司馬遼太郎のレビュー一覧
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天によって登場させられた人物
馴染みのない単語や厄介な言葉の羅列しかない今作だが、これほどまでに面白さがあるのは、やはり司馬遼太郎その人のおかげである。
徳川慶喜を歴史の授業で習ったのは小学生の頃。当時は坂本龍馬、西郷隆盛、勝海舟の物語に魅せられ、徳川慶喜など敗者くらいにしか考えていなかった。
しかし、今作を読んで別の一面があると思った。
それは"宮廷史劇"ぽいところである。
このやりすぎなくらいの物語が現実で実際に起き、他の人物と照合しても辻褄の合う面白さに興奮を隠せない。
理解者のいない苦悩とそれをものともしない胆力。
羨ましくもあり悲しい慶喜の人生に初めて魅せ -
Posted by ブクログ
【30年ぶりに読む「坂の上の雲」】
最終第八巻は「敵艦見ゆ」「運命の海」「雨の坂」など。
「敵艦見ユトノ警報ニ接シ、聯合艦隊ハ直ニ出動、之ヲ撃滅セントス。本日天気晴朗ナレドモ浪高シ(p35)」
有名な日本海海戦開戦前の電文はやはり心動かされる。思い立って30年ぶりに全八巻という“一大叙事詩”を読み終えた感想としては、明治日本の若さと日本人の勤勉さ真面目さが眩しい!どうしても成熟した令和日本と比べてしまうが、どちらが良い悪いというものでもない。真之が作文した「聯合艦隊解散ノ辞」の結びの言葉である“勝って兜の緒を締めよ”は日露戦争やジャパン・アズ・ナンバーワン後の日本がもっと意識すべきだったな。
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ネタバレドキュメンタリー映画ちゃわんやのはなし-四百年の旅人- 松倉大夏監督をみて、先代14代沈寿官氏のことを司馬遼太郎が想いも熱く書いた短編が表題。
民族とはなにか、
民族なんてものはない、ただその土地土地での暮らし方や言葉がありその違いがあるだけだ、と15代いまの当主がソウルで悩んだ時に司馬遼太郎からもらった手紙。
映画を見てから読んだ。深い洞察、400年にわたる日本での暮らしその薩摩人ぶりと記憶の伝承。
先代のソウル大学での、日本へのわだかまりを捨てよと諭す講演の最後、あなた方の36年をいうなら私は370年をいわねばならない、という言葉の重み。
巻末の解説は山内昌之先生。
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革新や創造を悪として前例踏襲の安定を善とする徳川政権が、いかにして出来上がったかを創業者である徳川家康に焦点を当てて論じており非常に分かりやすい。徳川政権の鎖国や重農主義等が270年の平和をもたらしたのか、停滞をもたらしたのかでその功罪が議論されるが、日本が停滞する中で保守的な徳川政権よりも革新的な織田豊臣政権への評価が高まっているように感じる。本著において徳川は功利的ではないが組織の安定に重きを置いて風通しが悪く、織田豊臣は功利的であるが風通しが良く発展性があるように書かれており、昭和の時代に調和を重んじて上手くいっていた社会が、功利的なグローバル社会に負けて価値観が変わってきた現代に本書