若竹七海のレビュー一覧
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元刑事の大道寺圭は幼馴染の編集者に強引に勧められて、刑事の時に遭遇したおまぬけな犯罪者たちの本を出版する。ところが、本に取り上げた犯罪者たちが、出版をきっかけに様々なトラブルを持ち込んでくる。命の危機さえ訪れるが、なんとか頭を働かせて解決する。出てくる登場人物たちがなにか間が抜けていて笑えるのだが、どうも自分勝手な奴らばかりでやれやれという感じである。それぞれの短編の終わり方も笑えないというか、結構ダークだ。間に挟まれた刑事時代の事件が最後に他の短編とつながってくる。若竹さんの小説って、こんな感じで人間の嫌なところばかりを描いていて、ちょっとやるせない気分になる。
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何だか読む順番が滅茶苦茶になっているのだけど、もう仕方がないな。
ここに至って、葉村が最初に登場したこの本。
葉村が出てくる話と、小林警部補&御子柴君のコンビが出てくる話が交互にあって、最後の話で3人が交わる。
葉村は、2話目に『26歳になる』と出て来て、その後の話では28歳。3話目では長谷川探偵事務所に勤めていて、最後の話では辞めている。
背表紙には“トラブルメイカーのフリーター”とあるが、正確には最終話の作中で長谷川が言うように『トラブルのほうが、彼女を慕ってやってくる』ということで、既にこの頃から、“世界で最も不幸な探偵”の片鱗。
禄でもない知り合いたちにかき乱されながら、熱中し出すと止まらない性格で危なっかしい目に合うのも、今に続く。
どの話もサラリと読めてチト物足らない感は残るが、小林のパートも含めてそれぞれ良く練られていて、ビターでダークな結末も最早お馴染み。 -
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空が降ってきた、とは『愛の讃歌』を歌う時のセリフの一つだが、本作では人が降ってきた。
不幸中の幸いが、生死に関するような怪我を誰もしなかったということ。
青沼ミツエ、石和梅子。
このご婦人方が降ってきた人々。
ちょっとした調査のはずが、たくさんの人を巻き込み、葉村晶自身も巻き込まれ、心が痛む。
何より、青沼家の秘密が、心苦しくてたまらない。
めんどくさいことに巻き込まれつつも、微笑ましい、ほっとする、そんな暖かな情景は、炎に包まれた。
炎はあらゆるものを焼き尽くす。
何もかも。
大切な、ウサギの常夜灯も、なくなってしまった。(『悪いうさぎ』参照)
やりきれない思いを残す本シリーズだが、見事なのが、関係のない人を関係者にしてしまう手法。
あれもこれも伏線だったか、と思う。
あまりトリックを明かしてしまうと面白味がないので言えないのが残念だ。
読者がつなぎ合わせた点は全くの出鱈目だった、という「騙される技量を持っていると、本当に面白い。
だけど、今は人が死んでしまう話は苦しいな。
作り物だろうと。現実であれば、なおさら。 -
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「ハードボイルドで悲しい事件」(裏表紙より)から、励まされるとは思ってもみなかった。
4月に勤務部署が変わり、コロナ禍のため、最近になって仕事を本格的に教えてもらうようになった。
私が不器用なせいなのか、ダメ出しばかりだ。
ここもダメ、あそこもダメ、とばかり言われると私はダメな人間なんじゃないかと思い込むようになる。
仕事に行くモチベーションも下がった。
ビジネス書は「努力せよ、できないのは全てお前のせい」ばかり(これだからビジネス書は嫌いだ)。
上司の評価も、先輩の評価も、気になる。
何より、私が私自身に下す評価が。
『海の底』
新進の作家が消えた。
大男であったらしい彼の姿をみたものはほとんどいない。
彼はどこに消えたのか。
この話で慰められるなんて!
この物語は言った。
評価なんて曖昧なものだよ。
自信たっぷりに他人を批判する人が正しいとは限らない。
誰かが絶賛する人が万人に絶賛されるわけじゃない。
ミステリが、その精一杯の方法で、私を助けてくれた、と思った。
大切にして、心から愛していて、一緒に歩んできた「言葉」が、支えてくれた。
折しもタイトルは、『プレゼント』。
葉村晶たちに助け起こされて、なんとか立てる。
満身創痍だけれど、それでも、私には、「present」、「今」がある。 -
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シリーズ4作目にして、6篇の連作短編。
といってもこのシリーズはこれが初めて。
でも大丈夫だ。
NHKのドラマを見て、そんなに期待をせずに見てみたら「面白い」「これは原作に当たらなくては!」と読み始めた。
もうイメージはシシド・カフカ氏なのだが、本作では四十肩を発症するという、ちょっとイメージとは異なる主人公、葉村晶。
解説では海外ミステリ のようだ、と評されているが、確かに、このハードボイルドで、洒落っけと、重厚感を併せ持った感じがそれらしい。
しかし、当たり前だが母語で書かれた作品なので、海外ミステリにありがちな、とっつきにくいような(それが文化の差なのか、外国語を日本語に直す際のニュアンスの差なのか、それとも、「空気」なのかは分からない)感じは、ない。
『青い影』に登場する『レベッカ』は私も読んだことがあるが、始めはちょっとゴシック小説の雰囲気が読みづらいが、おすすめだ。
終わり方は決して美しくなく、火事場泥棒憎し、となるが、あえてきれいに終わらない所に、ハードボイルドを見た。
表題作『静かな炎天』は、ドラマも原作もお見事。
じりじりと焼けつくような暑さは、「太陽がいっぱい」の有名な台詞を使いたい所だが、そうではない、ミステリ からとった言葉を引用するところがいい。
暑さも、人一人の面倒を見るのも、いき過ぎれば苦痛である。
その気持ちは、よくわかる。
『熱海ブライトン・ロック』は、あの虫を嫌いな人は読まないほうが。
文字なのに!文字しかないのに!
心の中で、「ぎゃああああああああああ」と叫んだ気持ちがわかるだろうか。
なぜ奴らはここまで嫌われるのか。
経験?
眉唾物の説に、「かつて私たちの遠い先祖が奴らに食われたため、その記憶が受け継がれている」というものがある。
エビデンス、根拠はない。だが、信じたくなる。
冷血ではないクールさとニヒルさ、なのに四十肩。
この、「生きている」主人公がかっこいい。
彼女のような踏んだり蹴ったりやられたり、みたり、な仕事はしたくないが、なんだか、毎日ご飯が美味しそうだ。 -
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昭和初期、豪華客船「箱根丸」を舞台に次々と起こる事件を描いたオムニバス形式の短編集。
横浜から倫敦までの長い船旅中、殺人事件や令嬢の逃亡騒ぎや密航騒ぎなど、個性的な乗客たちが起こす魅力的な事件はそれぞれ趣向が凝らされていて、まったく退屈しません。
少し不思議で奇妙な話もあれば後味の悪い話もあり、ロジックできちんと解決される話もあり…。
ひとつひとつの密度の濃い謎もさることながら、全編を通した仕掛けもあり、豪華な気分にさせてくれます。
自分も旅をしているかのような、昭和初期のゆったりとした旅情ムードに浸りつつ、サスペンスフルな気持ちも味わわせてくれるという、なんともお得感あふれる短編集でした。