも見られるように浜村渚は、数学者を「さん」付けで呼びますが、唯一オイラーだけは「先生」と呼びます。これは『数学ガール』のミルカさんにも共通する特徴です(ミルカさんはオイラー以外は呼び捨てですが)。
やはりオイラー先生は「我々すべての師」(ラプラス)なのでしょう。
魅力的な「キューティー・オイラー」の登場と、相変わらずの数学フリークぶりに「3さつめ」への期待大です。 -
Posted by ブクログ
青柳碧人の新シリーズの1作目。こちらがあとの掲載になったのは、この本が地元の本屋で手に入らなかったから。
家庭の事情で、高校に入ってからアルバイト生活を送っていた池谷美咲は、友人のすすめで演劇部に入部する。生徒から「変人の巣窟」と言われるだけあって、一癖も二癖もある人間ばかり。しかも誘ってくれた幼なじみは、闘病生活を送ることになった。岬は彼女のかわりに「舞台監督」という重責を担うことになる。果たして彼女は、彼らをうまく御することができるのか?
「幕が上がる」のヒットに触発されたのかも知れないが、専門用語もきちんと詳しく書いてくれているので、演劇を知らない人間も、すんなりと理解できる。作者も出版社も「ライト・ミステリー」として扱いたいようだが、本シリーズは立派な「青春小説」。高校時代自分みたいな「いじめられっ子」には無縁な世界で、こういう青春時代を送ることができた作者とキャラクターをうらやましく思う。そして最後のエピソードに出てくる「ジュリア」の台詞がとても重く感じられる。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ青柳碧人による数学ミステリーシリーズ第5弾。
本作ではモンティ・ホール問題というクイズ番組から生まれた数学の確率論や折り紙と数学の関連性、バーゼル問題や音楽と数学の関連性など、いろんなテーマで物語を構築している。最終章のようにミュージカル仕立ての章などもあり、バラエティーに富んでいて、かつ相変わらずの軽妙な文体で非常に読みやすい。
数学にまつわる解説もたとえ話や図などをうまく使って非常にわかりやすくまとめてあり、数学が苦手な人でもきちんと理解できるように配慮されているあたりはシリーズ通しての特徴だろう。
本作ではドクター・ピタゴラスがあまり登場しなくなり、キューティー・オイラーらシリーズ通しての出てきたキャラクターに新キャラクターが加わってその穴埋めをしている。終わり近くには衝撃の展開も用意され、次巻への期待は嫌でも高まっていく。
テロや殺人といったきな臭いテーマを扱いながらも、どこかホワっとした感じが、読後感もさらりとさせている要因かもしれない。