司馬遼太郎のレビュー一覧
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▼司馬さんの「語り口」が全て。それが良く分かる巻かも知れません。
▼どうしてかっていうと、「主人公は、ほとんどなにもしないから」ですね。長州の京都での没落とか、土佐藩の武市一派の没落などが、実にドラマチックに描かれますが、竜馬さんは、ぜーんぜん関わってない。
▼そして竜馬さんは脱藩してうろうろしていますが、まあ簡単に言うとなんにもできてない。勝海舟の使いっ走りをしているだけです。
▼だからまあ、列伝というか。もちろんそういう竜馬以外の状況を分かってないと、竜馬さんが幕末史の表舞台、七三花道スポットライトに躍り出たときに、訳が分からないから。それにしても語り口が上手い。ダイジェスト講談版幕末史、ですね。 -
Posted by ブクログ
▼司馬さんの「節回し」が聴かせどころの作品だなあ、と第1巻の感想に書きましたが、節回し絶好調です。
▼幕末物の難しさは、「で、結局なにをしたの?なにがあったの?」というのが難しいんですね(笑)。合戦やって勝ち抜きました、という戦国とは違うんで。「政治」ですから。
▼その上、第2巻の竜馬なんて、要するに「剣道ま無茶苦茶強くて地元のヤンキーの代表っぽくなってあちこちうろうろしてただけ」ですから(笑)。すっごい簡単に言うと、「あちこちで色んな話を聞いて勉強してました」というだけです。
▼それがこんなに面白くなる。省略の妙、18歳くらいで始まったお話がいつのまにか成人して脱藩して歩き出す。
▼それにしても、司馬作品中随一、「主人公の理不尽モテ男ぶり」がすごいというか(笑)。もうほとんどそこだけで言うと「ゴルゴ13」とか本宮ひろしの世界。司馬さんの作品中でもなかなかここまでのものは、無いですね。
(いちばん売れているのはそれが理由かも知れません・・・・) -
Posted by ブクログ
日本史上の劇的な革命であった明治維新を題材とした小説は多いがほとんどが維新側から見た歴史ばかりで、維新側の視線で当初劣勢であった薩長側が、どのように情勢をひっくり返し維新を成立させたかに焦点が当てられていて、いかに幕府側が腰砕けの政権であったかが強調されている。
本小説は、多勢の幕府側がなぜ劣勢の薩長に破れていったのか、そして世界史の中ではほとんど見られない流血を伴わない革命がなぜ成立したのかが、敗軍の将である慶喜側の目線で理路整然と書かれている。慶喜は頭脳明晰という評価がありながら、長州征伐や鳥羽伏見の敗戦、その後の敗戦処理など政治的評価が低くその矛盾を不思議に感じていたが、慶喜がなぜそのように振る舞ったのかが掘り下げられており、幕末期の理解が深まる小説であった。 -
Posted by ブクログ
▼こ、これはすごい・・・。江戸後期の船乗り/商人である、高田屋嘉兵衛さんの生涯とその時代を描く司馬ワールドなんですが、この五巻はすごかった・・・。
▼高田屋嘉兵衛さんは、その生涯の後半というか終盤のあるポイントで、「ロシア軍艦に身柄を拉致される。そして軟禁生活を送るが、最終的にロシア人と信頼関係を築き、身柄の解放を勝ち取る。そして日本に軟禁されているロシア軍人の解放に尽力して実現する」という、言ってみれば日本史の舞台に躍り出る訳です。それはまあ、ある程度こちらも織り込み済みで読んでいます。その事件がなかったら、高田屋嘉兵衛さんはさほど歴史にゴシック大文字で残るような存在では、恐らく無かった。この本が書かれることも、無かったわけですから。
▼そして四巻までかかって、大雑把理に言うと、その、「大事件」の前夜までが描かれるんです。「いよいよ、事件が始まるかな!」と思って第五巻を開く訳です。読み始めると、まずは、「えっとね、一旦、嘉兵衛から離れて、事件が起こるまでのロシアと北海道の成り行きというか、事情っていうか、そういうものを紐解いて話すね」というような感じ。つまり、事件を味わうための予備知識直前再注入!という。
(四巻まででも、ちょいちょい、かなりな量のそういう閑話休題があったんですけれど)
▼そうしたら・・・その、「ロシア&北海道の歴史事情解説」が、長いんです。そして・・・なんと、五巻はほぼほぼそれだけで終わってしまうんです・・・。な、なんて大胆なというか・・・なんて自由なと言うか・・・。
駆け出しの小説家だったら、編集者が秒で却下して絶対に許さない所業です。
▼で、それが面白いのかと言うと、「全然おもしろくないよ!いい加減にしろ!ドラマチックな小説を読ませろ!」という読者もいっぱい、いっぱい、居ると思うんです。個人的にも恐らく10年20年前なら、そうだったと思います(今、50代なんですが)。
▼なんだけど、今の自分としては、この五巻も大変に面白かった(笑)。分かりやすいし、「へ~なるほど」がキラキラと散りばめられています。俯瞰の語りの中に、躍動するロシアの軍人や、北海道の日本人や、当時の幕閣までが体温を感じられます。
▼要は帝政勃興と隆盛発展とともに東へ東へシベリアへと、貂の毛皮を求めて進んできたロシアの冒険的人物たち(ほぼほぼアウトローな人々)が、皇帝のお墨付きを得て、ロシアそのものとして「遅れた帝国主義の暴虐強引さ」をもって、満州へ、あるいは樺太へ、そして北海道へと迫ってくる歴史的な成り行き。
(その暴虐強引さ、って言うのは大正昭和と、日露戦勝後の日本もなぞっていくものなんですが・・・)
▼それがヒタヒタと、江戸幕府体制に迫ってくる。幕府は鎖国してます。摩擦を起こしていく。そういう「個々の人格の問題もあるけれど、それに惑わされちゃいけない全体状況」みたいなものが、ものすごく指紋露わに見えてくる感じです。
▼日本史で言うとこの温度が、ペリー来航で沸点に達して、明治維新が起きる。明治維新っていうのは、江戸時代の商品経済の爛熟(高田屋嘉兵衛的な)と、西欧帝国主義(嘉兵衛が拉致されるロシア艦隊的な)の接近。このふたつが出会って、、、、「俺たちは十分文化も経済も満ち満ちてるんだから、清国みたいに植民地化されたくないよ!武力が強いからってあんまりにも横暴だろ!」という戦いとして始まるんですね。無意識下でしょうが。
(同様の構造上の、加害者に、昭和日本はなるんですが)
▼帝国主義の時代には、言ってみれば先進国はみんなプーチンさんやトランプさんみたいだった、とも言えます。ついこの間まで奴隷貿易してた方々ですから。「力こそ正義なり」。対抗するには富国強兵しかありません。その手段としての維新。欧米化。旧制度の反発と鎮圧(西南戦争)。手段としての憲法、議会。そして日露戦の勝利=近代史上初の有色人種の白人種への勝利。それで、言ってみれば幕末維新は、読点が打たれるんだなあ、と思いました。
(だからその後は、加害者への守勢から、「自分が加害者になる」という方針転換になる。その時点で、新たな価値軸を見いだせなかった。仕方ないことかも知れませんが)